~真・恋姫✝無双 魏after to after~side凪
洛陽に戻って数日たったある日、一刀には嬉しいビックリなイベントが発生した。
「凪、どうしたんだい?」
いつぞや沙和が仕立てた洋服でめかしこんだ凪が、一刀の私室に姿を見せたのだ。
「あの、えと・・・・・・隊長、いえ、一刀様。わ、私と以前仰られていた〝でぇと〟というものをしていただけないでしょうか」
全身に稲妻が走った。時間という概念は一刀の中から一切消え失せ、永遠とも言っていい感覚の中を漂っていた。
あの真面目な凪が自分の事を普段の〝隊長〟ではなく、〝一刀様〟と呼んだのだ。
これに時間の流れを忘れずにいることなどできようか。
答えは否、断じて否である。
「あの、一刀様?やはり自分の頼みは聞いていただけないのでしょうか?」
――いかん、自分の心を時の彼方に置き去りにしている間に凪が悪い方向に進もうとしている。
「いや、そんなことないよ。あんまり可愛いものだからつい呆けてしまっただけだよ。だからデートは全然大丈夫。むしろ俺から誘えばよかったって思うぐらいだよ」
かあっと頬を紅潮させて俯いてしまう凪。
――ああ、なんて可愛いんだろうか。
正直な感想を言うのであれば、ここで頂いてしまいたいぐらいだったが、時間が時間なので自粛する。
「では!」
「うん、すぐ準備するから部屋の外で待っててくれるかい?」
「はい!・・・では、お待ちしてます」
――ぱたん
部屋の扉が閉まり凪は退室した。
「な~ぎ~どうやった?」
「承諾していただけた。真桜と沙和のおかげだ・・・・・・しかし、私だけで本当に良かったのか?」
「うち等は後でかまへんよ」
「そうなの。凪ちゃんは隊長のことずーっと待ってたの。だから今日は二人っきりで・・・」
「「ね~っ♪」」
顔を見合せて笑みを浮かべる二人。このとき凪は、本当に得難い友を得たのだなと心から感謝した。言葉にしなかったのは、したらしたで二人が悪ノリするからだ。
とそこで、もっとも強大な不確定要素が姿を見せた。
「あら?三人とも一刀の部屋の前で一体何をしているのかしら」
覇王・曹孟徳その人だった。
「か、華琳様・・・」
「あら凪、いつぞやの服じゃない・・・」
めかしこんだ凪を上から下まで見回して。
「どうやら今日は出遅れてしまったみたいね。仕方がないわ、日を改めましょう」
曹孟徳はどこまでも器が大きかった。
「お待たせ、凪・・・って二人も来てたのか」
一刀が部屋から顔を出したとき、そこには呆然と佇む三羽鳥の姿があった。すると一刀の存在にいち早く気がついた真桜が声を掛けてきた。
「あ、隊長。気にせんでええで。今日は凪と二人っきりや。うち等二人はまた今度でええしな」
「そういうことなの」
そんなことを言って凪を残し足早に去って行った。
「なんだったんだ?」
「いいじゃないですか。一刀様。あの・・・」
おずおずと手を差し伸べられた手を一刀は笑顔を持ってその手を握った。
「じゃあ、まずは市から行こうか?」
「はい!」
この笑顔が見れただけでも十分に価値があった。だからこの笑顔をもっと見よう。
意気揚々と一刀と凪の二人は城を後にした。
「おや~、あれは凪ちゃんにお兄さん。一体どこにいくのでしょうか・・・・・・」
そこで閃くのが軍師・風。まぁ誰でも気付きそうなものではあるが。
「それは言わない約束なのですよ」
こちら(作者)にツッコミを入れるのは勘弁して下さい。
「追いかけてみましょー」
あくまでも自分のペースを崩すことなく風は二人を追いかけて行った。
天気は良好、シチュエーションとしては最良の状態である。
「ここまでは文句のないデートなんだけどなぁ」
「一刀様?何か心配でも・・・まさか自分に何か至らぬところでも・・・・・・」
ここで悪い方向にもっていってしまうのが凪の悪い癖である。
「そんなことはないさ、だから凪はもっと自信を持っていいんだよ。自分は可愛い女の子なんだってね」
よしよしと頭を撫でるとおとなしくなってしまうところはどこか子犬を彷彿させるものがある。
(・・・でも、あの華琳を殴ろうとするぐらい動揺したんだよな。俺のせいで・・・)
そう、凪は一刀が去った後に華琳を殴ろうとしたのだ。
それも、その原因が一刀が消えたという事実を突き付けられたこととあっては、責任を感じずにはいられなかった。
(でも、今こうして笑ってくれてる)
それが何よりも一刀には嬉しかった。過去のことは確かに大事かもしれない、だがそれでも今こうしていられる現実の方がもっと大事なのだ。
