第七章~あなたを求めて・中編~
「はあああっ!!!」
ブンッ!!!
「グフッ・・・!」
春蘭が放った一撃が、五胡の兵を一刀両断する。
魏武の大剣こと夏侯惇の、鬼神の如き強さは健在であった。
しかし、五胡の兵達は、その強さに臆す事無く彼女の周りを囲んでいく。
「くそ!倒して倒しても、これではきりが無い!!」
魏軍二十三万と五胡四十五万が、ここ常山にて激戦を展開していた。
「でやああああっ!!!」
ブン、ブンッ!!!
「グハァッ・・・!!」
「ギャアッ・・・!!」
五胡の兵二人が短い断末魔を叫ぶ。
「春蘭、生きとるか!?」
「当たり前だ、この私を誰だと思っている!!」
やって来たのは、神速と謳われる張遼こと霞であった。
そしてそのまま二人は互いの背中を向け合わせる。
「やっぱ、兵力差が響いとるな~、これ?」
「ふん、ならばその分を、私が戦えばよいだけの事だ!」
「相変わらず、無茶言いよるわ・・・!」
春蘭の相変わらずの根拠のない自信に、呆れつつも頼りに思う霞であった。
ビュンッ!!
「グギャァッ・・・!!」
五胡の兵の一人の胸に一矢が貫く。
「ふう・・・、まるで姉者を相手にしているようだな。」
まっすぐと敵陣に攻め込んでくる五胡の兵達を見て、さりげなく言う
神弓と名高い夏侯淵こと秋蘭。そして再び矢を放つ構えを取る。
ビュンッ!!
「ぐふッ・・・!!」
今度は眉間を射抜く。すると、彼女の側に一人の兵士が駆け寄る。
「夏侯淵将軍、敵の大四波が来ます!!」
「そうか・・・!皆の者、突撃してくる蛮族共に曹魏の恐ろしさを
叩き込んでやるのだ!!」
「「「「応!!!」」」」
秋蘭の言葉に、気合いを入れる弓兵達。
魏軍本陣・・・。
「急に、向こうの動きが変わった・・・。」
広げられた地図に置かれる碁石達を睨みながら、稟は言う。
「まるでこちらの動きに合わせているかのようですね~。」
補足するように、敵の動きを分析する風。
「こちらの倍近い兵力を持ちながら、出し惜しみするかのように、
前線の兵力をこちらに合わせ、数が減れば増援を出す。」
「一体何を考えているのでしょうかね~・・・?」
「数で圧倒しているだから、それに適った戦法をとるべき。
これではただ兵力を消耗していくだけだというのに・・・」
「敵の皆さんは・・・時間稼ぎがしたいようですね~・・・。」
「それはどういう意味、風?」
「ぐー・・・Zzz」
「寝るな!」
いきなり眠り出す風に突っ込みを入れる稟。
「・・・おおっ!?すいません、心地よい日差しについ・・・。」
「・・・・・・。それで風、先程言った事は?」
風の言い訳に構う事なく、稟はそのまま話を進める。
「敵、五胡の兵の皆さんは、霞ちゃんの時の猛攻を今は控え、こちらの兵力に
合わせ攻めて来ています。つまり、現状は事実上、均衡状態を保っている事になります。」
「そうですね。ですが、五胡がわざわざそのような行動をとる事に侵略的意義はない。」
「その通りなのですよ。と言う事は・・・」
「彼等の目的は、魏の侵略ではない・・・、目的は別にあると・・・?」
「だと思います~。」
二人は五胡の侵攻に、もう一つの可能性を導き出す。
「では風、五胡の目的とは一体・・・?」
「ぐー・・・Zzz」
「だから寝るな!」
また、いきなり眠り出す風に突っ込みを入れる稟。
「・・・おおっ!?都合が悪いので、心地よい日差しについ・・・。」
「・・・もう、いいです。」
もはや怒る気も起きなかった稟であった。
そんな二人がいる天幕の中に一人の兵が入って来る。
「会議中失礼します!」
「何事ですか?」
「南方より砂塵を確認。旗は楽、李、于との事です!」
「凪ちゃん達も来てくれたみたいですね~。」
「分かりました。本陣に到着したら、三人にそのまま前線に向かうよう
進言しておいて下さい。」
「はっ!では失礼します!!」
兵は天幕を去っていく。そして二人は再び地図を見る。稟はそこに新たに
碁石を三つ置く。
「・・・これで、こちらの兵力はおよそ二七万・・・。今度はどのような
動きを示すのでしょうか?」
「時間稼ぎをするのか・・・、それとも・・・むむむ~。」
「はああああっ!!!」
ブンッ!!!
