No.788322

SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 IF~和人と明日奈の物語~

本郷 刃さん

どうもみなさま、お久しぶりでございます。
ようやく番外編が1つ完成したので投稿しますたw
内容はIF物です、どうぞ・・・。

2015-07-08 20:38:36 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:11763   閲覧ユーザー数:10714

 

 

SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 IF~和人と明日奈の物語~

 

 

 

 

 

 

 

 

――世界は無数に存在する

 

基礎は同じでも1人の存在により、その周囲に影響が起こり、さらに波のように広がって影響は増していく。

 

存在だけでなく、一挙手一投足だけでも影響力はあり、波紋のように広がる。

 

“あの日”“あの時”“あの人物が”“あの行動を”“していれば・していなければ”、“あのような結果になった”かもしれない。

 

1つの行動が後の結果に繋がる『因果律』、だがこれには“別の行動を取り、違う結果になったもしもの世界”が存在する。

 

『並行世界』『並行宇宙』『並行時空』と呼ばれ、これらは『パラレルワールド』とも呼ばれる。

 

これから語られるのは“違う行動による違う結果の世界”“もしもの世界”“IF”“パラレルワールド”での出来事。

 

「茅場晶彦がゲーム『ソードアート・オンライン』をデスゲームとせず、桐ヶ谷和人が『神霆流』の使い手である世界」。

 

想像と創造により生まれた、「誰かが救われ、誰かが救われない」、そんな世界の話である。

 

 

 

 

 

12月24日、クリスマス・イヴ。

家族で賑やかに過ごす人、友達と楽しく過ごす人、恋人と仲良く過ごす人、幸せに過ごす人がたくさん居る。

私も今年で15歳になって、仲の良い友達とクリスマスパーティなんて、小学校に入学した頃に思っていたのを思い出した。

そうじゃなくても、家族とささやかな幸せを噛み締められるのかなと考える。

 

でも、私、結城明日奈にはそんなことは訪れないと諦めていた。

私の父の家はそれなりに古くから続く家系であり、京都に本家を持っていて京都を中心に地方銀行を経営している。

父自身も電気機器メーカーである『レクト』の最高経営責任者(CEO)を務め、母も大学の経済学部の教授を務めている。

そんなこともあって幼い頃から教育を施されてきて、小学校のお受験をしたこともあった。

小学校に受かったお祝いに母さんが四苦八苦しながら選んで、

購入してくれたクマのぬいぐるみをもらった時は嬉しかったのをいまでも覚えている。

 

だけど、成長するにつれて私は両親の決めたレールの上を歩んでいるだけなのを理解して、自分の全てを諦めた。

楽しくはないかもしれない、もしかしたらそれが幸せなのかもしれない、両親が幸せを願ってくれているからと。

だから、厳しい勉強にも頑張ってきて、中学校の成績もトップを維持してエリートでいられている。

 

そんな中、私にとって唯一の安らぎは趣味の料理と、浩一郎という優しい兄さんの存在。

いつか嫁ぐことになるのだからと教え込まれたのだけれど、いつしか料理は趣味になっていた。

兄さんは厳しい母さんや仕事に忙しい父さんの代わりにいつも優しくしてくれた。

 

それでも、もう辛くて仕方が無くなってきた。

だって、好きでもない人どころか、嫌いな人と結婚させられてしまうかもしれないから…。

父さんの腹心に須郷さんという人が居て、その息子さんである須郷伸之さんが、私の相手の候補に挙がっているのは察している。

家族ぐるみの付き合いで、人の良い好青年に見える。

だけど本性は違っていて、目上の人がいないと下の人を見下すから、私と兄さんは嫌っている。

それだけじゃない、私のことを舐めるかのように見る視線は気持ち悪くて、寒気と怖気がする。

いつか、この人のモノにされてしまうのかもしれないと、そう考えるだけで。

父さんはそんな彼の本性を知らなくて、母さんも優秀で良い家のあの人に満足しているみたいだから。

 

そうでなくても、結城の分家や親戚筋の人達は本家の私を迎え入れようとしている節がある。

その人達だって須郷さんほどじゃないけれど、そういう目に近い意識を向けてくる。

本当は嫌だって、泣いて拒みたい。

でも、大変な思いをしてここまで育ててくれた両親のことを思うと、なにも言えないから。

もう子供じゃいられない、こういう家柄に生まれたからには逃げられないこともあるのは知っているから。

 

