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ダンまち ハーレム王(ベルくんのこと)

ダンまちSS その6

2015-05-06 16:22:50 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:18111   閲覧ユーザー数:17866

ダンまち ハーレム王(ベルくんのこと)

 

 

「隠してた~ 感情が~ 悲鳴を上げてる~ 確かな~誓い~を手に~♪」

 今日も今日とてボクはヘファイストスの店でこき使われている。ヘスティア・ナイフのローン完済のために。

 おかげでバイトは掛け持ち。生活費は別途稼がないと駄目だから、神にあるまじき重労働少女になっている。

 でも、本当に大変なのは長時間肉体労働っていう点じゃない。仕事中にベルくんと会えないことだった。

 近未来のボクの夫ベルくん。その夫と朝と晩しか顔を合わせられないのは寂しい。しかも最近は労働で疲れ果ててしまっているせいで、ボクが朝起きるともうベルくんが出掛けているなんて場合も多い。生活時間帯がすれ違う夫婦になりつつあるのだ。

 ボクが働いているのは、ヘファイストス・ファミリアの店の中でも超が付く高価なお店。ベルくんの今の稼ぎじゃ10年経たないと剣の1本も買えない。

 そんなブルジョワしか買い物できない店にベルくんが来るわけがない。だから夫のいない日常が当たり前になりつつある。

「ベルくぅ~ん。寂しいよぉ~」

 お客さんがいない店でひとり静かに涙を流す。すると、店の外からベルくんの声(CV:松岡禎丞)が聞こえてきた。

「アスナ、シリカ、リズ、リーファ、シノン、ユイ、サチ、ユウキ、その他大勢。勝手に出歩かないでくれ。迷子になっても知らないぞ」

「なっ!?」

 ベルくんが複数の女の名前を呼んだのを聞いて黙っていられなかった。ボクはすぐに店を飛び出してバベルの廊下へと飛び出した。

「こらぁ~~っ、ベルくんっ! ボク以外の女の名前を連呼することはご法度だよぉっ!」

 文句を大声で言いながら左右を見回す。ところが、ベルくんの姿はどこにもなかった。代わりに近くにいたのは、ベルくんより少しだけ年上で全身黒い服装をした黒髪の少年。ベルくんの2Pキャラみたいな男の子だった。

「あれ? ベル、くん?」

 ベルくんの声だと思ったのはボクの勘違いだったのだろうか?

 でも、単純な勘違いでもなかった。

「あの、俺に何か用、かな?」

 黒い2Pベルくんは声がベルくんにそっくりだった。瓜二つと言っても過言じゃない。まるで同じ声優が声を当てているかのようだった。

「あっ、いや。ボクの夫と声が瓜二つだったから……勘違いしちゃったよ」 

 幾ら声が同じでもベルくんでなければ別に用はない。さっさと店番に戻ることにする。だけど、2Pベルくんの元に数多くの女の子たちが一斉に戻ってきてしまった。それでボクは撤退するチャンスを逸してしまった。

「ちょっと、キリトくん。このメイド服姿の女の子は誰なわけ?」

「お兄ちゃん。また新しい女の子にちょっかい掛けるのは良くないと思う。これで何人目だと思ってるの?」

「パパ。浮気は駄目なのです」

 数多くの女の子に同時に詰め寄られる2Pベルくん(キリトと言う名前らしい)を見てボクの脳裏に一つの単語が思い浮かんだ。

「ハッ、ハーレム王……ッ!!」

 1人で複数の女を侍らすモテない男たちの究極の敵。そしてリア充の頂点に立つ存在。

 それが、ハーレム王。慢心王なんて比べ物にならないぐらいにパネェ存在。

 このキリトという男の子がその伝説に違いなかった。

 

「あなた。誰だか知らないけど気を付けて。キリトくんと関わっていると、気が付くとピンチに陥って、それを彼に助けてもらって容易く攻略されちゃうわよ」

「お兄ちゃんに掛かると誰もがみんなチョロインと化しちゃうんです。旦那さんがいるなら早く逃げてっ!」

「パパに落とせない女性はいないのです。幼女だろうが老女だろうが、妹だろうが娘だろうがお構いなしなのです。ユイたちは全員お手つき済みなのです」

 キリトのハーレムメンバーから恐ろしい情報がもたらされる。ハーレム王パネェ。

「人聞きの悪いことを言うなっ! 俺は別に女の子になんてモテてなんかないっての」

 どうやらキリトは無自覚に女をチョロインと化させる性質の悪いハーレム王のようだった。ボクもこの子の近くにいたら、いつハーレム要員のメンバーにされてしまうかわからない。 

