No.785310 ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』piguzam]さん 2015-06-23 00:57:38 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:6093 閲覧ユーザー数:5360 |
前書き
え~、皆さん。
大変に遅くなってしまって申し訳ありませんm(_ _)m
執筆の遅い事に定評のあるPIGUZAM]にございます。
仕事は忙しいしバイク購入の手続きは多いし受け取りに行かなきゃで。
オマケにバトルフィールドHFに出撃してて時間が取れませんでしたwww
更に新連載(ん?)のネタを考えて煮詰めてで頭があっちゃこっちゃ。
にっちもさっちも行かない私ですが、何とか書き上げました。
しかしまだ次の映画をどれにするか決まってない(絶望)
こんな私ですが、これからも頑張りますのでよろしくお願いしますッ!!
「どうもどうもッ!!わたくし、定明の伯父であり、名探偵の毛利小五郎と申しますッ!!」
「おぉ、これはご丁寧にどうも。私はデビット・バニングス。毛利さんのご高名はかねがねお伺いしておりますよ」
すっかり日も傾き始めた夕方頃。
署内から聞こえてくる高木刑事の悲鳴っぽいものをBGMに聞きつつ、俺達は警視庁の外に居た。
そこでお互いに向き合って礼をしながら名刺交換をする伯父さんとデビットさんを眺めつつ、俺は背骨をグイッと伸ばす。
ん~……もう夕方じゃねえか……慌しい1日だったなぁ。
入口手前で俺とアリサ達は伯父さん達を待っていたんだが、伯父さんは俺の隣に居るのがデビットさんだと知って挨拶をしたという次第だ。
SPの人達が車を取りに行ってる間に名刺交換しているのを尻目に鉄球を弄ぶ。
……どうでも良いけど、大企業の社長であるデビットさんが普通の名刺で伯父さんが金ぴかの名刺なのが凄え違和感を感じる。
無駄に懲りすぎだろ、金ピカの名刺って……。
「いやー、定明から話は聞いていたんですが、こうしてお会いするまで半信半疑でしたよ。何か事件がアレば、この名探偵にどうぞご連絡下さいッ!!」
「ええ。もしもの時は是非、そのお知恵を拝借させて頂きたいものです」
「ふっ。どーんとお任せ下さいッ!!(ついでにギャラも期待させて下さいねーッ!!)」
止めて。アンタが来る=ホント大変な大惨事に繋がるから。
頼むから俺の住む町に死神坊主を連れ込まないでくれ。
恐らくデビットさんも同じ事を考えていたのか、苦笑しながらも大人な対応で小五郎さんに返答を返す。
まぁ俺みたいにコナンの事を知ってる訳じゃ無えし、伯父さんが死神って認識だろーけど。
「はぁ……結局撮れなかったね、写真」
「そうね。多分これから修理工事とかも入るだろうから、暫くベルツリータワーには入れそうに無いだろうし」
「ホント最低よ……ッ!!折角のプレオープンが台無しだわ」
そんな感じで不吉なフラグを構築する伯父さんに慄いていたら、傍に居たアリサ達が愚痴ってる声が響く。
折角東京まで来たってのに、事件に巻き込まれて楽しい時間がおじゃんだからな。
「まぁ、ベルツリーは諦めるとして、まだまだ遊ぶ日にちは残ってるし今日の事は忘れて気楽に行こうや」
「簡単に言わないの。あんな光景、早々忘れられるわけ無いでしょーが」
鉄球を片手で回転させながら慰めると、アリサは拗ねた顔で俺に言葉を返す。
プイッとそっぽを向きながら口を尖らせるアリサの言葉に、肩を竦めて口を開く。
「”大丈夫”。お前等は今日の事を気にする必要は無えさ」
「で、でも……あっ……」
「……アンタ」
人が死んだ光景を見せられて精神的に不安定な筈の3人にそう答えると、アリサ達は訝しんで俺に顔を向ける。
しかし、それは”俺の肩に乗っかっているスタンド”を見て、呆気にとられた様な表情へと移り変わった。
人の痛みや悩み、という”概念を吸い取り”人間の全てを癒すスタンド、『ザ・キュアー』。
俺はキュアーを3人の肩に順番で飛び移らせて精神的ショックを吸い取らせながら、呆ける彼女達に笑みを見せた。
「お前等は今日も、ゆっくりと熟睡出来る……心穏やかに、な」
キュアーに悩みという概念を吸い取られたお蔭か、アリサ達の表情は先ほどよりも軽やかになっていく。
ダチに何時迄もあの光景の事で苦しまれんのも忍びねえからな。
「……ありがとう、ジョジョ」
「さあて、何に対してのお礼だか」
そこそこ離れているとは言え、コナンや蘭さん達の居る場所でおいそれとスタンドの事は言えない。
だから適当に主語を濁してクスリと微笑みながらお礼を言ったリサリサに、俺も同じ要領で返した。
更にすずかは微笑みを浮かべ、アリサは何やら恥ずかしそうに髪の毛をクルクル指で巻きながら俺をチラチラと見る。
「ま、まぁ、アタシは頼んでないけど……ありがと」
「ありがとう。定明君の言う通り、本当にゆっくり眠れそうだよ」
「おう、ゆっくり寝ちまえ」
さっきまでより和らいだ雰囲気を肌で感じながら俺もニヤリと笑う。
嫌な気分で帰るより、笑って帰れればそれに越した事は無えだろうよ。
「そういえば、ジョジョ。さっきコナン君に貴方の鉄球の事を聞かれたわ。回転の原理は何か知ってるの?って」
「あぁ、やっぱりか。リサリサは俺の鉄球の秘密の一部に感づいたって教えてたから、もしかしたらって思ってたんだがな」
「そういう事だったの……まぁ、私が気付いたのはホンの偶然だったし、鉄球自体じゃ無かったんだけどね」
「まっ、どっちも似た様なモンさ」
苦笑するリサリサの言う通り、リサリサが気付いたのはタスクの方だったな。
まぁ原理自体は一緒だし、別に良いだろ。
鉄球もタスクも、黄金長方形と関係を持ってるのは間違いじゃねぇからな。
「それで?コナンには何て答えたんだ?」
「ふふっ♪……答えは、貴方の目に映る物の中にあるかもって答えておいたわ」
「そいつは何とも詩的なお答えで」
微笑みを浮かべながらも、その表情の中に少しだけ悪戯げな色を写すリサリサ。
俺はそんなリサリサの言い回しを聞いて笑ってしまう。
確かにリサリサの言葉通り、黄金長方形は自然の中にだけ存在する”天然のスケール”だ。
従って、言ってる事に間違いは無い。
無いんだが……中々に良い性格してるぜ、リサリサの奴。
それでコナンの奴、さっきから蘭さんの傍で難しい顔してんのか。
まぁ、精々頭を悩まして考えてくれ。
そんな風に各々が警察署の前で適当に過ごしていると、黒塗りのセダンに前後を挟まれたリムジンが路肩にハザードを焚いて停止する。