「さ、凪!次はあっちに行こうか」
凪の手を引いて一刀は市を回ってる。
「か、一刀様、慌てなくても市は逃げたりしませんから」
あたふたとしながらも凪の心は満たされていた。
(夢なんかじゃない、一刀様は今こうして〝ここ〟にいる)
手に伝わる温もりに最初は泣きそうにすらなったのだ。
しかし、くっと堪えて笑顔を浮かべた。やはり、泣いた顔よりも笑ってる顔を見てほしいから。
――自分は幸せです。
それを感じてほしいから。
だから私は笑みを浮かべよう、この気持ちを大切なこの人にも分かってほしいから。
凪の心は今、満たされていた。
時は変わってお昼時。
流石に腹が減った二人は手ごろなオープンカフェ(っぽい)で昼食をとろうと思ったら、そこには先客がいた。
「おおっ!一刀に凪やん。二人だけなんて珍しい組み合わせやな」
「霞様」
「昼間っから酒って、相変わらずなんだな」
「ウチ今日は非番やし別にええやろ?それに、やっとまた酒が美味いって思えるようになったんやもん。そら飲むに決まってるやんか~♥」
言葉が痛みを伴って一刀の心に深く突き刺さった。だが、一刀に耳を塞ぐことは許されない。
これは、他ならぬ一刀が招いたことだからである。
――華琳、春蘭、秋蘭、季衣、流琉、霞、凪、真桜、沙和、風、稟、桂花、天和、地和、人和。
みんながそれぞれに一刀がいなくなったことを悲しんだ。華琳の口からそう聞いた時、一刀は泣いて謝った。どんな理由があれ、みんなを悲しませたことが一刀に華琳達が思っていた以上に衝撃を与えたからだ。
『そう思うのなら、私たちをしっかり愛しなさい』
一刀の頭を優しく抱き寄せ、華琳はそう言った。
結果としてしばらく動けなるほど燃焼してしまったわけだが。
「一刀、そないに悲しい顔したらあかんで。やないとせっかく逢引しとる凪がかわいそうや」
指摘させるまで気づかなかったが、霞の言うとおり凪が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「ごめんね、もう大丈夫だよ」
一刀の笑みに安心したのか凪も笑った。
「それでこそウチが惚れた一刀や。さて、と邪魔せん内に退散させてもらうで。おばちゃん勘定たのむわ」
「霞、別に気を使わなくてもいいんだけど」
「そうです霞様、もう少しゆっくりされても・・・」
「お断りや。ウチはそんなに野暮とちゃうしな。またな一刀、今度はウチも誘ってや~」
大きく手を振って霞は去って行った。気を使わせたみたいで少しバツが悪そうな顔をした二人だったが、せっかくの好意のなのでありがたくその気遣いを受け取ることにした。
時を同じくして。
「二人とも何しとるんや?」
「「っ」」
背後から掛けられた霞の声に思いっきり背筋が伸びてしまったのは、二人を送りだした真桜と沙和であった。
「ええっとな、姐さん・・・いつから気付いとったんです?」
「そんなん二人がウチのとこに来た時からや」
「霞お姉さますごいの。隊長も凪ちゃんも気付いてなかったのに」
魏で一、二を争う武将でもある霞に下手なごまかしは通用しない。なので二人はごく自然な質問をしたのだ。
「一刀でいっぱいになってもうとる凪はともかく、一刀の方は気付いとったで」
「ええ、うそぉ」
「びっくりなの」
「そんだけ一刀も成長しとるっちゅうことや。余計なことせんと帰るで」
「ああ~堪忍してや、姐さん~」
「真桜ちゃんは諦めが悪いの。沙和はもう諦めちゃったの」
霞に引きずられながら真桜と沙和が二人の傍を離れていく。こうして二人の追跡者が連行されていった。だが、追跡者はもう一人いる。
「危なかったのですよ」
霞の存在にいち早く気がついた風は裏路地へと身を潜めることで事無きを得たのだ。
霞の手によって二人が連行されていくのを見届けた後、風は二人の様子が見えるか見えないかの ギリギリの距離を保つ位置にあるオープンカフェで昼食をとるのであった。
「しかし、なぜ風は後をつけているのでしょうか」
「二人のことが気になるんだろ?」
「おおっ!慧ちゃんは風の心がわかるのですか?」
「当たり前だぜ」
「流石なのですよ。しかし、ここまできた以上・・・どのタイミングで抜けたものでしょうか。それ以前に、なぜ風はお二人を追いかけているのでしょう」
じつのところ、風はここまで二人のことを追いかけるつもりはなかったのだが、必要以上に追いかけすぎて止めるタイミングを失くしてしまっていたのだ。
