【アニメをみて吹雪の話を書いてみるのは間違っているだろうか】
「いいこと?」
「暁の水平線に勝利を刻みなさいっ!」
司令艦の号令の
世界大戦が終わった数十年後の世界に、どうして彼女たちが出現したのか。また、同時期に海底から出現した『
ただ、迫りくる現実は海の平穏を阻害し、航海の安全を
いつまで続くのか、どうして艦娘だけが、深海棲艦を倒せるのか、多くのナゾを抱えたまま。
これは、駆逐艦の生まれ変わりの一人『
『吹雪型一番艦、着任ス』
どうしてこうなった。私は
目の前に
私は十二・七センチ
だが、敵はじっと待ってはくれない。すぐ照準の外へ動いてしまう。そして、少しずつ私との距離を縮めてくる。
膝が震えていた。いや、膝だけじゃなく身体全身が震えていた。
『撃沈される』
やられる前に先にやるしかない。私は主砲の引き金を引いた。二つの弾丸が勢いよく飛び出していく。
発射と同時に、私の身体は空を
『もうダメだ……』
攻撃は失敗だ。一体何がいけなかったのだろうか。ちょっと前を思い出してみよう。
「ここはどこ?」
この状況をあえて言うならば、私は迷子になったのだ。それも海のど真ん中で。
でも、大丈夫。こういうときは、慌てずに
羅針盤の針がグルグル回る。あとは止まった方角を目指して進むだけ。簡単な航海のはずだった。
「羅針盤さん、私はどっちへ進めばいいのかな?」
ひたすら回る羅針盤。止まる気配が一向にない。嫌な予感がする。
「おかしいな? 止まれぇ、ねぇ、止まれって!」
羅針盤を何度も叩いてみたが、それでも止まらない。ようやく私は確信した。
「こ、壊れてる!」
これが前途多難な出来事の始まりだった。
だが、まだ慌てるタイミングじゃない。
私は空を見上げた。しかし、そこに太陽は無かった。代わりに灰色の
「どうして!? さっきまで晴れてたよ!?」
これじゃ東も西も分からない。雲が晴れるのを待つべきか。いや、そうしてる間にも嵐に巻き込まれ、最悪の場合は転覆しかねない。
「あれは……駆逐イ級!?」
嫌な予感は当たるもので、深海棲艦と遭遇してしまった。しかも相手は三隻。こっちは一隻。最悪の状況だ。
「私がやっつけなきゃ……」
誰も護ってくれない。敵は全て自分自身で倒すしかない。豪雨でびしょ濡れになりながら、主砲の十二・七センチ砲を構えた。
「当たってー!!」
砲撃時の反動でバランスを崩しながらも放った一撃だったが、砲弾は虚しく見当違いの海面に着水した。
敵から魚雷のようなものが見え、こちらへ向いていた。やられる!? 私は恐怖に震えながら身構えた。
「私、ここで沈むの!? いや……! いやだよぉ……」
ゴゴゴゴゴゴ――。
雲の上から
灰色の厚い雲を突き抜けて現れたのは、爆撃機だった。
「あれは、
およそ二十機の艦爆隊は、駆逐イ級の頭上に急接近し、次々と爆弾を投下していった。駆逐イ級はあっけなく三隻とも沈んでいった。
深海棲艦の消滅と共に、雷雲がウソのように晴れていく。この雲は深海棲艦が呼び込んだものだったのだろうか。
続いて小柄な艦娘が二体、こちらに向かってくる。艤装から推定すると駆逐艦のようだ。
「
「睦月ちゃん、もう終わったみたいよ」
「にゃっ!? にゃにぃー!? もう全滅ですかぁー?」
「
肩透かしだったとばかりに、駆逐艦タイプの艦娘二人は肩を落とした。
「およ? この子は誰ですかぁ?」
睦月と名乗っていた子が私に気が付いた。私ともう一人へ交互に視線を送った。
「さあ。
如月と名乗っていた子が首を
「この艤装、ひょっとして艦娘ですかー?」
「初めてみる型式ね……あなたも駆逐艦? それとも軽巡かしら?」
「あっ……私、特型駆逐艦の吹雪です」
「ふぁっ!? 特型ぁ!?」
「まあ。あなたが噂の……」
「噂って何!?」
「
睦月が後方に向かって大きく手を振った。振り返ると、水平線上に浮かぶ空母型の艦娘が近づいてくる。
「みなさん大丈夫でしたか?」
その空母型の艦娘は、優しく心配してくれた。
