No.782742

ノーライフキングの日常 1話 吾輩は吸血鬼

めいやさん

吸血鬼、不死王レイキュラ・フォン・アルバルトの「偉大なる」日常を描く物語。

初投稿。
皆様の感想で続けるかどうか考えます。ご意見お待ちしています。

2015-06-10 10:07:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:407   閲覧ユーザー数:407

 

1.

 

睡眠中、のどが渇いた。

 

吾輩は乾燥した口内に無理やり唾液を湧かせて、舌でまんべんなく潤した。

 

口内が干上がるというのは加齢の第一歩というが、吾輩はまだ293歳である。力強く否定したい。

 

ヒトでは簡単に持ち上がらぬ棺の蓋を片手でずらし、上体を起こすとナイトテーブルに置いてある瀟洒な水差しを持ち上げ、注ぎ口を傾けて・・・直接口に流し込んだ。

 

魔術で冷やされた水は甘みを感じるほど適度に冷やされ、口内を満たし、清涼な滝となって吾輩の胃の腑に流れ込んでゆく。

 

「ふう」

 

吾輩は満足した。

 

150年付き従ってくれた、メイドのリアナの仕事にそつがないことも満足の要因である。

 

良い気分のまま、水差しの残りを飲み干すべく注ぎ口に唇をつけると破裂音とともに吾輩の首は180度回転した。

 

「な、なにをするか無礼者!!」

 

吾輩の目が怒りの血の色に染まり、この愚かなるふるまいを行った者に罰を下そうと立ち上がった。

 

首は回転したままなので急いで元に戻し視界を確保すると、そこには・・・鬼がいた。

 

「旦那様。水差しを直に口につけて飲んではならないと、あれほど申し上げたはずですが」

 

可憐で儚げな容貌の、メイドのリアナが仁王立ちしていた。

 

仁王立ちである。

 

そして、そのまなざしに込められた瞳は虫を見る色であった。

 

片手にはいつの間にやら水差しが握られ、もう片手には東の国にて愛用されているという伝統的武具・ハリセンが握られていた。

 

アダマンタイト(緑金剛鋼)の硬度はとても固い。

 

吾輩の頬に真っ赤な張り跡をつけるくらいには。

 

吾輩は背筋にゾクゾクしたものを感じながら、抗弁した。

 

「いや、それはだな。のどが渇いて唇も切れそうなほど乾燥していたものでな。だから・・・」

 

「だから?」

 

「だから、急いで水で潤すべく緊急」

 

破裂音。

 

再び吾輩の首は180度回転した。

 

「いいかげんにしろ!ポンポン、ポンポン偉大なる吾輩の頭を気安くはたきおって!!主に向かってなんたる無礼!メイドの分際で、今回という今回は許すま・・・い・・・ぞ・・・」

 

首を戻しながら怒鳴った吾輩の言葉の勢いは一気に萎れた。

 

魔王がそこにはいた。

 

妖気ではなく瘴気が濃厚に漂っていた。

 

瞳の色は、もはや絶対零度と言えるべき温度である。

 

吾輩の怒りの血の色の瞳は急速にもとにもどった。

 

もちろん、彼女の振る舞いは純粋な忠誠心に基づいたものであり、邪悪な意思を持つ奸臣の振る舞いではないと吾輩は知っている。

 

ただ、それを思い出したから瞳の色をデフォルトに戻したのだ。

 

断じてちょっと怖かったなどと、偉大なる吾輩にはあり得ない。

 

「今度から気を付けよう」

 

尊大に言った。言葉は震えず滑らかに発音したものと吾輩は堅く信じている。

 

「結構です」

 

月明かりに照らされた、給仕服のたたずまいは穏やかであった。

 

吾輩を圧する瘴気など、あれは夢であったのだ。

 

もちろん、吾輩は同じデザインで統一されたカットグラスの盃に水を注いだのは言うまでもない。

 

忠臣の言は受け入れるのも偉大なる者の器と言えよう。

 

水面は小さな漣が立っていたが、それも寝起きのため手に力が入らなかったに過ぎない。

 

口の端が沁みて痛いのも、倍に腫れあがった頬を冷たく癒してくれるのも幻だ。

 

 

吾輩はこの地方に君臨する偉大なる、不死王レイキュラ・F・アルバルト。

 

最近、そば仕えのメイドが少々苦手な吸血鬼である。

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択