コウタ
「こいつ、速い!」
ヴァジュラは虎の姿通り、しかしその巨体には似合わぬ俊敏さで十真達を翻弄した。
そしてスピードだけでなく、巨体を活かしたパワーもある。十真とコウタにとって、これまでのアラガミとは比べ物にならなかった。
加えて、ヴァジュラはマント型の器官から放電を繰り出す。そのせいか、遠距離からの支援も十分には行えない。
十真
「腹に潜り込めば…!」
[TACKLE]
ブレイドはタックルのカードをラウズし、突進の際の加速を利用してヴァジュラの懐に潜り込むことに成功した。
十真
「でりゃあっ!」
滑り込むようにして入ると、そのままの体制からブレイラウザーを振るった。
腹部の肉質は軟らかく、ヴァジュラに相当なダメージを与えられた。
十真
「よし!」
ブレイドはヴァジュラの後ろに回り込むと、跳び上がって尻尾を斬り裂いた。
サクヤ
「やるじゃない」
[BULLET]
コウタ
「背中は任せとけ!」
[BULLET]
2人はバレットのカードをラウズすると、ブレイドに襲いかかろうと振り返るヴァジュラの横顔に弾丸をぶち込んだ。
十真
「もういっちょーー」
ソーマ
「下がれ!」
ソーマの叫びに反応し、ブレイドは咄嗟にバックステップを取った。
直後、ヴァジュラを中心とした半径6メートル程の地面から雷が昇った。
落ちるはずの雷が反対向きに起こる、こんな超常現象を起こせるのは目の前の獣以外にあり得ない。
十真
「あっぶね…」
ソーマ
「…もっと注意を払え」
十真
「サンキュー。助かった」
黒い戦士は素っ気なく無視する素振りをすると、自身の得物である弓を構えてヴァジュラと対峙した。
かなりの猛攻を仕掛けたつもりだったが、ヴァジュラは未だその四肢で力強く地面を踏みしめている。逃げる気は微塵も無さそうだ。
両者、しばらく動きを止めていると、ヴァジュラが先に動き出した。
野太い咆哮を挙げると、紅いマント型器官をバッと立て、その先端からバチバチと放電をした。
その電流はやがて、ヴァジュラの目の前で5つの小雷球を創り上げた。
小雷球は充電を完了すると、音速のスピードで四人を目掛けて射出された。
サクヤ
「散開!」
しかし射出の直前、サクヤの一言で四人は素早くヴァジュラの前から横に避けて小雷球を回避、ガラ空きになったヴァジュラの横っ面を叩いた。
ヴァジュラの顔面の鬣は砕け散り、醜い傷となる。
ソーマ
「トドメだな…」
[DRILL・TORNADO]
十真
「ちょっと待った」
[KICK]
十真
「1人で美味しいとこ、持ってくなよ」
ソーマ
「…好きにしろ」
2人の戦士は宙に舞うと、鋭いキックでヴァジュラの首筋を貫いた。
断末魔の叫びと、巨体が倒れこむ音が同時に響き、彼らに勝利を告げた。
十真
「ん、俺のラウザーに反応してる?」
十真は空きのラウズカードを取り出すと、剥き出しになったヴァジュラのコアに突き刺した。
ラウズカードはそのエネルギーをグングンと吸い込み、新たな力をブレイドに与える。
十真
「『THUNDER』…」
コウタ
「お、新しいカードじゃん」
十真
「ああ、ラッキーだったな」
サクヤ
「もう、戦いはカード集めじゃないのよ」
十真
「わかってますって」
任務は終わったが、ここは戦場、気は抜けない。
談笑を交わしつつも、各々周囲に気を配っている。
特にソーマは、皆と同じで変身を解きつつも、遠くを鋭い目で警戒している。
十真
「(そうやって…俺たちの背中、護ってくれてんだな…)」
今日もソーマに救われた点は多々あった。
それはコウタも例外ではなく、ソーマは前衛の十真から後衛のコウタまで、広い視野で仲間に気を配っていた。
ただ態度があまりにも素っ気ないため、大抵の人間はその優しさに気づかないのだろう。
本人もそれが目的だろう。
自分の目の前で死んでほしくない。だから自分とは離れてほしい。
仲間を護りつつも、人と関わらないことを望んでいる。
しかし、それは必然的にソーマを孤独に導く。
そしてきっと、ソーマはいつか独りで死んでしまう。誰に護られることもなく、独りで。
もしかしたら、それさえもソーマの願いかもしれない、が、十真にはそれを許すことはできない。
十真も、目の前で誰も死なせないと誓っている。それはソーマも例外ではない。
全てを護る。無理だと言われようが、これは十真の誓いなのだ。曲げられない。
サクヤ
「さ、帰投しましょ」
サクヤの一言で四人はバイクに跨ると、アナグラへと走らせた。
コウタ
「ーーとまぁ、そういう感じで、ヴァジュラに見事勝利したんスよ」