「あ、ありがとうございます。吹雪は大丈夫です!」
「睦月の活躍で
「何事も無かったかのように終わってましたわ」
睦月ちゃん何もしてないでしょ。そう心の中で突っ込みを入れる。
「そう、よかった」
飛行
一航戦の名声を知らない者はいない。たった二隻で数十の深海棲艦に完全勝利した凄腕の艦娘で、当然私も知っていた。
弓矢を構えた姿は
「見かけない子ね。所属は?」
赤城さんは私を見て首を傾げた。
「あっ、私まだ配属されてなくて、
「単艦で?」
「それが……迷子になっちゃって……」
「なるほど。この辺りは深海棲艦が多数
「それは助かります!」
「赤城さん。その子、誰?」
空母型艦娘がもう一人やってきた。飛行甲板には識別『カ』の字。赤城さんと同じ一航戦の『
「迷子ですって」
「そう。とりあえず作戦は終了。
加賀さんは私にはあまり興味を示さず、
途中バランスを崩して、転覆しそうな場面がいくつかあったけど、何とか敵に遭遇することもなく、無事に鎮守府へ到着できたのであった。
鎮守府に到着した私は、司令官のいる執務室へ行くよう指示された。
やや緊張した
「はいりたまえ」
女の人の声で返事があった。司令官って男だって聞いていたけど。とりあえず入ろう。
「失礼します!」
執務室は、こじんまりとして、さほど広くはない。大きく開いた窓からは港が見える。執務用の机が一セット。その後ろには怪獣映画『
机の前には戦艦型の艦娘が二人立っていた。司令官らしき人物の姿は見えない。
「長旅ご苦労だったな。秘書艦の戦艦
「長門型二番艦の
「ふ、吹雪です! よろしくお願いします!」
世界のビッグ7と呼ばれている長門型二人を前に、私は気を付けのまま敬礼した。
「提督も吹雪が来るのを楽しみにしておられたのだが、緊急の会議が入って、数日はご不在だ」
長門さんは私の疑問を、尋ねる前に答えてくれた。そういうことだったんだ。
「所属については、提督が戻られた
「今日のところは部屋でくつろいでるといいわ」
「は、はい。ところで部屋は……」
「なんだ? ああ、場所か。それなら如月が案内する手はずになっている」
ちょうどいいタイミングで、ドアをノックする音が聞こえ、如月ちゃんが入ってきた。
私はドアに足をぶつけるという典型的なドジをやって、執務室を出た。
「あの子が本当に運命の分かれ道?」
「提督は、そうおっしゃっていた」
「ふぅ〜ん。とてもそうは見えなかったけどね」
「いずれ分かるときが来るだろう」
「
「そうだな……」
如月ちゃんに鎮守府の中を案内してもらいながら、私たちは
「如月ちゃんって、睦月型の二番艦なんだ。ちょっと意外……」
「あら、どうして?」
「如月ちゃんの方が、お姉さんっぽいかなって」
「生まれたのは睦月ちゃんが先だけど、デビューは私の方が早かったの。それでかしら?」
「そうだったんだ。そういえばさっき、聞きそびれたんだけど、私の噂って?」
「あはっ、その話? 今度、十一隻の特型駆逐艦が新たに配備されるって聞いていたの」
「じゅ、十一!? 私だけじゃなかったんだ」
「しかも一番艦から配備されるって話で」
私の知らない情報が次々と出てくる。詳細はこちらに着任後、説明するって聞いてはいたけれど。
「どんな
そこで如月ちゃんは
「ど、どうかしたの?」
「特型駆逐艦っていうから、怖い人だったらどうしようって思ってたの。吹雪ちゃんみたいな
「私も鎮守府って、怖い人たちばかりだったら、どうしようって思ってた」
「まあ。それでどうだったのかしら?」
「如月ちゃんも睦月ちゃんも親しみやすいし、赤城さんや長門さん、陸奥さんも親切そうで安心しちゃった」
「それはよかったわ」
お互いにっこり笑った。うまくやっていけそうだ。
「私たちの部屋はここよ」
「私たち?」
「あら? 聞いてなかった?」
如月ちゃんを先頭に部屋に入ると、中で睦月ちゃんが
「私と睦月ちゃん。今日から吹雪ちゃんを加えた三人の部屋よ」
小さくまとまった部屋には板張りのエリアに大きめの机が一つ。