色々なことを考えちゃうのは多分、幸せに過ごせるはずの今日に、

都内で行われているレクトのクリスマスパーティに結城家もレクトの人も揃っているからかな。

嫌な気持ちを少しでも晴らそうと、兄さんに伝えてパーティの行われているホテルのテラスに出てきた

 

けど、余計な事ばかり考えちゃうなぁ…。

 

 

 

 

「もぅ、いやだよ…」

「なにが?」

「ふぇ…?」

 

本音が漏れた時、いきなり後ろから声を掛けられて、思わず変な声を出しながら振り返っちゃった。

そこには私と同じ年か上くらいの男の子が居た。

黒い髪と黒い瞳をしていて、同年代の男の子とは思えないくらいにスーツを着こなしている。

 

「何が嫌なんだ?」

「えっと、その…」

 

本音を聞かれていたみたいで、もう一度聞かれるけど言いよどむ。

今日のパーティが行われているこのホテルには出席者以外は宿泊客が少ないから正装をする必要は無いよね。

でも、正装をしているということはパーティの出席者だけど、見たことが無い男の子。

結城の関係者ではないから、レクトの人の子供かもしれないけど、

出席者の大人の子供には全員と会った事があるからその線も違う。

じゃあ、誰なんだろう…?

 

「……愛想ばかりを振りまくる人、家のことを自慢するしかない人、下心が丸見えな人、

 そもそもパーティが嫌だ、それ以前に自分の家が嫌だ。キミの嫌はどれかな?」

「なん、で…」

 

息を呑んで彼を見る。まるで全部を見透かされているような眼、なのに私に向けられている視線は穏やかで優しい。

下心もなにもなくて、ただ労わるような感じがする。

 

「なんとなくだよ。

 パーティっていうのは初めてだけど、真剣な人と下らない奴が入り乱れるっていうのは聞いた通りだったからな。

 そんな中で真剣な人の内、経験値がある人はその中でも容易く動けるが、経験が無いと何処かに休みに行くらしい。

 見た感じと纏っている空気、行動からキミは真剣で経験が無い人だと思ったんだよ」

「私、そんなに分かり易かった…?」

「いや、素人目に見たら解らないと思うぞ」

 

あれ? パーティは初めてなのに、素人じゃないの?

矛盾を感じた私を見て彼はふっと笑い、私は思わず引き込まれそうになった。

 

「…っ///」

「どうかした?」

「う、ううん、なんでもないよ///」

 

言えない、大人っぽい笑顔に見惚れちゃったなんて、しかも初めて会った男の子なのに…///

正面からよく見れば、端整な顔立ちは中性的に見えて、だけど雰囲気から1,2歳年上の男の子だと感じられる。

女子校だから同年代の男の子と接する機会は少ないけど、

これまで会ったことのある男の子よりも大人っぽくてカッコイイなぁ…///

って、そんなことよりも話しをしないと…///

 

「あの、私、結城明日奈です。お名前を聞いてもいいですか?」

「ああ、ゴメン。俺は桐ヶ谷和人だ、同年代だからタメ口でいいよ。今日のパーティにはある人の頼みで来たんだ」

「誰か聞いても、いい?」

「キミのお祖父さん、結城千里さんだよ」

「えぇっ!?」

 

あの厳しいお祖父様がお願いして、この人はここに来たの!?

会社の上役の人達や名家とかの大人の人ならまだしも、私と同じくらいの男の子に態々お願いしてきてもらったって、凄く驚き…。

でも、彼は私のことを知っていたから、やっぱり彼も他の人と同じで…。

 

「ま、キミのことを見たのも知ったのも今が初めてだよ」

「そう、なの…?」

「千里さんからは名前しか聞いていなかったからね。

 正直、キミが会場の人達と同じような人だったなら、気にも留めなかったよ。

 困っている人の手助けはするが、どうでもいいような奴なら安全であれば基本的に放置する主義でね。

 だから、キミに声を掛けたのはそうでないと判断したからなんだ」

 

なんだか、凄く考えて行動しているというのがよく解ったかも。というか、本当に同年代なのかなぁ?

