アイン・アルが
信仰が薄くなってしまった大陸から移動する。女神の加護が薄くなった場所を通ることは、モンスターに襲撃される確率が高くなる。そんな博打をしなければならない程に女神の加護という人間にとってなくてはならない機能が失われつつある大陸からの脱出の途中にそれは起きた。
寡黙な父が叫び、温厚だった母が幼きアイン・アルの手を引いて走った。握り締められた手が引き千切れそうなほど力が込められて、それが痛くて泣きながら走った。
そして前に走っていた父の上半身が消え、次に母が立ち止まった瞬間、衝撃と共に体が消えた。
何か大きな物に撥ねられたように地面に転がって、父と母を名前を呼びながら面を上げると目の前には、赤く輝く鮫の様な歯が並ぶ凶悪なモンスターが口を空けている。突然の両親の消失に現実を受け止められなかったアイン・アルが喰われる瞬間、黒い閃光がモンスターを一刀両断した。それは意志の強い凛とした容姿で、こちらの無事を確認すると、流星のような奇跡を残しながら周囲のモンスターを次々になぎ倒した。周囲の人は『女神様』『ブラックハート様』っと祝福に歓喜の声を上げていた。だが、アイン・アルは下半身だけ残された父を腕だけ残った母を漸く認識して、受け止める現実に耐え切れなくなくその場で倒れた。
次に目覚めたのは女神の腕の中で、今にも泣きそうな顔でずっと繰り返して言われた感謝の言葉が自身の無力さと女神さまへの感謝の想いに涙を流した。
その後、施設に預けられアイン・アルは両親を奪ったモンスターを憎悪し、これ以上自分の様な子供を増やさない為に体を鍛えた。同じ施設の中で勇者に憧れる友人も得たことでお互いに高め合い、競い合い、切磋琢磨しながら、多くの人を救うために夢を描いて、自分を助けてくれた黒き女神様の為に、自身の人生を戦いの一色で染める決意をした。努力のお蔭か、それとも才能があったのか、女神の加護を直接付与され人間を超える力と大陸の一部を管理する『守護武将』を友人と共に選ばれ、黒き女神様が任せられた時は歓喜に体が震え、今なら空を飛べると家に帰った時はベランダから何度も飛び降りたほどだった(勿論体中骨折して守護武将就任の初日は病院で書類整理をする羽目になった)
とは言っても、アイン・アル自身はモンスターを打ち倒す為に他の事は全て捨てて生きてきたが故に大陸の管理なんて難しい事が出来るはずもなく、もっぱな前線で戦い続けた。
朝起きて出撃、朝食、出撃、昼食、出撃、休憩、出撃、晩飯、出撃、就寝という生活リズムに黒き女神には呆れられ、同僚の『守護武将』からは休日になるとどこかに遊びに行こうと強制的に連れまわされるの、モンスターを狩りに行けなかった。勿論、何度か早起きして逃げたが、今度は黒き女神すら味方に引き込んで外出を誘ってくる。理由は何でも武器のメンテナンスや日用雑貨とか、適当な理由をつけて同僚は黒き女神とアイン・アルの三人で、休日は共にいることが多くなった。
そんな充実した日々も女神転換期になると変わっていく。今まで信仰していた住民が心変わりをしたように女神を批判し始めて、それをタネにした活動家たちの主張が人々の注目を浴びて、女神の立場が徐々に悪くなるにつれて、誰よりも信仰心が深いと言われたアイン・アルは何度もそいつらを殺してしまおうとしたが間際に同僚や黒き女神に止められる。
そんな時だろう、女神の加護が薄くなった故郷で見つけた禍々しいクリスタルを見つけたのは、その輝き魅入るまま体に含んだ瞬間から変わった。周囲の人々の負がにじみ出るオーラが見えるようになり、不満や怒りの負の声が聞こえる様になった。それと同時にそれをエネルギーとして女神によく似た、性質が真逆の力を扱える姿に変身できるようになった。
そこからアイン・アルは人々の無能と愚かさを知った。日頃黒き女神がどれほど民衆を愛し、その為に身を削ってきたかを当たり前の様に受け入れ感謝を忘れ、適当に並べられた状況に対する発言に理解されていると勘違いを起こした民衆達が、その活動家たちを脚光を浴びて評価されながら、最後に女神の存在を否定し始めるそんな世の中を見て、彼女は決心した。世界を救うために、なにより黒き女神に命を救われた恩を返す為に。世界を殺すつもりで嬲ると。
まず人々の力ではどうしもないモンスターを強力な量産し、人々の絶望を大きくするために圧倒的な力を見せながら虐殺を開始。
『守護武将』と肩書を捨て、アイン・アルは自身を魔王と呼び、他の大陸の女神を卑劣かつ卑怯な手で殺してその力を自身の物とした。
ゲイムギョウ界の全ての住人が自分に絶望する為に、あらゆる手を尽くした時にどこからか噂が流れ始め、現れた『
同僚はアイン・アルが作り出したモンスターの大軍を町の人々が逃げ出す時間を稼ぐ為に死んだ。とても胸が痛かったがもう人間で無くなったのか、それとも女神の為と猛争の渦で生きていくこと以外を捨ててしまった瞬間から、涙は流れる事は無かった。勿論あれほど救おう鍛練を重ねてきた技術は人間を如何に惨たらしく殺して人々の心に刻みつけるかへと変化していく。
その時から、アイン・アルは知った。
自分はもう人間を捨てたのだと、これが自分の持ち神格としての力の在り方なのだと。
アイン・アルと守護女神達のゲイムギョウ界全土を巻き込んだ途方もない大災害は完成した『
「貴方とエステルは掛け替えのない友達で、一緒にいい国を作れると思ったのにーーーどうして、どうしてこんなことになったのよ……ッ」
ーーー
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鬱注意?