「(ガチャッ)旦那様。お待たせいたしました」
「うむ。すまんな」
「ちゃっす。鮫島さん」
「これは定明様。お元気そうで何よりです」
リムジンの運転席から降りたのはアリサ専属執事にしてバニングス家の執事長である鮫島さんだ。
軽く挨拶を返した俺に丁寧に頭を下げて返答する鮫島さん。
相変わらず出来る大人の見本の様な人だ。
しかしまぁ、そんなに元気そうに見えるかね?これでも一暴れしてきたんだけどよぉ。
鮫島さんが来たという事は、アリサ達が帰る時間になったという事になる。
「ではアリサお嬢様、すずか様、リサリサ様。どうぞお乗り下さい」
「ありがとう、鮫島」
鮫島さんがリムジンのドアを開けてその傍で頭を下げつつ、アリサ達を呼ぶ。
いよいよ海鳴への帰還って訳だ。
個人的には一緒に乗せて帰ってもらいてぇんだけどなぁ……ほんと、やれやれだぜ。
そう考えて溜息を我慢していると、背後に『キッス』を呼び出したリサリサがスタンド越しに語りかけてくる。
『貴方には要らない心配かもしれないけど……気を付けてね』
『なぁに、心配すんな。無茶な事はしねーよ』
『あら。その無茶な事っていうのは、
『おいおい何だよそりゃ?勿論前者だっつうの』
かなり鋭い所を突いてきたリサリサに、俺は平然と嘘を返す。
勿論そんな事があるとは思えねえが相手がどんな手を使ってくるか分からねえ以上、無茶をしないっていう確約は出来ねえ。
もしかしたら、一般的な意味じゃなく、スタンド使いの俺からしてもヤベエ事をするかも知れない。
でもそんな事を伝えたら、コイツ等の事だ。
最悪、犯人逮捕に協力するとか言いそうだし、下手な事は言えねえよな。
表情が硬くならない様、且つ自然に言葉を返した俺。
アリサとすずかもそれをリサリサの隣で聞いて安心した表情を浮かべる。
……だが……リサリサは俺の顔を見て何やら悩ましげにフゥ、と息を吐いた。
『……そう……それなら良いの……怪我しない様にしてね』
少しだけ苦笑いしながらそう言うと、リサリサはキッスを仕舞ってリムジンに乗り込む。
あー……どうやらバレてたっぽい。やっぱリサリサには通じねーか。
呆気なく嘘を見破られちまったけど、リサリサはあえて何も言わずに車に乗ってくれた。
そりゃあつまり、俺の嘘が分かっていながら気付かない振りをしてくれてるって事だ。
これは海鳴に戻った時に礼の一つでも言わねえとな。
『分かってると思うけど、定明。掠り傷でもしたら承知しないんだから』
『はいはい、判ってますって。怪我して旅行に行けねぇなんてなったら、それこそ恐ろしいぜ』
主にアリサ達に怒られるのが、な。
しかも言ってる意味が通じたらしく、アリサはフフンと笑いながら俺と視線を合わせてくる。
『うんうん。ちゃんと分かってるじゃない。旅行キャンセルなんてするんじゃないわよ……それと、まぁ……ちゃんと怪我しないで帰ってきなさい』
『……おう……グラッツェ、アリサ』
「……ふんだ」
最後にかなり小さめの声で心配してくれたのでお礼を言うと、アリサはスタンドではなく肉声でボソッと呟きながらリムジンに乗り込んだ。
まぁ、背ける前に耳まで真っ赤に染まった顔色が見えたから、照れ隠しだろう。
それを追求するとまた要らん火種を生みそうだという予感がしたのでスルーしたが。
リサリサとアリサが言いたい事を言ってリムジンに乗り込み、最後にすずかが残る。
すずかだけは他の二人と違って不安そうな目で俺の事を見ていた。
『定明君。無事に帰ってきて。絶対だよ?』
『大丈夫だって言ってんだろ?信用ねえなぁ』
『……信用無いからじゃ無いよ……心配だから、だもん』
すずかの念を押す言葉にぞんざいに返すが、すずかは依然として心配そうな目で俺を見つめてくる。
……こーいう時に適当に返すのも、心配してくれてるすずかに悪いか。
その真摯な気持ちを理解して、俺は髪を掻きながら真剣な目ですずかと目を合わせる。
『絶対に無事に戻る。それは約束すんぜ……だからすずか。お前は何にも心配すんな』
『……うん……分かった。定明君を信じるよ』
『GOOD』
真剣に約束したのが功を奏し、すずかも最後は微笑みながら約束してくれた。
それに対し俺も微笑みながら答え、すずかがリムジンに乗り込んでいくのを見届ける。
さあ~て……残り四日間、最後の正念場ってね……やったろうじゃねえか。
俺が帰るまでに、伯父さんと蘭さんの回りを少しでもクリーンにしておかねえと、な。
3人が乗って鮫島さんがリムジンのドアを開けて待っている中、デビットさんは伯父さんに頭を下げた後、俺に向き直った。
「では定明君。六日後を楽しみにしているよ」
「あんま大事にしないでもらいたいッスけどね」
「はははっ」
そこは笑うんじゃなくて返事して欲しいんですけど?
……多分、変える気は無えんだろうな。
そのまま車に乗り込むデビットさんを見届け、最後にお辞儀した鮫島さんに倣って、俺もお辞儀を返す。
「では定明様、そして皆様。これにて失礼させていただきます」
鮫島さんの言葉に皆も慌てて頭を下げ、ついに鮫島さんも運転席に乗り込む。
その時、チラッと俺に視線を向けて目礼をしてくれた鮫島さんに、俺は笑顔を浮かべて見送った。
やがてアリサ達を乗せたリムジンは見えなくなり、俺達も帰路へ着く。
車のある駐車場まで皆で歩く中、俺は鉄球を手の上で回転させながら思考も回転させていた。
まずどうやって昼間の犯人達を見つけるかっていう事だ。
単純な話、犯人達の正体を知るだけなら『ムーディ・ブルース』のリプレイ能力を使えば良い。
しかし今はまだ現場に鑑識や刑事達が出入りしている訳で、人目を忍んで行動するしか無え。
となると、だ……必然的に行動時間は夜に限られちまう。
しかも蘭さん達にもバレない様にしねーと駄目という前提条件付き。
オマケとばかりにコナンの目も逸らさないとなぁ……中々に面倒くせー感じだな、まったくよぉ。
思考をうち切って隣に視線を向けると、世良さんは難しい顔で考え事をしているっぽい。
更にその隣のコナンも同じ様な顔で何かを考えてる顔だ。
「にしても、あのハンターって人。何で”6年経った今になって”復讐を始めたのかな。復讐したいなら、狙撃という長距離からのアドバンテージを持っているんだし、直ぐに実行出来そうなモンだけど……」
「そういえば、そうだね……」
「なんでだろう?」
と、世良さんが難しい顔で漏らした疑問に、蘭さんと園子さんも首を傾げる。
……言われてみれば、確かにそうだな。
何で6年という短くも無い時間を、ハンターは何もせずに潜伏していた?