リンドウ
「…なんか『ズガーン』とか『スパーン』とか、擬音ばっかでわかりにくかったんだが」
コウタ
「じゃあ何て言えばいいんスか?」
リンドウ
「例えばこう、十真が懐に入り込んで『ズバーン』とか、その後すかさずお前が『ドカーン』とか?」
十真
「いや全然変わってないですけど…」
四人がアナグラに着くと、既にリンドウは『デート』を終え、ロビーでだらしなくソファーにもたれかかっていた。
コウタは戦闘の様子をさぞ嬉しそうに伝えるのだが、リンドウの指摘する通り擬音ばかりでほとんど伝わらなかった。
ただ、四人が滞りなく任務を達成したことは伝わったようで、リンドウはそこそこ満足した笑みを浮かべている。
サクヤ
「リンドウはどうだったの?」
コウタ
「あ、そうですよ、デートどうでした?」
コウタが興味を示す顔をしているのとはまるで別で、サクヤは安堵の表情を見せている。
デートの様子をそのような表情で聞く人はよほどいないだろう。コウタのような表情が普通だ。
だが、リンドウの言うデートは何処か怪しい。何かの隠語のように聞こえる。
リンドウ
「おう、時間に遅れたから拗ねちまってたけど、途中からは俺に釘付けだったぞ」
コウタ
「うらやましいっすね〜」
リンドウ
「やめとけ。……お前の手には負えないと思うぞ?」
一呼吸置いてそう話すと、リンドウは意味深な笑みをコウタに見せた。
その真意がわからないコウタが頭を傾げながらリンドウの顔を見ていると、突然、施設内に緊急招集のサイレンが掛かった。
アナウンス
『本日、第8部隊がウロヴォロスの封印に成功。技術部員は至急、第五開発室に集合してください。繰り返します。ウロヴォロスのーー』
放送が終わるのを待たず、ロビー内はざわつきで埋め尽くされた。
あちこちから驚きの声が聞こえ、また『ウロヴォロスの封印』という内容に対する羨望の言葉も聞こえる。
遂には、その報酬で飯を奢ってもらおうなどという下心な言葉も聞こえた。
様々な声が挙がったが、共通しているのは、その場にいたゴッドイーターのほとんどが『ウロヴォロスの封印』に関する話に夢中になっていることだ。
コウタ
「ウロヴォロス…って何?強いの?」
ソーマ
「たまには自分で調べろ。ターミナルでもあさってりゃ出てくる」
サクヤ
「そうね…私達四人じゃ、まだ勝てないと思うわ。斬峰君の新型ラウザーシステムを頼りにしても、多分…」
コウタ
「マジで⁉︎このメンツでも⁉︎」
ソーマ
「1人2人は死人が出るだろ」
リンドウ
「まー、あれだ。生きてりゃそのうち倒せるだろ。今は死なないことだけを考えろ」
ソーマ
「その台詞…いい加減聞き飽きたぜ…」
リンドウの言葉に、ソーマは露骨に気に入らないような顔を見せた。
リンドウ
「あぁ何度でも言うさ。特にお前みたいに独りで死にに行っちまう奴にはな」
するとリンドウは珍しく眼を鋭くし、ソーマを睨みつけるようにして言った。
気に入らない、とでも言いたそうな顔のまま、ソーマはロビーを後にした。
コウタ
「でもいつか、そいつも倒せるくらい強くなりたいよな。な、十真?」
十真
「…ウロヴォロス…」
コウタ
「十真?」
十真
「ん?あぁ、ごめん。ボーッとしてた」
コウタ
「疲れた?今日の相手強かったし、ゆっくり休めよ」
十真
「あぁ、そうするよ」
お疲れ、と一言残すと、十真も自室へと向かった。
リンドウはそんな十真の後ろ姿を見送ると、ポリポリと頭を掻いて煙草に火をつけた。
作者&十真より…
作者
「前回、このコーナーやるの忘れてた」
十真
「すみません」
作者
「さてさて。ついに十真が『キック』と『サンダー』のカードを手に入れました」
十真
「おー、じゃあそろそろアレができるんじゃ?」
作者
「せっかくだからカッコいい感じにしようと思ってるけど、まぁそう簡単にはいかないのが人生、ってことで勘弁」
十真
「いや頑張ってくれよ…」
作者
「まぁ、そこだけがメインじゃないから」
十真
「それもそうか」
作者
「ちなみに次回はバトルは無いですが…GEファン待望のアイツが登場します」
十真
「お!」
作者
「さぁて、次回から怒涛の展開になる…かもしれない」
十真
「期待は心の片隅にでも置いといてください」
作者
「それではこの辺で、さようなら…」
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アニメ『ゴッドイーター』延期になりましたね。残念。
まぁ、待つのも一興ということで、気長に待ちましょう!