No.776852

貴女と一緒にいたいから…

初音軍さん

とある同人誌を読んでいてちょっと浮かんだもの。輝夜は「何もしたくない」じゃなくて永琳や周りの環境で「何もさせてもらえなかった」のではないかと考える。何せ姫ですし、周りは雑用なんてさせられないでしょう。たとえ何かをしようと考えても今までしたことないのをどうやってやればいいのかなんて教えられないとわからないわけですし、永琳たちはそれを教えるようなことはないでしょう。だから一見傍から見ると何もしていないとかニートと言われがちになってしまう。そんな心境をちょいちょい書いてみましたが少し輝夜さん活発すぎましたね^^;ここまで明るかったっけ、あるぇ~?って感じかもですが少しでも楽しんでもらえれば幸いです♪
なんていうかこの話的には痴話喧嘩乙って感じね(*´ェ`*)

2015-05-12 16:29:07 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:452   閲覧ユーザー数:452

貴女と一緒に居たいから。

 

【輝夜】

 

「永琳のばかー!」

 

 バチィン!

 

 永遠亭の穏やかな夜にいきなり怒号が発せられた。

それは外に出ていた私を叱っていた永琳に対して私が発したものだった。

永琳はいきなりのことに面食らい、私の目を見てこれまでにないくらい本気なことに

気付いて言葉を詰まらせていた。

 

「!?」

「言ったわよね、私に好きなことをしなさいって!何で竹林の外に出ただけで

怒られなければいけないのよ!」

 

 捲くし立てるように怒る私に永琳らしくもなく動揺を隠せないらしく

慌てるような表情で私を見ていた。

 

「そ、それは・・・」

「もう永琳なんて知らないから!」

 

「か、輝夜・・・待って・・・!」

 

 私は永琳の言葉を無視して空を飛んでいって竹林から少しでも早く出たかった。

その後どこに行くか予定もなければ私を入れてくれる人すら思いつかなかったけど。

すると偶然にも道の途中で妹紅と会って、最初の内はいつものように口喧嘩をすると

急に様子が変わって怪訝そうに私に問いかけてきた。

 

 いつもと雰囲気が違って不思議に思ったのだろう。永琳と喧嘩して飛び出してきたと

言うと。

 

「それでどこか行く予定でもあるのか?」

「そんなものないわ」

 

「全く・・・これだから世間知らずのお姫さんは・・・」

「悪かったわね・・・」

 

 呆れたように妹紅は自分の髪の毛をやや乱暴に掻いてから意外な言葉を

私に投げかけてきた。

 

「だったら今日は私のとこ泊まるか?」

「え?」

 

「このまま徘徊されて慧音の迷惑になっても困るからな」

 

 そんなことを言われては断ることもできなくて私は妹紅に連れられて家へ案内された。

あまり住居にこだわりがないのか全体的にボロボロで生活に必要最低限の食材と

道具しか置いてなかった。

 

「どうせボロいとか思ってるんだろ」

「ううん、何か妹紅らしいなって」

 

「バカにしてるだろ、それ!」

「あら、そんなことないわよ」

 

 袖を口元に当てて笑うと余計に怒りがこみ上げてきてる妹紅だけどすぐにその熱を

抑えてくたびれた畳の上に腰をかけた。

 

「ねぇねぇ、夜ご飯食べた?」

 

 私は妹紅の傍に寄って顔を覗き込みながら聞くと静かに首を横に振る。

 

「いいや、帰ってから食べようと思ってたけどお前といるとどうもな」

「失礼な! せっかくだから私が作ってあげるわ」

 

 そう言って私は台所に向かおうとすると妹紅は咄嗟に私の袖を掴んで引き寄せてきた。

 

「おい、そんなことお前にさせたらあの薬剤師に叱られるだろ」

「永琳のこと? ふふっそんなこと心配しなくても大丈夫よ。それに一度こういうこと

してみたかったの」

 

 私は新しい玩具でも見た子供のようにワクワクした気持ちを妹紅に伝えると

予想外だったのかきょとんとした表情を私に向けて掴んでいた手の力が緩んで

私は再び台所へと向かった。

 

 少ない材料からでもこれまで色々見てきた私は覚えている手順を不慣れながらも

真似をしているとそれなりのものができて、それを見た妹紅も驚きを隠せなかった。

 

「お前がこれを?」

「これくらい普通でしょ」

 

 もらいものか、雑に置いてあった漬物らしいものと味噌汁。

少量しかなかったお米に他の穀物を混ぜて炊いたやつ。

野菜を少しの間、茹でて塩を振っただけのお浸し風。

 

 あまり味気はないけど、決して不味くはないと私は食べながらそう思っていた。

 

「お前も食べるのか」

「作ってもらっておいて何を言うの?」

 

「勝手に作ったんだろうが・・・。うん、でもまぁ…わりと美味い」

「でしょ?」

 