「ベッドは一番下を使ってね。あと、荷物届いてるわ」
机の上に、私の着替えや私物やらが詰まった箱が置いてあった。
「吹雪ちゃん、よろしくですよぉ」
睦月ちゃんが嬉しそうに私の手を握ってくれた。
「私も睦月ちゃんと一緒の部屋で嬉しい!」
「本当? 睦月、感激ぃ!」
睦月ちゃんもいい人そう。これから
「へぇ、これが特型駆逐艦の一番艦かぁ」
背後から、ぺたぺたと私の顔やら身体中を触りまくる感触が伝わってくる。
「きゃあっ!?」
「うーん、胸の辺りが惜しいかな。でも、こういう素朴な感じ、私は好きだな。かわいいし」
「
だ、誰!? いつの間にか艦娘らしき二人が背後に立っていた。
「ど、どちら様で?」
「
「あの……軽巡洋艦、
馴れ馴れしい
「お二人は川内型軽巡洋艦の
睦月ちゃんが補足してくれると、外から大きな声が聞こえてきた。
「川内型三番艦、那珂ちゃんでーす! 艦隊のアイドル、那珂ちゃんをよろしくぅ!」
窓から下を見下ろすと、川内さんと同じ服装の艦娘がビラ配りをしていた。
「あれが那珂ちゃん……?」
「妹がご迷惑おかけしてます……」
神通さんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「今度、ファーストライブやりまーす! みんなー、来ってっねっー♡」
川内型というのは、ユニークな人たちなのかもしれない。
「ところで、特型駆逐艦」
「吹雪、ですけど……」
川内さんが
「夜戦って好き?」
「えっ? どうだろう」
「じゃあさ、
「ここは話を合わせておいて」
如月ちゃんがそっと、私に耳打ちした。
「どういうこと?」
「その内、わかるわ」
よくわからないけど、ここは忠告通りにしておこう。
「嫌いじゃないですけど」
「やったぁ! 話がわかるじゃない。夜は良いよね~。うんうん」
川内さんは私の頭を思いっきり撫でながら大喜びしていた。
「いい感じに日も暮れてきたことだし、早速やろうか」
「やろうって、何をですか?」
「夜戦に決まってるじゃない」
「はあ?」
「嫌いじゃないんでしょ、夜」
「ちょっと、
「いくらなんでも真っ暗じゃ吹雪さんが
神通さんが気を
「吹雪ちゃん、準備はいいかしら?」
「心の準備がまだ」
夜間演習は、吹雪と如月による一対一の形式。最初は私と川内さんでやろうとしたんだけど、駆逐艦と軽巡洋艦じゃスペック差がありすぎるということで、まわりから止められた。
「待ってたら夜が明けちゃうよー? いいから始めちゃえ」
川内さんの強引な合図で、演習がスタートした。晴れてはいたが、強めの
「いやだぁ、髪が
如月ちゃんの長い髪が、風で絡み合っていた。
「今だ、やっちゃえ、特型駆逐艦!」
「如月ちゃん気をつけてぇー」
川内さんと睦月ちゃんは観客席から声を上げていた。席と言っても椅子があるわけではなく立ち見席だが。
「当たると痛いんだよね、これ……」
練習用の
「おーい、特型駆逐艦。黙ってるとやられるよ」
「如月が楽にしてあげる♪」
いつの間にか接近していた如月ちゃん。主砲の十二センチ単装砲が火を吹いた。
「あうっ!」
「命中! 吹雪小破」
ダメージ判定をする神通さんの声が聞こえる。実際に小破したわけでは無く、模擬弾の当たりどころ等によってダメージを決めているようだ。
「ちなみに、負けたら
「そんなの聞いてないですよっ!?」
「あれ? 言わなかったっけ?」
川内さんは
「いっけぇ!」
「おおっ? あれ? 何やってるのさ、特型駆逐艦」
如月ちゃんに向かって主砲を撃った瞬間、私はバランスを崩して転覆してしまった。砲撃はもちろん外れた。
「いただきですわ。さあ、いくわよっ♪」
如月ちゃんから六本の
「そんなっ! ダメです!」
回避できない私は、六十一センチ魚雷六本全てを喰らった。
「魚雷命中! 吹雪大破! よって、如月の完全勝利!」
神通さんの判定コールが響く。如月ちゃんは私を起こして、陸へ上げてくれた。
「大丈夫?」
「何とか……」
