No.779229

いぬねこ!8~犬神さん誕生日SS2015

初音軍さん

醒猫山さんの回。犬神さんは普段はああだけど攻められると乙女になりそうなのが可愛いと思います。普段も可愛いですけど。とりあえずテレテレさせたい(*´ェ`*)あーんとかいいですよね、あーん♪
イラスト→http://www.tinami.com/view/779226

2015-05-24 00:08:59 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:573   閲覧ユーザー数:573

いぬねこ!8-犬神八千代誕生日SS-2015

 

【犬神】

 

 とある日、お弁当をどこで食べようかと探していた時。

人気のない場所で女子同士で幸せそうに食べさせあってる所を目撃してしまった。

 

 私だけなら脳内で猫山さんとウフフな妄想をするに止まったのだが猫山さんも

しっかりその場面を見てしまったために二人して気まずい思いをしながら

その場を後にしたのだった。

 

 しかし家に帰ってきてから私は考えた。これは猫山さんと一気に距離を近づける

チャンスなのではないかと!

 

 そう思うと普段はあまり気乗りしない料理に対して俄然意欲が湧いてきたではないか。

うきうきしながら軽い足取りで食材を取り出して下ごしらえを始めた。

だけど作ってる途中少しだけ、食べてもらえるかどうかの不安が脳裏に過ぎったけど。

その時はその時だ!と前向きで続けた。

 

 以前カップケーキで食べさせてあげようとして拒絶のような反応をされた時は

泣きたくなったものだ。普段ならそれでもめげなかったり逆に嬉しかったりしたのに。

あの時は不思議とひどく悲しくなった。

 

 弾かれて床に落ちたフォークを洗いに流し場まで急いで行って洗いながら

気持ちの整理をしていたのだ。だけど、猫山さんが追いかけてきて私に声をかけた時には

何とか平常を装えていたけど、思ったより早く来たから内心冷や冷やしていた。

私のこういう部分を彼女に見せたくなかったから。

 

 一時期こういうことするの重いのかな、気持ち悪いのかなと遠慮がちにもなったけど。

こんなの私らしくないって最近気づいた。

 

 また迷惑になるかもしれないけど、前よりは少し落ち着きながらもう一回挑戦しようと

思った。だからこうして手作りで一生懸命にお弁当作りに精を出すのだ。

 

「そして今度こそ良い雰囲気を作るんだー!」

「わん!わん!」

 

 思ったことを声に出して言うと傍にいたわんこたちも私を応援するかのように

吠えてくれていた。応援してくれるわんこのためにも私は猫山さんをゲットしてくる!

 

 

***

 

 と意気込んだのはいいものの、いざ誘おうとすると一気にひよる私がいた。

とりあえず落ち着こう。まずはお弁当を持って、隣の教室に勢いよく駆け込んで

驚いて私を見る猫山さんの手を握って、ほぼ強引に引っ張って屋上まで連れて行くOK。

 

「よしっ」

「あ、犬神さんどこへ行くのです?」

 

 妙に気合を入れてる私を見て少し心配そうな眼差しで杜松さんが声をかけてきた。

 

「猫山さんを食事に誘いに」

「そ、そうなのですか」

 

「そうなのですよ」

「私はてっきりもっと進んだことをするのかと思ってました。

まだそこまでしか行ってないとは」

 

「・・・」

 

 ダダダダダ!

 

 何か遠くから杜松さんの声が聞こえた気がするが全力で走っていた私には

聞こえなかった。杜松さんカップルはもっと進んでるって聞いたら私ももたもた

していられない気持ちが強くなって自然と走っていた。

 

「ねーこやまさん!」

 

 ガラッ!

 

 勢いよく開けるも教室のどこを見ても猫山さんの姿が見えなかった。

同じ教室の秋ちゃんが少々呆れ顔で私の元へ来ると。

 

「猫山は今いないよ。屋上に行ってくるってさ」

「秋ちゃん、情報ありがとう!じゃあね!」

 

「おい、待て」

 

 秋ちゃんの言葉にお礼を言うのと同時に走りだそうとする私の制服の襟の後ろを掴んで

静止させてきた。

 

 勢いと引っ張られる反動で首が変な音を立てていた。とても痛い。

 

「いったーい、何よ。秋ちゃん!」

「待て、一体猫山と何をしようとしてるんだ?」

 

「別に何も。ただ、一生懸命作ったお弁当一緒に食べたくて!」

「犬神のことだから何か混ぜてるんじゃない?」

 

「もうそんなことしませーんー。今の私は純粋で綺麗な心の持ち主なので」

「あぁ、はいはい。じゃあ行ってきな」

 

「ありがとう、秋ちゃん。私秋ちゃんのそういうとこ大好き」

「・・・」

 

 気まずそうに私に視線を外した秋ちゃんはもうこれ以上は止めないという

意思表示なのか私との距離を一定間開けてくれた。

 

「じゃあ行ってくるね」

「あぁ、ただ猫山に迷惑かけるんじゃないよ」

 

「わかってるって~」

 

 そう言いながら私は小走りで猫山さんがいると思われる屋上に向かっていった。

何度か階段を上っているとやがて屋上への扉の前に辿り着いて私は重い扉を

何とか開けて外へと飛び出した。

 

 一瞬見渡して誰もいないのかと思ったけど、入り口の影になっている場所から

人の手と思われるものがはみ出して見えていたことに気付いた私は回り込むように

その場所へと移動した。

 