 普段は全くこういう機会がないせいかすごく新鮮に感じて楽しかった。

殺し合いばかりしているけれどたまにはこういうやりとりも悪くないなと思える。

まぁ、私を憎んでいる妹紅の方はそうは思ってないだろうけど。

 

 食事を終えて二人で何もすることなく各々ごろごろしていると

妹紅が私に声をかけてきた。

 

「もし何もやることがなくてやりたいことがあったら・・・慧音が寺子屋の仕事で

人手が足りないってぼやいていたな」

「ふーん」

 

「輝夜がもしやる気あれば手伝えるよう言ってもいいけど。お前にそんな気は起きな・・・」

「やるわ!」

 

 私の勢いのある言葉にびっくりして上半身だけ起こして私を見る。

私はその話を聞かされてすぐに立ち上がっていても立ってもいられなかったが

こんな夜中にそんなやる気を出されてもと妹紅に宥められて私は少し落ち着きを

取り戻して朝になるまで妹紅と普通に話をしていた。

 

 

***

 

「ねぇ、白沢。今日はとてもいい天気ね!」

「なぁ、妹紅に紹介されたから受けたが・・・、本当にやる気あるのか?」

 

「失礼ね、もちろんよ!」

「あー、慧音? 嫌なら断ってもいいよ」

 

 妹紅と白沢と私で人気のないとこで話し合っていると少しの間難しそうな顔をしていた

白沢が私の顔を見て軽く頷いて了承してくれた。

 

「わかった。ただ、私のことはちゃんと名前で呼んでくれよ」

「それもそうね。よろしくね、慧音」

 

 隣で不安そうに私へ睨みをきかせてくる妹紅を無視して手を伸ばして慧音を握手をする。

私の好意的な行動にちょっと苦笑を浮かべながらも安心したように握り返してきた。

 

 普段の印象が良くないだけにちょっと心配だったけれどこうやってちゃんと

向かい合って接すると話がわかる奴だと感じた。

 

 やることがわからないから慧音の指示通りに動いていると少し疲れるけど

これまでにない充実感を味わっていた。

 

 束縛されていたような感覚から解き放たれたそんな感覚が。

手伝ってる最中や勉強が終わった後の子供たちが私に声をかけてくることもあって

接し方はよくわからないけど笑みを浮かべて話をしたらみんな喜んでくれた。

 

 今まで味わったこともない感情が私の中を駆け巡っていって、少しこそばゆかった。

 

「お疲れ様、輝夜。今日はありがとう、助かったよ」

「ううん、こちらこそ貴重な経験をありがとう」

 

 本日の授業の全てが終わり、二人で片付けをしていると慧音が優しい表情をしながら

私に声をかけてきたから私も充実していたことを慧音に伝えた。

 

「しかし、永琳の方はいいのか? 心配してるかもしれないぞ」

「まぁね・・・でも過保護すぎる方も悪いのよ。少しは良い薬になるかもね」

 

「はは、あの天才に薬か。面白い言い回しだ」

 

 話しながらやっている内に頼まれたことが終わり寺子屋の入り口まで送られると

別れる間際、思いついたことを慧音に頼んでみることにした。

 

「ねぇ、慧音。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

 

「慧音って料理できる?」

「まぁ、人並みにはできるが」

 

「じゃあ、私に少し教えてくれないかな」

 

 私は手を合わせて慧音にお願いをする。

いきなりのことでしばらく戸惑いながら考える素振りを見せる慧音。

だけどそれから頷いて私のお願いに応えてくれた。

 

「そうだな、手伝ってくれた礼もあるし。いいぞ」

「ありがとう、慧音。それとついでに泊めてもらえると嬉しいな」

 

「あ、あぁ・・・そうか。今の輝夜は家出みたいなものだからな。

わかったよ、けどな~・・・」

「あら、何か都合が悪い?」

 

「いや・・・あまり誰かを泊めたこととかないから照れくさくてな」

「ふふっ、慧音も可愛いとこあるのね」

 

 少し顔を赤くして言う慧音が可愛らしくて思わず笑ってしまった。

これだけ疲れて楽しくて充実していても頭のどこかには永琳のことがずっと残っていて

料理を学びたかったのも永琳に喜んでもらいたいというのがどこかにあったからだ。

 

 慧音が残った仕事をまとめて持って帰るために少し待ってくれと言い残して中へと

一度戻っていく。あまり時間はかからず、代わりに多くの荷物を持って外へ出てきた。

 

「大変な仕事なのね」

「まぁね、自分のやることも含めると終わりが見えないものさ」

 

 荷物は一つも私に持たせようとはせず、慧音の案内で家へ向かい。料理のほかにも

色々学んでは吸収していく。学ぶもの全て永琳から教わらないものばかりだから

とても新鮮に感じた。

 

 時々妹紅も慧音のことが心配で乱入してきたりと賑やかな日々を送って数日後。

私の居場所を突き止めた月のイナバが血相を変えて私の前に跪いて報告に来た。

 

