No.787914

レイドリフト・ドラゴンメイド 第4話 遠くなる家路

リューガさん

ようやくアクションらしいアクションが始まります。
チートで恵まれてるように見えてしまう彼らを待ち受ける運命とは!?

2015-07-06 20:34:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:385   閲覧ユーザー数:385

「あんた、来るなら来ると言ってくれればいいのに」

 

 達美が笑いかけた先は、全長2キロメートルはある真っ赤なスポーツカーそっくりの宇宙船、に変身した女神ボルケーナ。

 

「あなた達、このまま帰るんでしょ? だったら、知らせる必要は無いと思って。びっくりさせようと思ってね」

 

 今、ボルケーナの口は1キロ近く向こうにある。

 

 それなのに声はすぐ近くから、耳に心地よく響く。

 

 達美の目の前に、声を発するものがあった。

 

 それは、半透明に輝く燃える石。

 

 溶岩の形をした立体映像のようにも見える。

 

 ボルケーナの声や視線の概念を遠くへ送る能力だ。

 

 達美のまわりをぐるぐる回りながら、機械の体は痛んでいないか、チェックしてくれている。

 

「それほどでも~」

 

 達美が心底、興味なさそうに笑った。

 

 

 そんな二人の様子を、周囲の人間たちは茫然と眺めていた。

 

「ひゃー。スケールの違う友達だねぇ」

 

 黒い肌、ドレットヘアーの男の子。

 

 薄いデジカメで一枚写した。

 

 新聞委員会会長のアラン・“ゴージャス”・オーキッドがつぶやいた。

 

 能力は電池の充電。20億ボルトの電撃を出す。

 

「なのに、その雰囲気は、同じ世代の同じ嗜好を持つ同士のようですね」

 

 市松人形を思わせるショートボブの黒髪。

 

 ぽっちゃりした女の子、川田 明美・体育祭実行委員会長がそれに続く。

 

 能力は空気中の主性分、窒素に干渉し、暴風を起こす。

 

 

 アランと明美の話を聞いて、達美は思い当たることがあった。

 

「言われてみれば、人生のスタートラインも似てるかも。

 

 私の人生は最初、飼い猫から始まったでしょ。

 

 それがサイボーグになって、現在に至る」

 

 達美に言われてボルケーナも。

 

「わたしも最初はペットだったのよ。リトクとククっていう二柱の偉い女神が居てね。

 

 生まれてすぐの時は、本当に小さな動物だった。

 

 それがある日、言葉を話せることが分かったの。

 

 そしたらククとリトクも面白がって能力を教えてくれた。

 

 だんだん大きな仕事を任されるようになって、そして現在に至る」

 

「最初がペットで、その後、急成長」

 

 達美がじっくり、かみしめるように言った。

 

「なぜボルケーナから私に力が流れてきたのか。そのあたりに、遠因があるかも知れないわね」

 

 ボルケーナは正直、そのことについて不気味な何かを感じていた。

 

 だが今は、達美との出会いと、無事な帰還に感謝したかった。

 

「わたしは自分の力を誰かに押し付けたりしないわ。妹は欲しかったけど」

 

「ペットを止めてからの人生も全然違うでしょ。でも、スタ-トラインで考えたことが原因かもって思ったの」

 

 

 達美には、ほかにも気になることがあった。

 

「ところでさ、あんたが今なってる宇宙船の素材は何? ボルケーニウム? 」

 

 ボルケーニウムは、ボルケーナの体内から発見された概念宇宙の金属だ。

 

 硬さはさほどではない。

 

 だが概念、すなわち異能力を使って加工すると、その時の異能力を永久に保ち続ける。

 

 例えば、炎の異能力を吹きかければ、永遠に燃える金属ができあがる。

 

 宇宙船のような巨大な物でも、一度形を決めれば永遠に形が変わらないということだ。

 

 面倒な強度計算や支柱の設置などが要らなくなる。

 

 そして彼女は本来、不定形なのだ。

 

 

 ボルケーナは、こともなげに答えた。

 

「オリハルコン」

 

 それは、地球人が異能力と出会ったことで発見した金属の中で、最も固い物だ。

 

 しかもボルケーニウムのように、異能力に反応する。

 

「そんな、あんな効果で希少なものを? 」

 

 武産が感心した声を上げた。

 

 どうやって集めたのだろう? その疑問には達美が答えた。

 

