No.77895

stage of gothic Part2

落葉さん

stage of gothic第二話です。盧遮那とは仏教における知恵の神の名だったりします。ただ、そのまま名前としてしまったのは昔の名残というか何と言うか……

2009-06-08 00:11:14 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:807   閲覧ユーザー数:759

Part4:The Gothic Nocturne

 

「……」

 

 盧遮那はかなり気分悪そうな顔をして起きた。周りを見回すと自分達が子供達と同じ牢獄に入れられていたという事をまず気づいた。

さらに志帆の腕を見ると渡しておいたメダロッチがなくなっていた。

盧遮那は自分の迂闊さを呪いながら溜め息を吐く。そしてまだ眠っている桜と志帆を、肩を叩いて起こした。

 

「……どうやら私達まで売り物にされるようね」

 

 起きた桜は周りの状況から考えられる事を簡潔に言った。盧遮那は頷いて肯定する。それを聞いた志帆は顔を真っ青にして焦り始めた。

 

「そんな!?ど、どうしよう…」

「焦るな。俺らは大人しく売り物になるわけがないだろう。それより…気づいているか?」

 

 盧遮那の言葉に焦る志帆は訳がわからない様子だったが桜は頷いた。

 

「ええ。警備用のメダロットは全部、命令が簡単なデスメダロットで最初から私達を捕まえようとしてたわね」

 

 盧遮那は、桜の洞察力に感心して説明を引き継ぐ。

 

「そう。つまり捕まえる奴はロボトルに強く、勇気のある者に限定し、厳選した商品という事でより高値で売ろうとしているってわけだ」

「恐らく、能力によって、売買レートが違うという訳でしょうね。オマケに売る人数がかなり少ないのを考えると犯人はかなり仕方なくやっているのかも」

「かもしれないけど、どの道、そんな事はあまり褒められたものじゃないな」

「そんな事よりどうやって脱出するのさ!?」

「こらこら。焦らないで平気って言ったでしょ?桜、もう一つ、気づいているだろ?」

「ええ」

 

 さらに焦る志帆をたしなめながら盧遮那は桜に向かってニッと笑う。桜もその不敵な笑みにフッと笑い返す。

 

『懐中時計型に気づいていない』

 

 盧遮那と桜は仕込んでいた懐中時計型メダロッチを取り出すとそれぞれカオスとエンジェルを呼び出した。

メダロッチから光線が放たれ、二体の漆黒のメダロットが姿を現した。

 

「私達を出さなくて正解でしたね」

「はい~。ルウさんは先を見越してたようですね~」

 

さらに盧遮那はカオスのメダロッチを使って、ゼロのメダロッチにアクセスした。

 

「ゼロ、無事か?」

「ああ。失態だったな。ルウ。俺はメダロッチに入れられてしまったぞ」

「否定はしないよ。それより時間があまりないから手短に言う。今からカオスのメダロッチを通してフライトユニット装備でゼロをメダロッチのある場所に転送するから地下からまともに降りれるルートを探し出せ。こちらも探すがそっちが先に見つけたら連絡を入れてくれ」

「敵が来たらどうする?」

「派手に騒ぎを起こしてしまいな。俺をコケにした罰だ。それにルールを逸脱したフライトユニット装備で手加減は難しいしな」

「承知」

 

 盧遮那はゼロに作戦の概要を手短に伝えると転送のシグナルを発信して通信を切った。

 

「さて、脱出するか。カオス、メダチェンジしてレーザーを使って、牢を焼き切れ、出力は必要に応じて強くしていい」

「はい」

 

カオスはメダチェンジするとレーザーを、太さを可能な限り細めると細いレーザーを放ちつつ砲身を動かして牢獄の入口を焼き切った。その際、焼き切った棒が音を立てないように盧遮那が落ちた棒を地面に落ちる前にキャッチする。

 カオスが焼き切っている間に桜と志帆が眠っている子供達を起こして回る。

 話を聞くと盧遮那の推測通り全員、ここまできて睡眠ガスで眠らされたようでメダロッチは取られたらしい。

そして全ての入口の鉄棒を焼き切ると鉄棒は焼き切られて捕まえた者を出さないという役割を果たせなさなくなって盧遮那によって牢の端に置かれた。

カオスが焼き切った牢を抜け出すとカオスとエンジェルが警備用のデスメダロットを倒し、盧遮那の先導で脱出を開始した。

 

 一方、城の二階のある一室、そこにはメダロッチ、補給用の予備パーツやメンテナンス用オイルが大量に置かれてある。どうやら、ここには捕まった子供達のメダロッチが保管される場所ならしい。

そんな音のない部屋の中にあった白いメダロッチが勝手に動き出しメダロットの転送を始めた。

転送されて現れたのはゼロだった。が、少しだけ姿が変わっていた。大剣は始めから手で持っており、空いた両肩のコネクタに追加ブースター、フレームを最低限にしか覆っていない臑には脚部用の補助ブースター、さらにバックバックとして大型のフライトユニットを装備されてあった。

 さらに大剣も片刃になる代わりにアンカーユニットになっている。これは相手に射出し、突き刺して引き寄せる事で無理やり剣の間合いに近づけさせたり、引き寄せた敵を自身や仲間の攻撃の身代わりにさせたりする事が出来る。

これはヴァイスビートルに飛行能力を追加すると共に、各ブースターにより空中で強引かつ自由自在に回避できるロボトルルールを逸脱した強力な追加装備 フライトユニットである。

 

「さて、行くか」

 

 ゼロは出始めに誘拐された子供達のメダロッチを手近にあった袋に入れるとそれを持って、窓から飛び降りてそのまま城の入口付近の係員室の目の届きそうにない場所に隠した。

その時、新米案内人はその中で上司に説教を受けて「落ちた子供を捜せ」と怒鳴られていた所だった。

ゼロはそれを無視するとフライトユニットで再び飛翔し、城の一階の窓から侵入を試みた。

窓から入るとまだ自分が騒ぎを起こしてもないのにメダロット達の戦闘音、それも地上ではなく地下から聞こえてきた。

ゼロは不審に思い、その戦闘音の聞こえる場所を目指した。

 近づくに連れて戦闘音がはっきりと聞こえてより詳しい音をゼロの聴覚にもたらす。

恐らく新たな侵入者と思われる者が警備用メダロットに迎撃されており、数に押されていて劣勢を強いられているようだ。

 

「仕方ない助太刀してやろう」

 

 ゼロは敵の敵は味方と考え、新たな侵入者の下に急ぐ。

 

「チッ。コイツは流石にキツいぜ……。こんなんじゃ志帆の奴を助けるどころか自分がくたばりそうだ」

 

 侵入者…ヘッドシザースのパーツを装備したメダロットは焦っていた。志帆を助けるという目的で侵入したようだがあまりの数に苦戦していた。

敵 ワイアーニンジャがソードを振るった。侵入者はソードでそれを受け流すとハンマーによるカウンターをワイアーニンジャの顔面に叩き込む。

ワイアーニンジャはそれを避けきれず顔面を潰されて倒れた。その瞬間、ウォーバニットがライフルとガトリングを構えた。

 

「チィッ…」

 

 ハンマーを振るっていた侵入者はウォーバニットにソードを構えて走り出す。間に合うかわからないがこれしかない。

そして、銃口から弾丸が…吐き出される事はなく、ウォーバニットは何かに引き寄せられる様に飛んだ。

侵入者はウォーバニットを目で追って見る。何と、ウォーバニットの背中にアンカー突き刺さっていた。さらにウォーバニットは何かに引き寄せられ、真っ二つに斬られた。

そして白い影が鎌鼬のごとく現れ、侵入者を守る様に警備用メダロットに立ちはだかった。

 

「助太刀してやろう」

 

 白い影…ゼロが警備用メダロットに大剣を振るいながら侵入者に声をかける。

 この時点で警備用メダロットはゼロを新たな侵入者とみなし、襲い始めた。

 それを見たゼロは大剣の隙を補うように二体目をアンカーで頭部を貫き、三体目を脚部ブレードで蹴り上げる。

 

「てめぇは志帆の近くにいた白カブト野郎か」

 

 侵入者はソードで敵メダロットを斬りながらゼロを睨み付ける。

 

「なるほど、メダロッチを買っている時からの気配の正体はお前か。ヘッディーとやらよ。志帆がそんなに心配だったか?」

 

 ゼロは多少の皮肉をこめて侵入者…ヘッディーに答える。

 

「べ、別にそんなんじゃねぇよ」

「フッ…まぁ、いい。やれるか?」

「当たり前だ!」

 

 丁度、その頃、脱出路を探す盧遮那達はゼロとヘッディーが大量の警備用メダロットを相手に戦闘をしている音を聞いていた。

それを聞いた盧遮那は指を鳴らすとニッと笑う。

 

「ゼロが脱出路を見つけたようだな。戦闘音のする方に行くぞ。カオス、ゼロの現在地は?」

「はい。真っ直ぐ行けば一分もしない内に着くと思われます」

「背後の敵もあと少しで全て撃破出来そうです~」

 

 カオスは後ろにいる警備用メダロットの頭部をエンジェルと共に正確に射抜きながらゼロを検索し、結果を盧遮那に正確に報告する。

 

「なら、ゼロの所に行こう。皆、それなりに覚悟しておけ」

 

 盧遮那の言葉に全員が頷くと急いで、戦闘音のする場所へと向かった。しばらくすると戦闘音が止んだ。盧遮那達はそれに不審感を持ち、先を急ぐ。

 そして戦闘音の発生源と思われる場所に着いた。そこには山ほどの数の警備用メダロットが横たわっており、その中心には後ろを互いに預けあい、警戒しているゼロとヘッディーだった。

 ゼロはルールを逸脱した追加パーツを装備しているためかダメージは軽く、ゼロが駆けつける前から戦っていたヘッディーは装甲のダメージがひどく、満身創痍の状態だった。

 カオスとエンジェルが背後の警備用メダロットを排除したのでとりあえず小休止する事にした。子供のスタミナはそんなに長続きするわけではない。

 

「わ~ん!ヘッディー!!恐かったよー!!」

「わっ!?や、やめろ……抱きつくな。く、苦しい……」

 

 会うや否や志帆が泣きながらヘッディーに抱きついた。ヘッディーは恐ろしく強い力で抱きつかれて元からボロボロなのにさらにボロボロにされてしまった。そしてヘッディーがもがき苦しむ姿は見る者に哀愁を感じさせる。