 そう思うと、キリトがその全身からピンク色のオーラを出しているように見えて仕方ない。やはりこの子は慢心王とは比べ物にならないぐらいに危険だ。ボクはベルくん以外の子どもを産む気も、子どもを産むような行為をするつもりもない。

「戦術的撤退っ!!」

 ボクは急いで店の中へと逃げ込んだ。

これ以上キリトの前にいるのは危険過ぎた。

 幾らボクがベルくんへの操を誓った貞淑な妻だと言っても、相手は人智を遥かに超越した謎の力を持っている。あのハーレム形成力をもってしては、神でさえも抗えないかもしれない。扉を固く閉じてハーレム王の嵐が過ぎ去るのを待つ。

「ボウヤ……よく見ればいい男だねえ。どれ、ボウヤたちのパーティーの武器と防具は全部私が整えてやろう。転びそうになった私を助けてくれたお礼だ。金は要らないさ」

 扉の外ではヘファイストスが早速ハーレム王に攻略されていた。あの堅物のヘファイストスでさえ瞬時にチョロインにされてしまうなんて。

「ていうか、あの大人数のパーティーの武器と防具をヘファイストス製の武器で整えたら何億ヴァリス掛かると思ってんのっ!? そんな余裕があるならボクのナイフもプレゼントにしてくれればいいのにぃ~~~~っ!!」

 チョロインと化したヘファイストスは普通なら絶対にあり得ない行動に出ている。

「ハーレム王キリト……恐るべし」

 ボクまでチョロインにされてしまう可能性を考えると怖くて仕方がない。

 けれど、あのキリトって男の子を見ていると別の悪い予感が浮かんできてしまう。

 ボクの胸に少し前から浮かぶようになった疑問と折り重なってしまう。

 それは絶対にあってはならない展開。でも、ボクはその不安を拭い捨て去ることができない。その、疑問とは──

「もしかしてベルくんは、ハーレム王、なんじゃないかな?」

 ベルくんが、キリトと同じ力を持つ特別な人間なんじゃないか。

 その恐ろしい可能性にボクは気付いてしまっていた。

 

 

 

 ボクとベルくんの出会ったあの日。それは、ボクがベルくんに惚れてしまった日でもあった。

『遅刻遅刻遅刻ぅ~~っ! 遅刻しちゃうよぉ~~~~っ!!』

 その日ボクは唐突に労働意欲に目覚めた。働きたくないでござるを信条とする不殺を貫くお侍さんと不労を誓い合っていたボクが何故か急に働きたくなったのだ。

 今日はバイトの面接の日だったのだけど思い切り寝坊してしまった。それで、朝食のパンを咥えながら街中を疾走していた。

 次の角を曲がればギリギリ面接時間に間に合いそうだった。ボクは更に走る速度を上げた。でも、それが事故へと繋がった。

 十字路を曲がろうとした時、ボクの進行方角から白い髪の男の子が走ってくるのを認識した瞬間にはもう遅かった。

『きゃあああああああああぁっ!?!?』

『痛っ!?』

 男の子と正面衝突して小柄なボクは後方に弾き飛ばされてしまった。尻餅をついて痛みがお尻から頭へと駆け上がってくる。涙が出るぐらいに痛かった。

『危ないじゃないかっ!』

 ボクも全力疾走していたことを忘れて男の子を怒鳴りつける。でも、ボクより頭1つと半分背の高い男の子の方は立ったまま。対してボクは転んでしまっているのだからボクの方が被害は大きい。

 そして赤い瞳の男の子はボクに謝りもしないまま顔を赤くして硬直していた。その大きな瞳はただ1点を見つめていた。

『君は一体何を見てるんだい?』

 少年の視線の先を追う。そこには倒れたままのボクがいた。股を広げて脚をM字型に開いているボクが。

 うん? M字開脚しているボク?

 ボクの服装は一張羅の白いワンピースドレス。そのスカート丈は普通に立ってギリギリでパンツが見えないように調節されている。じゃあ、今は?