「でやあああっ!!!」
ブンッ!!!
「グベッ・・・!!」
「ブギャァ・・・!!」
敵をなぎ倒し続ける春蘭と霞。再び互いの背を向け合う。
「はあ・・・、はあ・・・、はあ・・・。」
「な~んや春蘭?そんな肩で息をしおってからに・・・!もうばててんのか?」
「な、何を言うか!?貴様こそ、先程から太刀筋が単調になって来ているではないか!!」
「そんだけ言えるんなら、まだやれそうな!?」
「無論だぁー!うおおおおおっーーー!!!」
ブンブンブンッ!!!
一気に三人を斬り払う春蘭。
「てぃりゃあああああーーーー!!!」
ブンブンッ!!!
一撃で二人、計四人を薙ぎ払う霞。
「春蘭様、霞様!!」
そこに遅れて、凪の部隊が援軍として駆け付けた。
「おおーーー、凪ぃ!!待っとたでーー!」
「凪、お前が来たと言う事は、使える兵は全部出撃させたと言う事だな!」
「はい、今秋蘭様の方に真桜と沙和の隊が向かっています。」
「そうかぁ・・・。なら、華琳は今本陣におるんやな?」
「え・・・?」
霞が何気なく言った質問に、ぽかんとする凪。
「え・・・って、何や?華琳来てないっちゅうか?!」
「は、はい・・・。」
はきはきと喋る凪にしては珍しく、歯切れの悪い応えが返ってきた。
「何やって!?華琳、どないしたんや!体の具合が悪いんか!?」
「待て、霞!今はその事を詮索している場合では無い!!」
「しゅ、春蘭・・・?」
確かに春蘭の言う通りだが、この時霞は春蘭の行動に違和感を感じる。
「お前、どっか怪我したか?」
「?何を言い出すのだ、突然?」
「い、いや何でもあらへん・・・。何でも・・・。」
「??」
(おかしいなぁ・・・、いつもの春蘭ならあそこは『何だと、華琳様が
体調を崩したというのか!』みたいな、感じに入って来るはずなんやが・・・。)
「ど、どうした霞?そんな・・・私の顔をじろじろと?」
「何でもあらへん・・・。そない事より、今はお前の言う通りにしといたる!
いくで凪!」
「はっ!!」
霞の呼びかけに、凪はいつも通り、はきはきと答えた。
同時刻、とある一室にて・・・。
「ふむ・・・、楽進、李典、于禁も来ましたか・・・。」
その机の上に広げられる地図、その上には人の形をした駒がいくつか乗っていた。
「張遼・・・。」
そう言って、地図の上に乗っていた駒の一つを手で取り上げ、そのまま受皿に置く。
「夏侯惇・・・。」
同じく、地図の上に乗っていた駒の一つを手で取り上げ、そのまま受皿にまた置く。
「そして夏侯淵・・・。」
またしても、地図の上に乗っていた駒の一つを手で取り上げ、そのまま受皿にまた置く。
「後は・・・、そうですね。楽進の『情報』を一通り取れれば、十分でしょうかね?
できれば許緒と典韋も欲しかったのですが・・・。まぁ致し方ないでしょう。」
そう言い終えると、両肘を机に置き、両手の甲を重ね合わせる。
「後は、女渦の研究結果をうまく活用すれば、計画は上手く行くでしょう。」
そして顎を両手の甲に乗せる。
「では、五胡の皆さん・・・もうしばらく頑張って頂きましょう。」
それから半刻・・・、戦況は平行線を保ったままであった。五胡の侵攻は先程と依然
変わりなく、こちらの兵力に合わせ攻め続けていた・・・。
「はああああーーーーっ!!!」
拳に込めた気を敵に叩きこむ凪。
ズドーーンッ!!
爆発音にも似た音とともに敵は吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた敵に、数人が巻き込まれていく。
「おおーー!!いつ見ても派手やなあ・・・!」
その光景を見て、感心する霞。
その隙を突くように、霞の後ろから五胡兵が斬りかかろうとする。
が、霞は後ろを見る間もなくその兵を偃月刀で切り払う。
「お主、随分器用な事が出来るのだな・・・。」
そんな彼女を見て、感心すると同時に呆れる春蘭。
「ん?」
「てぇりゃあああーーーっ!!」
キュイイイィィィィィン!!