 

「ふむ。こいつがヘッディーか。やるねぇ。この軍団を倒すとは」

「!!」

 

 盧遮那がヘッディーを見るとヘッディーは盧遮那の視線に気付いて志帆の後ろに隠れた。その反応に少し驚いた盧遮那は少し考え込んだが過去のことに行き着いて思いついたような顔をした。

 

「おっと。人間嫌いだったか。カオスとは少々違うもんだなぁ」

「え?カオスって元々、別の人のものだったの?」

 

 志帆はカオスがヘッディーと同じ境遇にある事を知って驚いた。普段はこんなにも優しく万能秘書の方にいろいろなことが出来るのにひどい扱いを受けるなんて信じられないようだった。

 

「ああ。その人の下ではカオスは役立たずの烙印がついてろくにメンテされなくて苦しい毎日だったんだが俺が強くして、前の人から奪ったんだ。詳しくはカオス本人から聞くといい。こういうのは詳しくは気安く話すもんじゃないし」

 

 盧遮那が話し終える意外な者が動いた。志帆の後ろに隠れていたヘッディーだった。ヘッディーはカオスに歩み寄ってきた。それを見たカオスは微笑みながら会釈した。ヘッディーはカオスに温かな目を向けられて少し戸惑った。

 

「お、お前は……何で人間と一緒にいられるんだ?」

 

 ヘッディーはカオスに恐る恐る尋ねてみた。カオスはそれを変に思うわけでもなく、少しだけ言葉を選ぶと優しい口調で答えた。

 

「私はまだ人が好きなんですよ。前のマスターみたいな人がいればルウみたいな人がいるんだって信じているんです」

「……」

「今は時間がないので、詳しく話を話してあげたり、貴方の話を聞いてあげられませんがこれが終わったらゆっくりお話しましょう」

 

 その言葉にヘッディーが少しだけ頷いた。それを見るとカオスは目つきを変えて真剣な目で盧遮那の方に目を向ける。

 

「ルウ。そろそろ行った方がいいです。これを見るとかなり警備用メダロットを破壊したと思うのですが、まだ首謀者自身が追ってくる可能性があります」

「そうだな。皆、行くぞ。ゼロ。案内を頼むよ」

「任せろ」

 

 カオスに促されて盧遮那達は移動を開始した。その際、盧遮那は志帆からゼロのメダロッチを返してもらい、志帆はヘッディーのメダロッチを腕につけた。ゼロとヘッディーの正確な案内により上手く、一階に戻ることが出来た。一階への道は知らないと迷路のように迷いそうになるが知っていればかなり意外と単純である。

 階段を上るとそこには室内庭園が広がっていた。

 六方形の空間に植物の命の源となる水が、溜まった池が六方形の頂点の場所にそれぞれ配置され、それに囲まれるように林が生い茂る。さらに色とりどりの花がその林の周りに綺麗に咲き誇り、緑だけの空間を七色に彩っている。天井はガラスで出来ており、太陽光が直接、木々に差し込み植物達の成長を手助けしていた。

 盧遮那達は、長居は無用と出口に急ぐ。庭園の出口に着きかけた時、桜は何か気配を感じて後ろを振り向いた。盧遮那もそれを見て後ろを見てみる。

 見た先には二人の男と一人の女が光あふれる聖域に佇んでいた。恐らく、子供たちを誘拐し、盧遮那達を牢屋に入れた誘拐犯だと思われる三人組だった。

 男はスポーツ刈りの頭に無駄な筋肉が一つもなく、健康そのものの体格をしていて、ランニングシャツとジーンズという恰好で、それだけを見れば、何かのスポーツをやっている選手に見えなくもないが顔はかなり人相が悪く、角を付ければ鬼というにふさわしい条件を見事にそろえていた。

 もう一人の男はロン毛にずる賢そうな顔という嫌な組み合わせを成立させ、表情がかなり狡猾な人間だった。暗い紫のスーツで誤魔化そうとしている様だが体格は、かなりやせ気味で貧弱という印象があった。この男の場合、身体より頭を使ってハメようとするようなのでそれは全然関係ないのかもしれない。

 三人目の女性は、誘拐犯とは到底思えないもの静かな女性だった。黒髪を背中まで伸ばして綺麗に整え、黒いシャツ、ジャケット、ロングスカート、ブーツで身を固めている。それはまるでこれから倒れ行くメダロットや誘拐された子供達への喪服のように見える。そして彼女は首に例の紫のチョーカーをはめられていた。そのせいなのか目が空ろで心なしかどこか、誘拐をしようとしている自分に抵抗しているのを抑えているという矛盾が表情に表れていた。

 

「そこまでだ。ガキ共、大人しく牢に戻るんだ」

「でないと痛い目にあいますよ?それでもいいならいいですが。クックックック……」

「……」

 

 鬼男は威圧的に声を上げ、ロン毛はサディスティックな表情を浮かべながらねっとりとした口調で盧遮那達に声をかける。

 

「へぇ。どんな目だぃ?」

「こんな目にですよ!」

 

 恐れもせず不適に笑う盧遮那に軽い殺気を送りながらロン毛はメダロットを転送した。鬼男と黒髪女もそれぞれのメダロットを転送した。

 ロン毛のメダロットはスピリットアウェイと呼ばれるメダロットだ。

 何もないのっぺりとした顔に外套のように柔らかで真っ黒な装甲はまるで死神のような姿を連想させる。さらに胸に溢れては空気に消えていく赤い光があった。それはまるで心臓が脈動するように赤い輝きを放っていた。赤い光がどうやらメダフォースのようで恐らくメダフォースを常時、溜め続ける増幅装置ではないかと推測できる。

 鬼男のメダロットはマリンスペードと呼ばれるイカ型のメダロットだ。アビスグレーターと呼ばれるメダロットのデザインを受けづいていて、流線的な機体フォルムと白と黒のツートンカラーが印象的な機体だ。

 黒髪女のメダロットはサムライカンナと呼ばれる侍型のメダロットで重く無骨な鎧と旧式のナンテツが装備しているようなビームソード二刀流が印象的だ。

 

「やれやれ、こりゃ、一筋縄には行かんか……」

 

 盧遮那は相手がこれまでの敵とは違う事を確信するとメダロッチをヘッディーに向けて盧遮那が所持しているソニックスタッグのパーツ一式を送信した。

 

「うわっ!?」

 

 すると盧遮那のメダロッチから光が放たれてヘッディーを包むとヘッディーは中破したヘッドシザースから傷一つないソニックスタッグへと姿を変えた。

 ソニックスタッグはKWG型の最新機の一つで変形機構を有した格闘型メダロットだ。

 

「どうだ?あんさんの戦い方をゼロから聞いて一番よさそうなパーツを貸したんだがね」

「わ、悪くないな。礼は言わねぇからな」

「別に恩着せがましい事は言わんよ。それで奴らを倒してくれれば文句はない」

「…わかった」

 

 盧遮那は複雑な表情を浮かべ、前を向くヘッディーを見て頷くと素早く作戦を立てて、全員に指示を与え始める。

 

「それでいい。さて、ゼロは子供たちと一緒にそのまま脱出してくれ。そのフライトユニットの性能なら一人で行けるだろ?」

「無論だ。では行くぞ。お前達、俺について来い」

 

 ゼロは子供を引き連れると城の入り口へと急ぐ。それを見送ると盧遮那は敵のほうに向いた。それに従うようにカオス、エンジェル、ヘッディーが前に出た。

 

「よし。桜。志帆。俺らは奴らをやるぞ。ゼロが出口まで誘導するまで時間稼ぎだ」

「わかったわ」

「うん!行こう!」

 

 カオス、ヘッディー、エンジェルが散開するとメダロッチから『robottle fight』の文字が…出なかった。

 

「なるほど。アンジャストロボトルか」

 

 盧遮那は少し舌打ちしながら呟く。

アンジャストロボトルとは文字通り正義のない無法ロボトルである。アンジャストロボトルに限り、全てのルールが解除される。負けてもパーツを渡さなくてもよく、何だってしていいのである。これだけ聴けば聞こえはいいが逆に全てのメダロットを撃破しなくはならず、メダルを破壊される恐れもある危険性もはらんでいる。

 余談だが辻ロボトルもこれに分類されている。

 

「そうさ。裏の世界にそんなルールが通用すると思うか?やれ!エティン!」

「アナタ達のメダルを破壊して差し上げますよ。やりなさい。リッチ」

「おう!殺しあいだぁ!!」

「ふっ。行きますか」

 

 リッチと呼ばれたスピリットアウェイはサムライカンナに近づいてワープを発動した。ワープとは現在地と目的地との間の移動する時間を圧縮し、現在地と目的地を繋げて行き来する移動型の能力だ。それは自分のみならず味方を都合のいい場所に移動させたり、攻撃されようとしている味方を避難させたりと幅の広い使い方が出来る。しかし、メダフォースを多量に使用するため頻繁に使う事ができない。

 ワープを発動させるとリッチは下に跪いてサムライカンナの足元に黒いワープゲートを開いた。開かれたワープゲートはサムライカンナを吸い込んでそのまま消滅した。

 

「カムイ!」

 

カムイと呼ばれたサムライカンナはカオスの背後にいきなり現れてビームソードを振るう。狙いは頭部だ。

カオスは気づいていたが回避が間に合わない。しかし、ビームソードはカオスを切り裂く事はなかった。

 見てみるとヘッディーがカムイに体当たりを仕掛けて体勢を崩したため、ビームソードはカオスから反れて空を斬るだけだった。

 

「お手数をかけてすいません」

「気にすんな。あんたには聞きたいことがたくさんあるからな」

 

 カオスの礼を聞いたヘッディーは隠蔽で姿を消すとカムイに攻撃を仕掛ける。カンナは何とか最低限の挙動で回避し、ビームソードを振るう。

 ヘッディーは隠蔽で狙うのに時間がかかっていたため、回避し、振り切った隙を見てハンマーを振るった。今度は当たり、右肩鎧を潰した。

更にカオス、エンジェルが追撃のライフルを放つ。

 カムイはまだ潰されていない左肩鎧で弾丸を反らしてダメージを軽減する。

ヘッディーはさらに攻撃を仕掛けようとしたが背中に衝撃が走った。

 

「何ッ!!?」

 