 少年が何を見て硬直しているのか悟ってボクの怒りは爆発した。

『こっ、こっ、このぉ~~~~っ!! パンツ覗き魔ぁ~~~~~~~~~っ!!』

 ボクが両手を振り上げながら立ち上がったところ、彼に掛かっていた硬直が解けた。

『ごっ、ごめんなさぁ~~~~いっ!!』

 少年は大声で詫びながらそれでも立ち止まることなく走り去ってしまった。

『神様のパンツを見るなんてとんでもないよ……って、ああっ! 面接の時間っ!?』

 もう遅刻は確定だった。

『パンツ覗き魔の馬鹿ぁ~~~~~~っ!!』

 今更嘆いても無駄なことだった。

 

 

 結局その日の面接は遅刻が響いて駄目だった。働く気にはなったけれど、ボクのニートは続いていた。

『お腹減ったよぉ~~~~っ』

 ヘファイストスのファミリアを追い出されて以来ボクの寝床、食事は酷い有様だった。廃教会の隠し部屋に勝手に住み着いている。雨風は防げるけれど、食事は店の余り物を分けてもらっている始末。基本的に常時空腹だった。

 フラフラ左右によろけながら街中を歩く。バイトに採用されていれば今頃まかないを食べていたころかもしれない。でも、今のボクは朝から何も食べていない。空腹、不幸せ。

『こんなことになったのも……あのパンツ覗き魔が悪いんだぁ~~~~~~っ!!』

 神であるボクの下着を覗き見る不敬を働いただけでなく、その仕事と食事まで奪うなんて。許すまじパンツ覗き魔。

『あっ、あの……大きな声でパンツ覗き魔って言わないでください』

『うん?』

 急に腕を引っ張った主を見るとウサギのようなイメージの先ほどの少年が立っていた。

『君はさっきのパン……っ!?』

 口を両手で塞がれてしまった。

 意外と逞しい力の持ち主でただのひ弱なもやしっこってわけでもなさそうだった。

 冒険者か、それとも冒険者志望か。

『あ、あの、今朝のお詫びも兼ねて今夜の夕食はボクがご馳走しますから。穏便に。穏便にお願いします』

 その瞬間、ボクは神を見た気がした。いや、ボクが神様なんだけど。

『…………ボクに、夕飯をご馳走してくれるの?』

『はっ、はい。僕はあなたにとても失礼なことをしてしまいました。ご馳走させてください』

 そう言って微笑んでみせた少年は天界のどんなイケメン神よりも格好良く見えた。

『ご飯……食べられるんだ』

 残飯以外を食べるのは何日ぶりになるのか。その申し出をしてくれた少年が尊くて。涙が出た。

『ご飯、食べましょう』

 少年がボクに向かって手を差し伸べてきた。ボクはスゴくドキドキしながらその手を取った。その瞬間、ボクは自分の周りの世界が光り輝いたのをハッキリと感じていた。

『うんっ♡』

 少年の顔を見ていると幸せで頭がおかしくなってしまいそうになる。これが恋なんだって気が付いた。ボクにとって天界、人間界合わせて初めての出来事だった。

 この子のためにどんなことでもしてあげたい。貢いであげたい。食べさせてあげたい。彼を養ってあげたい。そのためには……。

『ボクは働くぞぉ~~~~~~~っ!!!!』

 ボクは生まれて初めて労働意欲に全身を滾らせた。そして、働いて得たもの全てをこの心優しき少年に捧げたいと心から思った。美少年に貢ぎたい年頃

 これがボクとベルくんの初めての出会いだった。

 

 アレ……? 

 もしかしてボクってものすごいチョロインなんじゃ?