「あの子、地面に埋まっている鉱物ならなんだって異能力で生み出せるのよ」

 

「へえ~」

 

 

 そんなことを言いながらも、一行はボルケーナがいる空港に近づいていく。

 

 生徒会と各部部長は14人。迎えに来た家族が25人。

 

 合わせ39人を待つのは、ボルケーナカーの左側。

 

 そこには、とてつもなく豪華な光景が広がっていた。

 

 日本車なら助手席のドアに当たる部分が、カーフェリーのより大きい巨大なランプウェイとなって、生徒たちと家族を待っている。

 

 そこは広大なレッドカーペットだ。

 

 その道を守るのは、両側にずらりと整列する、明らかに100人を超える儀仗たち。

 

 儀仗とは、儀式の際に用いる武器のことで、転じてそれを持つ人のこともさす。

 

 その後ろには、報道陣が並ぶ大きな雛壇。

 

 カメラのカシャカシャというシャッター音が引っ切り無しに聞こえてくる。

 

 

 錆びついた有刺鉄線をのせたフェンスが空港を取り囲む。

 

 だが一歩中に入れば、まずPP社の隊員が臨時の儀仗を務めている。

 

 後列に身長4メートルの人型作業機械が。手前に軽装の隊員が並び、微動だにしない。

 

 人型作業機械の列は、手前に最新型のドラゴンドレス・マーク7。

 

 奥は装甲とジェネレーターが精錬されていないため、胴体が太く箱型の旧型、マーク6。

 

 マーク7では人間の動きを再現するため、間接や腹部と言ったところは細かい装甲が重なり合っている。

 

 しかしマーク6は、そのような複雑な機構はついていない。

 

 腰も旋回するだけだ。

 

 だがその分、シンプルさゆえの稼働率、そしてパワーの強さがある。

 

 

 前列には人間大のパワードスーツを着た社員がずらりと並ぶ。

 

 PP社で採用されているのは、自社製のドラゴンマニキュアと呼ばれるタイプだ。

 

 ドラゴンマニキュア2種類あった。

 

 手前には全身に装甲板を持ち、それが人間と内部のメカニックを守る、見るからに頑丈なタイプ。マーク4

 

 そのつぎは、人が生身で身につける一番重厚な防弾チョッキやヘルメット、ガスマスクなどをすべて身につけ、そのまわりを細長いフレームじみたパワーアシスト機構で支えたものだ。

 

 簡易タイプのドラゴンマニキュア・マーク3。

 

 それでも背中のリュックサックのように見えるのは、圧縮空気を吹き出してのジャンプや、高いところから落ちた際にスピードを落とすためのジェットエンジンという、高級仕様だ。

 

 その中の一人が旗手を務めていた。

 

 旗のデザインは、白い旗の真ん中に、青く角ばった二つのPが、立て線を勝利を意味するV型に合わせたものだ。

 

 

 

 PP社の列が終わると、そのつぎに並ぶのは、濃緑の制服を着て、左肩から胸元に金の飾緒をかける、陸上自衛隊第302保安警務中隊。つまり儀仗部隊だ。

 

 旧式の銃だが木目が目を引くM1ガーランド小銃。

 

 その銃身には銃剣が付けられ、火の光に当たってキラキラと輝いている。

 

 旗手が持つのは当然、日の丸。

 

 その隣には、チェ連国旗が並ぶ。

 

 かみ合う2つの歯車を後ろに、柄の長いハンマーと自動小銃が交差する。

 

 儀仗隊の隣は陸上自衛隊中央音楽隊。

 

 ブラスバンドに必要な楽器を構え、礼を受けるべき人々が来るのを待っていた。

 

 

 

 そのむこうを守るのは、武産と共に来たルルディ騎士団。

 

 西洋風の全身を覆う金属の鎧。

 

 すべて黒く塗られ、鋭くとがった意匠が全身に施されている。

 

 まるで、燃え盛る黒い炎。

 

 その上に真っ赤なマントを羽織り、手には柄の長い槍を持っている。

 

 当然どれも、魔法による強化がなされたものだ。

 

 ひらめく旗は、武産の紋章。

 

 黒い菱型で囲まれた紋章。

 

 この菱型は忌中紋章と言って、西洋の紋章のルールでは持ち主が死んだ場合に、使われるものだ。

 

 女性なら普通に使うことがあるが、狛菱家では全員が使っている。

 

 狛菱家はルルディの貴族の中でも武力をつかさどる。

 