 何と背後からいつの間にか池に潜んでいたエティンと呼ばれたマリンスペードがブースターで勢いよく水の中から飛び出してハンマーを振るったのだ。

 どうもこのマリンスペードという機体はアビスグレーターと比べると攻撃性を重視されており単機での攻撃力が飛躍的に高まっているようだった。

 

「甘ぇぜ」

 

 エティンは再び、水の中に潜ってチャンスを伺い始め、リッチは素早くカムイに近づいてワープを行い、カムイを回収して間合いを離す。

 

「敵は奇襲戦法を得意とする…。やはりと言うべきか」

「策はあるの?」

「とりあえずリッチとか言う奴が、どのくらい、実体化してないかだな。ワープはメダフォースを引き換えかつ対象に密着する事で自分もろともワープして任意の場所に移動する。ならワープされる前に対象になるカムイを狙うぞ」

「わかったわ。エンジェル!行くわよ!」

「了解~」

「ヘッディーも続いて!」

「あいよ!!」

 

 盧遮那の指示を受けた二人は各々の相棒にそれに合った命令を下す。

 その瞬間、カオス、エンジェル、ヘッディーが動いた。

 カオスとエンジェルは、ライフルで脚部、頭部、右腕、左腕と代わる代わる狙うパーツを変えながら連射し、ヘッディーは頭部の機能を使って隠蔽をさらに強めて、その射撃の流れ弾に当たらないように前へと進む。

 カンナは肩鎧で防御しながら横に走り、林の陰に隠れる。ところがエンジェルの弾は来なくなったがカオスの弾は木を貫通して、カムイを襲った。

 

「目障りなんだよ!!」

 

 その間、エティンはカオスを執拗に襲い始めたがカオスはただ、棒立ちしていたわけではなく軽く横にステップしながら必要最低限の挙動で回避行動を取っていた。カムイを見て、カムイの回避法からアレンジして編み出したものだ。

 たまに当たる事もあったが、それはもう当たらないと判断したエンジェルが左腕のビームシールドで援護するため、攻撃がほとんど阻まれてしまう。さらに、カオスが振り向き様に命中率を重視したガトリングを放ち、エティンは思わぬ反撃を受ける事となる。

 カオスは次にメダチェンジをして、高威力のレーザーをエティンに放った。ブースターの勢いを失ったエティンは、回避する術がなかった。

 が、間一髪でリッチが素早く近づいて、ワープする事で難を逃れる。

 

「今だ!」

 

 カオスは一回、ワープを使った事でここぞと言わんばかりにメダチェンジを解除して、攻めに走る。林を利用して三角蹴りの要領で高く飛び上がり、リッチに上空からライフルを三連射する。

 一発目。リッチは何とか回避する。

 二発目。さらに回避に成功するが体勢を崩した。流れ弾は水面にいたエティンをかする。

 三発目。ライフルの弾は体勢を崩したリッチの右腕を吸い込まれ、貫いた。

 

「おまけで~す」

 

 さらにエンジェルがダメ出しのライフルを放って、脚部を狙い撃つ。リッチの脚部は完全には破壊されなかったものの機動力を削ぐ事に成功した。

 カムイが逃げ回る中、ヘッディーが突然、姿を現して斬りにかかった。

 

「いっただき!!」

 

 その斬撃はカムイの右肩鎧を中ほどから斜めに切り落とした。

 

「……・」

 

 カムイは斬った時の隙を逃さず、反撃のビームソードでヘッディーの脚部装甲を切り裂く。ヘッディーは間合いを離すと林に姿を隠して機会を伺い始めた。

 カムイはヘッディーの行動を見て、自分が隙を見せなければ移動可能と判断して、すぐに他の二機の応援に向かった。

 

「畜生め。なかなか侮れん。あのガキ共」

「ですねぇ。私の理想としてはもうそろそろ倒した感じだったのですが…不快です。私の理想は絶対だと言うのにこうもあっさり壊されるのは我慢なりませんね」

 

 鬼男は舌打ちをしてロン毛に話しかける。これまでねっとりとした声で相手を怖がらせようと努力していただけのロン毛は同意し、隠しきれない殺気を放ち始める。鬼男はその様を見て、やっとやる気になったかと思いながらメダロッチを見る。

 現在の戦況はヘッディーが一番損傷していて、カオスとエンジェルはエティンによってかなりやられていたが損傷が思ったより少なかった。

 対する自分たちはカムイが各部に軽い損傷し、両肩鎧も大きく損傷している。リッチは左腕をやられ、脚部が損傷していて推進に問題が発生していた。エティンはカオスの反撃により軽いながらも損傷を受けていた。

 つまり、自分たちは今、余裕で勝つどころか逆に不利な状況に立たされていた。

 

「お前の場合はそうだな。…なら本気を出そうじゃないか!」

「言われるまでもないですね」

「エティン!メダチェンジだ!!奴らに闇の住人の力を見せてやれ!!」

「リッチ。メダチェンジです。私の理想を破壊したものに罰を!」

鬼男とロン毛はここで本気の声を出し、それぞれのメダロットに指示を下し鼓舞した。

「やってやるぜ!!」

「やりますかねぇ」

 

 二人の指示を受けたエティンとリッチはそれぞれメダチェンジを始める。

 リッチは仮面が変形し、隠された顔が現れた。そこには何かを発射する銃口が備わっていた。どういうものかはわからないがリッチはただの補助メダロットではない事を示唆していた。

 一方、エティンはメダチェンジするとイカそのものの形に変形する。

 リッチはいきなり銃口から光る弾を放ち、さらにエティンは体当たりする。

 不意を突かれたカオスはエティンの体当たりによって吹き飛ばされ、そこに光る銃弾を叩き込まれて回避が出来ず被弾した。

 

「いやぁぁ!」

「…!?(ダメージは頭部にわずか…?何が起きている?)」

「カオス。何があった?」

「くっ…内部に負荷がかかっています」

 

 それを聞いた盧遮那は、カオスの内部パーツを、メダロッチを使って素早く解析した。そこにはメダルに一時的な負荷がかかっていたという結果が出た。

 盧遮那はその結果で何故、アンジャストロボトルなのかの意味を悟った。

 リッチの頭部の銃口の正体はメダフォースをエネルギーにして発射するもので、機体へのダメージは少々物足りないがメダルに負荷をかけることが出来るため、上手くすれば相手を硬直させる事ができる。さらに連続で命中すれば、メダルを破壊する事もできる凶悪な武器だ。

 恐らく、このスピリットアウェイなるメダロットは違法パーツと言っても過言ではない性能を持っている。ワープといい、内部破壊メダフォース砲といい、明らかに公式戦であれば確実に禁止にされかねない攻撃法だ。

 

「ちっ…なるほど。内部破壊。それもメダルをか。みんな、奴のメダフォース弾に当たるなよ。かなり危険だ」

 

 盧遮那はそれに毒づくと矢継ぎ早に全体に指示をした。

桜と志帆は無言で頷いた。しかし、顔にはメダル破壊の恐怖が入り混じっている。メダルはメダロットの全てであり、それが破壊されれば、そのメダロットとは二度と会える事はなくなるのだから。

ただ、こちらに手が無い訳ではない。リッチの能力は事あるごとに多量のメダフォースを使わなくてはならない。メダチェンジしてしまったため、常時メダフォース充填の恩恵を受けられず、メダフォースはすぐに尽きかねないのだ。しかし、危険には変わりない。

 盧遮那達は心してかかり始めた。

 

「さぁ、逃げ惑いなさい。子羊達!!」

 

リッチはメダフォース弾を連射し、エティンがバキュームとショックを駆使して反撃を開始する。

カオスはメダフォース弾を回避しつつ、リッチにガトリングで応戦する。いくらメダチェンジをしていても脚部の機動力低下は残っているらしく、しっかり命中した。

リッチはメダフォース弾をそれはまるでメダフォースが無限にあるようにひたすら連射する。少しするとメダフォース弾の連射をやめて、素早く移動を開始した。向かう先はカムイのいる場所だった。

 カオスは意図を悟ってエンジェルと共にライフルで狙撃するがなかなか当たらない。

 そしてリッチがカムイのいる場所に到達するとワープを行った。

 それによりカムイが加勢し、カムイがワープによりカオスの背後からいきなりビームソードでカオスに斬りつけた。カオスは何とか反応し、身をひねってかろうじて頭部への攻撃を免れたが避けきれずに脚部を斬られた。

 カオスは何とか間合いを離して、カムイにライフルを狙い撃つ。

 エンジェルはそれを見て、ライフルで援護する。が、ワープを終えたリッチが再びメダチェンジをして、メダフォース弾の連射を始めたため、エンジェルはシールドでカオスを援護しつつ、ライフルでリッチに応戦する。

 

「くっ……」

 

 カオスはエンジェルの援護があるもののカムイの攻撃とリッチの危険な攻撃に苦戦を強いられる。機体の損傷的にはこちらが勝っているが状況的にはこちらが遥かに不利だった。

ヘッディーはリッチがカオスに気を取られているその隙に斬りかかろうとした。

 

「ヘッディー!!避けて!!」

「何ッ!!?」

 

 志帆が叫んだ時はもう遅く、何かに捕まれた。振り向いてみるとエティンがバキュームでヘッディーを捕らえていたのが見えた。

 どうやらマリンスペードは変形するとバキュームとショックで相手の位置をずらす妨害型の性能を備えていてこれで位置を支配し、自分たちのペースに持ち込むのが主目的のようだった。

 

「へっ…俺と殺しあおうぜ!!」

「くっ…」

 

 ヘッディーはもがくがエティンのバキュームは体中にしっかり縛られていて脱出は不可能だった。ヘッディーは脱出が出来ないまま水中に大きな音と共に引きずり込まれた。

 

「オラオラオラ!!どうしたんだ?さっきまでの勢いは?あぁっ?」

 

 水中に引きずり込むとエティンはメダチェンジを解除してハンマーでジワジワといたぶり始めた。ヘッディーは水中では素早い動きが出来ず、一方的に攻撃を受けるしかなかった。

 

「…(畜生。どうすりゃあいい?)」

『ヘッディー!聞こえる!?メダチェンジして!』

「…(メダチェンジ?…そうか!)」

 

志帆の指示を聞いて何かを閃いたヘッディーはメダチェンジをした。

ソニックスタッグはメダチェンジする事で飛行型となるこれで二脚よりは水中を移動しやすくなる。さらに…

 