 そして男に心惹かれたことがなかったボクを容易く惚れさせたベルくんはやっぱり……。

 

 

 

「というわけで今日はボクもダンジョンに同行してベルくんがハーレム王なのか確かめさせてもらうよ」

「えっと……神様が何を言っているのかわからないんですが?」

 翌朝、いつものようにダンジョンに向かおうとしているベルくんにボクは告げた。考えれば考えるほどベルくんはキリトと同じハーレム王である可能性が高い。

 つまり、ボクはハーレム要員の1人に過ぎない。または、ボク以外にも大勢の女がいる可能性が考えられてしまう。ボクはベルくんの唯一にして絶対の奥さんだというのに。

「それに、ヘファイストスさまのお店の方はいいんですか?」

「ヘファイストスがとある少年に店の武器を全部貢いじゃったから、しばらくの間は休店になったよ」

 10人分以上のフル装備が1度になくなってしまい、ヘファイストスの店の在庫はなくなってしまった。下手をすれば何年もの休業に違いなかった。その分ローン返済が先に伸びるからあんまり嬉しくもない。

 けれど、生じた時間は有効利用したいと思う。というわけで今日はベルくんの浮気調査。もとい、ハーレム王なのか素質調査。

 もし、ハーレム王であるようなら、この生命に替えてもその危険な力を封じないといけない。

「ですが、神様は冒険者ではないので一緒に来るのは危険なのでは?」

「ベルくんが守ってくれるから大丈夫♡」

 女という獰猛で狡猾で野蛮なモンスターが近寄ってきた場合はボクが彼を守る。

「ベルさまぁ~♡ お迎えに上がりましたよぉ~」

 癇に障る猫なで声を発しながら獣耳幼女な外見のモンスターが室内へと入ってきた。

「チッ。いやがったですか」

 リリルカ・アーデという名のこの世全ての悪はあからさまな舌打ちをボクにしてみせた。

「今日はボクもダンジョンに同行するからよろしくね」

 怒りの視線を振り撒いて返す。この女、やはりベルくんを食べてしまおうとするモンスターで間違いない。ベルくんにちょっと優しくしてもらっただけでコロッと惚れてしまったチョロインの分際で忌々しい。

「やはりベルくんは……あっという間に女を惚れさせる無自覚なハーレム王なのっ!?」

 ベルくんの右腕をガッチリと組んでモンスターの接近を阻みながら教会の外へと出る。決して油断はできない緊張感に満ちた出発だった。

 

 ベルくんが女に近寄らないようにコース取りに注意する。けれど、そんな努力をあざ笑うようにモンスターたちは接近してきた。

「ベルさん。迷宮探索アドバイザーの任務として、今日はダンジョンを一緒に探索させてもらいます」

 メガネを光らせながらアドバイザーくんことエイナ・チュールがベルくんの前に立ちはだかった。

「えっ? アドバイザーってそんなことまでするんですか?」

「ベルさんに死んでいただいては困りますから。うん? …………チッ」

 エイナはボクを見ながらあからさまな舌打ちをしてみせた。やはりコイツもモンスター。そんな大した接点もないはずなのにボクのベルくんに惚れてやがる。

 やはり、ベルくんに関わった女はみんなチョロインと化してしまうのだ。

「アドバイザーの立場を利用してベルくんに色目を使うなと警告したと思うんだけど?」

 エイナは白を切る態度で堂々と返してきた。

「私はただベルさんを弟のように親身に思っているだけです。でも、血の繋がらない弟なので今後どうなるかは知りませんが」

 やはりこの女は信用ならない。隙あればベルくんに襲い掛かって食べてしまうモンスターだ。

 

 リリルカとエイナという2匹のモンスターに囲まれて全く気が抜けない状況でボクたちは更に進んでいく。

「今日のみなさんは何だかいつもよりピリピリしてますね」

「鈍感にも程があるだろっ!」

 無自覚ハーレム王パネェ。そして腹が立つぅ。ベルくんの奥さんは唯一このボクなのに。

 けれど、そんな正妻のボクに更なる試練が迫ってきた。

「ベルさん。お弁当を持ってきました♡」

「私はシルの護衛です。おはようございます」

 酒場『豊饒の女主人』の従業員であるシル・フローヴァとリュー・リオンが現れた。シルの手にはお弁当が乗っかっている。ベルくんをわかり易く餌付けにきている。やはりこの女も大人しそうな顔をしてベルくんを食べようとしているモンスターっ!