如月ちゃんが心配してくれた。模擬弾とはいえ、全部喰らうのは正直しんどいものがあった。
「吹雪ちゃん、ひょっとして……」
睦月ちゃんが何か気付いてる。
「実戦経験ゼロ?」
「……うん」
「ええええっ!?」
川内さんの驚いた声が耳に刺さってうるさかった。
ぎゅるるるるるる……。
これは怪獣の鳴き声でもなければ、タービンが始動した音でも無い。私のお腹から出てる悲鳴だ。
「お腹
私はベッドの中で、さっきのことを思い出していた。
「そういうわけだから、晩ごはん抜きね」
「本当に晩ごはん抜きなんですかっ!?」
「勝負は勝負。これが海軍伝統ってやつさ」
「ごめんね、吹雪ちゃん」
「睦月、吹雪ちゃんの分まで食べるからね」
「それ
みんなひどいよ。転属初日だっていうのに、この仕打ち。
はじめは、仲良くやっていけそうだって思ったけれど、そうは思えなくなってきた。
これってまさか、いじめ? 主人公だから
ダメだ、お腹が空き過ぎて思考がネガティブになってきてる。
「水ならいいよね……」
せめて水でお腹を膨らませよう。ベッドから起き上がって出ようとしたとき、後ろから背中を引っ張られた。
「如月ちゃん……?」
「タンスの一番右上に、酒まんじゅうが入ってるわ」
「えっ?」
「
「いいの?」
如月ちゃんは、静かに
「あ、ありがとう」
嬉しさで涙が出てきた。
「ごめんなさいね。如月が勝つのは当然なんだけど」
さらりと自慢してるよ、おい。せっかくの涙が引っ込んでしまった。
「みんなそうやって、洗礼を受けて家族になるのよ」
「家族……」
「そう。海の上で一緒に過ごす者は、みんな家族よ。だから……」
「吹雪ちゃんは睦月たちの大切な家族にゃしぃ」
ベッドの一番上で寝ていたはずの睦月ちゃんが起きてきた。どうしよう、涙が止まらない。
「まんじゅう、早く食べないと硬くなっちゃうわよ」
「あ、うん。食べるよ」
私はタンスから酒まんじゅうが二つ載ったお皿を取り出して、早速いただいた。
「おいしい!」
酒まんじゅうってこんなに美味しかったのか。程よい甘さと、お酒の香りが絶妙で、今まで食べた酒まんじゅうの中で一番の
「間宮さんが作るお菓子は、何でも美味しいわよ」
「何でも……」
想像しただけでよだれが出てきた。
「遠慮しないで、二つとも食べて」
私が酒まんじゅうをひとつ残してると、如月ちゃんが
「私だけ食べるのも悪いし、それに」
「それに?」
「分けあって食べるのが、家族じゃないかな」
「……」
如月ちゃんも睦月ちゃんもしばらく黙ったままだった。
「吹雪ちゃんに一本取られたにゃあ」
「睦月ちゃん、半分こしようか♡」
「うん♪ えへへ♡」
半分こした酒まんじゅうを、睦月ちゃんは如月ちゃんに、如月ちゃんは睦月ちゃんに、あーん♡して食べさせた。
「吹雪ちゃん、どうかしたのかにゃ?」
「あ、すごく仲いいんだなって」
「姉妹ですもの。当然じゃなくて?」
「すっごく素敵だと思う」
「吹雪ちゃんの姉妹はどうなの? 仲良くないの?」
「うーん、どうだろう。仲が良いのかもしれないけど、気難しいというか、気を
「吹雪ちゃんも苦労してるんだねぇ。一番艦同士、困ったことがあったら遠慮なく言ってね」
「ありがとう、睦月ちゃん」
「こう見えて、頼れるお姉さんなんだよ。えっへん」
あまり無い胸を張って、お姉さんアピールする睦月ちゃんだった。
「さてと、お腹も落ち着いたし、寝直すかな」
「鎮守府の朝は早いものね」
ベッドに戻ろうと立ち上がった瞬間、サイレンの音が響き渡った。
「なに!? 何が起こったの!?」
「敵襲だよ!」
「ここ鎮守府だよね? 敵が来るの?」
「時々、ね……」
私たちは着替えて、待機所へ向かった。
「夜分遅く申し訳ない。たった今、鎮守府正面海域で、敵艦隊がこちらへ向かっているのが発見された」
秘書艦の長門さんが状況を説明してくれた。
「幸い、夜間ということもあってか、敵の編成に空母はいない。よって、水雷戦隊のみで迎撃する」
集まった艦娘を見ると、空母型は誰もいなかった。最初から招集が掛かってないのだろうか。