『対水魚雷発射!』

「おうよ!」

 

ヘッディーは志帆の声と共にありったけのアンチシーを発射した。

アンチシーは潜水型に対しては通常の効果に比べて16倍の効果を発揮する。潜水型のエティンには効果的で格闘機体だろうが命中させるのは容易だ。

 

「何だとっ!!?」

 

エティンは思わぬ反撃を見て回避行動する。しかし、大量のアンチシーを回避出来る潜水型がいるわけもなく大量に被弾した。

 

「うぐわぁぁっ!!」

 

 エティンは、断末魔の声を上げたがアンチシーは爆発で水柱をあげながら容赦なくエティンの身体を破壊し、もはやスクラップ同然にした。

 水柱が収まるとエティンは外れたメダルと共に水面に浮かび上がった。

 

「エティン!くそっ!何があったってんだ!」

 

 鬼男はあり得ないと言わんばかりの表情をして叫ぶ。

その直後、機体を中破させながらもメダチェンジしたヘッディーが水中からシャチのように飛び出してそのまま空中に飛び立つ。

 

「ヘッディー!」

「畜生っ!」

 

 志帆は歓声をあげ、鬼男はソニックスタッグのメダチェンジ後の能力に気づき、毒づくがもはやどうにもならなかった。

カオスはそれを見るとチャンスと判断してエンジェルのいる場所にガトリングを撃って足止めをしながら下がる。更にヘッディーがその横に降り立つ。

 

「エンジェル!リミッター解除して回復を!」

「了解~」

 

エンジェルは桜によってリミッターを外され、回復を行った。

中破したヘッディー、ライフルを失ったカオスの損傷が破損部位をも貫通して瞬時に修復し、それによりカオスとヘッディーの装甲は完全に修復された。

 

「反撃開始だ。カオス。メダチェンジしてアレを試すぞ」

「了解しました」

 

 ライフルを取り戻したカオスは、林へと身を隠し、ステルスを発動させた。すると敵からの索敵では認識できなくなり、始めからいないかのようになる。さらに林に姿を隠した事で擬似的な完全隠蔽の効果を得たため、カオスにとっては大きな攻撃チャンスとなる。

 一方、カムイとリッチはカオスを見失ったため、やむなく、エンジェルの援護射撃に注意しつつ、ヘッディーを攻撃する事にした。

 ヘッディーはメダチェンジを解除するとリッチの攻撃に当たらないように回避をし、カムイに応戦した。

 ここでリッチがメダチェンジを解除して溜め始めた。どうやらメダフォース弾による脅しは失敗したと判断したらしく、再びカムイとの連携をとろうとしているようだった。

 

「させるか!!」

 

 それを見たヘッディーは動きの遅いカムイを無視して、リッチを攻撃しようと駆け出す。再びワープをされると面倒である。

 が、その瞬間、いきなりカムイが割り込んできた。どうやらワープ用のメダフォースを温存していたらしい。

 カムイはワープによりヘッディーの死角へと潜り込み、そのままビームソードで斬る。

 ヘッディーは突如の出現に戸惑うが迷わずソードでカムイに攻撃を仕掛ける。

 そして、二体の攻撃が交錯し…相打ちとなった。

 相打ちによってヘッディーは肘から下のハンマーが付いた左腕を切断され、カムイは、機能停止こそしなかったものの胸部装甲を斬り裂かれた。

 カムイは再び、ビームソードを振るった。今度は左側からの攻撃だった。

 ヘッディーは、回避はできないと判断して、阻止しようとしたが左腕がないため、右腕のソードで受けようとする。しかし、このままでは間に合わず、直撃は免れない。

が、その時、シュウと何かが収束したような音がした。そして何かが高速で発射され、カンナのビームソードとおさげを吹き飛ばした。

 カムイはおさげを破壊された事でバランスを失ったらしく倒れて起きあがれなくなる。

 

「……!?」

 

 黒髪女は突然の事に驚き、辺りを見回す。すると林の影にメダチェンジをして、砲口からエネルギーを溢れているキャノンを構えたカオスが潜んでいた。

 黒髪女が発見した頃にはカオスはリロードが終わり、また何かを収束させ、今度はリッチに撃ちだした。リッチは反応出来たがあまりの速さに回避できず、右腕を持っていかれた。

 

「思いつきもたまには役に立つもんだ」

 

 盧遮那は攻撃の成功を見ると、してやったりと笑う。

盧遮那がカオスに命じたのは、カオスのメダチェンジ後のキャノンはライフルとレーザーを使い分ける事が出来る事を利用して、まるでレールガンのように、レーザーでキャノン内に電磁場を発生させ、ライフルを超高速で撃ちだすというものだ。

発射までにタイムラグがあるものの、威力が高い上に驚異的な速さで発射されるため、気づかれずに発射すれば、ほぼ確実に命中する。ただ、弾速は速くなるが威力の方はレーザーのように攻撃力が倍になるわけではなく、ライフルの威力が若干高まる程度である。その欠点を差し引いても、これはステルスを搭載したカオスにはとても相性のいい特殊攻撃と言えた。

 さらに盧遮那はカオスにカムイのおさげを破壊するようにも命令していた。

 重い鎧を纏ったカムイは、防御力は高いが鎧が前にばかり装備されていて偏っている。このままでは前に倒れるのは言うまでもない。そこで重りとしておさげを後ろに付ける事でバランスを取ろうとしたのだ。

 これでバランスは確実に取れるようになり、ついでに恐らくは攻撃も兼ねるため、万々歳だったが、それがかえって、弱点になる事までは手が回らなかったようだ。

 

その攻撃に続くようにエンジェルがライフルでリッチを攻撃した。

 リッチはライフルを回避するように回避しようとした。ところが急に重力が束縛して動きづらくなり左腕に命中した。命中するとさらに重力が束縛していった。それはまるでライフルにプレスか何かが仕込まれているかのようだった。

そう、エンジェルはリミッター解除を既に行われていたので頭部によるパーツ蘇生の他にも新たな能力が備わっていた。リミッター解除をする事でライフルに重力属性が付与されて、盾にも重力属性が付くため重力無効の追加効果が付いていたのだ。

 

 格闘の間合いに入ったヘッディーは重力で束縛され、満身創痍のリッチに素早く近づくとソードでリッチの胸を切り裂いた。切り裂かれたリッチは力なく横たわった。

 

「ああっ!?リッチ!!」

 

 ロン毛はみっともない悲鳴を上げて頭をかかえた。どうも過剰なまでに満ちた自信が根本から折れてしまったらしい。

黒髪女はそれに感慨も抱かずそれを見て戦闘を続行する。

 

「脱衣を」

 

 黒髪女がそう宣言するとカムイは鎧を排除し、飛躍的な軽量化をした。するとさっきまでの遅い動きとは打って変わって、驚異的な素早さで縦横無尽に動き回り始めた。

 カムイは動き回る中で何かを投げつけてきた。

 それはカオス達の近くで破裂して、けたたましい音と目が眩む程の強い閃光を放った。

 

「ぐあぁっ!!?」

「ちっ……・」

「まぶし~」

 

 ヘッディーはそれをまともにくらって視覚と聴覚を潰されたがカオスとエンジェルは反射的に両腕で閃光を防いだため、聴覚を潰されるだけに止まる。

カムイはさらに何かを投げてきた。今度はエンジェルに着弾すると爆発してシールドが破損した。カオスとエンジェルがヘッディーを守るようにライフルを撃つが相手は速すぎるため、狙いが付けられず、一方的に二種類の爆弾を投げつけられ、隙あらば殴る蹴るの嵐を仕掛けられる。

 

「ルウ。このままでは一方的にやられてしまいます。何か手はありませんか?」

「手ねぇ…」

 

 盧遮那は周りを見回してみる。見回してみると立っている木が少なくなっていた。激しい戦闘に木が耐えられなくなったのだろう。特にカムイのナパーム爆弾により根元がやられていたためであるのが大半だった。それにより周りは開けていて射界が全方位に取る事が出来た。そのため、逆にカムイの方からもこちらの事は丸見えだった。

さらに盧遮那はカムイの鎧を見た。見た先にはカムイのかなりの数の黒い鎧がばらまかれてあった。この鎧を外した事により防御力と引き換えに圧倒的な機動力を得て、動き回っているのだろう。

 

「なるほど。かなりの量だ。道理でさっきまでは硬くて今は恐ろしく早いわけだ。ってなればそれと引き換えに防御は……そうだ」

 

 盧遮那はメダロッチで自分のチームの各メダロットの状態を素早く調べた。カオスは機体全体が損傷しているが全機能がまだまだ使えるようになっている。エンジェルの方はシールドが破損し、頭部の回復の回数が0となっていてかなりの損傷を受けているがライフルはまだ使えた。

 

 ヘッディーの方は回復で全体の損傷は比較的少ないが左腕がなくなっていて、隠蔽も後二回になっていた。

 

「いけるな…桜!」

 

 盧遮那が話しかけると桜が盧遮那のほうに目を向けた。

 

「下手な鉄砲は数撃ちゃ当たるぞ」

「…わかったわ。エンジェル。全方位にライフルを撃って。狙いはつけなくていいわ」

 

 盧遮那のわけのわからない言葉の意図を察した桜はニッと笑うとエンジェルにその言葉に従った行動を指示する。

 

「は~ぃ」

「カオスもエンジェルと一緒に撃ちまくれ。使うのは攻撃面積の広いガトリングだ」

「了解しました」

 

 盧遮那と桜の指示でカオスとエンジェルは互いの背中を預けて背中合わせの状態となり、マガジンに弾丸がまだ残っているにもかかわらず弾丸のリロードを行った。

 ヘッディーはそれの意図を察して伏せるように低く構える。

 全ての準備が整い、三体のメダロット達はカムイの出現を待った。

 ……そして、カムイが爆弾を手に持ち、林の中、カオス達の上へと飛び出して爆弾を投げようとした。

 

『今だ!!』

 

 盧遮那と桜が叫ぶとカオスとエンジェルはその声と共に全方位に手当たり次第、それぞれの武器を乱射した。正確に頭部を狙う必要はない。ただ当たればいいという風な撃ち方だ。

 

「!?」

 