「むむむむ・・・やはりこのあたりが引き際でしょうか?仕方がありません、次の機会にでもお 兄さんとの時間を楽しむとして、今はこのおなかの虫さんを静かにさせるとしましょ~」
どこまでものんびりな風であった。
一方そのころ、城では。
「何が〝稟ちゃんにお任せしました~〟よ!風、覚えておきなさ~い!!」
稟の絶叫がこだましていた。
そんなこんなで、いつしか二人は郊外の森の中にいた。
サラサラと流れる小川の音が実に心地いい。
二人は手ごろな場所に腰を下ろし、凪は一刀に寄り添うように座っていた。
「一刀様・・・あの、この服ですが」
「うん?似合ってると思ったんだけど、気に入らなかった?」
「いえ!決してそのようなことは・・・・・・ただ、自分は武官として今まで生きてきた身ですので、こういった格好はその、こそばゆいといいますか・・・」
そう、凪が今身に纏っているのは出かけ始めの時の服ではない。
――水色のワンピースとつばの大きめの白の帽子。
いつも結っている髪は、今は下ろしてストレートにしてある。
森を訪れる前に一刀が仕立てた代物である。
「じゃあ自信を持たなきゃ。いいかい?確かに凪は武官かもしれない、だけどね、武官である前に凪は、女の子なんだからたまにはこうして女の子を楽しまなきゃ・・・ね」
「///」
一刀の笑顔に、トマトのように真っ赤になった凪は顔を俯かせてしまう。
しかし、それもつかの間、武官としてのいつものりりしい凪の顔に戻ってしまった。
「一刀様」
「なんだい?」
「一刀様が天に還られたから戻ってこられるまでの私の話を聞いていただけますか?」
「・・・ああ、聞かせてくれ俺がかえってくるまでの凪のことを」
――一刀様が天に還られたと告げられてから、私の足は地には立っていませんでした。華琳様に殴りかかってしまったあと、みんなが私に感謝と謝罪をしてくれましたが、私には愛想笑いを浮かべることしかできませんでしたから。
何をやっても、大好きなはずの唐辛子びたびたの料理を食べても、真桜たちと馬鹿騒ぎをしても私の空虚な心が満たされることは一度としてなかったのです。
その内、私はその空虚さに耐えることが出来なくなって、何度も何度も自害を試みました。
「凪が・・・?」
「一刀様が思っている私がどのようなものかは私にはわかりません。ですが、一刀様が思っている以上に私は、弱い女だったのです。」
壁に何度も額を打ち付けたり、行軍訓練中の霞様の騎馬隊の前にフラフラと飛び出したり、さけれると判断していた秋蘭様の矢にわざと当たろうとしたりと、様々な方法を試みたのです。
取り返しのつかない失敗をもって華琳様の手にかかってとも思いましたが、華琳様は一切そのような罰を与えてはくださいませんでした。
「頭を冷やすまでと言いつけられ牢に入れられたことはありましたね」
何をやっても死ぬことが出来ない自分に何度、歯がゆい思いをしたのか解りません。
ただ、死にさえすれば一刀様のおられる天にいけると本気で思っていました。
結局死ぬことが出来なかった私は、警備隊の仮の隊長を務めながら、日々を過ごしたんです。
「仮っていうのは?」
「警備隊の隊長は、あくまでも一刀様です。それに、もし私が隊長の座についてしまっては一刀様のかえってくる場所を奪ってしまうような気がしましたから」
ですが、一刀様のいない警備隊はまるで火が消えたような感じがありました。あの真桜や沙和が 真面目に仕事に取り組んでいたあたり、あの二人も相当堪えていたのだと思います。
あの二人に支えられていたおかげで、何とかギリギリの位置で自分を保っていた私はそれに気付くまでかなりの時間を要しました。
「ですから、五胡が攻めてきた時は死に時が来たのだと思いました」
だから一心不乱に戦いました。ただひたすら、前進だけし続けて。
そんな私の形相が鬼や修羅の類に見えたのでしょうね。多くの五胡兵が迫力に呑まれていました。
それでも所詮は単独での無謀な吶喊。次第に限界が来るのは必然でした。その窮地を救ってくれたのが真桜と沙和だったんです。
「あの二人には感謝してもしきれないくらい恩ができてしまいました。そのせいかはわかりかねますが、自分の中にあった〝死にたい〟という気持ちはいつの間にか消え失せていたんです」
五胡との戦も、先に勝利をおさめた呉と蜀の助力もあって退けることに成功したのです。
それが種火になったのか、他の方々の活気も僅かばかりか戻ったようで、どうにか魏という形を取り戻しつつありました。
「これが一刀様が帰還されるまでの大まかな話になります。今、これほどの活気があるのは一刀様が戻ってこられたおかげなんです」
