(第2話 末文より)
ミク:・・・・・・・・・・警察には行かないで置くけど、でも、事情だけは聞かせて貰うわ。事件性がなければいいんだけど…
ルカ姫:(こ…困ったぞ…こりゃ…)
<Dear My Friends! ルカの受難 第3話 歯車は動き出す>
そんな危機に直面しているルカ姫とは逆に、“ルカ姫に合わせようとしているルカさん”も、それなりに受難を受けていました。
とりあえずアペンドが用意してくれた“現実世界とこっちで異なっていたアイテム”を装着したルカは、魔導研究棟に駆け込んできた家庭教師のピコに連れられて、私室に戻って勉強の続きを行っていました。
ピコ:す、凄い…、全問正解です…
ルカ:(こんなの簡単よ…)
確かに用紙に書かれた問題はせいぜい中学生レベルだったので、今のルカには簡単な問題ばかりでした。
ピコはルカのおでこと自分の額に手を当てて、熱を計りました。
ピコ:熱はないね… 急にどうしちゃったんですか? この問題、私がいくら教えても、解けなかったのに…
ルカ:(あ! ヤバイ! そういえばこっちのルカ姫、ヤンチャなんだっけ…)
ピコ:…さては、アペンドに教えて貰いましたね!
ルカ:(え!?)
ピコ:図星ですね。もう…、だめですよ、いくらアペンドと友達だからって、問題は自分で解かないと意味ないんですよ!
ルカ:(も、もういいや)はい、ごめんなさい
ピコ:はぁ~、まぁ、今回はアペンドに免じて許します。はい、これで今日のお勉強はおしまいです。これからご家族でランチでしたね。手を洗って居間に行って下さい。用意は出来ているはずですから
こうしてルカは自室を出て、とにかく隣の部屋で待機していたアペンドに会いに行きました。ルカは“居間の場所”を知らなかったのです。
(隣の部屋)
ルカ:はぁ~
アペンド:どうでしたか?
ルカ:なかなかそっち方向に演技するのって、難しいですね。問題、うっかり全問正解しちゃったし
アペンド:難儀なお願いをしてしまって申し訳ないです。とにかくこれから王様達とランチの時間なんですが、どうします?
ルカ:家庭教師ですら、ギリギリだませた演技ですから、“肉親”相手では、もうだめですね。簡単そうだと思ったんだけど、甘かったわ、こりゃ
アペンド:そうですね。では、私と研究室でランチを取る事にしましょう。ルカ姫と私は友達同士で、非常に仲がいいのです。私とルカ姫が一緒にランチを取るのは、今回が最初ではないのですよ
ルカ:それは良かった。じゃあ、あなたとあの研究室で、今後の話も含めて、ランチにしましょう
アペンド:解りました。では先にあの部屋に向かって下さい。私の方から王にお願いしてきます。貴方も同席すると、色々な不信事が出てきてしまいますからね
ルカ:わかりました
こうしてルカは魔導研究室に向かい、アペンドは居間に移動しました。
(居間)
既にランチの準備は整っていたのでした。カイト王もメイコ王妃も着席しており、ルカ姫が来ないのを半ば心配していたのでした。
カイト王:う~む、ピコよ、確かにルカは自室を出たのだな?
ピコ:はい。ランチの時間である事も告げました
メイコ王妃:まあまあ、あの子の事はよくご存じですわね? あなた?
カイト王:う、うむ…
その時、ちょうど良くアペンドが到着したのでした。
トントン
アペンド:失礼します
カイト王:ん? アペンドか。ちょうど良かった。入ってくれ
アペンド:有り難うございます
ガチャ
アペンドは落ち着いて扉をゆっくりと開け、カイト王の傍にやってきました。そして、ルカ姫が自分とランチを取りたいと言っていたことを伝えました。
カイト王:全くうちの娘は…
メイコ王妃:まあまあ、いいじゃないですか。初めてな事ではないのですから
カイト王:う…む。よし、わかった。メイド達の厨房に寄って、二人分のランチを用意させ、持っていって一緒に食べるがよい
アペンド:ありがとうございます
こうしてアペンドは1Fにある厨房に移動することにしました。
(魔導研究室)
その頃ルカは、再び魔導研究室に入り、椅子に座ってました。
ルカ:はぁ~、今更ながら、とんでもない事になっちゃった事実、自覚してきたなぁ……あれ?
ひゅー
ルカ:あの窓、鉄格子なかったっけ? それに少し開いてる…
ガバッ!!!!