 

「その、私と同じ年くらいだよね?いま、何歳?」

「今年で14になった。キミは?」

「じゅ、じゅうよんさいっ!? わ、私よりも1つ下だったんだ…」

「なるほど、結城さんは1つ上で15歳か」

「あ、あの、タメ口でいいよ。1つしか違わないし、私よりも大人っぽいし…」

「よく言われるよ。でも分かった、普段通り話させてもらう」

 

1,2歳は上、最低でも同じ年かと思っていたけど、まさか1つ年下だったなんて、驚いたわ。

中性的な整った顔立ちに男の子にしては珍しく少しだけ艶のある黒髪、それに黒い瞳は引き込まれそうなくらいに深く強い黒。

身長は私よりもほんの少し高くて、スーツを着こなしている姿は中学2年生とは思えない。

本当に私より年下なのか、疑っちゃうよ…。

 

「桐ヶ谷君はレクトの関係者のご家族?それとも、私が会ったことのない結城関係の人?」

「前者は違うし、後者でも無いけど強ち違うとも言えないかな。

 俺は古流武術をやっているんだけど、師匠が千里さんの知り合いでね。

 その関係で俺も招待されて、というか師匠に無理矢理連れられてきたんだよ…」

「あ、あはは、そうなんだ…」

 

少し遠い目をしたことに気付いて思わず苦笑い。

酷い目とかじゃなくて、多分いきなりとかいつの間にか連れてこられたんだろうね。

でも、桐ヶ谷君と話しているのは楽しい。

同学年どころか同級生の女の子達、レクト関係者の子供や結城の子供よりも、ずっと楽しく話すことができる。

こんな風に話せるのは初めてかもしれない。あと少し、もう少しだけでも話しを…。

 

「明日奈、ここに居たのか。お祖父様がお呼びだよ」

「兄さん…」

 

願い叶わず、運悪く兄さんがきちゃった。

来ただけだったらいいけど、お話しが終わりということを突きつけられちゃったのが痛いかも。

そこで桐ヶ谷君に浅く一礼した兄さんだけど、彼の一点を見つめると固まった。

一体どうしたのかな? 私も兄さんの視線の先を追って見てみると、彼の体で見えなかったある物(・・・)が見えた。

彼の左腰にある物、それは世間一般で“日本刀”と呼ばれる物で、私も硬直してしまう。

 

「物騒な物なのは俺も理解しているんだけど、

 師匠が牽制とかの意味も含めて形だけでもと言うから、折角だし俺専用の刀を持ってきたんだ」

 

私達の視線に気付いた桐ヶ谷君は苦笑して複雑そうな表情で言ってきた。

彼専用って、中学生なのに刀を持っているのね…というかパーティに刀って…。

スーツなのに刀って妙に似合っているのは気のせいかしら?

 

「和人、ここに居ましたか」

 

その時、黒い長髪の男の人がテラスにきた。桐ヶ谷君の名前を呼んで、それにこの人も腰に日本刀を持っている。

 

「師匠。ということは、俺にもお呼びが?」

「“も”とは…ああ、なるほど。千里さんのお孫さん達ですか。

 初めまして、浩一郎さん、明日奈さん。私は時井八雲、古流武術『神霆流(しんていりゅう)』の現師範を務めさせていただいています」

「初めまして、結城浩一郎です。結城千里の三男である結城彰三の長男です。ご存知かと思いますが、こちらは妹の明日奈です」

「は、初めまして。結城明日奈です」

 

桐ヶ谷君が師匠と呼んだ男性が自己紹介をして、兄さんがそれに応じてから私も応じる。

少し慌ててしまったのは思っていたよりもかなり若い人だったから、多分だけど30代だと思う。

てっきり6,70代のお爺さんだと思っていました。

 

「さぁ、千里さんのところへ行きましょう。お待たせするわけにもいきませんからね」

 

桐ヶ谷君が時井さんの後に続いて、兄さんと私も2人を追う形でテラスから移動する。

 

 

 

 

私達が着いたのはホテルの一室で、よく話し合いの場として用いられる適度な大きさの部屋。

時井さんの三度のノックのあと、入室を促す声が聞こえてきてから入室する。

中には父さんと母さん、それにお祖父様とお祖母様がいらっしゃった。

 

「急に呼び立ててすまないな、明日奈。浩一郎もご苦労だった。八雲君と桐ヶ谷君もよく来てくれた」

 

ソファへの着席を促されて私は兄さんと一緒に父さんと母さんが座るソファに腰掛けて、

桐ヶ谷君と時井さんはその正面のソファに腰掛ける。

お祖父様とお祖母様は上座にあたるソファに並んでいる。

 

「招待を受けた身ですので、お気になさらず。和人も表向きは朝霧財閥の代理ですから」

 

お祖父様の言葉に時井さんが返答したけど、その中で聞き逃せない単語があった。

朝霧財閥って、あの? それに桐ヶ谷君が、代理?