 カムイはその攻撃に多少、戸惑うが臆する事無く、回避しようとした。最初は避けられていたかに見えたが、さすがのカムイの機動力をもってしても全方位であまりにも広範囲な弾幕を回避しきれず何発か被弾してしまった。普通のメダロットなら大した事のない被弾だったが鎧を外してしまったカムイは違った。被弾した箇所はティンペットが露出し、まともに歩けない状態になっていた。爆弾も持つのがやっとだ。

 そこにすかさずヘッディーがソードを構えて高速の一撃を放った。それはカムイの頭部を捕らえて仕留める一撃だ。

 

「これで終わりだっ!!」

 

 が、その攻撃はカムイを捕らえることなくすり抜けて空しく空を切るだけだった。そしてカムイはいつの間にか背後に回るとヘッディーの頭部で空手の突きらしきパンチで殴る。

 

「何……・っ」

 

 ヘッディーはそれにより頭部に深刻なダメージを受けてしまい、機能停止した。

 何故、カムイがいつの間にかヘッディーの背後に回りこんでいたのか。それは何と、倒れたはずのリッチが密かに地を這うように移動をして、カムイの足元でワープを何とかやってのけたからであった。倒れた後、胸部のコアをやられて、効率が格段に落ちたがその時は誰も気付いていなかったため、容易にメダフォースを溜める事ができた。

 

「ふっふっふっ…リッチはまだ戦闘不能ではないのですよ。残念でしたね。(…その時は私もやられたかと思ったのですがあんな声を出して損したものですよ)」

「ちっ……」

「さぁ!メダルを破壊するのです!!リッチ!!」

 

 リッチはメダチェンジするとメダフォース弾を撃とうとヘッディーのメダルに照準を向けた。カオスはその瞬間、盧遮那の命令を待たずに自発的にヘッディーのメダルを守ろうと走り出す。

 

「ヘッディー!!」

「エンジェル!ライフルで援護を!!」

「弾がもうないで~す」

 

 志帆が叫ぶがリッチがそれで止まるはずもなかった。エンジェルは何とかライフルを撃とうとしたがその時には弾切れだった。

 そしてメダフォース弾が放とうとエネルギーが溜まり発射された。

 それによって小規模な爆発が起きて土煙が辺りを包む。

 

「…………」

 

 志帆はその光景を目の当たりにして目の前が真っ白になった。もうヘッディーが……。そうおもってしまった。

 

「ふぅ。まずは一人。手間取ってしまいましたが今度はあなた達の番ですよ」

 

 ロン毛は嫌みったらしい口調で高らかに宣言し、メダロッチを見た。どうもカオスもメダフォース弾に巻き込まれたのか反応がなくなっていた。それを見ると今度はカオスのメダルを打ち砕く瞬間を想像し始めていた。

 

「まずいわ。このままじゃ…」

 

 ロン毛がニヤリと笑う様を見た桜はかなり焦った。このままでは移動ができないというアドバンテージがリッチによって補われてしまうのだ。

 桜は何か策は無いかと考える。思いつかなかった。思いつかないので盧遮那を見る。盧遮那は……メダルを破壊する事で自分の有利を誇張する事しか出来ないロン毛に……キレていた。

 

「下らねぇ。見た目や口調が腐ってんなら中身も腐っているか」

「…ルウ?」

「あっさりめに行きたかったがもうなりふり構わん。カオス!メダフォースだ!!」

『え?』

 

 盧遮那がもう反応の無いカオスを叫ぶのに全員が驚いた。もはや機能停止しているのかと思っているのだ。

 

「はい!!」

 

 何とカオスがその声に答えた。そして何かの力で土煙が晴れる。そこには機体を中破させながらもこれまで使わなかったメダフォースを開放し、左手にヘッディーのメダルを離すまいと握り締め、混沌とした黒いメダフォースに包まれたカオスの姿があった。

 

「何だと!!?」

「ヘッディー!!よかった……。無事で……・」

 

 ロン毛はその光景に驚き、志帆はヘッディーの無事に心から涙した。

 あの爆発の直前、カオスは何とか間に合い、リッチに立ちはだかる事が出来た。そしてリッチのメダフォース弾をヘッディーの代わりに自ら身代わりとなって受けた。一時はメダルが壊れるかと思ったが何とかメダルにヒビ一つ入れる事無く耐え切って、土煙が舞う中でヘッディーのメダルを回収し、ステルスを発動させて自分も撃破されたかのように見せかけたのだった。

 

「……もう貴方を許すわけにはいきません」

 

 土煙からカオスはライフルを構える。銃口から黒い光が収束していた。

 

「まずい。おい!お前!!俺達もメダフォースだ!」

「無理です。私に支給されたのはデスメダルです。メダフォースは不可能です」

 

 黒髪女はあくまで事務的にそう言い放つとカムイに巻き込まれないように何とかリッチから離れるように指示した。

 

「くそっ!!リッチ!!」

 

 毒づくとリッチにメダフォースを放つ準備をした。わずかに動くメダフォース増幅を使いつつメダフォースを高め、紫のオーラを自分の身に纏わせる。

 

「リッチ!メダフォース発射!!」

「はぁっ!!」

 

 リッチは紫の大きなメダフォース弾を放つ。

 

「カオス!!行け!!」

「行きます!!」

 

 カオスも黒いメダフォース弾をライフルから放った。

 放たれた二つのメダフォースはぶつかり合い……・黒のメダフォースが紫のメダフォースを貫き、そのままリッチに向かって黒き槍と化して飛んでいき…貫いた。

 貫かれた瞬間、黒い爆発が起きて、リッチはメダルを残して機体が使い物にならない位、破損させて倒れた。

 

「ば、バカな……」

「格が違うんだよ。下種が。てめぇのような壊す事でしか威張れねぇような奴にカオスが負けるわけがねぇ。実力の方はこれで台無しだ」

 

 ロン毛が力ない声で呟きながら跪くと盧遮那はロン毛以上にサディスティックな目で見下して、口汚く罵った。

 

(また、口調が変わってる…。言っている事が正しくてもやっぱり恐いわ)

「さて……終わりだ」

 

 盧遮那がそう宣言するとカオスは機動力が大幅に低下しているカムイにとどめのライフルを放った。カムイは避けようとしたが大きく破損した機体が思うように動かず命中し力なく倒れた。

 すると任務失敗したと判断され、黒髪女の紫のチョーカーが外れた。

 黒髪女は我に帰ると辺りを見回すと盧遮那達に気付いて駆け寄ってきた。

 

「あなた達、大丈夫?」

「催眠が終わったんですね。よかった。とりあえずこちらのもう一体のメダロットが子供達と一緒にセレクト隊を呼んでくれているでしょうからこのロン毛と鬼男を縛ってしまいましょう」

 

 桜がひとまずその場を落ち着かせ事を提案すると、全員はそれに頷き、放心状態のロン毛と愕然としている鬼男を捕まえようとした。

 

「うおおぉっ!!」

 

 大声と共に鬼男はいきなり盧遮那に全力で殴りかかってきた。やはりと言うべきかこのまま捕まるのはごめんならしい。

 盧遮那は無造作にそれを捌くとそのまま鬼男の腕を掴み、鬼男の力を利用して回すと大して力を使わずして鬼男をあっさり回転させながら投げ飛ばした。

 鬼男は吹き飛ばされたが腕を押さえながら立ち上がると再び、盧遮那に殴りかかる。

 が、その時、黒髪女が立ちふさがった。

 鬼男はそれにかまわず殴りかかる。黒髪女はカムイがやったように必要最低限の動きで避けるとカウンターで全力のストレートを叩き込み、鬼男が怯んだ隙に股間を固く黒いブーツで潰した。鬼男はそれにより股間を抑えて地面に跪く。そしてとどめに踵落としをキメると鬼男は静かになった。

 その光景に三人は唖然とした。どうもこの黒髪女は見た目の割に喧嘩に強いらしい。こうなってくると何故、ロン毛と鬼男にやられて、操り人形にされたのか理解できなかった。

 

「動くな!」

 

 そう考えているとロン毛がいつの間にか桜の首に刃物を突き付けて、お得意の狡猾な口調で脅してきた。が、鬼男があっさりとやられているのを目の当たりにしているせいか、顔は弱気でへっぴり腰になっていた。

 

「くっ…このままじゃ、またあの時と同じじゃない…」

「心配ないっすよ。桜!」

「はぁっ!!」

 

 桜は既にキレた時から戻っている盧遮那の声と共にロン毛の腕を、刃物を避けつつ掴み、背負い投げをした。

 ロン毛は突然の事態に訳がわからないような様子だった。自分が倒れた時には間接を変な方向に曲げられて恐ろしい激痛が走り、痛さに顔を歪ませて、刃物を落とした。

 その時、ゼロが子供達の代わりにセレクト隊を引き連れて戻ってきて、ロン毛は盧遮那と黒髪女の手によって鬼男もろとも縛られてあえなく御用となった。

 

 

Part5:The Gothic Interlude

 

 その後、黒髪女を加えた盧遮那一行はセレクト隊に総合案内所に連れて行かれて事情聴取を受けた。盧遮那達は城の中で何があったかを事細かに説明した。

 

「なるほど。今、入った情報によると城に隠された地下があったらしい。白いKBT君から聞いた場所を調べたら面白い物がたくさん見つかったよ」

「バカな。私は実際に見て回ったがそんなものは全然、見当たらなかったぞ」

 

 その時、『ロゼオパーク』の責任者も立ち会っていたのだがどういうわけか何も知らなかったらしい。

 恐らく、『組織』がロゼオパーク建設の際、一枚噛んでおり、秘密裏に地下を勝手に作ったものじゃないかと桜は想像した。作られた形跡は『組織』なら作ったという事実すら抹消できる。

 現に、ロン毛と鬼男は調べにより城の開発の責任者である事が発覚し、出入りするのに何の問題ない立場にいた。

 仮に子供を連れ出して見つかったとしても、城で迷ったという事で泣いていたり、暗い顔をしていても、疑われる可能性は低い上に係員バッジを付けているので堂々していれば何の問題もない。

さらに、まだ調査中なのだが地下を捜索すると『組織』の資料が断片的ではあるがかなりの数で発見されたらしい。

これにロン毛と鬼男の事情聴取が加われば、『組織』についてセレクト隊、警察は本格的に捜査を開始する事ができるそうだ。

 

「あの…」

 

 黒髪女が口を開いた。それに気づいて警察官が黒髪女の方を向いた。

 