ルカ:うっ・・・・・・・・・・
まさに不運。先ほどのルカ姫とルカの顛末を鉄格子越しで観ていた“王国侵入者”は、外で魔導ステルスを使って様子を観ており、両名が部屋から出たのを確認してから、部屋に侵入し、魔導ステルスを発動しながら待機して、ルカが入ってきたときに後ろに回って、睡眠剤入りの布をルカに嗅がせたのでした。
当然ルカは一発で気絶させられてしまったのでした。侵入者は既に用意してあった用紙の箇所に、“ルカ”を誘拐したという内容を書き足し、机の上に置き、ルカを背負って、再び侵入した窓をくぐり、翼を広げて、空に飛び立ってしまったのでした。
(数分後 魔導研究室)
バスケットにサンドイッチが入ったランチ二人分を持って、アペンドが研究室に戻ってきたのでした。
アペンド:すみません、遅くなりました。それではこれからの事を話し合いながら…あれ?
ひゅー
アペンド:…嫌な予感が…
アペンドは机の書き置きを見つけたので目を通そうとすると、紙から声が聞こえてきたのでした。
声:魔導師アペンド、こんにちは。私はアフス帝国の魔導師テルでございます
アペンド:アフス帝国! やはりあそこの警戒はもっと厳重にすべきだったんだ…
声:もう、お解りの通り、向こうの世界のルカさんは、頂いていきました
アペンド:な! まさか、あの時からずっと監視を…
声:シンプルに言っておきます。私はあなた方の国には興味ありません。あなたのその“時空転送魔法陣”が欲しいだけです。但し、『完成品』の方です
アペンド:ぜ…全部聞かれていた…
声:この取引は内密に処理すべき案件である事は、貴方も理解されていると思います。特に、“ルカ姫”ではなく、“ルカ”という向こうからの客人であることも、重要事項ですよね
アペンド:くっ!
声:とにかく、貴方は一刻も早く魔法陣を完成させ、その魔法陣と仕様書全てをまとめて、この紙記載の指定の場所まで、一人で持ってきなさい。私はその場所にマーカーを設置しておきます。到着信号が出れば、私もルカを持って伺いましょう
アペンド:な…なんてことになったんだ…
声:そうそう、前金扱いとして、その未完成魔法陣のコピーは頂いていきました。こちらで完成品到着まで、有効に使わせて頂きます。それでは、頑張って下さいませ。では
ヒュン
紙から声が消えた。紙の最後には指定位置を示す位置情報が記載されていた。
アペンド:な…何て事だ…。ルカ姫の事、ルカさんの事、魔法陣の完成、守秘義務… 私はどうすれば…
???:で、魔法陣はいつ完成するでござるか?
アペンド:!!!!!
アペンドは信じられないと言った気持ちで後ろを振り返った。そこには、王国守護の、僧侶リン、勇者レン、そして何故かインタネ共和国の剣士“神威学歩”が、開いたドアの先で立っていたのでした。
リン:あの…学歩さんがルカ姫様の所に遊びに来たので、場所を聞いてここに通したのですが…
レン:ドアは開きっぱなし、そして中から変な声は聞こえるしで、とりあえず入ったら…
学歩:事情は聞いた範囲でわかったでござる。大丈夫、他言無用でござる。つまり、誘拐されたのは、ルカ姫に似た異国の女性なのでござるな?
アペンド:…異世界よ。こっちの世界じゃなくて、向こうの世界の“アキバ“って所のルカさんって人。姫がこの未完成魔法陣を使ってアキバに行ったことで身代わりにこっちにきちゃった女性なの…
レン:確かにこれは、王様に通すわけにはいかない類の大事件だな
学歩:姫不在を知っているのが、我々とあのアフス帝国の連中なわけでござる。ルカさんの事を盾に攻め込まれたら、王国は終わりでござる
リン:しかもその未完成魔法陣のコピーまで持って行っちゃって! 身代わり付きの転送でも構わず使うなんて! 許せない!
学歩:で、その魔法陣、いつ完成することができるのでござるか?
アペンド:…いくつかの素材さえあれば完成する…。でも、完成品はコピーできないの。この世で1つ。だから、あいつらと例え契約が成立して、ルカさんが戻ってきても、完成魔法陣があいつらに渡ってしまうから、ルカさんは戻ることが出来なくなってしまう…
カツカツ
アペンドは机の引き出しを引き、中から最初にルカが姫のコスプレをしてきた時に装着していた備品を取り出し、両手でギュっと胸の前で握って、泣き出してしまいました。
アペンド:もう…ルカさんを元の世界に戻すことは出来ない…魔法陣は完成するかもしれないけど…そんなことしたって……?
アペンドは急に握っていた“ルカの装着品”を眺め、そして臭いを嗅いだのでした。
学歩:ど、どうしたのでござるか?
アペンド:異世界の素材、“合成ゴム”、“プラスティック”……、なんとかなるかも!
リン:ど、どういうこと?