 陰になっていて涼しいその場所はちょっと昼寝するのに向いていて

爽やかなそよ風が猫山さんの髪を揺らしていた。

 

「何だ、寝ちゃってるのか・・・」

 

 猫山さんの傍には購買かコンビニで買ったと思われる袋があり、

その袋の上には重石の代わりにしている飲みかけのジュースが置いてあった。

 

 しばらくその寝顔を傍で見つめていて、何度目かの風がすっと通ると

寝ていた猫山さんの目が薄っすらと開き、眠たそうにしながらも上半身を起こして伸びを

していた。

 

「んー」

「あ、起きました?」

 

「うん・・・何か犬神さんの匂いがしたから・・・」

「え?」

 

 不意打ちで来た言葉に思わず顔が熱くなってしまうのを感じた。

猫山さんも言ってから気付いて顔を赤くしていた。

 

「あ、あの」

「何?」

 

「お弁当作ってきたんですけど、食べません?」

「今私食べたばかりなんだけど・・・」

 

「で、ですよねー・・・」

 

 とほほ、とがっかりしながら猫山さんの隣に座って包んでいた布を外して

蓋を開ける。私が手をつけようとした瞬間。

 

「あの・・・少しなら食べてもいいよ」

「ほんとですか!?」

 

「う、うん・・・」

「やった!どれ食べたいです?」

 

「ええと・・・その卵焼きで」

「これですね。はい、あーん」

 

「・・・!?」

 

 流れるような会話で自然に箸でつまんだ卵焼きを猫山さんに差し出すと

猫山さんは一瞬動きが固まって照れるような顔をして困惑している様子が窺えた。

またいつもの癖が出てしまったことに私は気づいて残念だけど一度置いて

猫山さんに自分で食べてもらおうと諦めかけた瞬間。

 

 パクッ

 

 私が手を引く前に猫山さんの方から私が持っていた箸に咥えてきた。

そして箸の先にあった卵焼きは猫山さんの口の中に入り咀嚼して飲み込むと

それまで緊張していたのが解けるかのように柔らかくなって、

すごく嬉しそうな表情をして私に言った。

 

「すごく美味しい!」

「ほ、本当に?」

 

「うん」

「あ、ありがとうございます!」

 

 私はその言葉で心の奥底から喜びに満ち溢れていて色々な何かがいっぱいになって

自分のご飯のことなどどうでもよくなっていた。そんな時、猫山さんが私の顔を覗き込み。

 

「私だけじゃ不公平だよ。今度は犬神さんもしてよね」

「え?」

 

 私に投げかけられたのは予想外の言葉で頭がスムーズにそれを処理できずにいると。

 

「ほら、口開けなよ」

 

 そう言って猫山さんは私が持っていた箸を取り上げて弁当箱に入っていた

もう一つの卵焼きをつまんで私の口元へ運ぼうとしていた。

 

「え? え?」

 

 するのは慣れているけどされるのは慣れていない私は軽くテンパっていると。

 

「犬神さん、あーん」

「あ、あーん」

 

 猫山さんの勢いに勝てなくて胸がドキドキしながらも徐々に近づいてくる

卵焼き。

 

 私は軽く目を閉じて口を開けるとそっと運ばれた卵焼きは口の中でぷるっと揺れて

噛むと弾けるように崩れ、出汁の風味が口いっぱいに広がった。

 

 普段一人で食べると味気ないものが一瞬にして今まで食べたこともないような

美味しさに変わっていた。

 

「美味しいです!」

「それ犬神さんが作ったやつでしょ」

 

「そ、それもそうでしたね」

「変な犬神さん」

 

 あはは、と少し誤魔化すように笑ってから一通りお弁当をお互いに食べあって

片付けてから教室に戻る際、私の胸の中がぽかぽかと暖かくなってることに気付く。

 

「・・・」

 

 何だかこういうのっていいな。

ずっと猫山さんと一緒にいられればいいのに。

 

 そう、教室に戻る猫山さんの後ろ姿を見ながらしんみりとしながら思っていると。

階段を降りる前に振り返った猫山さんは私の手を握ってから。

 

「犬神さん・・・その・・・今日はありがとう、こういうのもたまにはいいね」

 

 そう言って普段はあまり見ないはにかんだような微笑を浮かべてから照れ隠しのように

さっと手を離してすばやく駆けて私の前から姿を消した。

 

 私はしばらく固まって腰に力が入らなくて、そんな中さっき猫山さんに握られていた

手で口元を覆っていた。その手も若干震えていた。

 

 握られた柔らかさと温もりはまだ感じていて震える声で誰にともなく微かな声で呟いた。

 

「そんなの・・・反則ですよ・・・猫山さん・・・」

 

 そんな言葉、嬉しすぎて気持ちがいっぱいになりすぎて身動きが取れなくなるほどで。

幸せすぎて、泣きたくなりそうになった。

 

 前とは違う感情で泣きそうで、それは全く悲しくはなくてむしろ暖かくて幸せで。

確かにこれだったら私もたまにはいいかもしれないと思えた。

 

 結局教室についたのは昼休み終わりで次の授業の予鈴が鳴った後だった。

けっこうギリギリで杜松さんたちにどうしたのかと聞かれたけど私の様子を見て

ちょっと呆れたような顔をしてから各々自分達の席に座った。

 

 いつも何とも思わなかった授業も今日に限っては楽しく過ごせそうだった。

 

お終い。

 


 
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