「私、誘拐に協力してしまったので自首したいのですが」

「あぁ、君の事ならもう調べたよ。桐原 芽衣さん。例のチョーカーで操られていたそうじゃないか。弟さんが説明してくれたし、隣には証人もいる。事情と証拠が確かなら、チョーカーの被験者は多少血液採取して無罪方面だよ」

「…そうですか」

 

 黒髪女…桐原 芽衣は罪償いが出来ないのを少し残念そうに思ったらしく顔を曇らせた。

 その辛気臭い顔に見かねた盧遮那は頬を掴んで黒髪女の顔を伸ばした。

 

「な、何するんですか!」

 

 突然の盧遮那の行動に芽衣はびっくりして盧遮那を見る。盧遮那はどうしようもない奴と呆れている感じのする表情をし、そのくせ、笑みを浮かべるという矛盾した顔をした。

 

「辛気くさい顔していても仕方無いわな。罪は認める必要はあるけどそれを重く抱えてちゃいかんな。ましてや捕まるわけでもないならなおさらだ」

「でも。私は仮にも犯罪に手を…」

「芽衣…とか言ったか。ベタだが人は誰もが罪を抱えてそれを後悔して生きてる。芽衣は人が当たり前のようにどうにかする方法も忘れてしまったんか?」

「…!」

「ルウ!言い過ぎだよ!」

「ルウの言う通りよ。優しすぎる言葉は時としていい結果を生み出すとは限らないと思う」

 

 感情的な志帆の言葉を桜は止めた。彼女はルウの言葉の真意を知っていた。

 

「罰を受ければ一時は楽になるかもしれない。それでも罪は一生残るわ。一生残るものに背なんて向けられないもの」

「償いも必要かもしれないけどそれを乗り越えるのも大事。どちらか欠けていては片方をやりきれても、もう片方を引きずってしまうんだからな」

「なら私はどうしたら良いっていうの!?」

「あんさんは法的には罪はない。後はあんさん次第だ。俺は何も言わない。そこまで考えてやる程、俺は優しくはないんでね」

「……」

「さて。こんな話は早く終わりにしよう。刑事さん。他に何か言うことはないですか?」

「もう十分な情報をもらったから帰っても構わんよ。『組織』には気を付けるようにな」

 

 言葉の応酬を邪魔にならないように黙ってみていた刑事はいきなり自分に話しかけられて少し戸惑ったが軽く咳払いをしてごまかすと今までの話を考えて頷いた。そしてとりあえず盧遮那達を取り調べから解放する旨を答える。

 

「了解です。じゃ、出ようか。この件は極秘裏に進めるからテーマパークは城が事故で閉鎖するにとどまるそうだし」

 

 盧遮那は話を聞くだけ聞くと自分がここにいる必要がないと判断して、一時的な取調室となっている総合案内所を後にする事にした。

 

「そうね。いつまでもここにいても邪魔になるだけだし」

 

 桜もそれに同意すると志帆と共に席から立ち上がって盧遮那に付いていく。

 それによって取調室には芽衣と刑事だけが残り、静寂が辺りを包んだ…。

 

 

 盧遮那達は外に出てからターゲット探しを再開した。

 とは言っても『組織』の騒動のせいで時計はもう夕方の四時半を指しており、仮に探し当てても、他の人間が倒しているか制限時間切れをしている恐れがあった。

 そんな懸念があったがここで止めるのも癪なため、盧遮那はその考えを黙殺した。もっとも、そうなった理由はあるのだから、恐れが現実になっても桜と志帆は納得してくれるとは考えられるが。

 

「にしてもルウって割とカッコいい事を言えたのね」

「カッコいいもへったくれもないただの経験上のモンだ。大したモンじゃあない。それにカッコいいセリフなんぞ言えない方が、後が楽だ」

 

 桜が感心したように盧遮那を褒めると盧遮那はあながち謙遜してるわけでもないが投げやりな口調で答える。さすがにアクシデントの規模が大きすぎたのか、多少、疲れている様子だった。

 

「あの人、大丈夫かな?」

「安心しろ。あいつはそんなヤワな奴ではないと思うぞ。俺の言った事をしっかりわかってくれたしな」

「そうね。わかる事ができれば意外と容易くできると思う。わかるまでが難しいのよ。こういうのはね」

 

 志帆の心配を盧遮那と桜はあっさり答えたが志帆はその辺の考えがまだまだ未熟ならしく、二人が言った事がよくわからず悩み始めた。

それを眺めながら盧遮那はいろいろと歩き回った。が、やはり遅すぎたのかターゲットらしき影が見当たらなかった。さらに園内放送で『今回のメダロットイベントはチャンピオンが倒されましたのでこれにて終了とさせていただきます。今回はたくさんのご参加をして頂き真に有難う御座いました』と鳴り響いて、盧遮那たちの目的が達成できなくなってしまった。

自分達の周りも朝とは違い、夜のパレードに備えて、夕食をどこかで食べようとする家族や、まだまだ時間があるからと一つでも多くのアトラクションに乗ろうと急ぐカップルなどが目的を変えて慌ただしく行き交っていた。

盧遮那は仕方ないのでイベントの案内所に戻って参加賞でももらいに行こうかと考えて桜と志帆の方に向いた。そこで桜と志帆の向こうに意外な人物がいる事に気づいた。それは黒ずくめの服が特徴の桐原 芽衣その人だった。

さらにその隣には桜と志帆と同じくらいの歳で、牢屋で見覚えのある少年がいた。おそらく、芽衣の弟なのだろう。そう考えれば芽衣が弟を救うために『組織』に味方したと考えても納得がいくというものだ。

 

「どうしたんだ?」

「無様な所を見せた事を詫びようと思いましてね」

「そうかぃ。でもそれだけじゃないんでしょ?」

 

 詫びは建て前と見抜いていた盧遮那は本題を言う様に促す。

 

「ええ。あなたの本気を見たいです。…いえ。見せなさい。貴方みたいな大会に出ようともせず、実力を有り余らせる奴に私の考えを折られるなんて屈辱的だわ」

「大会なんて舞台の一種にすぎんよ。舞台をそれだけにしてしまうあんさんの方がよっぽど有り余らせてるさ。それと今、イベントの参加賞をもらう予定だから無理だわな」

 

 芽衣の申し出に盧遮那は意外そうな目をした。が、考え直して断った。ここで道草を食っていると夜になるかもしれないし、スケジュールを大幅に変更しなくてはならないのだからやってられない。すると芽衣は無造作に腕に付けた和風なデザインのメダロッチからメダロットを転送した。

 転送されたのは魔術師を彷彿させるマント型の柔らかな装甲を纏い、甲冑の兜の様な頭部には三つの切れ目が入った仮面を装着した黒いメダロットだった。

 

「VAL‐02+D ミステルテイン。これが欲しいんでしょう?私が既にターゲットを倒してイベント賞品で手に入れたわ。これとプライドを賭けて勝負なさい」

「……わかったよ。既に時間切れだし、それを奪おうか。言っとくけど賭ける様なプライドは無いわな。俺は自信や譲れないものぐらいは持つが誇りや信念は持たない主義でね」

 

 盧遮那はそれを見ると諦めた様に頷くと警察の前ではしまっていたゼロとカオスを転送した。呼び出されたゼロとカオスはそれぞれ大剣、大型ライフルを構える。

 

「そうこなくては。アスラ!イヅハ!」

 

 芽衣が叫ぶとミステルテインは以前戦った黒いサムライカンナに変わり、もう一体、青い鎧を纏ったサムライカンナが出現して前に出た。青いサムライカンナは黒いサムライカンナと違って前に出る動作が速かった。どうやら青い鎧は防御力が黒い鎧と比べて低い代わりに素早い動きが出来るようだ。

 

「てめぇ!芽衣になんて口の聞き方をしやがる!!お前のような欲望に忠実な輩はあたしが成敗してやるよ!!」

 

 アスラと呼ばれた黒いサムライカンナは転送されて早々、盧遮那に向かって睨み付ける。その視線を感じた盧遮那は…全く効果が無いらしくいつもどおりのとぼけた目で見返した。その反応にアスラはさらに怒りのボルテージを上げていった。

 

「おやめなさいちうわけや。アスラ。盧遮那って男、殺気はさらさら、役に立たへんわ。こないな時は適度な落ち着きも必要よ?さもなきゃあいつのペースに乗せられてまうだけなんやから」

「しかし!イヅハ!!お前も聞いてたろ!?この変態が芽衣に『当たり前のこともできないんか』とかカッコつけたような口調で言うのをよ!!」

 

 イヅハと呼ばれた青いサムライカンナは関西弁まがいな喋り方でアスラを止めた。どうもアスラがアクセル役ならイヅハはブレーキ役のテコボココンビのようだ。

 

「あらあれで正しい思うで。あんさんが怒ることやないわ。芽衣がちゃんとそれを受け止めてそれをどう考えるかをちゃんと見届けんと」

「んな事がこの戦いと何の関係があるんだよ!!」

「イヅハらがここに攻めて来よったんは芽衣があの後、いろいろ考えて、折られはった考えをさらにつよしたからほんであいつにみせるため。恨みの戦いやないんだからアスラの方が間ちごうてんねんのよ。それにイヅハとアスラはそれの代弁者なだけやで」

「……ちっ。わかったよ!!」

 

 熱血バカなアスラと冷静で関西弁まがいな喋り口調のイヅハのコントを見物していた盧遮那はさぞ面白そうに笑いながら芽衣の方を見た。

 

「なるほど。『双刀一刃』とはあんさんの事だったか」

「え!?彼女が!!?」

「ええ。メダロット大会で好成績を叩き出す実力派。多彩な剣術で如何なる敵をも圧倒する事と刀と刀を連結させてツインランサーや大剣のように扱う事もあることからそう呼ばれているらしいわ。さっきまでは雰囲気のせいで気づけなかったわ」

「そういうこった。大したもんをお持ちな様だな。あんさんは。こりゃあ手加減や妥協は許されなさそうだ。ならここには確か、公式ロボトル用のフィールドがあったはず。そこで戦おうじゃないか」

「望む所よ。覚悟なさい。『白と黒の弾き手』!!」

「言ってろ。大口を叩くあんさんの力がどれほどのものか見せてもらおうか?『双刀一刃』」

 

 芽衣の意志の強さに敬意を表したらしく盧遮那の口調が本気になった。が、すぐに疲れた表情になった。

 

「……と言いたいとこだが今はさすがに誘拐騒ぎで疲れてる。ちょいと今からロボトルフィールドの予約をするから待っててちょうだいな」

 