復讐だというなら、ササッと撃ち殺してしまうのが普通だ。
何より自分の家族の仇がのうのうと生きているのを見過ごすなんておかしい。
「へっ。んーなモン、直ぐに殺しちまえばアシが付いちまうとか考えたんじゃねぇのか?自分がトラブッた相手が殺されたとなりゃ、容疑者に上がるのは明白だからな」
「まぁ、確かにそう考えられるけど……本当にそうなんだろうか?」
世良さんの疑問に小馬鹿にした様な言い草で答える伯父さんだが、確かにそう考えると少しは納得できる。
時間を空けて、あたかも『自分は恨みを忘れました』と見做されれば、少しは捜査の手も緩むと考えるのが自然。
でも、シアトルで一人撃ち殺しただけで、ハンターはホシだとほぼ断定されちまってる。
こう考えるとハンターの6年という潜伏期間は只の無駄な時間だったとも考えられるが……な~んか腑に落ちねぇな。
……まぁ、別にどうでも良いか。
例えその6年という時間に何があったかなんて知らねーしどうでも良い。
ささっと犯人の二人をブチのめして警察に突き出せば、それで終わりなんだからな。
それに”ハンターが狙撃犯と決まった訳じゃない”だろうに。
あの場には二人居たんだから、ハンターが撃ったかどうかも微妙なトコだ。
その辺りの事もハッキリさせておかねぇと、面倒な事になりそうだぜ。
と、そんな事を考えてる間に世良さんと別れ、園子さんも迎えが来るという事でその場で解散。
毛利家の俺達は伯父さんの借りたレンタカーに乗って、探偵事務所へと向かうのだった。
「そういえば、コナン君と定明君はハカセの家に遊びに行くんだっけ?」
「あ、うん。帰りはハカセが送ってくれるから」
蘭さんの台詞に、コナンが答えたので俺もそういえばと思い出した。
確か今日はハカセの家でご飯を御馳走になった後、花火をする予定だったっけ。
「なんだ?じゃあハカセの家に行かなきゃいけねえのかよ?っつうか事件があったのに花火なんてすんのか?」
「さっきするってメール来てたから。それと僕、ウチに忘れ物しちゃったから取りに帰りたいんだけど……定明にーちゃんはどうするの?」
「俺は戻る用もねえし、このまま行かせてもらうわ。伯父さん。この近くで降ろしてもらって良いッスか?ちと買いたいモンがあるんで」
俺の質問に伯父さんは「わあったよ」と答えながら、路肩に車を停車してくれた。
さすがに手ぶらでいくのも何だし、ちょっと買い物しとくとするか。
俺は伯父さんに礼を言って車から降り、ドアを閉める前にコナンに向き直る。
「それじゃ、俺は先に行ってるから、コナンも気をつけて来いよ」
「うん。じゃあ後でねー」
「気を付けてね、定明君」
「何かあったら連絡しろよ」
「ういっす。そんじゃ」
蘭さん達の言葉に返事を返して、俺は車のドアを閉める。
そのまま再び車が走り去ったのを確認して俺はお土産を買ってからハカセの家へと歩いて向かう。
スケボーは担いでるけど、そんなに急がなくちゃいけない理由も無いからのんびり歩いてる。
それともう一つは……。
「って訳で、最近はスリルに悩む事の無いスペクタクル溢れる日常を歩んでるぜ」
『……そうか……まさか名探偵コナンの世界観まで混じってるなんてな……お前からのメールにベルツリーって書かれてた時点で嫌な予感はしていたが』
俺と同じ転生者である相馬への報告をしてるからだ。
こういう情報はちゃんと共有しとかないと、後々面倒になりそうだし。
電話越しに俺の報告を聞いた相馬は難しい声で唸っている。
『参ったな……名探偵コナンは殆ど見ていなかったから、力になれそうにない。すまん』
「別に良いって。俺も同じよーなモンだし……どっち道、伯父が毛利小五郎ってだけで逃げ道0だろ?まぁ海鳴に帰ればそうでもねぇんだろうけど」
『う~む。確かに……まるで”マス目が全部スタートに戻る”しかない人生ゲーム、だな』
「何しても運命は決まってるってか?そんな面白味の無えゲームなんざ、クレーム付けて返品してぇぜ」
『間違いなく、突き返されるだろうがな』
俺の嘆きに対して、相馬は電話口に苦笑いする様な声で笑う。
人事だと思って笑ってんじゃねぇよ、薄情者め。
『それに……口ではそう言っても、お前は返品したりしないだろう?そんな面倒な人生ゲームでも』
不意に、半ば確信を持った言葉を発する相馬の声に、俺はピタリと足を止める。
『どれだけ面倒でも、大変でも……今まで築き上げた”財産”を手放す様な馬鹿な真似はしない……違うか?』
「……あぁ」
相馬の質問に短く答え、また歩みを再開。
確かに相馬の言う通りだ。
どれだけ面倒毎が散りばめられた人生ゲームでも……今更返品は出来ねえ。
っつうか意地でも返す気は無えよ。
「万年新婚ばりのバカップルで子煩悩な両親。気の良い金持ちな大人達。それにドが付く程に騒がしいダチ連中……ホント、捨てるなんて出来ねえな」
『ははっ。違いない』
俺が今までこの世界で築き上げてきた”財産”を一つ一つ確認しながら、俺はニヤリと笑みを浮かべる。
電話口越しだけど、相馬も多分同じ様な笑みを浮かべているだろう。
何より、俺の”今”はゲームなんかじゃねえ。
俺が最初に貰った力で……捨てられ無えモンを、ちゃんと守っておかねえとな。
何せ、こちとら生きてからまだ9年しか経ってねえんだ……まだまだ遊び足りねえよ。
『何か手伝える事があったら遠慮無く言ってくれ。力を貸すよ』
「あぁ。すまねえ」
『良いさ。お前にはジュエルシードの時に迷惑をかけたし、フェイトを助けてもらった。寧ろ借りがあるのは俺の方だ』
「そうか。なら、遠慮なく返してもらうとすっか。今までの延滞分も含めてな」