 常にその身を死地に置いているという意味で一族は皆、黒い菱型の紋章を使っている。

 

 菱の中には左を向いて後ろ足で立つオオカミ。その爪は攻撃性を示す赤でぬられている。

 

 口元はレイドリフト1号と同じ面頬。

 

 足元にはリボン状の飾り、スクロールがあり、そこには「夏の火鉢、旱(ひでり)の傘」と書いてある。

 

 この言葉は黒田 如水という武将の言葉で、「夏に火鉢を抱くような、旱に傘を差すような、無駄とも思える忍耐をしなければ、部下はついてこない」という意味だ。

 

 何か短い言葉を書き入れたいと武産が言った時、1号が教えたのを採用した。

 

 国賓、チェ連のマルマロス・イストリア書記長を迎えるための歓迎準備は整っている。

 

 

 だが、そんなことは関係なかった。

 

 会いたかった人に再会できた生徒会と、その家族にしてみれば。

 

 

 だがその家族の行列は、儀仗の一番前にいたドラゴンドレスに呼び止められた。

 

『お待ちください。ここから先は、二つ以上の種族が一緒でないと入れないことになってます』

 

 両手を広げて一行を止める2機。

 

「そうか! トルシーダ・ミスタだった」

 

 そう気づいたのはレイドリフト1号。

 

「何? トルシーダ・ミスタって」

 

 達美の質問に、1号は、武産に協力してもらうことで答えた。

 

「武産! 拡声器出して! 」

 

「うん。分かった」

 

 武産の掌に、先ほどの同じような虹色のリングが現れた。

 

 それが空中にとどまりながら回転する。

 

 武産はそれを、ろくろを回して粘土の器を作るように加工し、円筒にした。

 

 もう一つ、同じ要領で今度は小さな円筒を作ると、二つの円筒を取り付けた。

 

 これは持ち手だ。

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

 魔法の拡声器をもらった1号が、宇宙船に向かおうとする人々に声をかけた。

 

「みなさん聴いてくださ~い。

 

 現在この空港内は、トルシーダ・ミスタというエリアになっています!

 

 ここでは、お互いに、仲間になりえる存在だと示すため、違う種族の方とペアになって楽しんでもらいます。

 

 困ったことが有ったら、セキュリティガードに聴いてください! 」

 

 そう言われても、地球人達は困ってしまった。

 

「なんだ! 家族の再会よりも優先することか!? 」

 

 おじいさんが叫ぶと、周りで賛同する声が上がる。

 

 はやる気持ちを皆おさえられないらしい。

 

 

 ペアになりそうなチェ連人達もいない。

 

「あなたはどうなの? 」

 

 達美が不満そうに武産に聴いてみた。

 

「わたしやボルケーナはスタッフだから。あなた達と組むのはチェ連の人たち……あれ? 」

 

 振り返ると、まだチェ連人達はコンボイから下りていなかった。

 

 その前ではドラゴンドレスから下りた応隆とPP社のスタッフが、車の中の人間と押し問答している。

 

「なんだか、もめてるみたい。行ってくるね。主催者だから! 」

 

 そう言って武産と1号は駆けだした。

 

 

「何? どうかしたの? 」

 

 ボルケーナに話しかけられ、達美は音センサーのレベルを上げた。

 

 装甲車には中にいながら外に命令を飛ばすスピーカーがある。

 

「「我々、チェ連政府は! この情報提供の不備に抗議する!

 

 この空港を利用するのが宇宙船ではなく、宇宙怪獣だったからだ! 」だって。

 

 なるほど、幼子のいたずら心が、思わぬ書類上の不備をもたらしたわけね」

 

 達美は人の声真似がうまい。

 

 聞いた声をそのまま出力しているのだから当然だ。

 

「謝らなきゃだめですか? 」

 

 いつも気が強いボルケーナも、こういう時は気弱だ。

 

「そうね。行ってらっしゃい」

 

 と言っても、全長2キロメートルの体がそのまま動くわけではない。

 

 顔、車の前部だけがゴム細工のように曲がり、その両目がコンボイを見つめる。

 

 そしてマジックボイスの燃える炎がコンボイへ向かって飛んで行った。

 

 その時、達美の横で「ふん。臆病者のチェ連兵め」とつぶやく声があった。

 

 言ったのは、おなかの大きな女性。

 

 生徒会の誰かのお姉さんだろうか。

 

 その隣のやせた男性は旦那さんだな。

 