アペンド:…アフスの連中は、あの未完成魔法陣で、向こうの世界に兵を送るでしょう。勿論、“ルカ姫抹殺”のために
リン:そ、そうよね! どうしよう…
アペンド:あなた達、私と一緒に向こうの世界に来てくれる? 私の魔力だけでは、多分送られた兵を蹴散らせないから
学歩:それは構わないでござるが、どういうことでござるか?
レン:先が見えないよ!
アペンド:簡単に説明する。この素材を溶かした溶液で書いた魔法陣は、アキバ限定だけど、交換条件無しで、いっぺんに4人まで同じ場所に送ることが出来る、完成版の時空転送魔法陣になるの。アキバに由来する素材と魔法陣を接着することで完成版と成すことができる。
リン:なんだ! 完成品の魔法陣が出来るなら、取り引きしてルカさんの命だけでも救おうよ!
アペンド:いえ、あいつらに渡す前に、向こうに行って、私たちの手で姫を救い出します
レン:ま、まぁ、確かに渡す前には使う方がいいけど…
アペンド:そして、なんとかして、あいつらから取引無しで、ルカさんを救い出します。あいつらがつかんだ情報の範疇では、魔法陣の完成には数日かかるということだけだから
学歩:時間稼ぎは出来るでござるな。よし、向こうの世界の護衛、引き受けたでござる
リン:私も!
レン:俺もいいよ!
アペンド:有り難う…。私も戦闘モードの装備と、おそらく向こうの世界で食べ物が困るだろうから、数日分の圧縮食料を持っていくことにします。ちょっとお粗末な食事になるけど、ごめんね
リン:大丈夫、さっさと終わらせちゃえばいいんだから
アペンドはドアの外に“研究中”のフダをかけ、内鍵をしました。そして4人は必要な装備を持って、ルカの装備品を溶かして作った“新しい塗料”で新しく書き直した“完成版魔法陣”の中央に立ち、代表してアペンドが言葉を発しました。
アペンド:この4人をアキバのルカ姫の所へ!!!!
ギューーーーーーーーーーーーン!!!!!!
魔法陣は激しく光りながら回転し、4人を光の粒子が包み込み、そして、4人の姿が消えて転送が終わると、空中の光の粒子は消えて、床の魔法陣だけが光っている状態で落ち着いたのでした。研究室は丈夫に作られていたので、外にその振動は伝わらず、バレずに転送することが出来たのでした。
(ミクとルカのアパートの部屋)
ミク:さーて、まずは“1”から説明してもらいましょうか? 偽ルカ?
ルカ姫:あ、あのですね…(誰か助けて!)
ギューーーーーーン!!!!! ズドン!!!!!
突然、丸いちゃぶ台の上に黒い穴が開き、ゲームキャラみたいな4人が、ちゃぶ台の上に落ちてきたのでした。
リン:痛たたたた… アペンドー、もうちょっと何とかならなかったの?
アペンド:ごめん! 完成品のver.1.0だったから、こういう調整は…
レン:いって~
学歩:これくらい、武士の修行でござる
その横の壁際で、ミクは目をまん丸にして、引きつっていた。
ミク:きょ・・・・・・今日は・・・なんなのよ・・・・
しかしルカ姫は、最初は驚いていたものの、アペンドの姿を確認した後は、目に涙を溜めて、うるうるしながら、アペンドに抱きついてきた。
ルカ姫:アペンドーーーーーー!!!!!
ガバッ!
抱きついてきたルカ姫をアペンドは、手で頭をなでて、なだめたのでした。
アペンド:はいはい、助けにきましたよ。よしよし
まだミクはその光景を見ながら、唖然としていたのでした。
ミク:わ・・・・・私の分身が・・・・ルカのそっくりさんをなだめてる・・・・・な・・・なんなのよ・・・これ・・・・
とにかく、収拾がつくまで、ちょっと時間がかかるような、そんなミクの部屋でした。
(続く)
CAST
ルカ姫、巡音ルカ(ルカ):巡音ルカ
初音ミク(ミク):初音ミク
魔導師アペンド:初音ミクAppend
僧侶リン(リン):鏡音リン
勇者レン(レン):鏡音レン
カイト王:KAITO
メイコ王妃:MEIKO
家庭教師ピコ(ピコ):歌手音ピコ
インタネ共和国の神威学歩:神威がくぽ
アフス帝国の魔導師テル:氷山キヨテル
その他:エキストラの皆さん
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☆当方のピアプロユーザーネーム“enarin”名義で書いていました、ボーカロイド小説シリーズです。第15作目の第3話です。
☆今回は1話分を短めにした、ファンタジーRPG風味の長編です。
☆当時は2期を意識してなかったのですが、本作は最新シリーズ“Dear My Friends!第2期”の第1期という作品になり、第2期のシナリオやカラクリに、第1期となる“本作”の話も出てきますので、これから長い長いお話になりますが、長編“Dear My Friends!”として、お楽しみくださいませ。
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