「あの、今日は何だか随分賑やかですね」

「僕の戦いぶりを視察されるみたいで神様とエイナさんがご同行されることになりました」

 ベルくんの話を聞いてシルの顔がパッと輝いた。

「では、今日は私も同行させていただいてよろしいでしょうか?」

 抜け目ねぇ。狙った獲物は逃さないハイエナみたいな立ち回り。ガツガツし過ぎだろ。

「シルさんはダンジョンの初心者なので危ないのでは?」

「シルは私が守りますからご心配なく」

果物ナイフを構えたリューが安心を強調する。この子が何者なのかは知らない。けれど、ベルくんよりよほど腕が立つのは確かだった。この子がいればシルの安全は保証される。

でも、ボクはリューの行動に別の意図を感じ取っていた。

「リューもベルくんをガツガツ食べようとしているモンスターに違いない」

 シルを守りながらベルくんに色目を使う。この女の意図は読み取れた。

「シルもリューも大して接点がない癖に……どんだけチョロインなんだよっ!」

 身持ちの固そうな女が次々に攻略されていく。やはりこれはもうベルくんのハーレム王スキル発動に違いなかった。

「このままじゃ、未来のこの都市はベルくんそっくりの子どもで溢れることになっちゃう」

 ベルくんの正妻として絶対に許容できない世界。今日の探索は中止にしてベルくんのハーレム王スキルをどうにかする方法を考えることにする。それを告げようとした時だった。

「なら、この子は、私が守る」

「えっ? あなたは……アイズ・ヴァレンシュタインさんっ!?」

 突然現れたヴァレン某はベルくんを小脇に抱えるとズンズンとダンジョンに向かって歩き出した。あのモンスターは策など必要としない。正面からベルくんを奪い蹂躙するのみ。

「やはりこの世界はベルくんにチョロイン化させられたモンスターで溢れている」

 ベルくんがハーレム王であることはもはや疑いようがなかった。

 

 

 

「先ほど出会ったキリトという少年の正妻はあのサチ(CV:早見沙織)で間違いありませんね。風格がひとりだけ違いました」

 リュー(CV:早見沙織)は若干興奮した口調で先ほどダンジョン内で遭遇したハーレム王キリトパーティー一行の感想を語っている。

「何を言ってるんですか。あのサチという子はどう見ても昔の女。前妻ですよ。アスナ(CV:戸松遥)が正妻に決まってるじゃないですか」

 エイナ(CV:戸松遥)はリューの意見に異議を唱えている。でも、ボクに言わせればどうでもいい。

 ハーレム王であることが間違いないベルくんを女という名のモンスターから如何にして守るか。それで頭がいっぱいだった。

「あの、いい加減に下ろしていただけないでしょうか?」

「駄目。この階層のモンスターは、まだ、君では勝てない」

 ヴァレン某は左腕にベルくんを抱えたまま快進撃を続けている。ベルくんを降ろさないのは彼女なりの安全確保のためなのだろう。でも……。

「おのれ、ヴァレン某。ボクのベルくんとあんなに引っ付くなんてぇ~~っ!!」

 あのモンスター自身がベルくんを性的な意味で一番危険に晒しそうだった。

 このままいけばきっとベルくんはあの獰猛で飢えたヴァレン某にバクっと食べられてしまうに違いない。だけど、純粋な力でヴァレン某にボクやリリルカたちが勝つのは不可能。

 だからボクたちは……ヴァレン某に気付かれないように互いに目配せした。

 

 シルがお弁当を取り出す。リリルカがそのお弁当に白い粉を振りかける。リューとエイナがブロックしてヴァレン某の視界にそれが映らないようにする。即席なのに見事な連携プレー。

「ねえねえ、ヴァレン某。お腹空かない?」

 ボクは明るい声でヴァレン某を誘った。コクンと頷く彼女。すかさずシルはヴァレン某に粉が振りかけられたお弁当を差し出した。

「どうぞ♪」

「ありがとう」

 ヴァレン某は何も疑わずにお弁当の中のおにぎりを1つパクっと食べてみせた。

 そして数秒後、何も発することなくその場に崩れ落ちた。

「グエッ!?」

 聞こえたのは小脇に抱えられていたベルくんの悲鳴だった。

 ヴァレン某。君の戦闘力は大したものだ。でも、力だけで勝ち抜けるほどこの戦争は甘くない。君は純粋過ぎたんだよ。

 