言質は取ったぞ、と笑いながら言うと、相馬は「加減してくれよ」と返してくる。
まぁ、どうなるかはその時次第って事で。
その後、ニ、三言話して通話を切り、俺はハカセの家にお邪魔した。
程なくしてコナンも到着し、皆で灰原とハカセの作ったカレーを夕飯に頂いたが、中々に美味かったぜ。
土産に買ってきたメロンは皆に大喜びされたが、ハカセは灰原に食事制限されてルーと涙を流すのであった。
そして食事から少しして、全員で家の屋上に上がって花火をする事になったんだが……。
「「「……」」」
「どぉしたオメーら?折角の花火なのに元気無えじゃねーか?」
「当たり前でしょ。人が目の前で撃たれたのよ?」
「まっ、それもそーか」
何時もより元気の無い円谷達に向けてのコナンの台詞。
それに呆れた様に返す灰原だが、そこは全くもって灰原に同感である。
今現在、買ってきてあった花火セットの締めに皆で線香花火をやってる訳だが、その空気は何時もより暗め。
まぁこの面子の中で何時も騒がしい3人が静かな時点で暗くなって当たり前だ。
コナンは高校生な訳で、灰原も根が静か、というか必要なきゃ何時迄も黙ってる。
なのでまぁ、静かなのは当然なんだが……。
「それだけじゃねーよ」
「ん?」
「え?他に何があんだよ?」
いきなり少し怒った様な声で喋る小嶋にコナンが聞き返すと、円谷と吉田も不満そうな顔を持ち上げる。
「折角撮った写真、取られちゃったんだよ」
「デジカメもぜーんぶです。幾ら事件だからって酷過ぎますよ」
と、3人揃ってやいのやいのと文句を零す。
あぁなるほど、こいつら自分達のデジカメとか、自由研究の為の情報を警察に取られたのが尺な訳だ。
そりゃあんだけヤル気になってたってのに水刺されちゃ拗ねたくもなるか。
「預かっただけよ。直ぐに返してくれるわ」
「え?そうなの、定明さん?」
「ん?何で俺に、って、消えた……」
どうして俺名指しで聞くかね、吉田は。
いきなり名指しで聞かれ面食らったものの、俺は消えた線香花火をバケツに放り込んでから答える。
「捜査の手がかりになるかもしれねーからだろーよ。分析なり解析なりしたら返してくれるって。お上が盗みやらかしちゃ笑い話にもなんねぇさ」
「そうそう。長くても1週間くらいだ。ちょっとだけ待とうぜ」
俺に続いてコナンもそう答えると、3人は納得した表情を浮かべて各々の線香花火へと目を向けた。
しかしもう寿命が来てた様で、皆して大した時間差も無く線香花火は全て順繰りに消えていく。
最後まで残っていた灰原の花火も消えたのを確認して、俺は立ち上がって背伸びをする。
そこにさっきから白衣でお腹回りを隠してるハカセがにこやかに俺達に声をかけた。
「どうじゃ?少しは気分転換になったかの?」
「こんなんじゃ無理だよ」
「うん。歩美も……」
「もっと買ってくれば良かったですね」
ハカセの問い掛けに、吉田達は揃って不満そうな声を漏らす。
まぁ人が目の前で撃たれた気分転換には、ちと物足りねえかもな。
アリサ達の沈んだ気持ちは『ザ・キュアー』に吸い取らせたから問題無いけど、こいつらも何とか気分転換させてやりてぇな。
「ふっふっふ。そう言うじゃろうと思って、準備しておるぞいッ!!」
と、三人の言葉を聞いたハカセが笑いながら、今まで白衣で隠していたお腹回りを広げる。
するとハカセのお腹に、何処かで見た事のあるベルトが無理矢理括りつけられているのを発見。
「……ボール射出ベルト?」
「の、ニューバージョンじゃ」
「っつうかハカセさんどんだけ無理してそれ巻いてンすか?上と下からベルトがお肉に呑まれちゃって、とんでもねー食い込みになっちゃってるじゃないッスか」
「ちょっと城戸君。そーいうのは分かってても口に出さないのがマナーよ」
いや、無理だろアレは。肉の食い込み具合が逸脱過ぎる。
っというか何で腰じゃなくて腹のド真ん中に括りつけてんだ?
そう思っていると、ハカセはコナンに何事かを呟き、二人は俺達から少し離れた場所に移動。
そこで向かい合った体勢から、ハカセはベルトを外してコナンへと向け、コナンはキック力増強シューズを軽く叩く。
ハカセが誘拐された事件の後であのシューズの事も教えてもらっているから、どんなものかは分かる。
分かるんだが……一体何をおっぱじめるつもりだ?
二人の行動に疑問が沸くも、とりあえず成り行きを見てみる。
「なるべく高く蹴るんじゃぞ?」
「あぁ。わーったから早くしてくれ」
「よしっ……タイマーをセットして……いくぞッ!!」
ハカセの掛け声と共に、ベルトからサッカーボールが射出され、コナンへと向かう。
しかしなんとも、何時見ても凄いテクノロジーだな。
ベルトからサッカーボールを撃ち出す技術力に感心している中、コナンは発射されたサッカーボールをしっかり見つめ――。
「……はぁッ!!(ドシュウゥッ!!)」
キック力増強シューズの恩恵を受けた脚力で、サッカーボールを天高く打ち上げる。
その脚力も凄まじいながら、天性のサッカーセンスも凄えもんだぜ。
「わあぁッ!!たかーいッ!!」
「「おぉーッ!!」」
「いいぞーッ!!これなら充分じゃッ!!」
「おーおー、スゲエな……でもこれって……なんなんだ?」
「さぁ?さっき、子供達の不満を聞いて準備しておいたって言ってたけど……」
盛り上がる皆を尻目に隣に並ぶ灰原に質問してみるが、彼女も肩を竦めるだけ。
コナンも分からないらしく、蹴り上げたボールを目で追っていた。
やがて蹴りあげられたボールは俺達の見守る中、黄色い閃光を迸らせながらピュイィっという笛の様な音を奏で――。
ドォオオオオッンッ!!