「赤城さんも加賀さんも
睦月ちゃんがそっと教えてくれた。
「迎撃は臨時編成の部隊で行う。旗艦は川内。神通、那珂、睦月、如月、そして――」
「吹雪」
辺りがざわめいた。
「以上の六隻だ」
「待ってください」
神通さんが手を挙げた。
「なんだ、神通」
「吹雪さんにはまだ、荷が重いと思います」
「どういうことだ?」
「彼女は実戦経験がありません。夕刻に行った演習では転覆さえしました」
その話が出た途端、さらに辺りは騒然となった。
「それが、どうかしたのか」
長門秘書艦の反応は意外だった。これには神通だけでなく、周りも驚いていた。
「だったら、なおさら実戦に出すべきじゃないのか」
「そうかもしれませんが……」
「これは提督の方針でもある」
「提督の?」
「吹雪は必ず参加させよ、と。それに、他に駆逐艦がいない」
「
「遠征に出ている」
「それならば、仕方ありませんね」
「そうだ。グズグズしてる暇は無い。急げ!」
私は言われるままに艤装の点検をして、出撃ゲートへ入る。
「長門さんは他に駆逐艦がいないって言っていたけど……」
「吹雪ちゃんが来るまでは、睦月と如月ちゃん、弥生ちゃんの三人だけだったんだよ」
「いや、他に軽巡とか重巡とかいないのかなって。集まった人たちが誰だか分からなかったけど、きっといたはず」
「
「別に駆逐艦じゃなくてもいいはずだよ」
「吹雪ちゃん、燃料も弾薬も無限じゃないわ」
如月ちゃんが会話に入ってきた。
「限られた資源で、やりくりするのも戦いなのよ。燃料や弾薬が尽きたら、誰も
如月ちゃんは、真剣な表情で説明してくれた。
「その点、駆逐艦なら燃料も弾薬も
続いて睦月ちゃんが自慢げに答えた。
「でも、それって駆逐艦の練度があってこその話で――」
「用意はいい? 出撃するよ!」
川内さんの号令で一斉に出撃する臨時水雷戦隊。
「神通、いきます」
「那珂ちゃん、現場はいりまーす!」
「この勝負、睦月がもらったのです!」
「如月、出撃します」
「やったぁ! 待ちに待った夜戦だぁー!」
これが慣れてる者の余裕ってやつなんだろうか。みんな楽しそうだ。
「特型駆逐艦、元気ないよー!?」
「うっ……吹雪、がんばります!」
「その調子でガンバレ!」
川内さんに発破をかけられたものの、自信の程は微妙だった。
「那珂ちゃんセンター、一番の見せ場です!」
那珂ちゃんはカタパルトを使って、九八式水上偵察機を発艦させた。
「敵影発見っ! きゃは☆」
「私の
「わかってまーす。アイドルはファンと偵察機を大切にします!」
那珂ちゃんの理論はよく分からないと思った。
「敵は四時の方向、陣形は
「こちらも単縦陣だから、この位置から攻めるとなるとT字有利ってやつか。やったね!」
川内さんは嬉しそうに探照灯で前方を照らした。続いて神通さんが照明弾を打ち上げて、さらに明るく敵を照らす。
「みんな敵見えた? 艦種と位置、バッチリ覚えたね?」
川内さんがみんなに確認する。みんなはバッチリと答えていた。私を除いて。
ついて行くだけで精一杯なのに、あんな一瞬で敵が把握できるものなのか。私には信じられなかった。
「砲雷撃戦よーい! 撃てー!」
川内さんは十四センチ単装砲による連続射撃にて、軽巡ホ級eliteを大破させた。
「これだよ、これが夜戦の
川内さんに続き、神通さんも十四センチ単装砲を使った連続射撃で、敵を狙い撃った。
「当たってください!」
見事ど真ん中に命中! 駆逐イ級を一隻、撃沈した。
「こんな私でも、お役に立てるんですね……嬉しいです」
「神通さん後ろっ!」
敵軽巡ホ級の五インチ単装高射砲が、神通さんを狙い撃った。私の呼びかけで気が付いた神通さんは、当たるギリギリのところで回避した。
「ロケ中はお肌が荒れちゃうなぁ。でもぉ、これもトップアイドルに登りつめるための試練!」
攻撃が外れ、動揺した軽巡ホ級の前に、那珂ちゃんが踊り出る。