 

「ちょっと師匠、その話は初耳なんですけど。つまりアレですか、俺は海童氏の代理と?」

「ええ、なにかしらの名目が必要でしたし。

 とはいえ海童氏を含めて朝霧財閥の方でもパーティがあるので、和人に白羽の矢が立ったということです」

「その心は?」

 

どうやら桐ヶ谷君も初めて聞いたみたい。桐ヶ谷君は一般の人だと思っていたけど、あの朝霧財閥の関係者だったなんて…。

でも、時井さんをジト目で見ているのはなんでかな?

 

「千里さんがお会いしたいということもありましたが、なによりも和人が一番暇だったということですね」

「くっ、なんで今日に限って母さんは泊まりこみで、直葉は部活のクリスマス会なんだ…!」

 

家族と予定が合わなくて暇だったのね……もしかして、貧乏くじで来ちゃったの?

 

「はっはっはっ、まぁそう言わないでくれぬかの。儂も八雲君から話しを聞いて以来、君と会ってみたかった」

「そう仰っていただけるのは嬉しいですが、恐縮です…」

 

驚いた、お祖父様があったばかりの人に大きな興味を示すなんて…。

それに、こんなに楽しそうなところも初めて見たわ。私だけじゃなくて、父さん達も驚いているし…。

お祖母様だけは嬉しそうにしているけど。

 

「さて、ご存知ない方もいらっしゃると思いますので自己紹介をいたしましょう。

 私は古流武術『神霆流』の今代の師範を務めている時井八雲と申します。みなさま、以後お見知りおきを」

「同じく『神霆流』師範代、桐ヶ谷和人です。現在、中学2年です」

「桐ヶ谷君ははじめましてですね。結城千里の妻、恋と申します」

「電気機器メーカー『レクト』のCEOを務めている結城彰三です。よろしくお願いします」

「妻の結城京子といいます。大学の経済学部で教授を務めています」

 

私と兄さんはさっき挨拶を交わしたし、お祖父様も事前に会っていたのかもしれない。

それにしても、父さんも母さんも桐ヶ谷君と時井さんが座った時に腰に下げていた刀を外したのを見て驚いていた。

むしろ驚かない方がおかしいのかもしれないけど。

そんな私の心情を余所に、お祖父様とお祖母様は桐ヶ谷君と時井さんと談笑していて、私達4人は置いてきぼり状態。

 

「千里さん。談笑も良いですが、俺と師匠をここに呼んだということはそれなりのことがあってのことじゃないですか?」

「おお、そうじゃった。すまんな」

 

私達の様子に気付いたからか、桐ヶ谷君が話しを進めることにしたみたい。

お祖父様の雰囲気が真剣なものに変わって、桐ヶ谷君と時井さんもさっきまでとは真逆になった。

まだ中学2年生なのに、桐ヶ谷君も大人顔負けの真剣さ…。

 

「2人に来てもらったのは聞きたいことがあったからでの。彰三達を呼んだのも、無関係ではないからじゃ」

「聞きたいこと、ですか…」

「うむ。キミ達からみて、須郷伸之君はどう感じた?率直な感想を聞かせてほしい」

 

ど、どうして須郷さんの話になるの?

父さん達も動揺しているけど、お祖父様の話に割り込むわけにはいかないから、そのまま話しを聞こう。

 

「そうですね。人の良い好青年、というところでしょうか……表面上は、ですけどね」

「表面上、というと?」

「そのままの意味ですよ、目上の者には好青年に映る態度です。

 私に対しても礼儀正しいものでしたが、その心の内は表に出ているものとは正反対に感じ取れました。

 簡単に言うならば、猫を被っているということです」

 

須郷さんへの時井さんの感想は的確だ、私と兄さんが知っている須郷さんをそのまま言い当てている。

逆に父さんと母さんは驚いている、2人が普段見ているのは猫を被っている方だから当然だよね。

父さんとしては反論したいのだろうけど、お祖父様はまだ聞きたいことがあるかのように桐ヶ谷君に視線を向けた。

 

「俺の感想は師匠と同じですよ。実体験を除けばですが…」

「その様子じゃと、時井君が言ったことを目の当たりにしたのかね?」

「ええ。『鼠がどう取り入ってこの場所に来たのかは知らないが、精々汚していくなよ』と、見事なまでの言葉でしたよ。

 くくっ、思い出したら笑えてきた…」

 

