双子60話~大学編序章
【??】
親や妹から理解を得られなくて、やりたいことが満足にやることができなくて。
半ば私は逃げるようにして実家から離れた大学へ通うことにした。
貯金しているのを含めても手持ちが心許ない状況からの物件探しで
私に都合の良い低家賃の場所で大学への道はバスを使わないと少し遠いけど
直感でここにしようと決めた。
愛する趣味のいくつかを持って家を出て振り返った。
いつかは理解とまではいかずとも変な目で見られたり止めさせられたりしないように
説得するつもりだ。
その間まではしっかり気持ちやこれからのことを整理しながら新生活を
がんばるつもりだ。
そう考えながら私は家を離れて駅へと向かっていくのだった。
***
【雪乃】
「だまされた・・・」
「いきなり何よ」
私は電車に乗りつつ隣にいる彩菜に聞こえないよう呟いたつもりだったけど
聞こえていたようで少し不満気に言っていた。
「だって同じ方向に向かってるなんて思わなかったから・・・もしや私と目的地同じでしょ」
「バレたか。だって元から違うとも言ってないじゃん」
どうやらサプライズのつもりで黙っていたのだろうけど私の動く方向に方向に
ぴったりと全く同じように彩菜が動いていたから何となく察してしまった。
「そりゃそうだけどさ」
もし同じアパートに住むとしても部屋が違うからまだ幾分マシだろうと
楽観的に考えていた今の自分を後々恨みたくなるような展開になってしまうが
それはまた少し後の話になる。
第一、最後まで気付いたとしても既にここにいる時点で全て決定されているのだから
知ってようが知らないでいようが差は全くないのだ。
「はぁ・・・」
「さっそく溜息つくのやめてよ」
苦笑しながら私に言う彩菜。
まぁ、中学のときの暴走していた彩菜とは違うだろう。
高校でだいぶ春花に躾けられていたようだからね。
電車に揺られながら何だかんだ言い合いしながらも私の中で安心感を覚えていた。
そりゃ元々同じ場所にいた人間同士だから本来なら一番安心できる相手だろう。
ただ彩菜の場合は時々暴走めいたことをするから油断はできないのだ。
「もう、そんなこと言うとハグしちゃうぞ」
「やめてね」
手をわきわきしながら不敵な笑みを浮かべている彩菜に私は殺意を込めた笑顔を
浮かべながら釘を刺すように言うと、ドキッとした表情をした後ちょっとしょんぼり
するような態度をしているけれど、すぐに元に戻ってしまうのは目に見えるようだ。
そういう言動を見ていると誰かを思い出させる。そうだ母と行動の仕方とかが
似ているんだ。
彩菜の場合は母と違って相手のことを思いやる前に行動してしまうから
なお性質が悪いけど。
口をマンガでキスするような形を私に向けるのを私は彩菜の顔を掴むようにして
押さえながら乗り続けた。
目的の駅まで辿り着いた時にはすっかり疲れきっていてぐったりしていると。
「大丈夫、雪乃? 疲れているみたいだけど」
「誰のせいだ、誰の・・・」
「よーし、ここは私が責任持ってお姫様抱っこして連れていくぞ~」
「責任って…わかってるんじゃないの。後その抱っこだけはやめて、全力でぶん殴るから」
袖をたくし上げてやる気満々の彩菜に釘を刺すとがっかりしながらもすんなりと止めて
くれた。私が本気で嫌がってるからだと気付いたからだろう。
「とりあえず・・・休むならここじゃなくて向こうでするわ。引越し業者が着てるかも
しれないし」
「はいはい」
だるくて重い体を引きずるように私は歩き出すと、彩菜はその隣でぴったりと
私にくっつくように一緒に歩いた。今度は変な気が起きてはいないようだ。
体があまり丈夫じゃない私を支えるためにそうやって歩いてくれているのだろう。
普段からこうだったらずっと気を楽にしていられるのにと考えてると彩菜はちょっと不満
そうに私を見て悪かったねと呟いた。
駅から出ると小さなバスの停留所を見つけて時間を見ていると偶然私たちの前に
一台のバスが止まる。
私が念のために運転手の方に聞いてみると、私が向かう場所の近くに止まることを
教えてもらい彩菜を連れてバスに乗って1分後くらいに動き出した。
ゆっくりと揺られながら待っていると、住宅街から森林が目立つようになってきて
もう少し走り抜けると目的地の特徴に挙げられていた丘が見えたのでバスから降りた。
降りた側は丘の反対側で車が来ないのを確認して小走りで横断すると私達の前には
緩やかな階段とそれを挟むように木々が道なりに並んで立っていた。
緑豊かな場所を進んでいくとやがてその色は別のものに変わる。
一瞬強く風が私達に吹き付けると淡いピンクの花弁がまるで吹雪のように
私たちの視界を覆っていた。