 盧遮那は携帯電話を出すとロボトルフィールドの予約を始める。

 

「今は四時半だから…っておいおい…七時半以降まで予約が埋まってるな…。仕方ない七時半でいいか?」

「いいわ。それに疲れている敵を倒す趣味は無いし」

「話のわかる人で助かるよ。そうそう。逃げも隠れもしないからご心配なく」

 

 盧遮那は一旦、芽衣と別れ、しばらくの間、気分転換のため、桜と志帆と移動を始めた。その時、盧遮那は桜と志帆が話し込んでいるのを見計らって二人と距離をとり、カオスに話しかけた。

 

「さて、カオス。今から俺が頼む事を済ましたらヘッディーの所に行ってやれ。あいつはまたどっか消えたから寂しがってるだろうから今後のためにお前の過去話でもしてやれ」

「はい。それで……頼み事とは何でしょうか?」

「実はな……」

 

 盧遮那はカオスにだけ聞こえるように小声で頼み事を話した。それを聞くとカオスは少し驚いたかのような表情をする。

 

「……わかりました。名義はルウの名前を使って構いませんか?」

「構わんよ。ただコストを最小限にしておくれ。携帯代とかその他費用が跳ね上がって俺の貯めた金が飛んでしまったら話にならんよ」

「了解しました。資金の方は、心配は全くありません。あまりお金を使わずに用意する方法をもう考えましたので」

「そうかぃ。さすがだな」

「痛み入ります」

「ルウ~。どうしたの~?早く行きましょうよ~」

 

 盧遮那が桜と志帆から離れているのに気づいて桜が手を振って声をかける。それを見ると盧遮那は、桜に見つからないようにこっそりと、カオスの懐中時計型メダロッチを携帯電話にケーブルとつなげる。するとカオスのカメラアイが少しだけ発光して、携帯電話を通じてカオスが何かをし始めた。

 

「何でもない。すぐ行くわな」

 

 カオスとの短い秘密の打ち合わせが終わると盧遮那は桜と志帆と共にアトラクションに乗り、お土産屋を回り、夕食をとって束の間の休息を楽しむ事とした。

 カオスも盧遮那から頼まれた仕事を手早く終わらせるとヘッディーの所へと向かう。

 

 

 三時間後……

 

 

 場所変わって、ロゼオパーク内大型アリーナ。パーク内の東に位置し、ある時は細かく区分けされて、たくさんの人々がロボトルを楽しんだりするための憩いの場、ある時は敷居を外して何かのイベント会場として賑わうこの場所。今回はまるで違うものに変貌していた。

 区分けする敷居が全て外されて巨大なロボトルフィールド用のエリア出現装置が設置され、一つの大きなフィールドに姿を変えた。周りは臨時で増設したと思われる観客席があり、そこには何かを観戦しようと客がお金を取り急ぎ払って、突発的に始まったイベントを観戦しようと集まった人々が所狭しと入っていた。

アリーナ内にある巨大な液晶ボードには『緊急ロボトルエキシビジョンマッチ!!『双刀一刃』対『白と黒の弾き手』!!』とでかでかと表示されていた。

 盧遮那達が移動して土産を買ったり食事をしている三時間で何故か盧遮那に芽衣が決闘を申し込み、アリーナに行く事を察知し、ロゼオパーク関係者はスタッフを総動員して、取り急ぎエキシビジョンマッチの用意をしたのだ。

 エキシビジョンマッチの情報はスタッフから口コミで瞬く間に広がったようだった。

 アリーナ前に集合した芽衣とその弟を含む五人はアリーナがすっかり変わっているのを見て、盧遮那以外は驚く事となった。

 

「うわっ!皆!何だかすごい事になってるよ!」

 

 志帆はアリーナの変貌ぶりと液晶ボードに映った文字を見て、驚愕した。何がどうなっているのかさっぱり把握できず混乱しているようだった。

 

「…嘘みたい」

「私は、確かに決闘は申し込んだけどこんなものは用意できないわ。いつの間にどうして」

 

桜と芽衣もどうなっているのか訳が分からない様子だったが盧遮那だけはニヤニヤ笑っていた。それに気づいた三人は一斉に盧遮那の方を向いた。

 

『いったいどういう事!?』

 

 三人が一斉に盧遮那に問い詰めた。問い詰められた盧遮那は、ニヤニヤ笑っていたのがビビるどころか、さらに爆笑しつつ、ポケットの中から携帯電話とそれにケーブルで繋がれてあるカオスの懐中時計型メダロッチを取り出して、それを三人に見せびらかした。

それを見た桜と志帆は盧遮那が何をしたのかを悟り、愕然として大きなため息を吐いた。快楽主義者ぶりもここまで来ると恐ろしいものを感じる…と。

 芽衣はその様子を見て、どうしたのかと困った顔をした。それを見た桜は盧遮那が何をしたのか芽衣に説明した。すると芽衣は盧遮那をいろいろな意味で恐ろしい目を向けた。

 さて、盧遮那が何をしたのか。それはカオスのメダロッチに携帯電話を連動させて、カオスにネットと携帯電話を駆使して舞台を用意するように頼んだのだ。

 カオスの万能秘書としての能力と盧遮那の名を利用すれば、ロゼオパーク関係者がすぐに食いつくと容易に想像できた。それにお金も取れば儲けも出て、ロゼオパークの利益になる。こうなれば利害の一致ですぐに用意もしてくれるだろう。

 

「せっかくの大勝負だ。盛り上がれる方がいいだろ?」

「スケールが大きくなりすぎ。いったい何を考えているの?」

「俺は避けられそうにない事はとりあえず面白くしてみるのがモットーでね」

 

 とんでもない舞台を作り出した盧遮那を芽衣が睨み付ける。盧遮那はそれに怯む様子も無く、悪びれもせずおかしなモットーを言ってのける。

 

「理由になってないわ」

 

 それを聞くと盧遮那はやれやれとしたジェスチャーをし、ため息をついた。

 

「…わかってないなぁ。あんさんに合わせたんよ。こういうのがお望みなんだろ?」

「ハッ…そうだったわね。…ならあなたを大勢の人の前で倒してみせる!」

 

 そう聞くと芽衣はハッとした顔をして理解すると高らかに宣言した。

 

「その言葉、そっくり返すよ。それに有言実行は後が大変だ」

 

 そんな短い会話が終わると盧遮那達はゆっくりとアリーナ内のロビーに入っていった。

 アリーナ内は未だに盧遮那と芽衣の戦いを見ようとしている観客の並んでいる長蛇の列があった。このイベントに限り、有料で1人五百円かかる上に予約チケットはないため、まだ収容するのに時間がかかるのだ。

 確かにこうなるのをロゼオパーク関係者は予想していたのだが観客の人数はそれを上回っていた。まさか、たった三時間でこれだけの人数の観客が集まるとは予想だにしていなかったのだ。

 

「信じられない…」

「そりゃ、普段、表舞台に出ない有名メダロッターがどういう気まぐれかでてきたんだもの。メダロッターであれば誰もがまたとないチャンスだと思うわよ」

 

 志帆が長蛇の列を見て壮観そうな顔をしていると桜がニッと笑う。自分があの舞台に立てないのは残念だが、正直、盧遮那と芽衣の戦いが楽しみでしょうがない様子だった。

 

「さて、ここで別れよう。まぁ、楽しみにしててちょうだいな」

 

 盧遮那はそう言うと控え室に姿を消した。

 芽衣も盧遮那がいなくなると別の控え室へと向かっていった。

 盧遮那と芽衣はフィールドへ向かうと桜と志帆は仕方ないから普通の観客席で見ようかと恨めしげに長蛇の列を睨み付け、芽衣の弟を連れて、それの最後尾に並ぼうとした。

 

「道明寺 桜さんと真頼 志帆さんに桐原 真也さんですか?」

 

 最後尾に向かおうとした桜と志帆、それに芽衣の弟…桐原 真也にロゼオパーク関係者が話しかけてきた。

 三人は自分達がそうだと頷くとロゼオパーク関係者は何かのチケット三枚を桜に渡した。それを覗き込んでみると『アリーナ特別観客席用整理券(ゲスト用)』とあった。

 さらにチケットの裏の右下に「役得でもらった。まぁ、使ってちょうだいな」と盧遮那の殴り書きと思われる文字が書かれてあった。

 

「すご~い!特別ゲストになれるんだ!」

 

 志帆は特別ゲストという響きに感動してはしゃぎ出し、真也も姉の戦いを間近で見られる事を楽しみにし始めた。桜も盧遮那がわざわざ用意してくれた事に内心、感謝した。

 

「そうみたいね。全く…用意周到だわ。ルウって本当に抜け目のない人ね。さすが、私の彼氏だわ」

「え?」

 

 志帆と真也は桜の爆弾発言に凍り付いた。桜は小悪魔じみた顔で凍り付いた2人にニッと笑った。

 

 この少女、本気で盧遮那と付き合おうと企んでいるのだろうか。

 もし本気なら歳の差が大きくなるが…いいのか?これで。

 

 そんな困った話をする三人は特別観客席へ移動する。特別観客席は普通の観客席とは違い、フィールドのすぐ外側に設置されている。遮るものが無く、間近で見られるため、他とは違う凄まじいまでの臨場感が感じられた。

周りでは盧遮那と芽衣の戦いがどうなるのかを予想しあったり、まだかまだかと待ちわびるざわめきが聞こえてくる。

 それは観客達にとって今回の戦いの重大さが物語るものだった。

 しばらくするとかの有名なロボトルレフェリー ミスターうるちがステージに姿を現した。それを見た観客達は一気に歓声を上げる。うるちはそれを見ると感動した様子で号泣し、気合いを入れ直す。

 

「ようこそ!!観客の皆さん!!これより緊急エキシビジョンマッチを始めます!!」

 

うるちが始まりの宣言をすると観客達が溢れんばかりの歓声をさらに張り上げる。

 

「では選手の紹介をしたいと思います!まずは赤!『双刀一刃』!!桐原 芽衣!!」

 

 うるちが芽衣を呼ぶと赤いゲートから芽衣がアスラとイヅハを従え、威風堂々とした面持ちでゆっくりと歩みを進めてロボトルフィールドに姿を現した。ロボトルフィールドに出て、自分の立つ場所にたどり着くと今は姿を現さない盧遮那のいる白いゲートを睨み、気合を入れる。