腹の底を直接ぶん殴った様に響く重低音を鳴らしながら、夜空に刹那の華を咲かせる。
そう、コナンが蹴り飛ばしたサッカーボールが弾け、四尺玉級のドでかい花火が現れたのだ。
オレンジの大輪の中に赤青緑の小さな花火が連続で明滅するその色とりどりの表現。
最後まで残っていた大輪は円形から形を崩し、火花が流れ星のように地表に向かって消えて行く。
「うおーッ!?すっげーッ!!」
「わぁ……綺麗ーッ!!」
「ふふん。名付けて、花火ボールじゃ」
その光景に唖然とする俺の横で、上手くいったとしたり顔をするハカセ。
さっきまでとは打って変わってやいのやいのと楽しそうに騒ぐ少年探偵団純粋年齢組の姿を見て、御満悦そうだ。
確かにこれは凄いと思う。
花火って確かかなり精密に作らないと綺麗に弾けないって聞いた事があるからな。
あれだけちゃんと華を咲かせるって辺り、ハカセの技術力は並み以上って事になる。
っつうかコナンが失敗したら俺等バーベキューだった訳ね。
……しかしまぁ、アレだ。お祭り気分もやり過ぎるとアウトな訳で……。
「でもこれ、近所から苦情が来るわよ」
最初は花火に見とれてた灰原が眼下に視線を向ければ、そこらの住宅の電気が一斉に点灯していく。
その模様。まるで宝石箱をひっくりかえしたように次々と明かりが点いていく様だ。
尤も、キラキラしても嬉しくねえ光の輝きだがな。
「うえぇッ!?それはイカン。あ、哀君どうしようッ!?」
「……はぁ」
「ったく」
「やれやれ」
この土壇場になってうろたえるハカセに溜息を吐く灰原と呆れるコナン。
俺はそんなコント染みたやりとりをする3人を見て、肩を竦めるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――翌日。
昨夜の花火騒動の後、近所の方々に謝罪してから、ハカセに送り届けてもらって探偵事務所で就寝した俺とコナン。
蘭さんが用意してくれた朝食を食べつつ、俺は昨日の事件についてのニュースに目を向けている。
まぁ、昨日俺達が説明を受けた事より少し少ないくらいの情報しか放送されてない訳だが。
「サイコロの話は規制かかってるね」
「ずずっ……まっ、そりゃそうだろーよ。只でさえ狙撃、なんつー血生臭ぇ事件なんだ。そこに不安を煽る様な情報は流せねえからな」
コナンが焼き魚に醤油を垂らしながら呟いた言葉に、伯父さんが味噌汁を飲むのを止め、大根おろしを魚に乗せながら答える。
二人の言う通り、昨日の会議で聞いたサイコロの件は一切報道されていない。
まぁそんな謎をメディアに流してアレコレ勝手な憶測を立てられちゃあ本末転倒だろーしな。
情報ってのは共有すんのも大事だが、錯綜しちまうと手がつけられない上に真実か見分けが付き難くなっちまう。
何時の世も、人の口に戸は立てらんねえからなぁ。
だが重要参考人としてティモシーハンターの顔写真が放映されてっから、目撃情報とかは集まるだろう。
それに、俺も今日から早速探索するつもりだしな。
俺はテレビから視線を外して焼き魚の身……鰈の切り身に箸を入れて身を少し摘み出す。
そのままサッと口に入れて……も美味いが、まずは身を醤油にちょっとだけ付けてから、今朝おろしたばかりの大根おろしを乗せてパクリと一口。
口内にじんわりと広がる醤油の塩気と大根おろしのさっぱりとした味わいを堪能しつつ、焚き立ての白米を更に頬張る。
ちょっと強かった醤油の味がマイルドになり、米と魚とシャキシャキの大根による三重奏が口の中で奏でられていく。
絶妙の焼き加減で生まれた油の乗り具合、そして油を程好く抑える大根のフレッシュな喉越しがこれまた堪らん。
それにワカメと豆腐の味噌汁の絶妙な塩加減、そして冷たい緑茶の透き通る様な優しい味と、油や塩っ気を洗い流す爽快感。
これは、日本人でしか味わえ無い食事の有り難味というヤツだ。
今日という1日の活力、己のエネルギーとなってくれた命に感謝しつつ、手を合わせて御馳走様と言う。
「はい、お粗末様♪定明君は偉いねぇ。凄く綺麗にご飯食べてるし♪」
「そりゃ作ってる人の腕が良いからッスよ。蘭さんは高校生なのにすげー料理上手っすね。正直、母ちゃんにも負けない味だと思いますよ」
「やだもー♪雪絵さんは元シェフじゃない。そんな凄い人に負けないなんて褒めすぎだよ♪」
挨拶を終えた俺に対してニコニコと微笑みながら手を振って恥ずかしそうにそんな事を言う蘭さん。
その笑みはまるでキラキラとエフェクトが飛び散る慈愛に満ちた表情……だが。
その額にバッテンマークがある所を見ると、見た目通りに受け取っちゃあマズそうだ。
しかしその微笑みは俺に向けられた物ではなくて……あー、そろそろ声をかけてやんねーと可哀想か。
未だにテレビのニュースに釘付けになってるコナンと伯父さん。
俺はその二人に向き直りつつ、握り拳を口の前に出して咳払いをする。
「あーオホン、オホン。ゴホン……伯父さん。それにコナンよぉ……お宅等、鰈に何か恨みでもあるんスか?喉に骨が刺さった事があってその恨みを晴らしてる、とか?」
「「(あ?/え?)……ゲゲッ!?」」
注意されてやっと気付いたのか、二人は「コイツ何言ってんの?」という表情から一転、目の前の皿を見て目を丸くした。
いやはや、テレビ見ながら物垂らす訳だから……コナンの皿はもう醤油着け、伯父さんの皿は大根おろししか見えない有様です。
まぁつまり蘭さんが額にバッテンマーク浮かべてたのはこれが原因で……。
「うふふ♪……残したら、お昼も夕食も抜きだからね♡」
早い話がお冠な訳っすよ、これが。
目の前の惨状と蘭さんの死刑宣告を受けて顔が真っ青になる両者だが、これも自業自得ってな。
戦乙女(誤字にあらず)の怒りに触れた哀れな子羊の助けを求める視線を無視し、流し台に食器を片付けて寝室へ戻り準備を整える。
カーキ色のチノパンにジャイロのベルト、上着は白の半袖シャツを着て、手にチェーンブレスを付ける。
携帯と財布もポケットに入れて……良し、準備完了ってな。
今日はこの後、コナンは少年探偵団の皆とハカセの家で例の自由研究をやるらしいし、俺も問題なく動けるぜ。
寝室を出て玄関に向かいつつ、リビングに向けて声を掛ける。
「蘭さーん、ちょっと出掛けてきまーす。お昼は適当に済ませますんでー」
「(ガチャッ)うん、気を付けてねー♪」
「ういーっす」
笑顔で手を振ってくれた蘭さんに返事を返しつつ、靴を履いて玄関に立てかけておいたスケボーを持って探偵事務所から出る。
さあて、とりあえず昨日頼んでおいた事の結果報告を聞くとしねーと。
俺は事務所の階段を下りながらスマホを開き、目当ての人物の番号をタップ。
スピーカーから鳴る呼び出し音を聞きながらスケボーに乗ってゆっくりと走り出した。
プルルル――ガチャッ。
『もしもし、定明?』
「あぁ。おはようさん、アリサ」
『good morning。ちゃんと朝には起きてる様で何よりだわ』
と、二、三度のコール音の後に電話に出たアリサに朝の挨拶をする。
昨日の内に今日の朝に電話すると言っておいたので、アリサも普通におはようと返してくれた。
「昨日は良く眠れただろ?」
『随分と確信した言い方じゃない。まぁアンタの言う通りぐっすり寝れたけど。まるで遊ぶだけ遊んで、疲れたら眠っちゃう赤ちゃんみたいによ?自分で言うのもあれだけど、あんな事があった後なのにリラックスし過ぎだわ』
「そーかい。そりゃ疲れもとれてバッチリ爽やか気分だろ」
『えぇ。確かにね……で、私達に何をしたの?アンタがあの兎みたいな可愛いスタンドで何かしたのは分かるんだけど……』
昨日の夜は良く眠れたらしく、アリサの声はハキハキとした活力に溢れている。
うん、ストレスも感じずに眠れたんならそれで良い。
小学生で殺人の現場目撃なんて、ストレスやばいだろうし。
アリサの元気な声を聞いて少し安心しつつ、アリサの機嫌が悪くなる前に質問に答えておく。
「あのスタンド、『ザ・キュアー』は痛みや悩みっていう概念を吸い取る能力があんだよ。だから昨日お前等と別れる前に、お前等が昨日感じたストレスや不安を取り除いておいたって訳だ」
『精神系のスタンド能力って事?相変わらずの反則っぷりね、アンタ』
「レギュレーションなんざ破る為にあると思うけどな……それより昨日頼んでおいた件、調べてもらえたのか?」
『勿論よ。鮫島がしっかりと調べてくれたわ。お望み通り、住所までバッチリね♪』
「……何時も思うんだが、鮫島さんこそ万能過ぎだろ」
まさか昨日調べてくれって頼んだ事がもう判明しているとは。
アリサの専属に送迎、屋敷での執事長としての仕事に護衛もしてるとか。
しかもあらゆる方面のレベルが並以上だし、あの人こそチートじゃね?