埃が目に入らないようにそっと目を開けると、目の前に舞っていたそれは桜の花弁で
顔を上げるとアパートの周りにはたくさんの桜が咲き誇っていた。
「おおっ」
彩菜も歓喜の声を上げてはしゃいでいる。しかし、これを見たら
はしゃぎたくもなるだろう。
大きくリフォームをしたと書いてはあったがその前の情報とは似ても似つかない
光景に場所を間違えたかとアパート名を確かめても全く同じ名前だった。
春風荘
身内のアレな人たちがここ10年くらいのことを頼んでもいないのに調べてくれた結果、
たった1年前に急激に変化していたとのこと。まるで魔法のようだったらしい。
「ふーん、ここが・・・」
何だか不思議な雰囲気がしたけれど、この場所の空気もいいし私はすぐに気に入っていた。
ちょっとした神秘的な雰囲気に浸っていた私に彩菜が私の手をとって急ぐように
引っ張っていく。
「ちょっと・・・!」
「ほら、雪乃。早く早く~」
まだ上りきっていなかった私は彩菜に引っ張られて一気にアパートの前まで辿り着くと
入り口でめんどくさそうに箒で掃いているおじさんがいた。
おじさんとはいっても管理人をしているには随分若そうである。
「あー、くっそ。どんだけ掃いてもキリがねえぞ~」
少しばかりボヤいた後に私達に目が合うとちょっと苦笑気味の笑顔で返された。
「どーも。新しく入る子たちかな?」
「そーで~す」
彩菜は臆することもなくその管理人らしいおじさんに返事をしてからそのまま
世間話に入っていった。
このすぐ溶け込めるコミュニケーション力は凄まじいものだと思えた。
彩菜が私から離れてからすぐ私の後ろから感嘆とした声が上がって一瞬びくっとしてから
振り返るとそこにはまるでどこかのお嬢様みたいな美しい金髪と碧眼の外国人の
美少女が振り返った先にいた。
黄金の髪は肩にかかるくらいの長さで優しい眼差しをしたお姉さんっぽい雰囲気
だったのが私を見やいなや私のことをいきなり抱きついてきた。
「はい!?」
「おおおぉ、まるでお人形さんみたいに美しい子はっけーん!」」
「ほ、ほわーい!?」
あまりの急さに変な声で変な言葉がつい口から漏れてしまって、その声に気付いた
彩菜が駆けつけてきた。その後助けてくれるのかと思ったら。
「でしょ!? 雪乃は世界一かわいいよ!」
「わかりマスー! ユキノ、セカイイチー!」
「こ、こらー!!!」
二人に揉まれるようにして弄られて私は混乱したまま叫んで二人を引き離した。
しかも何気に初対面の人に呼び捨てにされた気が・・・。
呼吸を整えて改めてその外国人の子に向かうと何を言えばいいのかわからなくて
簡単な英語で自己紹介とここにいる理由を聞くとその女の子は「?」ときょとんとした
顔をしている。
もしかして現地のようにちゃんとした発音じゃないとわからなかっただろうか。
ちょっと冷や汗が出て隣にいる彩菜も最初から諦めたような仕草で私を見守っていると。
その外国人の子の口から出た言葉は。
「の、のー!いんぐりっしゅ!私、英語喋れマセンー!」
そう言いながら必死に手を交えたジェスチャーを使ってまで否定していた。
「・・・はい?」
いかにもな見た目だけど英語が全く話せない。どうみても日本人とも思えないのだけど。
そんな私たちを見て耐えかねたのか管理人の方が大きめに声を張ってきた。
「嬢ちゃんたち!そんなとこで話し込んでないで中にでも入んなー」
それからまもなく引越し業者の人も着いて落ち着ける時間もなく慌しい時を過ごした。
***
落ち着いた頃にはすっかり日が傾いて暗くなり始めるところだった。
まだ全部整理しきれてはいないけど、とりあえず生活には困らない程度の片付けをして
外へ出る。
爽やかな風が火照った体を涼ませてくれて気持ちよかった。
落ち着いてから気付いたことは今私がいる二階辺りはどこにでもあるアパートなんだけど
一階部分は中心に入り口がありそこから入ると玄関みたいになっていて、その近くに
リビングみたいにみんなで集まれるよう空間を大きく使っていた。
そんなアットホームで不思議な空間になっている。他は管理人室やトイレ等で
利用者が使える部分はないけどその分二階の範囲を広げて6、7人分くらいの部屋は
ありそうだった。
簡単に言えば下は共同フロアで上が住居エリアといったところだろうか。
「おーい、みんな集まれ~」
言われて私と彩菜が一階に移動した際にはさっきの外国の子と小学生か中学生くらいの
小さい子供が一人。それと管理人さん以外は誰もいなかった。
これで全員かと思ったのだけど管理人さんは首を傾げながら納得いかないような顔を
して呟いていた。
「あと・・・二人足りないぞ・・・」
「遅れてるんじゃない?」
