あの時、「俺」は死んだ。
ぼろぼろになってしまった「俺」は「あの人」に見捨てられた。
死んだのも同然だった。
何も感じない微睡みの中、突如耳に入った「あの人」の声に導かれ
冥路を彷徨った先に泣きじゃくりながらも手を伸ばす「あいつ─────安定」がいた。
あの時、「僕」は一人ぼっちになってしまった。
刀としての生を全うとした「あいつ」だけでなく、病に藻掻き苦しんだ「沖田くん」までも
ただ、見届けることしか出来なかった。
幾日も悲嘆に暮れていた「僕」は
ある日、死んだ筈の「沖田くん」が「僕」を呼ぶ声を耳にした瞬間
─「僕」の目の前は光すら差さない暗闇と化していた。─
「清光を助けておやりなさい」
と「沖田くん」は、そう言って消えてしまった。
助けるってどうやって?「あいつ」は既にいない筈なのに・・・
ふと、下を覗くと、そこには暗闇を彷徨い続ける
「あいつ─────清光」 の姿が見えた。
「清光っ!」
「僕」は「清光」の名前を叫びながら、手を伸ばす。
「俺」は、傷付きぼろぼろになった手で「安定」の手を掴み
落ちないように強く握り締めた。
「僕」は今にでも消え入りそうな「清光」の腕を強く掴み、
「僕」の方へ引き寄せ、強く抱き締めた。
「や、安定ぁ!!・・・あり・・・がと・・・っ」
「清光・・・よかっ・・・た・・・」
「僕」は「清光」を救い出せたことに
「俺」は「安定」に再び出会えたことに
「僕達/俺達」は感涙にむせび泣いた
─────
「僕」は「清光」に、「あの後」の事を一通り話した。
「清光」がぼろぼろになってしまった後も欠片は大事に残してたこと。
「沖田くん」が病に倒れ、もう此の世にはいないこと。
「清光」はぽろぽろと大粒の涙を零しながらただ黙って「僕」の話を聞いていた。
「・・・あの人、俺のことずっと・・・
だけど俺にはもう『元の体』なんてない。このまま消えてしまうのをただ待つだけ」
「何だよ、お前らしくないなぁ・・・なぁ、僕の体に来ないか?これならずっと一緒にいられるし。」
「えっ、お前・・・そんなことしたら・・・」
「いいんだ、一人ぼっちはもう嫌だし。」
「僕達、ずっと一緒だよ。」
「・・・あぁ」
こうして「僕達/俺達」は、溶け合うように「二人で一つの存在」になった
体は「僕」のものだけど、心は「僕」と「俺」の代わり番こ
「僕」の得たものは「俺」に伝わる
「俺」の得たものは「僕」に伝わる
─────
時は流れ、「僕達/俺達」は殆どの人に忘れ去られ
「人々」の中では「沖田くん/あの人」の愛した「刀」は全く別の「刀」に置き換わられてしまった。
「あの人、俺達以外使ったことあったっけ?」
「多分ない・・・と思う」
───「僕達/俺達」は何時しかその「刀」として振る舞うようになった
─人の手で造られし物に宿る「九十九神」は
人の想いでいとも容易く、「歪んで」しまう─
─更に時は流れ
何時しか「半身」と呼べる存在の姿が見えなくなり、辛うじて「心の声」は「僕達/俺達」のどちらかとわかるけど
意識は「僕」と「俺」との境目が曖昧になっているのを強く感じた・・・─
『俺達は「加州清光」だよね?』
『僕達は「大和守安定」だよね?』
『ん?それとも______だっけ?』
─────
「ふー、こりゃ大変なことになってるなぁ。
彼の沖田総司の刀に二つの九十九神がシャ・・・レギオンみたい癒着してるって前代未聞だよー。」
『誰?僕達/俺達をまるで見世物のような扱いして』
「おっと、こりゃ失礼。わーの名前は___。
一介の審神者さ・・・ま、霊能者みたいなものだよ。宜しくねー
・・・所で、君達の名前は?」
『僕達/俺達は______。』
「いや、『集合体』としての名前ではなくて君達それぞれの『本当の名前』だよ。
忘れてるなら『集合体』としての名前で呼ぶけどさ。意識レベルで統合してるみたいだし。」
『・・・待って』
『僕達・・・いや、僕の本当の名前は大和守安定。」
『俺達・・・いや、俺の本当の名前は加州清光。」
「そう。君達本当に正真正銘の沖田総司の刀の九十九神なんだねー。改めて宜しく!
これから新しい憑代引っ張り出すからちょっと待ってねー。」
『新しい・・・憑代?』
「加州用のね。多分破損したのが事実なら、その影響でこうなったんだろうし。
もしよかったら、大和守の分も用意しようかい?」
『えっ・・・いいの?』
「いいのいいの!あと自分達の意志で分離出来る?出来なかったら、わーも手伝うから!」
『・・・うっ、無理かも』
「わかったー」
___と名乗る審神者は憑代を取りに部屋を出た。数分後___は二振りの刀を持った状態で戻ってきた。────
「じゃーんっ!これが二人の新しい憑代でーす!
さっ、これから少しずつ二人を離すよっ。目を閉じて、力抜いて、心を無にして・・・」
────────
『・・・んっ』
「僕/俺」目の前には天井が広がってた。
___と名乗る奴は布団も用意してくれていたようだ。
起き上がり、ふと横を振り向くと、
久方振りに見た「かつての半身」の姿があった
「おはよっ。安定久しぶりー」
「おはよう。久しぶりだね清光」
───あれから1ヶ月
「俺達/僕達」は新しい憑代にも慣れ、___にこき使われながらもそれなりに楽しんで暮らしている。
(わーはそんなにこき使った覚えはないよっ!)
あーはいはい
「俺」は「安定」と離れるのはちょっと辛かったけど、お互いの顔を見て話したりするのも悪くないと思っている。
「僕」は「清光」と離れるのはちょっと寂しかったけど、こうやってまた触れ合えるのも悪くないと思っている。
─────
長い間「二人で一つの存在だった」時間を過ごしてたせいか、
「お互い」の「体」に触れるだけで
「お互い」の「心」や「記憶」を感じ取ることが出来るだけでなく
その気になれば、「お互い」の「体」を入れ替えることだって造作もない
─────
「安定、俺の体綺麗に扱ってよねー」
「清光こそ、僕の体に爪紅塗らないでくれよ。落とすの大変だから。」
「へーいへい、わかりました。これならいいでしょー、これなら(透明なマニキュアを取り出す)」
「・・・いいよ。本当はそれも嫌だけど」
─夕方、複数の刀剣達から「清光と安定の様子がおかしい」と報告があった。君達また入れ替わって遊んでた?─
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加州清光と大和守安定の狂った物語
薬の副作用と精神的にグロッキー状態で無駄に活性化した脳みそを黙らせる為に、病院の待ち時間中に愛機のZenfoneちゃんに書いた乱文を清書したもの。
前の持ち主と審神者の描写、トンデモ設定と超展開につき閲覧注意
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