どう聞いても笑えないよ…。だけど時井さんは微笑を浮かべているし、お祖父様は納得がいったような感じだし。

父さんは信じられないという様子、けれど桐ヶ谷君の言っていることは本当。

 

「父さん、母さん。時井さんと桐ヶ谷君の言う通り、須郷さんはそういう人だよ。

 僕と明日奈はそれを何度も体験してきた、正直に言わせてもらうと苦手どころか嫌いだ」

「私もです。いままでは言う機会もありませんでしたけど、何度も良くない目に遭っています。

 兄さんが居たから、無事で済んでいますが…」

「そんな、須郷君が…」

 

桐ヶ谷君と時井さんの発言もだけど、私と兄さんの話を聞いて父さんはショックを受けている。

母さんも少し動揺しているのが判る。お祖父様は須郷さんと直接会ったことで何かを感じたのかも。

そして、お祖父様が確信を得るには桐ヶ谷君と時井さんの力が必要だったのね。

 

「実を言うと俺は、数日前に須郷伸之がどういった人物かは聞いていたんですけどね」

「本当かね? 一体誰に…」

「『Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game』、通称『VRMMORPG』。

 そのゲームの1つである『ソードアート・オンライン』、『SAO』と言われていますが、俺はプレイヤーの1人です」

「桐ヶ谷君もなのね…」

「“も”ということは結城さんも?」

「いや、明日奈は違うよ、僕がプレイヤーなんだ。あぁ、ややこしいから僕のことは浩一郎で構わないよ。

 あとで色々と話そうじゃないか」

 

思わず口から出た言葉を兄さんがフォローしてくれた。

兄さんはSAOのプレイヤーで、それをプレイするためのマシンである『ナーヴギア』も持っている。

私もたまに母さん達の目を盗んで、兄さんから借りてプレイさせてもらっているから、一応だけど私もプレイヤー。

母さんに内緒にしているのは、母さんがゲームとかに関して凄く厳しいから。

実際、桐ヶ谷君がゲームをしていると言ったらやや厳しい表情を向けていたし。

私自身もいままでは興味が無かったけど、SAOは世間的にも有名だったから興味を持って、やってみてすぐに惹かれた。

 

「では、そのソードアート・オンラインが、須郷君とどう関係するのかね?」

「ソードアート・オンライン、並びにVRマシンであるナーヴギア、

 これらの製作者である茅場晶彦さんはその須郷伸之さんの大学時代の先輩になります。

 その茅場さんとは数日前に面会することが出来まして、話しをした際に彼のことも聞きました」

「そういえば、茅場氏に電子工学理論についての考察を添えた手紙を送ったと言っていましたね。

 面会を果たしたということは、興味を持たれたのですか?」

「はい、連絡先の交換もしました」

 

ナーヴギアとSAOの開発者、若き天才と呼ばれる茅場晶彦博士。

その人に興味を持たれるなんて、桐ヶ谷君はそれだけ頭が良いということよね?

それにしても、須郷さんが茅場晶彦さんの後輩だったなんて、知らなかったわ。

 

「茅場さんとの面会の際に他の後輩であり、同じくVR技術の権威である神代凜子博士と比嘉健博士も同席しました。

 茅場さんに呼ばれて俺と会い、みんなでそのまま意気投合して話したのですが、そこで須郷さんの話も出ました」

 

他の2人の名前は知らないけれど、多分VR技術の筋では有名な人達なんだと思う。

でも、その人達は須郷さんの先輩後輩という一面もあるのね。

 

「須郷さんは昔から野心が強く、自己中心や自信過剰なところがあったそうです。

 一方で、優秀なことも違いはないからか周囲に茅場さんと比べられることもあり、

 茅場さんのことを快くは思っていなかったと聞きました。

 加えて、神代さんに好意を寄せていたそうで、しつこく付きまとっていたようです。

 神代さんは茅場さんに好意を寄せていて、交際するようになったあとはそのことも相まって、

 余計に今の彼になったらしいですが」

 

あくまでも本人達の談です、と付け加えて桐ヶ谷君の話は終わった。

最後に、茅場さんと神代さんの関係については秘密にしておいてください、と念を押して締め括った。

 

「これは、決まりじゃろうな」

「ええ。そのような者に明日奈を任せることなど出来ません。いずれはレクトにすら手を出す可能性もありますわ」

 