『私も鮫島にそう言ったら、『これもバニングス家の情報網があってこそです』って微笑みながら言われちゃったわ』
笑いながらそんな事を言うアリサだが、俺はある意味笑えない。
っつうかバニングス家の情報網の凄さは俺の関わった事件の回数とか調べられる時点でヤバイとしか言えねえよ。
『とりあえず、調べた事を伝えるけど良い?』
「おう。頼む」
と、話が少々脱線しかけたが、俺が昨日頼んでおいた件について話が戻ったので、俺は気を引き締める。
『定明が調べてくれって言ってた”森山 仁”っていう人。今回の事件に関係あるのよね?』
「あぁ。今朝のテレビニュースに映っていたティモシー・ハンターっているだろ?そのハンターの妹と婚約してたらしい」
アリサの質問に答えながら、俺はスケボーから降りて近くの公園のベンチに座る。
会話しながらの運転じゃ会話に集中出来ねえし、危ねぇからな。
……さっき名前が挙がった『森山 仁』という男。
今言った様に、あのハンターの妹と将来を誓い合っていた婚約者らしい……『元』ってのが付くが。
つまり、ハンターの妹が自殺した原因が、森山仁との婚約破棄である。
こりゃ間違い無く狙われてるだろう。
『この人が狙われてるかもしれないから、今の所在を知りたいって事?』
「そうだな。警察もこの人が今何処に住んでるかは把握してねーみてーだし、それも伝えておけば警備の足しにゃなんだろ」
『なるほどね』
アリサの質問に答えながら、俺は昨日集めた情報を整理する。
途中で会議から抜けた俺が何故この男の事を知ってるかというと、伯父さんの記憶を『
昨日、帰る前にトイレに行くって事で一度デビットさんと別れた俺はトイレで伯父さんと遭遇した。
そんでもって事件の事を詳しく知りたかったから
携帯で被害者になりえる三人の写真と、ハンターに恨まれる可能性を携帯で写メして保存して、伯父さんの記憶を書き換えてトイレから出て皆と合流した訳よ。
で、アリサにスマホでメールして、3人の中で唯一所在の知れない森山って男の事を調べて貰った。
という感じで、今の電話に繋がるわけである。
『一応聞くけど、アンタはこの人の事は何処まで知ってるの?』
「ん?えっと確か、個人輸入ビジネスを行っている商社マンで、元シアトル在住。ハンターの妹とはその頃に婚約したけど突然婚約を破棄。その足で日本に帰国したってとこまでは」
『えぇ。その線で鮫島が調べてくれたんだけどね。その婚約破棄の時期、ハンターって人が破産した時とピッタリ一致したわ』
「……なるほどな……莫大な負債を抱えた男の身内と結婚するのは、気が引けたって事か」
『そう。薄情といえば薄情だけど、簡単には責められないのも事実ね。ムカツク事に』
ハンターの妹が捨てられた理由に、アリサは苛つきも隠さない声で喋る。
まぁ、同じ女性としちゃあ森山って男のした事に腹が立つんだろう。
その婚約破棄が原因で自殺……悲しかったんだろうな、妹さん……本気で愛していただろうに……報われねぇよ。
『話を戻すけど、どうやらその森山って名字。シアトルに居た時は違ったみたいなの』
「何だと?」
と、怒りの落ち着いたアリサが話してくれた情報だが、俺にも寝耳に水な話だった。
名字が違うってどういう事だ?
『この人の旧姓は”安原 仁”。森山っていう名字は料理研究家である今の奥さんの、森山奈美さんの名字ですって』
「……そうか。女性婚で姓が変わったって事か」
『そういう事。安原の名字で調べたら、ちょっと前に女性向けの雑誌でその結婚の事が取り上げられていたのが見つかったわ。御丁寧に今の住所もハッキリとね』
「場所は?」
俺は公園から出てスケボーに足を掛け、アリサから森山仁の住所を聞き出す。
えっと、墨田区本庄の……うん、ここからならそう遠くは無えな。
このスケボーのお蔭で、徒歩じゃキツい距離でも楽に行ける。
『ふふん♪どう?少しは役に立てたかしら?』
「あぁ。助かったぜアリサ」
自信満々に質問するアリサに、俺は正直に礼を述べて感謝を表す。
実際後2人の居所は判明してるから良いとして、この森山って男はどう捜そうか悩んでた所だったからな。
まぁ実際調べたのは鮫島さんだが、そこは言わぬが華である。
『な、なら良いわ。精々感謝しなさいよ』
「はいはい。充分に感謝させてもらうさ……所でベルツリーの事なんだが、もう修理は入ってるのか?」
『え?どうして?』
「あの狙撃現場のビルに行ってもう一人の犯人の正体を暴こうと思ってんだけど、さすがに昨日今日でまだ現場だった場所に子供が足踏み入れるにゃ不自然だろ?だからあのビルの見えるベルツリーには誰も居ないのが一番良いんだけどなぁ」
別に姿を隠そうと思えばやれない事も無いが、なるべく人に見られるリスクは減らしたい。
だから、あのビルが上から見えるベルツリーの展望台がまだ無人なら、それが一番ありがたいって訳だ。
距離が離れてても、万が一双眼鏡なんか使われたら洒落になんねぇ。
上から見られてるかも、なんて余計な不安を抱えながら捜査するなんて、胃が痛くなりそうだし。
しかしそんな期待を込めた俺の願いは、アリサの言い難そうな声で霧散してしまう。
『その……もう工事は入っちゃってるわ。そ、それにベルツリーはウチより鈴木財閥の方が管理しているから業者の手配も向こうがしてるし、正当な理由が無いと止められないの』
「……OH MY GOD……しゃあねぇ、なるべく見られない様に捜査してみる。じゃあ、今から森山って奴の所に行くから切るぜ」
『え、えぇ……そ、それとッ!!』
工事に関して止められないなら、まぁプレッシャーを我慢しつつ捜査するとしよう。
思考を切り替えながら電話を切ろうとすると、アリサが声を大きくして何かを言おうとする。