「姫様!し、師匠が・・・!師匠の様子がおかしいんです!」

「あらあら・・・一応心配しなくていい書置きはしていったんだけどな・・・」

 

「お願いです、今すぐ師匠のもとへ向かってください」

「わかったわよ、可愛いイナバ達のお願いじゃ仕方ないわね」

 

 跪いているイナバを立ち上がらせて振り返って慧音に礼を言ってから

私はイナバと共に永遠亭へと飛んで戻っていった。

 

 静まり返った永遠亭、まるで誰もいないかのようだけどちらほらと他のイナバ達の

姿はあった。だけどみんなどこか疲れたような不安そうな表情をしていた。

 

「お、ようやく姫様のおかえりかい? ずいぶんと楽しんでいたようだね」

「あら、嫌味をありがとう。ところで永琳は?」

 

 毒舌の嘘つきイナバは私の質問に月のイナバに向けて指を差すと。

 

「鈴仙が一番よく知ってるよ、私は面倒ごとは勘弁してほしいからね」

「そう、それまで他のイナバ達のお世話してくれたのね。じゃあ私は行くわ」

 

「・・・」

 

 私の反応に面白くなさそうにそっぽ向くのが面白かったけれど、それ以上に永琳が

どうなっているのか気になるから私はイナバの案内で研究室への道を歩いていく。

 

 扉前まで辿り着いて中に入るとこれまで見たことがないくらいぐちゃぐちゃに

荒れている部屋を見て私は驚きつつも永琳の名前を呼ぶ。すると・・・か細い声が返ってきた。

 

「輝夜・・・?」

「永琳、いいからここに来なさい」

 

 私の呼びかけに魂が抜けたように目が虚ろになっている永琳の頬を両手で挟むように

叩いた。

 

 パチンッ!

 

「永琳!」

「な、何・・・?」

 

 私はこんな情けない永琳を見たくてこんなことをしたわけではない。

むしろ今まで必要以上に私のことを過保護に扱っていたことに対して怒っていることを

永琳に告げる。目をしっかり見ながら。

 

「貴女・・・月で私と一緒に過ごしていた時のことをずっと想っていたでしょう」

「うっ・・・」

 

「あの頃が愛しくて私を檻籠の中にずっと入れたかったんじゃあないの?」

「・・・」

 

「でもね、今まではそれでよかったかもしれないけど、これからはダメなのよ」

「輝夜・・・?」

 

「私・・・色々したいことあってもずっと縛られ続けていたわ。「姫」だったせいでね。

月にいても姫として大事にされ、地上に落とされた後もお爺さんやお婆さんは手伝いすら

させてくれなかった。永琳と再会して月の使者から逃げて隠れるまではまだ理解できた。

でももう私達を追う者も脅かす者もいないの。だから、あの時私に言ってくれた永琳の

言葉がすごく嬉しかったのに・・・」

「輝夜・・・泣いているの?」

 

 自然と目から熱いものがこみ上げてきたのが薄暗い部屋の中でもわかるくらい

溢れていたのだろう。心配そうに聞く永琳に私は声を震わせながら続ける。

 

「私を・・・「姫」としてじゃなくて「輝夜」として見てよ・・・。

これからもずっと永琳と一緒にいるんだから・・・貴女の隣で一緒に並んでいたいんだから」

 

 私は永琳の額につけながら徐々に小さくなる声を永琳に聞こえるように振り絞りながら

言った。その私の言葉に永琳は上手く言葉が紡げず何も言えなくも小さく何度も何度も

頷いていた。

 

「永琳・・・今度は色々私に教えてよ。外に出てさ、私って知らないことばかりだから

永琳がしっかり教えてくれないと」

「わかったわ・・・。輝夜、悪かったわ。私は貴女が私から離れてどこか言ってしまうんじゃ

ないかって怖かったから・・・そうよね、私は輝夜を信頼すべきだったわね」

 

 永琳も目に涙を浮かべて私をそっと抱き寄せてきた。暖かくて安心できる永琳の温もり。

 

「永琳・・・」

「今度、人里にでも出かけましょうか。それとこれからもっと自由にしていいわ」

 

 虚ろだった瞳に輝きが戻った感じがして私に微笑みかける永琳を見て私は笑顔で頷いた。

 

「うん!」

 

 どれだけいたかわからないけど、永琳の体温と匂いが心地良くてずっとそうして

いたかったけれど、しばらくして心配そうに見に来たイナバたちに気付いて私と永琳は

普段の生活に戻っていった。

 

 それから少しずつだけど私のことを考えて永琳は私と一緒に外に出て

色々見て回ってくれるようになった。もちろん自由な時間も前よりも増えるようになって

これまで息が詰まるような生活から少しずつ変わっていっていくのだろうと予感していた。

 

 ね、永琳。何かが変わってしまうことに対して恐れることなんてないのよ。

 

お終い

 


 
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