お祖父様とお祖母様は須郷さんを私の婚約者に、ということには反対の様子。

 

「ですが、私はやはり信じられません。彼のそんな姿を見たことありませんし…」

「私もです。それに、須郷君と明日奈の婚約を認めない人物の差し金かもしれません」

 

父さんと母さんはこのまま須郷さんを私の婚約者にしたいみたい。

特に母さんは怪訝な表情と厳しい視線を桐ヶ谷君に向けているけど、その本人は余裕な笑みを浮かべている。

本当、桐ヶ谷君って何者なのかな…。

 

「まぁ、初めて会った人間の言う事をいきなり信じろとは言いませんよ。

 ただ、ご自身のご子息とご息女を信じないというのも、どうかと思いますが」

 

深い笑みを浮かべたまま桐ヶ谷君が言い放ったことで父さんと母さんは表情が固まった。

そう、桐ヶ谷君が言ったことや時井さんの人物評を信じなくても、私と兄さんが経験したことは事実。

私達が嫌な思いをしたことは変わらない。

呼吸がし難いように空気が重くなったその時、桐ヶ谷君の頭が叩かれて軽く音が鳴った。

 

「申し訳ありません、弟子が失礼なことを言いました。ほら、お前も謝りなさい」

「叩く前に言ってくださいよ……ご無礼、大変失礼致しました。申し訳ありません」

 

2人のやり取りで雰囲気が変わって、溜め息と共に深呼吸が出来た。いまの、なんなの…。

 

「素人の方も居るのですからもう少し抑えなさい、バカ弟子」

「うっ、すいません…」

「ほぅ、これはまた驚きだ。彼は相当な逸材のようだな、八雲君」

「ええ。しかし、まだ細かい制御が完全に出来ていないようでして。

 とはいえ、他の弟子達の中では最も制御でき、間もなく完全に把握できるでしょう」

「そうかそうか、彼の成長が楽しみじゃ。桐ヶ谷君、またの機会に打ち合ってみよう」

「その時には是非」

 

なんだか私達の理解が追いつかないような会話をしているけど、さっきの重たい空気と関係があるのかもしれない。

 

「話しがずれてしまいましたが千里さんと恋さんの考えも理解できますし、ご夫妻の言うこともご尤もです。

 また、ご子息とご息女の気持ちも大切でしょう。どうです、ここは須郷伸之という人物の姿を見てみるということで」

「なにか面白、策でもあるかね?」

 

お祖父様、いま面白いって言おうとしていましたよね?

 

「ええ、和人とご息女に婚約者同士になってもらえばいいのですよ」

「「「「「……………」」」」」

「あらあら」

「ふむ、興味深いな」

 

え、それ、ちょっ、どういう……わたしと、きりがやくんが、こんにゃく? ちがう? ほんやく? それもちがう?

ほんやくできるようになるこんにゃく? またちがう? こんやく? 婚約?

 

「な、なな、なんでぇ~~~/////////!?」

 

わたし、どうなっちゃうの…///!?

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも、3ヶ月も経過してようやく番外編を投稿できた作者でございます。

 

いやはや、長いことお待たせしてしまい申し訳ない、積ゲーの消化が全然終わらない、まだ終わらないですw

 

それはさておき、今回は読んでいただいた通りのIF物です、黒戦設定でデスゲームじゃない設定です。

 

つまり、デスゲームじゃなくてもこの2人は出会う定めだったのですw(オイッ

 

加えて和人は茅場、凜子さん、タケルとも中学生で知人になるというある意味最強状態。

 

さて、物語上で気付いた方も居ると思いますが和人はまだ『覇気』の制御が出来ていません。

 

黒戦においてはデスゲームが開始し、実戦を経験したことで制御することが出来るようになりました。

 

また、デスゲームも経験していないので微妙な幼さも感じられたと思います…あ、年齢差がありましたねw

 

そして今回は和人と明日奈が出会った話ということで和人と明日奈の物語になりました。

 

最後で気付いた方も居る通り、この番外編は続きます…次回のサブタイは『和人と明日奈の恋物語』です。

 

和人が下種郷を「須郷さん」と呼んでいることにイラッっときた方、大丈夫、自分もですw

 

本編ほどではないですが失墜させますよw 師匠の出した策とは一体なにか、明日奈の扱いや如何にw

 

んでは、次回の番外編もお楽しみに!・・・・・・早めに書けるといいなぁ・・・。

 

 

 


 
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