第四章-弐話 『 全略 ~ 湯煙の中から 』
「まったく、いきなりやって来たかと思えば、『ここじゃ話しづらいから場所を変えたい』なんて何様のつもりかしら?」
「そう言うなよ。一刀達の事を心配してる連中もいるし、逆にいえば一刀達が心配してる連中でもあるし、ならいっそ、お互いの近況報告でもしようと思ってな」
馬上の華琳の愚痴にそう返しているのは本日行われていた武官の雇用試験をしっちゃかめっちゃかにした天の御遣いの一人である橘和樹だった。
まぁ、華琳の愚痴ももっともで雇用試験を滅茶苦茶にされた挙句に曹操軍の主要な人物を全員連れて目的地も知らされずに和樹の後に着いて行く今の状況は彼女にとってはただただ苛立つばかりだろう。そんな和樹はといえば華琳の愚痴などお構い無しだった。
「あなた今、自分がどれだけ非常識な事してるか解ってるの?」
「んぁ?ああ、試験の事か?あれはまあ悪かったな。とはいえこっちもこっちの都合があるしなぁ、それにお前ぇにとっても悪ぃ話じゃ無ぇぜ」
「そっちじゃないわよ。…いえ、それもだけど今のあなた自身が非常識だと私は言ったのよ」
「華琳、多分和樹の奴解ってないと思うよ…」
華琳の言った『非常識』とはつまり、馬に乗った一行を先導して先頭を走っている和樹自身の事である。今がどの位の速度なのかは解らないが顔面に吹付ける風の強さからして、少なくとも普通に全力疾走した位では並んで走るのも難しいだろうことは理解できる。春蘭の髪なんか殆ど横になってるし、あとそれなりに揺れるせいで尻も痛いし一緒に乗ってる霞の胸の揺れが気になって仕方がない。
「それよか和樹、着替えも持ってきたほうがええってそないに遠いんか?」
「いや、そろそろ着くぞ。もう見えてきたからな」
その言葉通りに、一行が到着したのはあちこちから白い煙の立ち上る小さな街だった。
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「せんぱ~い!」
「一刀さん!」
「ご主人さまぁあん!」
「うぎゃああ!」
到着早々に至福と地獄を一身に受け、一刀が悲鳴を上げるが和樹は別に止めようともせずに曹操に向き直り、
「ようこそ、『立華温泉郷』へ」
そう、告げた。
「温泉?」
「おう、どこぞの
「街一つって…呆れる話ね」
「そうでもねえさ。まぁ、元々は別の目的があったんだが温泉はおまけみてぇなもんだ。」
「は~い。因みに私と月ちゃんと向日葵ちゃんの三人で若女将をやってます」
「へぅ」
ようやく満足したのか一刀から離れた楓と月が曹操に挨拶をしにやってきた。その後ろでは地獄だけを受け続ける一刀がぐったりとしている。
「此処で立ち話もなんだし旅館の方に移るか。貂蝉、いい加減にして一刀を運べよ」
「分かったわぁん」
若女将二人を先頭に街の奥へと進んでいくとちらほらと客らしき者達も見受けられる。出来て日が浅い割りには評判は良さそうだ等と考えながら同時に、一つ気になった事を華琳が口にする。
「橘…」
「和樹でいい。姓だと楓と被って分かり辛ぇだろ。で?何だ?」
「そう。なら和樹、貴方さっき、別の目的があったって言っていたけど、その目的とは一体何?」
「それか、硫黄を探してたんだよ。実際この近くで採掘してるし、別の場所では軽鉄の採掘もしてる。そういう意味じゃ此処は見た目以上に重要な場所だ。」
「一体何に使ってるの?」
「汜水関で連合に使った火の玉の材料だ。まぁ、それ以外の使い道もあるけどな」(三章-玖話参照)
「あれ、ね…」
実際あの時は酷かった。鉄すら溶かし、水をかけても消えるどころか更なる被害を増やす一方だったのだ。もし虎牢関から先で徹底抗戦をされていれば連合は敗北していた可能性もある。いや、事実そうなっていたはずなのである。
「さて、おしゃべりも一旦終わりだな。折角此処まで来たんだ、先ずは風呂にでも入って来るといい。続きはそれからだ」
「それでは、曹操様御一行ご来店~」
未だに目的を明かさない和樹や楓達に促されるまま華琳達は温泉へ連れて行かれるのだった。
あとがき
一刀「…え?これで終わり?温泉なんだから入浴シーンとかは?!」
ツナ「無いよ!タイトルを良く見なさいよ!『全略~湯煙の中から』ってなってるでしょ!今回は入浴シーンからはカットしてあるの!」
一刀「なん…だと…」
ツナ「だって、本編ではさして重要では無いし」
一刀「俺の期待を返せー!」
ツナ「知らんがな。まぁ、というのは冗談で、次回でじっくりたっぷりのぼせるまで書くんですがね」
一刀「そうなのか」
ツナ「ただ次の更新が何時になるか分かりませんけどね(汗)」
ツナ「では、また次回にて!」
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長らく間が空きましたが久々の更新です
『Re:道』と書いて『リロード』ということで
注:オリキャラ出ます。