真桜の螺旋槍が機械音を放ちながら、前方の敵達を問答無用に刺し貫いて行く。
そんな見た事も無い戦法に、五胡の兵達に動揺が走っていた。
「今だ、放てーーー!!」
秋蘭の号令に合わせ、弓兵隊は一斉に矢を五胡の兵達に放つ。それはまさに矢の雨。
その雨から逃れられなかった者は、抵抗も虚しくその矢に体を刺し貫かれる。
「真桜ちゃん、すごいのーー!」
友の活躍を喜ぶ沙和。
「ま、うちもその気になれば・・・こんなもんよ。あーはっはっは!!」
友の言葉に浮かれ気味の真桜。
「・・・とはいえ、まだ敵の方が優位である事には変わらない。だからお前達も
気を抜くなよ。」
浮かれる真桜達に釘を刺す、冷静に状況を判断する秋蘭。
「ん?・・・これは。」
それからほどなくして、魏軍本陣に一つの報告が入る。
「五胡が撤退していく・・・?」
「はっ!何の前触れもなく、五胡全軍が撤退を開始しました!」
「・・・・・・。」
その報告に、頭を抱える稟。
「追撃の命令を出しましょうか?」
「いえ、罠の可能性も万に一つあります・・・。各隊には本陣に戻る様、進言して下さい!」
「はっ!では、失礼します!」
兵士は稟に一礼をした後、天幕を後にする。
「・・・結局、目的は分かりませんでしたか・・・。」
溜息をつきながら、そう言う稟。
「まぁ・・・いいじゃないですか、稟ちゃん。五胡を退ける事自体は出来たんですから。」
そんな稟を、励ますように話しかける風。
「確かにそうではありますが・・・。」
風の言葉に、いまだ納得のいかない表情をする稟。
「風も五胡が気になるのですが、今は華琳様が・・・ですね。」
「・・・風!あなたはっ!?」
風の口から、華琳という単語を聞くと否や怒りを顔に示す。
「華琳様の方が、魏の一大事だと思うのですがね~・・・。」
まったりとしたいつも通りの風の口調で言う。
「・・・・・・!?」
言葉を失くす稟。彼女自身分かっていた事ではあった。
今、我が主・華琳に起こっている異常事態を・・・。
「そうか、撤退命令か・・・。分かった、下がれ。」
兵士から撤退命令を聞いた秋蘭は兵を下げる。
「真桜、沙和・・・、聞いた通りだ、お前達も自分の隊をまとめて本陣に戻れ。」
「「はーい!」」
秋蘭の言葉に、二人は元気よく返事する。
「夏侯淵将軍・・・。」
秋蘭の元に、別の兵が駆け寄る。
「どうした・・・?」
「実は、歩兵の者が敵本陣と思わる所で気になるものを・・・。」
「ほう・・・?で、その気になるものとは。」
「これです。」
そう言って、兵士は懐から巻物を取り出し、秋蘭に渡す。
「これか・・・。」
巻物を自分の前で広げる。
「・・・・・・何だ、これは?」
「いえ・・・、自分に聞かれましても。」
「そうか。」
そう言うと、秋蘭は巻物を再び丸め懐に入れる。
「ふむ・・・、こちらの思惑通りそのまま撤退してくれましたか。これは上々・・・。」
口から笑みが零れる。
「彼女達の戦闘に関する『情報』は取れましたし、上手く軍の中に紛れ込ませる事も
出来ました・・・。後は、来るべき時期に、上手く動いてくれれば問題はありません。」
しかし、今度はその口から笑みが消える。
「しかし・・・、困りましたねぇ。アレが向こうに渡ってしまったのは、さすがに予想外。
まぁ・・・、大丈夫ではあると思いますが・・・、不安の芽は取り払うに越した事は
ありません。」
机の端に置いてあったベルの様な形をした呼び鈴を手に取り、そして鳴らす。
その音はその部屋に響き渡り、外にまで響く。
「お呼びでしょうか?」
鳴らして、少しした後、その部屋に一人の女性が入って来る。
「あなたに頼みたい事があります。まず、君には洛陽に向かってもらいたいのですよ」
「それは・・・、また如何な用でしょう?」
彼女の問いに、丁寧に答える。
「・・・分かりました。では、準備が出来次第・・・洛陽へと向かいます」
「お願いします」
「では、失礼します。」
女性は、一礼してその部屋を去って行った。
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こんばんわ、アンドレカンドレです。今回の第七章なのですが、書いているとかなり長くなりそうなので、章を三つに分けました。今回は中編を投稿しました。主に戦闘を中心です。どうも、この七章、僕が思っていた以上に深い話になりそうなので、僕自身驚いています。