「まさか、このまま飯抜きじゃないだろうな」

 

 達美には、旦那さんの懸念は痛いほどわかった。

 

 

 ボルケーナの船体内部には、素晴らしい光景が待っている。

 

 壁布が白地に金の錦織。テーブルにも同じ色遣いの彫刻が施され、その上には大きな皿が並んでいた。

 

 中身は帰還パーティーのごちそうに違いない。

 

 その周りにいるのは生徒会の留守番組だ。

 

 全部で27人いる。

 

 留守番組の中に、車椅子に乗る人影がある。

 

 あの亜麻色のショートボブは、城戸 智慧だ。

 

 今まで外と内との連絡を取り持ってくれた、最高のテレパシスト。

 

 弟が書いた、{最高のお姉ちゃん}と書かれた大きな布を肩に巻きつけている。

 

 もとは横断幕だ。

 

 その手にはうまそうなショートケーキが……。

 

「トルシーダ・ミスタ! 許すまじ! 」

 

 ユニがうなる。

 

 

 智慧たちのまわりにも大勢の人がいる。

 

 フセン市に居残り、バックアップをしていた生徒の家族。

 

 慈善事業をやっており、こういう機会には必ず出席し、召喚した者にひとこと言ってやらねば気がすまないと考える芸能人、スポーツ選手。漫画家。SF作家。イラストレーター。

 

 それを支援する資産家もいた。

 

 そして当然、政治家前藤 真志、内閣総理大臣と護衛もいる。

 

「あれ? あいつら、だれだろう? 」

 

 達美は映像を拡大できる目。一度見た相手なら記憶し、次に会う時は瞬時に表示してくれる顔認識システムを持つ。

 

 それは、地球人とはかけ離れた人相を持つ異星人相手でも有効だ。

 

 トルシーダ・ミスタへの入場許可条件は、地球人とペアになる異種族。

 

 今ボルケーナの中から、物陰に隠れるようにこちらをうかがう者たちには見覚えがなかった。

 

 

 異種族は、3集団いた。

 

 どちらも地球人に近い姿。

 

 しかも仕立てのいいスーツを着ている。

 

 だが、体の一部が違う。

 

 一方の種族には背中に鳥のような形をした2枚の金属製の羽があった。

 

 もう一方の種族の背中には、内側がほのかに赤く光る水晶のようなものを背負っていた。

 

 とがった結晶だ。ぶつけたら痛そう。

 

 彼らの髪に見えた物は、わかめそっくり。緑の布状で、腰まで伸びている。

 

 最後の種族は、全身が白い肌。というよりうっすら輝いている肌をしており、肥満体とは無縁なほっそりした姿をしている。

 

 服は古代ローマでみられた、一枚の大きな布を巻きつけたトーガに似ている。

 

 色は白で、飾もついていない。

 

 映像から検索してみる。

 

 金属の羽を持つ種族には地中竜変異体。

 

 結晶を背負い、わかめのような髪を持つ種族には海中樹変異体。

 

 輝く種族には天上人変異体と書かれたウインドウが並ぶ。

 

「何これ、どういう事!? 」

 

 天上人、地中竜、海中樹。

 

 それはスイッチアに住む、人間以外の知的生命体だ。

 

 しかも、人間、チェ連を敵視している。

 

 達美達も戦ったことがある。

 

 だが天上人は光り輝くガス状生命体。

 

 地中竜は身長10メートルはあるワイバーン。

 

 翼や口から火を噴射することで、超音速で空を飛び、攻撃に使うことができる。

 

 海中樹は、巨大な結晶体を中心に育つ巨大な木。大きさが40メートルにまでなることもある。

 

 この結晶には不思議な性質があり、いくつに砕いてもそれぞれが受けた衝撃をほかの結晶に送ることができる。

 

 海中樹は、惑星を挟んでヤンフス大陸とは反対側の赤道にある無人島に結晶を敷き詰めている。

 

 そこで太陽光線を集め、他の結晶に送っている。

 

 海中樹はそうして、深い海底でも太陽光線を受け止め、生活圏としているのだ。

 

「でも、なんて変わり果てた姿に……ああ、なるほど」

 

 原因はやはりボルケーナだ。

 

 人間より巨大な彼らにコミュニケーションを取りやすいようにと、人間に近い姿を与えたのだ。

 

「天地創造めいた事まで、できるようになってんのか……」

 