「ん?なんだ?」
『あ、あれよ、その……キッチリ、犯人をブッ飛ばしなさいよッ!!私達の夏休みを台無しにしてくれたんだからねッ!!』
言い淀んでいたアリサに問い返すと、それはそれは清々しい声で物騒な事をリクエストしてくる。
だがしかし、言ってる事は良く分かるな。
人の大事な時間を台無しにしてくれた御礼は、指を飛ばしたぐらいじゃあ足りねえ。
アリサの気持ちに同意しつつ、俺はニヤリと笑いながらスケボーのアクセルを踏み込む。
「あぁ。ヤローの汚ねえ毛だらけのケツを、宇宙の果てまで蹴り飛ばしてやるよ」
『ぶほぉッ!?げ、げほげほ……ッ!!お、女の子との会話でそ、そんな汚い言葉を使うんじゃあないわよッ!!』
「はいはい。じゃあな」
ギャーギャー喚くアリサに適当な返事を返して電話を切り、俺はスケボーを発進させて森山の家に向かう。
ナビアプリで検索した住所は、礼のベルツリーの近くだし丁度良い場所だな。
……正直、ハンターに同情する気持ちはある。
でもまぁ、殺されると分かってる相手を救わないのも夢見が悪い。
間はとりあえず、殺されそうな奴を何とかするとすっか。
胸に燻る気持ちに整理を付けて、俺は森山仁の家を目指して走る事に集中する。
そして15分程走った所で、アリサから教えてもらった住所の場所に到着。
そこに聳え立つ豪邸を歩道から眺めながら、表札の名字を拝見。
表札には御丁寧に『森山 仁』『森山 奈美』とフルネームで書かれていた。
「ここか……さて、場所は分かったとして……どうしようかね?」
目的の人物の住まう家の場所は突き止めたが、問題はどうやって森山仁という人物の殺害を防ぐか、だ。
俺が達成したい目的は、ハンターの殺人を少しでも止める事。
そして蘭さんや伯父さんにこの事件の火の粉が及ぶ前にハンターと仲間の犯罪を止めるという二点だ。
なら、まずは殺害対象である人物を守る必要がある。
俺が知っている中で、ハンターに恨まれて且つ殺される対象とされているのは、森山仁を除けば後2人。
一人目はジャック・ウォルツ。
大柄で厳しい顔付きの男で、元陸軍特殊部隊大尉。45歳。
現在は軍を退役し、サンディエゴで軍装備品の製造会社を経営している。
過去にハンターの交戦規定違反を告発していることから、一番濃厚なハンターの標的候補らしい。
このジャック・ウォルツの告発こそが、ハンターの転落人生の引き金と言っても過言じゃねえ。
そりゃハンターに狙われる理由はアリアリって事だわな。
二人目はビル・マーフィー。
写真で見た人相は眼鏡をかけた真面目そうな黒人男性で、元陸軍三等軍曹。
現在はジャック・ウォルツの会社でウォルツの秘書の様な仕事をしているそうだ。
性格は誠実で真面目らしいが、俺はあまりそういったプロファイルは信用して無い。
人間てのは面の内側にとんでも無えモンを隠してる事が多いからな。
オリ主君なんかがその良い例だ。
こいつも面の内側にとんでもねえモンを隠してたとして、不思議じゃあないね。
少なくとも自分の目で確かめ無いと、何とも言えない。
このビルという男は、例の疑惑の英雄という名でハンターが呼ばれる原因となったハンターの交戦規定違反の証言をしていた。
まず間違い無く、ハンターは殺しにくるだろう。
この二人は現在、日本に来ているらしい。
ジャック・ウォルツは妻のヘレン・娘のセーラと京都府内のホテルに滞在中。
一方ビル・マーフィーは栃木県日光市のホテルに滞在中との事だ。
既にどちらのホテルにも、そしてそのホテル周辺にも京都府警と栃木県警が厳重警戒態勢を敷いている。
この二つは今の所安全だろうよ。
んで、火元の傍にガソリン満載のタンカーを置いてる様な危険度の高い被害者候補が、俺の目の前に聳え立ってる豪邸の主な訳だ。
「もし、仮定だが俺の話を聞いて、尚且つ信じてくれたとして……まぁ、何にも無いだろうと高を括るのがオチだろーな」
豪邸の見える近くにあったベンチに座って怪しまれない様に豪邸を盗み見ながら、俺は頭を捻る。
どうにかして森山夫妻を安全な所に行かせる為にはどうすれば良い?
警察……に知らせたとして、この豪邸や周りを厳重警戒するだけだろう。
それじゃあ長期戦になるだけで、少なくとも俺の方が先にタイムリミットを迎えて終わり。
つまり今この場で、森山夫妻の安全を確保しねーと、どっち道駄目な訳で……ふむ。
「よし、じゃああの手で行くか」
俺は取るべきプランを思い付き、目の前の豪邸に向かって歩く。
すると、丁度グッドタイミングで中から二人の男女が出て来たではないか。
女性の方は知らないが、男性の方は伯父さんの記憶を読んだ時に写真に乗っていた森山仁その人だ。
恐らく女性の方は奥さんだろう。
更に俺にとっては都合が良い事に、辺り一帯の周辺には人影は無し。
こりゃ最先が良いぜ……犯人との殺すか守るかという戦いの中で、俺は奴よりツイてる。
「この勝負……ついてるネ、のってるネ」
ワムウとの戦いにおいて自分の運の良さを喜ぶジョセフの心境を味わいながら、俺は自然な動作で森山夫妻に近づき――。
ズバッズバッズバッ!!ブワッ!!
「『
空中に指で
これこそ俺の考え付いたパーフェクトな作戦。
それは、かの岸辺露伴が幽霊の杉本玲美にした事と同じ。
「うむを言わせず先手必勝さッ!!そして……『スタープラチナ・ザ・ワールド』ッ!!」
『オオオオオオォォッ!!』
ドオォ~~~ンッ!!
「時は止まる……よいせっと」
玄関前で二人が地面に倒れる寸前に時を止めてスタープラチナで二人を担ぎ、鍵を閉めていない豪邸へと侵入。
要するに、俺のスタンド能力でこの二人にはほとぼりが冷めるまで遠くに避難してもらえば良いんじゃん。
こんな簡単な事にも気付かないとは……俺もヤキが回ったか?