「凪・・・」
自然と一刀は凪を抱擁していた。何の意思もなく、ただ無意識に心がそうしなければと命じるままに体が動いていたのだ。
一瞬目を見開いたが、すぐにそれを受け入れ、一刀の背に腕を廻し、胸に顔をうずめた。
「もう、どこにも行かないでください!もし、またいなくなられてしまったら、私はもう立ち直ることが出来ません。だから・・・」
嗚咽を漏らす凪を一刀は何も言わずに抱きしめ続けた。自分の存在を伝えるように、強く温かく。
「一刀様・・・・・・・」
嗚咽を漏らしていた凪が不意に一刀の名を呼び顔を上げる。
「ん・・・くちゅ・・・・んゅ・・・・・んぁ」
凪には珍しい、熱く深い口付けだった。一刀の方も決して拒むことなくそれに応え舌を絡める。
二人の熱い口付けはそれからしばらく続く。
「今日の凪は激しいんだね」
「一刀様・・・・・・私に、私に一刀様をください」
一刀に拒む理由なんてなかった。
それから程なくして、夕日が照らした二つの影法師が一つに重なった。
~epilogue~
「父上~!」
父親を呼ぶ声で、眠っていた意識が浮上した。
「どうしたんだい?鎮」
「見てください、こんなに綺麗なお花を見つけました」
「ほんとだ、凄く奇麗じゃないか」
「もっと摘んできて母上にあげるのです」
「気をつけなきゃ駄目だぞ~」
「父上は心配し過ぎです。真桜様や沙和様達、圭に禎も一緒なんですから大丈夫です」
また後で。と元気一杯の声で駆けていく我が子の姿に、自然と笑顔が浮かんでしまう。
起きあげていた上体を再び寝かせる。
視線の先にあるのは愛すべき妻の顔だ。
「もう少しこうしていていいかな?」
「はい。私も、もう少し一刀様の寝顔を見ていたいですから」
「そっか、それじゃあもう少ししたら真桜達のとこに行こうね」
もう一度一刀は目を閉じた。ちなみに一刀が枕にしているのは凪の膝ではなく、どちらかといえば腿である。
(こうして一刀様の子を授かり、こんな穏やかな日々を過ごすことができて・・・)
「私は幸せです、一刀様」
「俺もだよ」
「起きていらっしゃったんですか?」
「うん。凪の正直な気持ちが聞けるかもって思ったからね、悪いとは思ったけど狸寝入りさせてもらったよ」
「意地悪な一刀様は嫌いです」
「あらら、拗ねちゃった・・・どうしたら機嫌直して」
凪の唇に塞がれて言葉は続かなかった。静かな時間が二人の間を流れる。
「今日のところはこれで許します」
二人がそろって笑顔になる。
この瞬間こそが一刀の望んだ時間に他ならない。
小川の方では真桜とその娘の禎と沙和とその娘の圭、そして凪との間に産まれた娘・鎮が待っていることだろう。
「それじゃあいこうか?凪」
「はい、一刀様」
一刀の差し伸べた手を凪がそっと、だがしっかりと掴む。
その手に伝わる温もりが、一刀の存在を確かに伝えてくれる。
――愛しい人が今ここにいてくれる。
一陣の風が優しく吹き抜けて行った。風は、私と一刀様の髪をそっと撫でて揺らす。
穏やかな風はきっと国中を駆け抜けていくことだろう。
――私は今、幸せです。
~あとがき~
如何でした?
~真・恋姫✝無双 魏 after to after~side凪
タイトルを変更してありますが、このお話は__真・恋姫✝無双 魏エンドアフターの続編となります。
話の流れとしては三国共同開催の祭典の後、つまり魏の面々が洛陽に戻ってからのお話という感じで書きました。
今回もまた、凪を中心にスポットを当てて見たのですが、皆様が読んで面白かったと言っていただけることを願うばかりです。
さて、読んでる最中に気になった方が多かれ少なかれいらっしゃると思いますので補足させていただきます。
凪の娘の名前、『鎮』(ちん)に関してですが、通常の漢字変換では正しい漢字が出てこなかったので漢字リストにあった(ちん)の中でこれがいいなぁと思い使ってみました。
不快に思った方はすみません。
――さて、話題を変えまして次回作についてですが・・・・・・誰にスポットを当てようか決めかねております。
なので、次の投稿は少し間が空くと思いますが、大きな心で待っていただけたら嬉しいです。
引き続き感想やコメントをお待ちしてます。
Kanadeでした
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タイトルを変更しました。
凪メインです
楽しんでいただけたら幸いです
それではどうぞ~