「じ~んせい楽々か~いてきさ~」
麗羽の変な替え歌が響く(午後4時頃から再放送をしているようなやつ)。
そう、俺たち(元)大将軍様ご一行は、世直し旅の真っ最中だった。
嘘。
本当は、激! 帝国むねむね団(帝国はもちろん後漢帝国のこと)を解散させられ、暇を持て余した麗羽がまた何か悪さをしないようにと、新しい警邏の方法を試しているところなのだ。
「なぁ、北郷。これ、本当に効果あるのか?」
白蓮が疑わしそうな眼差しを向ける。
「たぶん、な」
なにせどこかの副将軍は、テレビドラマにもなるぐらいの人気なのだ。
効果がないわけがない。
それに、普通の警邏では麗羽がすぐに飽きてしまう。
というか、麗羽に仕事を任せること事態が間違いな気もするのだが、先のむねむね団みたいな変な組織を作られるよりは、少しでも、ほんのわずかでも、最悪0でも役に立ってもらおうと、会議で決まったのだ。
で、俺と白蓮がお目付役になった、と。
そうそう、ポジションとしては、うっかり的なのが俺で、忍者的なのが白蓮。
そして、黄色い門的なのが麗羽で、その両脇に控えるのが猪々子と斗詩、ね。
「おっ、あんなところに屋台が! なぁアニキ~、何か食ってこうぜ」
…………いや、猪々子さん。役所としては、それは俺の台詞……。
「そうですわね、こうして一刀さんがご馳走してくださると言っているのですから、それを無碍に断るなんてできませんわ」
いや、ご馳走するなんて一言も言ってないし……。
「すいません、ご主人様。麗羽様と文ちゃんが……」
斗詩はこう言ってくれたが、麗羽と猪々子はもう遠慮なしに注文している。
「あたいラーメン5人前、チャーシュウ特盛り、餃子は10人前ね!」
これで小遣い前借りコースだな……。
俺が悲しくラーメンをすすっていると、どっかで見たような三人組が屋台に入ってきた。
「おうおう、邪魔するぜ」
リーダーらしき男がそう言って入ると、後ろにいたチビとデクもこれに倣う。
「おいおやじ、金はできたんだろうな」
「すいやせん……後3日、後3日だけ待ってもらえませんか……」
「今更何を抜かしやがる! こっちはずいぶん待ってやったんだ、今日こそは50両、きっちり返してもらうぜ!」
そう言って、どんぶりをいくつか割った。
「……だがまぁ、俺たちも鬼じゃねえ。……そうだなぁ、おまえんとこに娘がいただろ。その娘を差し出せば借金は帳消しにしてやるぜ」
男は下卑た笑みを浮かべる。
「そ、それだけは、娘だけは勘弁してくだせぇ!」
「じゃあ、今すぐ金……いてててぇ!」
「いいかげんにしな、あたいの飯がまずくなるだろうが!」
いつの間にか立ち上がっていた猪々子が、男の手首をつかむ。
「くそっ! なにしやがんだこのアマ! おい、デク、チビやっちまいな!」
3人組は一斉に懐から刃物を取り出したが、それでも素手の猪々子にはかなわない。
一瞬にして手にしていた刃物は床に転がり、三人組は。
「お、おぼえてやがれ!」
小悪党らしい捨て台詞を吐いて、屋台から退散して行ってしまった。
「あ、ありがとうごぜいやす。おかげで助かりやした、御遣い様」
……今なんて?
御遣い様って言わなかったか、おっちゃん?
本当なら正体を隠し、番組後半で……。
……何を言ってるんだろうね、俺は。
まぁそれに、こんな目立つ恰好をしてれば当然か。
隠居って歳でもないしな。
俺がそんなことを思っていると、白蓮は。
「いったい何があったのか、話してくれないか」
おやじさんに事情を聞いていた。
……あぁ、猪々子はすでにラーメンしか視界にないわけね。
「はぁ……それが……」
おやじさんの話によれば、借金をしたものの、借りた先が悪徳金融だったらしく、法外な利子を取られ困っているらしい。
この辺りはまだ俺たちの元に入って間もないから、そのへんの整備がまだ整っていなかった。
「それなら北郷」
もちろんだ。街の人々が困っているなら、助けないわけにはいかない。
お約束通りなら、思わぬ不正に……。
って、ここを治めてるのって俺たちじゃないか!
う~む……。
桃香(悪代官役)が山吹色のお菓子を貰って微笑んでいる姿……。
だめだ、想像がつかん。
それに、これは確信をもって言えるが、俺たちの仲間に不正を行うようなやつは一人もいないのだ。
やってきました越後屋(仮称)屋敷。
「者ども! くせ者じゃ、であぇ! であぇい!」
そう叫ぶ親玉。
いろいろ過程は飛んでるが、一時間番組じゃないのでそこは勘弁してもらいたい。
「文さん、顔さん。やぁ~っておしまいなさい!」
麗羽、そこは「こらしめてやりなさい」、だぞ。
しかし、俺がそんなことを思っている間にも、猪々子、斗詩に白蓮を加えた三人は敵をばったばったとなぎ倒していく。
まさに圧倒的だ。
「……なぁ麗羽、このへんにしとかないと……」
あまりに圧倒的すぎて、ほとんどの悪党は倒れてしまっている。
親玉なんか真っ先に猪々子の剣の前に倒れていた。
「そうですわね。文さん、顔さん、もういいでしょう」
「はい麗羽様。………………………………………………………………」
そう言って麗羽を中心に、右へと並んだ猪々子だったが、沈黙が続く。
沈黙が………………………………………………………………。
って、長いな沈黙。
「……あたいの台詞って何だっけ、アニキ」
ああ、忘れてたのか。
「静まれぃ、静まれぃ、だ」
「そっか。えっと……静まれぃ! 静まれぃ!」
もう十分に静かです。
「ここにおわすお方をどなたと心得る……。おそれ多くも先の大将軍、袁本初様にあらせられるぞ……。一同、頭が高い、控えおろう……」
恥じらいまじりでたどたどしくはあったが、斗詩は決め台詞を発した。
はいここでとどめの印籠!
印籠!
いんろ……。
「……おい麗羽、印籠、印籠」
俺がこのために特注で作らせた印籠を麗羽に渡しておいたのだ。
まぁ、○の中に袁って書いてあるだけのやつだけど。
「あぁ、あんなものとっくに無くしてしまいましたわ」
………………………………………………………………えっ?
なくした?
俺が呆然としているところに白蓮が。
「なぁ北郷。もういいんじゃないのか? 誰も聞いてないぞ……」
ああ、本当だ。
全員のされて、誰も聞いちゃいない。
……まぁ、これでめでたしめでたし……なのか?
こうして、麗羽たち一行の旅は続くのでした。
唐突だけど【完】
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一話完結です。
設定としましては、蜀ルートになっております。
よろしければお付き合いくださいませ。