既に時間停止も解除され、目の前で気絶してる夫妻を見ながら、俺は自分の下手な立ち回りを嘆く。
「っと、反省すんのは今度にして、準備準備っと」
何時来るかも分からないハンターとその仲間の襲撃を考えれば、行動は早い方が良い。
俺は玄関の鍵を閉めてから気絶している二人の開いたページの余白部分に、自前のペンで命令を書き込む。
ちなみに
「えっと。まずは……次に起きたら俺の記憶を忘れる。んで……」
俺自身の記憶を消去しつつ、まずは奥さんの方に命令を書き込む。
一つ目は、二人で今から遠くの旅館に泊まる事。
場所は……北海道辺りで良いだろ。
ハンターは大々的にテレビに顔が映ってるから、飛行機や電車、バスの類は使えない。
仲間の方にしてもここからなら北海道より栃木や京都の方が近いからそっちを狙うだろう。
しかし栃木京都は県警が見張ってるからおいそれと手出し出来る筈も無し。
「こんなモンか。ついでに旦那の方には『向こうに着いたら警視庁に連絡して、北海道警察に身柄を警護してもらう様に申請する』……うん、これなら良いだろう」
奥さんの次に被害者候補の森山仁にも北海道旅行に疑問を持たない様に書き込み、周辺の安全を取る為の命令も書き込む。
これで二人は大手を振って仕事を休めるし、後の生活にも余り響かない筈だ。
「この後すぐに用意をして出る、と……こんなモンか……さて」
これで準備万端整った、という所で、俺は森山仁の記憶を読ませてもらった。
内容は勿論、ハンターも妹の事についてどう思っているのか。
こーいうのはあまり好きな事じゃ無えんだが……今回ばかりは勝手に読ませてもらうぜ。
胸に感じていたちっぽけな後味の悪さを飲み込み、俺は彼の記憶を読み漁る。
すると、書かれていたのは――。
「……”ごめんよ”か……何ともまぁ……」
そこには、ハンターの妹との婚約を破棄した事への罪悪感。
両親に反対された事に反発出来ず、愛していたはずの彼女を捨てた事への苦悩。
そういった、過去への後悔が沢山綴られていた。
彼女が自殺したと聞いた日には、一生分は泣いた。
葬式に出向く意地すら沸かない自分の情けなさに、拳が複雑骨折しようとお構い無しに壁を殴った。
それを機に両親の言いなりになる事を止め、今の奥さんと出会い、次こそは間違えるものかと心を決めた。
彼女の事を今でも愛している――そして、今の奥さんも愛しているからこそ、自分の気持ちにケリを付けたい。
自分には今、最愛の奥さんが居る。
例え、自分が幸せにしているのを見て、彼女の兄に恨まれようとも――。
「『私は奈美の為にも、死ぬ事は出来ない。彼女に謝るのは、私が奈美の事を幸せにする事が出来た後だ。その時は、喜んで地獄に行こう』……」
俺の目の前で気絶している森山仁。
最初、俺はこの男も殺された藤波っておっさんと同じで、くたばって当然の野郎だと心の何処かで思ってた。
でもそうであっても尚、放って置くのは後味が悪いと考えてたんだがなぁ。
…………でもよぉ。
「……森山仁……アンタ……なんか……ちょっぴり、カッコイイんじゃあねーかよ……」
この人の事、いやこの夫婦の事……何が何でも助けてえって思っちまったぜ。
俺はもう少し人を見る目を養おうと決意し、二人のページを閉じて家から出た。
そのまま暫く様子を見て、二人が大きな旅行鞄を持ってタクシーに乗ったのを見届け、俺はその場を後にする。
兎に角、これであの二人は大丈夫な筈だし……次の仕事に取り掛からねえと、な。
「っと。その前に腹ごしらえといくか。えっと、此処らへんで美味そうな匂いは……クンクン」
腹が減っては戦はできぬ、なんて言う素晴らしい格言に従って、俺は『ハイウェイ・スター』の能力で美味そうな匂いを嗅ぎ分ける。
これが工場地帯とかだと、くっせえ工業用オイルの匂いだとかが臭って死にそうになるんだが、ここは住宅街だし大丈夫だろ。
「クンクン。クンクン……お?美味そうな肉の匂い……こっちか」
そして、嗅ぎつけた匂いに向かってスケボーで前進し、俺は見事に美味そうなドネル・ケバブの店に行き着くことが出来た。
何とも色々な種類があって悩んだが、オーソドックスにトマト、レタス、オニオンのトッピングを買ってみる。
それだけでも新鮮でその綺麗な色が食欲を大いにソソらせる。
しかも、この店にはもう一つ凄い大当たりとも言える特徴があったぜ。
俺はホクホク顔で外のオープンテラスに座りながら、頼んだドネル・ピタサンドに食らいつく。
「あんむ……ん~……美味え……まさかラム肉が食えるとは……時代は進んでるなぁ」
ラム肉の柔らかさとシャキシャキの野菜の絶妙に絡み合う歯ごたえ。
実はこの店、ビーフや七面鳥、マトンという生後1年以上の羊の肉、そして反対に生後1年以下のラム肉なんかの肉類まで選べる様になっているのだ。
好きな肉と野菜にソースを掛けてをピタパンに挟んでくれるサービス。
間違いなくこの店は一級品だろう。
そして下味として漬け込んでいたヨーグルトやスパイスの一見合わなそうな味わいの見事な調和。
いや、マジで美味いわ……この店は当たりだな、記念に写真撮っとこ。
「ムグムグ……ゴクンッ……ふぅ……さあって……これからどうするか……」
食事も終え、写真も撮り終えた段階で、俺はこれからどう捜査しようかと考えを巡らせる。
普通なら狙撃現場に行って『ムーディ・ブルース』のリプレイで犯人を突き止める所なんだが、これがそうもいかなくなった。
っつうか冷静に考えりゃ、昨日起きた狙撃現場がもう開放されてる筈も無い訳だ。
これじゃあ調べようにも人目に付く時間帯は無理だ。
『アクトン・ベイビー』の能力で自分を透明にすりゃ問題ねぇかもしれねぇが、それだと周囲にぶつからないように気を配らなきゃならねえ。
バイクに乗ってからの所からリプレイを開始して巻き戻しサーチで……いや、バイクに乗り込む寸前にしても、あのビルの周辺は警察が張り込んでる……迂闊な事は出来ねえよなぁ。
自分に何とか出来る手段があっても、周囲がそれを許さないというジレンマ。
あぁ、本当に面倒くせーな、国家権力め。
こうなったら仕方ねえ、夜まで待って人気が引くのを確認してから、例のビルに向かおう。
焦らず、確実に一つ一つ解決していくとすっか。
俺は普段以上に働かせていた頭を休めて、何時ものダラけモードに入る。
あんまり考え事し過ぎて頭がパンクしちゃやってらんねぇし。
今後の予定を決めた俺はスケボーに乗り、探偵事務所へと戻って休む事にした。
今からゆっくり寝ておけば、夜行動する時も辛くはならないだろう。
「俺達の夏休みを台無しにしたお礼は、キッチリしてやる……待ってろよ」
己の胸に沸きあがる静かな怒りを感じつつ、俺は探偵事務所に戻った。
……ちなみに帰って蘭さんにケバブの店の事を話したらまた一緒に行く様にと言われてしまう。
やれやれ、何で蘭さんは俺なんかと行きたがるんだか。
それと晩飯の時に目暮警部から伯父さんに連絡があった。
その内容は例の森山仁とその妻が北海道から連絡してきて、身辺警護を付けたとの事。
これで俺は安心してあの二人の事からハンター達の事に集中出来る訳だ。
奴等が何を狙ってサイコロを置いたのかは知らねーが……今回は謎解きなんてカッタるい事は無し。
今夜こそ、シャイなジョン・ドゥの
今夜で全て片を付けると心に誓い、俺は蘭さんの用意してくれたミートスパゲティを食し、英気を養うのであった。
to be continued……
後書き
ん~、やっぱり定明が動き出すと展開が速くて仕方ないwww
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第43話~ひとりひとり面接して調べても(ry