そんな管理人さんに小さい子はちょっと小生意気そうに突き放すように言い放つ。
リビングにあたるテーブルには既に料理が用意されていてその匂いを嗅いだ私のお腹が
つい鳴ってしまった。
ぎゅうぅ…。
「あっ」
「じゃあ、来る前に先に始めるか。子供じゃあないしな」
そうして真ん中に鍋が設置してあり他色々なものがある中で引越し祝いと称した
パーティーが始まった。なんともフレンドリーなところである。
私の母辺りが思いつきそうな展開だ。
しかもそれを提案したのはあのちょっと気の強そうな小さな女の子だということに
なお驚いた。一体管理人さんとはどういう関係なのだろうと少しばかり気になっていると
それは食事をしながら追々話すということになった。
「では、いただきまーす」
小さい女の子がさっきとは違って嬉しそうに笑顔を浮かべながら箸を持って
行儀良く言って続いて私達も同じようにしてから各々好きなものに箸をつける。
話している内にさらっとみんなで簡単に自己紹介をした。これまで仕切っているような
言動を見せていた子供の名前は春空風(はるぞら・ふう)と言っていた。
前髪を揃えて黒にちょっと茶がかかっているちょっと気の強そうな美少女。
管理人さんは高地さんと言っていた、めんどくさそうに苗字だけ伝えると話を別の子に
振って逃げるようにご飯を食べ始める。短髪でやや無精髭を蓄えているがなかなか良い
顔立ちをしている。
そして私に抱きついてきた外国の女の人が立ち上がって満面の笑みで紹介を始めた。
「エレン・カーターです!一応アメリカ人なんですけど、日本語しか喋れまセンので
よろしくお願いシマース♪」
それでもちょっと片言なのは狙ってるのか親から教わった喋り方がそのまま残ってるか。
でも本人の様子を見ると後者なんだろうなぁと思う。
すごく真っ直ぐな目をしていて全体的にキラキラ輝いているような純そうな人だ。
少しウェーブのかかった金髪がふわふわ揺れて可愛らしい。
それと私達の番が来て、最低限のことを話し終えてから少し経った後、
急に慌てて走って入り込んでくる人が二名私たちの前に現れた。
驚いて一瞬何が起きたかわからなかったけど、すぐに目の前で息を切らしている
二人の顔に見覚えがあることに気付く。それは小学生からずっと付き合いがあった二人だ。
「春花!? 大地!?」
しかしここで驚いていたのは私だけで他は私の反応を楽しむ彩菜に管理人さんは
やっと来たかと溜息混じりで確認しながら言っていた。つまり部外者以外は私だけ
知らされていなかったことになる。
「サプライズだよ、雪乃」
彩菜が嬉しそうに私の肩に手を置いて言うと私はちょっと不満な顔を彩菜に向ける。
正直驚きすぎて心臓にちょっと悪かったから、ふざけてる彩菜に不快を感じていた。
「笑えない・・・」
「あ・・・ごめん・・・」
「でも、嬉しいよ。小学生ぶりだもんね。この面子が揃うのは」
「それもそうね、私も嬉しいわ」
私の言葉に春花が近づいてきて私を抱きしめてそう言ってくれる。
そんな感動的っぽい時に後ろから悲鳴に近い声が聞こえてびくっとした。
「きゃー!百合、百合よー!こんな目の前で見れるなんて夢のヨウ!」
振り返るとエレンが目をこれでもかと輝かせて私達の動向を窺っていたようで
私と春花が抱きついたのを見てテンションが上がったようだ。
百合・・・?百合ってもしかして女の子同士で恋愛するあれのことか?
そう思考が追いつくと慌てて手を振りながらエレンに向かって否定した。
「私と春花はそういう関係じゃないの、そういう目で見るのやめて!」
「あっ、そうでシタカ。ごめんなサイ・・・」
エレンの急なハイテンションに周りの人間も圧倒されて言葉を失っていた。
どうやらエレンはそっち系の趣味があるらしい。
あくまで趣味としてだけだが・・・何となくわかった気がした。
私の怒るような言い方でしょんぼりとするエレン。これ以上空気が変なことにならない
ようにと彩菜が必死に場を和ませてその場を凌いだがこれはまた強烈な女の子と
知り合いになってしまったようだと、今後の心配をしてしまう私なのだった。
続
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
大学編入ります、が。書いてる本人大学行ったことないので色んな作品参考にしながらの作業になります^q^ こんなん大学ちゃうわってなることもあるかもなのでご了承くだしあ(◜◡◝)まだ大学始まってすらいませんけどね←
新キャラも出ます。とても痛々しい感じですが、少しでも愛されキャラになるといいですね~♪
後、地味に短編の春風荘が出ています。あの話はこれのために書いてたのが5割くらいありますね~。