 

「若干14歳にしてメダロット大会 大人の部で優勝を果たし、二年たった今も常に上位に君臨し続ける女傑!!華やかながらも鋭い切っ先を持つ彼女は来たる相手をどうなぎ払っていくのかっ!!?」

 

「続いて白!『白と黒の弾き手』!!鎌足 盧遮那!!」

 

うるちが叫ぶと白いゲートから盧遮那が左手をズボンのポケットに突っ込み、右手はだらりとぶら下げながら、ゼロとカオスを従えてゆっくり…ではなくこちらはのんびりとした足取りでロボトルフィールドに姿を現した。

 万華鏡の様に変わる自分のスタイルを決して崩さない盧遮那の顔には芽衣のような威風堂々とした気迫は無い。が、その代わりに何者にも心の中を読む事を許さない奇奇妙妙とした得体の知れない不敵な笑みを浮かべていた。

 

「メダロッターの頂点に立てるはずのメダロット大会にはほとんど姿を現さない謎のメダロッター!!出ないその理由は…な、なんと!?『そんなものは名札のような物を取るための集会でしかないからそれ以外で面白い物が無きゃ興味はない』!!?」

 

 そんな型破りな理由の書いてあるメモを読んだうるちは驚いた。

 観客の方はというと反対する者が罵声や怒号を張り上げ、それに賛同する者が更なる歓声を上げると言う賛否両論な協奏曲を奏でている。それが盧遮那の狙いであるとも知らずに。当の盧遮那は狙いが当たったのを一人でニヤリと笑う

 

「何たる侮辱!!この男は世界中の有名なメダロッターに喧嘩を売ろうとしています!!しかし侮る事なかれ!!この男は有名なメダロッターの前にふらりと現れては倒していく陰の実力者なのです!!」

 

 そんなもっともらしいうるちの解説の中、盧遮那は芽衣の前に立つ。

 

「逃げずに…ってのは無しね。ベタ過ぎるから」

「別に言うつもりはないわ。わざわざこんな舞台を作り出した本人が逃げ出すなんて事は恥の何者でもないし。違う?」

「そりゃそうだ。……さて、始めようか?」

「ええ」

 

 盧遮那は悪役の様な口振りでそう宣言するとゼロとカオスが武器を構える。

芽衣が頷くのを見たアスラとイヅハもビームソードを抜き放った。

 ここでアスラは剣の柄と柄とを連結させる。すると、刃が出る柄の片方から大きなビームの刃が現れ、ビームブレードへと武器を強化する。

 アスラはそれを両手で持ち、構える。それぞれ己の誇りとマスターの意志を貫くために互いの敵を睨み静かに威圧する。

うるちも互いが戦闘体勢に入ったのを見ると自身も互いの神聖なる戦いの審判をするべく戦場を睨むと手を勢いよく上げる。

 それにより何も無いだだっ広いステージはロボトル用の戦闘フィールドへと一瞬で化した。今回のフィールドは華やかなこの舞台にあまりにも似つかわしくないかなり凄惨なものを感じさせる場所だった。

 まるで核によって撃ち滅ぼされた広島の廃墟を思わせる世界が広がっていた。壊れたビル郡が立ち並び、廃墟となって果てしない時が経っているらしく、アスファルトから草が生い茂り、もはや道路としての機能を果たさない草原となっている。廃ビルは風化してまるで魂が抜けたかのような穴だらけの岩を連想させるような形に変わり果てている。

 そのフィールドを見た観客は一瞬だけ凍りついた。しかし、何かを誤魔化すように気を取り直したかのようにまた歓声を上げる。

 芽衣もそれを見て戦慄を感じていた。目の前に広がる廃墟はまるで魂を抜かれた死んだ町のようだった。その町は、過ぎた力は何を生むのかを物語っている。

 人は力を追い求める事をやめない。努力すれば力は得られるだろう。が、それは同時に人にその力を使わせる誘惑をも得てしまう事を意味していた。力があれば様々なものを蹂躙し、奪う事も出来る。人はそんな力があれば自分の願望…野望のためにそれを使わずにはいられないだろう。

 そして力がぶつかり合い、そして残るのは廃墟と言う名の虚無。滅びだ。結局の所、力がぶつかり合えば周りが傷つき、得るものすら力で滅んでしまうと言えよう。

 

「これは何の演出?」

「…これは今の世界、メダロッターを現しているとは思わないか?」

「どういうことを現しているですって?」

 

 不敵に笑う盧遮那に芽衣は言葉を選んで慎重に答えた。

 

「デスメダロットを知っているか?あれは戦闘に特化したメダロットだって話だ。今はデスメダロットの方がメダロットより売り上げが高くなっている。何でそうなる?」

「強さを求めるからでしょう?勝利を得るにはそうする人が多いって事じゃないの?」

 

 その言葉に盧遮那は肩をすくめた。

 

「そういう人ってのはバカなもんだ。強ければ他のものを捨てたっていいと思っていやがる。メダロットとは友人でもあるのを忘れているんだぜ?孤独でマシン操るだけの楽して得た強さに価値はあるのか?」

「……そうね。けど、それだけの力を持ちながら、何故、あなたは動かないの?」

「力を力で押さえて意味があるか?俺がやれるのはただ空しさを語るだけ。意味がわからなければ、そのまま自分が痛い目を見る日まで知らずに偽りの勝利に酔いしれるだけだ」

 

 放任主義なその言葉に芽衣は怒りを露にした。正しくはあった。だが何故か許せない。

 

「…やっぱりあなたは力を語る資格は無いわ。今のあなたはただのペテン師でしかない。…動くのが恐いだけの腰抜けだ!!」

 

 芽衣がキッと睨みつけると盧遮那は腰抜けと言われたのが気に入らないらしく、鋭い目に変わった。しかし、口はムッとはしておらず無表情だ。

 

「言ってろ。力なんてのは努力した後に付いてくるもんだ。お前みたいに正攻法で強くなる分には文句を言うつもりはないが、デスメダロットはただの楽をしたい奴への誘惑だ。言わせてもらえば、それなりには動いているつもりだ。それに考えってのは、強制させるものじゃあない」

「来なさい!!私が、力が何か教えてあげるわ!!」

「逆に俺が教えてやるよ。力なき正義と、思いなき強者が…弱いって事をな!!」

 

「力だけでも思いだけでもダメ……か」

 

 桜はその言葉に何かを掴み掛けたかのような表情をする。

 

「どうしたの?あたしには何だかよくわからないよ。あの話」

「姉さんは、力は努力するのもデスメダロットに手を出すのもその人の強いって意味の選択だから使ってもいいって言っているんだよ」

 

 よくわかっていない志帆に信也が口を開く。桜はそれに同意するように頷いた。

 

「ええ。そしてルウはデスメダロットを使う事はただ楽して強くなるだけの偽りの勝利を掴む事でしかない空しいものだって言ってるの。努力して強くなる事に関しては二人とも共通しているけどデスメダロットに関しての考えは大きく違うわね」

「うん。姉さんは使いたい奴は使わせておけと言っていて、盧遮那って人は使ったところで偽りの勝利を得るだけの……そう。麻薬みたいなものだから使っていい事なんてないって言ってるんだ。何だか似ているようでえらく違う感じだ」

「簡単に言えば芽衣はデスメダロットにはあまり感慨を持ってなくて、ルウは嫌っているってところね。それもそうだと思うわ。ルウはカオスっていう『役立たず』だったメダロットを持っているから『役立たず』が捨てられる気持ちを痛いほどわかるんだと思う」

「でも彼は動かないってどういうことだと思う?あの人は確かに活動しているようなそぶりを見せてないように見えるけど…」

 

 信也は桜に単純な疑問をぶつけてみる。桜は信也の質問に少しだけ考えると頷いた。

 

「動かないだけのペテン師って言われたけど私は違うと思うな。共に戦えたからわかるんだけど彼は戦いでそれを表現しているのよ。まるで音楽を弾くかのように語るんだわ」

「だから『弾き手』の名があるんだね」

 

 信也は姉よりも先に盧遮那の言葉の裏にある気持ちを理解する事ができた。彼は一見、おかしな人間で時には冷酷な快楽主義者である風に見える。しかしその心の中は繊細で人一倍、力以外の物をわかっているのである。

 心とは不思議なものだ。心一つで本来出せないような秘められた力を引き出す事ができる。それは熱血であれ、冷静であれ、力として変換されて心を抱くものの原動力となる。

デスメダロットにはそれがない。デスメダロットにとっては心など脳の電波信号と同じものなのだ。

機械的な強さというものはあるが心がないのは考える事が出来ない事も意味している。それは自分では判断出来ず、柔軟な行動を取ることが出来ない。

さらに勝利した所で自己満足をするしかなく、日常生活でもただの心無い人形である。

役に立たないから捨ててしまっても文句を言うことはない。ただ自分が指示して得た勝利以外に思い出などないただの道具でしかないのだから何の感慨も沸かない。

ただ、子供というのは純粋なものだ。自分が強いと誇示するのに理屈抜きに優越感を覚える。それは時として敗北をものの…ここで言うならばメダロットのせいにしてしまい、単純に強いデスメダロットを求めてしまう。

『勝てればどんな事をしてもいい』。そんな考えを盧遮那は否定しようとしている。そのためにデスメダロットを否定する事を考えついた。メダロットでデスメダロットに打ち勝つ事で性能だけで勝てはしない事を彼は知っている。

 だが彼はそれをさらけ出す事は無く、ただ、語るだけの語り手でしかないのを自覚して行動しているという事だ。

 そして語る手段として戦いの中でその考えを音楽のように表現する。

 

「そうかもしれないね。あの後、ヘッディーはカオスに過去話を聞かせてもらったらしいけどかなり人に対して迷ってた。何だか…わからないね。力って」

「そうね。もしかすると今、それを示してくれるのかもしれないわ。彼は戦いにおいてしか語らないのだから」

 

 桜は真剣な面持ちでフィールドにいる盧遮那を見た。やはり表面ではただのふざけた仮面を被った道化のようにしか見えない。しかしそう言われても彼は放っておいてしまうだろう。自分のスタイルを理解されなければ強要はしない事で終わるのだから。

 

 メダロッター同士の口論が終わったのを見るとうるちは気を取り直して構える。

 

「それでは始めます!ロボトルゥゥッ!ファイトォ!」

 


 
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