 流石というか、もはや負けん気も起きないというか……。

 

 まあ、うまくいくよう祈ることにした。

 

「あれ? 」

 

 ふと気になって、スイッチアの装甲車を見る。

 

 その砲塔には、中からコントロールするためのカメラがついている。

 

 それは大きなもので、ボルケーナの中を見ることも余裕でできるだろう。

 

「何事もなければいいけど……」

 

 

「パパ!この人にも、とっても助けてもらったの! 」

 

 待つ間も退屈させないように、という心配りだろうか。

 

 キャロラインは家族を連れて、生徒会のメンバーを紹介して回っている。

 

 次に引き合わせたのは、赤い髪と濃いひげを蓄えた、30代の男性だった。

 

「こちらティモテオス・J・ビーチャムさん。環境美化委員会会長。

 

 文明が崩壊した世界でただ一人生き残った、凄腕のサバイバーよ! 」

 

 紹介されたティモテオスは、明らかに壮年といった体躯だ。

 

「初めまして。ティモテオスです。

 

 ご協力に感謝します」

 

 だが、その視線は落ち着きがなく、及び腰になっている。

 

 ただの会話が、ティモテオスには恐ろしくて仕方がない。

 

 それを察したのか、キャロの父親はすぐさま握手を求めた。

 

「いえいえ。今回は食事のデリバリーですよ。

 

 あなたのことについて、興味がありました。

 

しかし、なかなか分からないものですな」

 

 

 ティモテオスは幼いころ、元住んでいた惑星で惑星全土を滅ぼす戦争に巻き込まれた。

 

 彼と彼の家族はかろうじてシェルターに逃げ込んだが、そこにわずかな割れ目があったのだ。

 

 戦争での最後の爆発からは生き延びた。

 

 だが、外は制御する者も無く様々な有害物質が保管場所から漏れ出す世界。

 

 それによりティモテオス以外はすべて死に絶えてしまったのだ。

 

 そんな環境から彼を救ったのは、自らの異能力だ。

 

 彼の能力は、自らの細胞を強化、肥大化させることで、宇宙空間にも耐えられる体を作る。

 

 いわば、巨人化だ。

 

 それにより、生き延びることができた。

 

 だがそれは、たった一人で22年間生き続けることを宿命づけた。

 

 今、彼は32歳の高校2年生。

 

 3年前に異世界を回っていた武産に見つかるまで、孤独な生活を送っていたため、人とふれあい方を分からなくなってしまったのだ。

 

 キャロの家は、いわゆる財閥だ。

 

 その関係者が興味を持つということは、自分の能力のことか? とティモテオスは考えた。

 

 

 だが、キャロの父は斜め上に吹っ飛んでいた。

 

「学園内で流行っている酒のことですよ。

 

 まったく、魔術学園の機密主義にも困ったものです。

 

 ですが、安心してください」

 

 と言って、空いた左手でボルケーナの中を指さした。

 

「わたしの酒コレクションはちょっとしたものでして、すべて持ってきました! 」

 

 酒好きの二人は、がっちりと手を握り合った。

 

「それは素晴らしい! 」

 

 ティモテオスは、心からこの出会いに感謝した。

 

 

「なんか、いいなあ」

 

 達美がそう思った、その時。

 

【狛菱 武産です。突然ごめんなさい】

 

 頭の中に流れたのは、武産のテレパシ-による声だった。

 

【チェ連人の方は、思ったよりこじれそうです。

 

 それと、ここではあまり後の未来までは予知できません。

 

 いわゆる達人たちの居る状況では、事前にこちらが予知を参考にして活動しても、相手は瞬時に対抗策を出してくるからです。

 

 うまく未来が見えて、せいぜい5分後と言ったところでしょう】

 

 予知能力も、武産個人の能力だ。

 

 

 そう言った矢先。

 

【? 5分以内に敵襲!