那珂ちゃんの四連装魚雷発射管から、六十一センチ魚雷八本が発射され、軽巡ホ級を一気に撃沈した。
「いつもありがとー!」
誰に向かってのお礼なのか、やっぱり那珂ちゃんの感性はよく分からない。
「主砲も魚雷もあるんだよっ!」
睦月ちゃんが十二センチ単装砲による砲撃と、六十一センチ魚雷による攻撃で、駆逐イ級を見事に撃沈した。
「睦月ちゃんすごーい」
「睦月をもっともっと褒めるがよいぞ! いひひっ」
「魚雷って太いわよねぇ♪ さあ、いくわよ♪」
如月ちゃんは、六十一センチ魚雷六本を発射。演習の時とは違って今度は本物だ。
敵軽巡ホ級に炸裂し、大破させた。
「みてみて~、如月の実力。目に焼き付いたかしら」
「うん、如月ちゃんもすごいよ」
「あと一体、特型駆逐艦トドメだ!」
川内さんから、私にやれと指示が飛ぶ。
「はい! あれ、魚雷ってどうやって発射させるんだっけ?」
「どうかしたの」
「魚雷の発射方法が分かりません!」
「そいつはまずい! 離れて!」
「え?」
私は敵軽巡ヘ級flagshipの六インチ連装速射砲をまともに喰らって、海面に叩きつけられるように転覆した。
「特型駆逐艦ー!?」
「吹雪ちゃん!?」
みんなの呼ぶ声が次第に遠くなっていく。もしかして私、撃沈させられた? そんな……まだやりたいことがたくさんあったのに……いや、嫌だよ……。
世界が赤く見える。血に染まったかのように。これが死後の世界なのだろうか。
それにしては、妙に温かくて気持ちがいい。
「気が付いた?」
よく見ると、私は川内さんに
「私、助かったの?」
「危ないところだったよ。よかったね、大破で済んで」
自分の姿をよく見ると艤装も服装もボロボロだった。身体のあちこちに痛みはあるものの、目立った
「よかった……のかな」
「
「夜戦はもう勘弁……あ、そうか」
世界が赤く見えたのは夜が明けて、朝焼けの光が
「今回も、暁の水平線に勝利を刻んだわね」
如月ちゃんが優しく語りかける。
「睦月の艦隊、大勝利なのです〜」
「この艦隊のアイドルは那珂ちゃんだよー」
「あの……この艦隊は結局、誰の艦隊なのでしょう……」
「誰でもいいんじゃない? 私、流石にへとへと……」
睦月ちゃん、那珂ちゃん、神通さん、川内さん。みんな無事だった。結局、私だけが大破で帰投のようだ。
「ごめんなさい。私がみんなの足を引っ張っちゃった」
「気にするな、特型駆逐艦。助け合うのが当然でしょ。私たちは『家族』なんだから」
川内さんの言葉に、みんな同調していた。
「家族……そうか、そうだったね」
やっぱり私、ここに来てよかった。みんなとは上手くやっていける。確信した瞬間だった。
「ねえ。雨降ってない?」
「降ってない……ですけど」
「なんか、背中に水滴があたる感触が……って、特型駆逐艦!? 泣いてるの?」
「およよ。川内さんが吹雪ちゃんを泣かせたのです。めっ!」
「いじめてないよ! 朝ごはんは、ちゃんと食べさせるって!」
鎮守府の司令室にて。長門は
「吹雪の戦果はどうだ?」
「報告では大破ですね」
「吹雪が?」
「吹雪もですが、刺し違えるように軽巡ヘ級flagshipを大破に追い込んだとの事です」
「ほぉ。相撃ちで戦果を上げたか」
「提督の見込み通りですね」
「吹雪は運命を変える。
「
「さあな? そうだ、吹雪には高速修復剤を使ってやれ。それから――」
「朝食はちょっと贅沢に、ですね」
大淀は長門に向かってウインクした。
「ああ、そうだ」
長門はニヤリと笑った。
(次回ヘツヅク)
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「アニメをみて 吹雪の話を書いてみるのは 間違っているだろうか」
コミックSDF(2015年6月14日開催)で頒布する新刊の艦これ小説です。
笑いあり、涙あり、バトルあり、百合もちょっとだけあるんだからねっ!
スペースNo.B-13「See Moon」詳細はサークルサイトにて http://yotsuba.org/seemoon/