 

 2分か、1分後かも知れません! 】

 

 武産が予知した映像と音が、テレパシーでいきなり見せられる。

 

 今さっき降りてきた山から、何本もの光る煙が、勢いよく立ち上がる。

 

 それも何本も。

 

「短距離弾道ミサイルです! 」

 

 叫んだのは一磨だ。

 

 そのミサイルは今、達美達がいるところへ向かってくる。

 

 その落下地点には、全身鉄でできたワイバーン。

 

 濃い輝く霧のようなもの。

 

 日光を放つ結晶を抱き込んだ大木が。

 

 

「早くボルケーナの中へ入ってください! 」

 

 レイドリフト1号が拡声器で叫ぶ。

 

「早く! 早く! 」

 

 その声が響くと同時に、儀仗たちが一斉に動き出した。

 

 戦うすべを持たない生徒会の家族を囲み、手を引くなどしながらボルケーナへの道を駆け上がる。

 

「立ち止まるな! 走れ! 」

 

 

 達美にも叫び声は聞こえていた。

 

 だが視界には、PP社の緊急配備計画が映し出されていた。

 

 それに従う義務はない。

 

 だがそれを見た時、達美の気持ちは決まっていた。

 

「達美!? どこに行くの!? 」

 

 キャロが呼びかけるが、彼女の足は止まらない。

 

 達美がしたこと。それは人の列を逆走し、誰もいないところまで走ることだった。

 

 全身のメカニックは、全く問題なく動いてくれている。

 

 これまでの激戦から、みんながまもってくれた結果だ。

 

 サーボモーターやアクチュエーターなどの消耗品も、地球と連絡がついた直後に純正品を受け取れた。

 

 

 達美は、自分はつくづく恵まれていると思っている。

 

 よくある冒険小説なら、主人公は1人か3人。

 

 人は一度に覚えられるのは7人までと言われているから、敵味方含めるとそうなってしまう。

 

 しかも徒手空拳で戦わなくてはいけない。

 

 当然小説なら主人公は勝利する。

 

 しかし、召喚する側だって、もう滅ぶかどうかの瀬戸際だからこそ、恥も外聞も捨ててわずかな確立にかけたのではないのか。

 

 実際にやってみれば、召喚された直後に死んでしまう主人公もいるのだろう。

 

 振り返って自分たちはどうだ。

 

 召喚された生徒会は全員帰還。

 

 援軍もたくさん来てくれた。

 

 そして、自分もいる。

 

 

 両足は、何の問題もなく180キロの体を時速80キロまで加速させてくれる。

 

 両手は一瞬で来ているシャツのボタンの上から二つを外した。

 

 背中から襟首側に走るレールを通って、達美の体の中で最も精密な部分が飛び出してくる。

 

 猫耳の下からは目を守るゴーグルと、口元を守る面頬が飛び出し、顔を覆う。

 

 面頬はレイドリフトの共通する意匠でもあり、人によって個性を見せる部分でもある。

 

 ドラゴンメイドの面頬は黒い地に、横向きの赤いドラゴン、ボルケーナが描かれたものだ。

 

 3メートルほどジャンプする。

 

 背中から飛び出したのは、折りたたまれていたチタン合金製の2枚の翼。その基部につけられたレーザージェットエンジン。

 

 そして両腕の動きを強化するフレーム状のパワーアシスト機構。

 

 高性能ジェットパックだ。

 

 ガタッガチャッと心地よい音とともに翼が伸び切り、すべてのパーツが確認されたのを確認する。

 

 内部に鏡を張り巡らせたジェットエンジンの中ではレーザーが鏡に反射されながら、中の空気を加熱、膨張させる。

 

 ドーン! 

 

 膨張した空気は勢いよく達美の体を押し出す。

 

 時速10キロ、20キロ……1000キロ。

 

 たちまち亜音速まで加速した達美は、ボルケーナの上空を旋回し始めた。

 

 ゴーグルの中の目、ハイパースペクトルカメラは、ちょっとした物や霧などへの透過能力に優れ、熱を出す者を探知しやすい遠赤外線で周囲を探る。

 

 

 

 ベルム山脈に築かれた施設。

 

 それはトンネルや基地だけではなかった。

 

「ミサイル基地、確認」

 

 山の中に熱源が増える。

 

 ミサイルを隠すハッチが開くのが見えた。

 

 数は1…2…3、4、5。武産が予知したとうりだ。

 

 

 

 達美は両手をそろえて進行方向へ突き出す。

 

 両手を支えていた2つのアシスト機構は外れ、1つに合体した。

 

 軌道を大きく変え、山へむかって飛ぶ。

 

 両腕がボルケーニュウム製なので、念ずるだけで形が変わる。

 

 純粋な熱エネルギーと運動エネルギーを投擲する物。つまり砲に変形したのだ。

 

 

 

 ハッチの奥から光がせり上がる。

 

 その衝撃で木々が揺れ、ミサイルが勢いよく空に飛びだした!

 

 


 
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