「さて、アイズ・ヴァレンタインさんを無力化しましたがこれからどうしま……」

 エイナは最後まで喋ることができなかった。リリルカが粉を染み込ませたハンカチを彼女の口元に当てていたから。

 エイナもギルド職員という安泰で堅い職業柄、自分が即座に裏切られるという可能性を念頭に置いていなかったのだろう。彼女もまた公務員気質だったのが不幸だった。

 ゆっくりと崩れ落ちていくエイナ。

 彼女を倒したリリルカは悪い笑みを浮かべている。でも、ボクに言わせればあの獣耳幼女(偽)は判断を誤った。

「やはり貴女は信頼がなりませんね」

 リリルカがエイナに仕掛けた時には既に、リューは獣耳幼女の背後に回っていた。

「しまっ…………」

 リリルカは自分のハンカチを自分の口に無理やり押し当てられて気を失った。

 あの獣耳幼女は判断を大きく誤った。バトルロワイヤルの鉄則は強い者から順に潰していくこと。ヴァレン某を倒したら次に倒すのはリュー。その鉄則を忘れた瞬間、リリルカのこの戦争の敗北は決まっていた。

 絶対に負けちゃいけない戦争だったというのに……愚かな子だ。

 

「さて、リュー。ボクが何を言いたいのか……賢い君ならわかるよね?」

 ボクはシルの手を捻って拘束しながらリューに警告した。

 ヴァレン某が倒れてからボクも何もしなかったわけじゃない。シルの後ろへと移動して、リューがリリルカに仕掛けたタイミングでシルを拘束した。

「シルを……解放してください」

 リューの声には全く覇気がなかった。全てを諦めたように肩を落としている。

「私には構わないで。神さまをやっつけてくださいっ!!」

 シルが悲劇のヒロインぶって泣きながら叫ぶ。言ってる中身は神であるボクに対して不敬だけど。でも、重要なのはシルが自己犠牲精神を発揮してくれたことだった。

「ということらしいけど……どうする?」

 ボクは瞳を細めて挑発的にリューを見た。

「シルが傷つくようなことはできません」

 肩を震わせた末にリューは降伏を申し出た。

「じゃあ、そのハンカチでお願いね♡」

 リューはリリルカが握り締めたまま気絶しているハンカチを拾い上げて自分で思い切り吸い込んだ。

「シル……貴女の勝利を願っています」

 リューはその言葉を最後に前のめりに倒れて動かなくなった。

 

「だってさ」

 ボクは、拘束を難なく解いてみせたシルに尋ねた。

「リューさんの仇は私が取ります」

 シルは掴まれていた腕を全く痛くなさそうに回してみせた。

「君、ボクにわざと捕まったよね?」

 ボクの拘束からの洗練された抜け出し方から見て、捕まっていた方が不自然だった。

 つまり、わざと捕まった。それは何故か?

 ボクがリューを倒すのを狙ってのことに違いない。そうすればボクさえ倒せばベルくんを独り占めできるから。この女、リリルカなんて比べ物にならないほど謀略に長けている。

「何のことでしょうか?」

 あくまで自然にしらを切る。

「まあ、いいさ」

 この手の輩が自らの意図を認めることはない。ボクもわざわざ吐かせようとは思わない。

「この戦い、もし君が勝ったら……どうする?」

「所帯を持ちたいと思います。私ももう18歳ですから」

 いい笑顔でストレートな答えが返ってきた。

「ベルくんはまだ14歳だよ」

「それが何か障害になるのでしょうか?」

 シルはとても不思議そうな顔でボクを見ている。

「愚問だったね。ボクも、今日中にベルくんを夫に迎えるつもりだから同じだ」

 ここにいる子はボクも含めてみんな、ベルくんと結婚するつもりでここにいる。すなわち、シルとのこの戦いがボクの人生の天王山になる。

「さあ、始めようか。ボクと君のベルくんを賭けたファイナルバトルをっ!!」

 今ここにいるのはパーティーの中で最弱な2人。でも、それだけに勝ち残ってきたのはただの偶然じゃない。

 

 ボクもシルも戦闘はズブの素人。共に飲食店で働いてホールで体はある程度鍛えている。条件は互角。

 身長、リーチはシルの方が長い。ボクはこの不利を跳ね返して勝利を掴まないといけない。さて、どうするか?

「行きますっ!」

 シルは先制攻撃を仕掛けてきた。ボクに策を練る時間を与えずに体格差で押し切るつもりに違いなかった。

「仕方ない。当座は迎撃してしのぐまでっ!」

 ボクは覚悟を決めてシルの最初の攻撃を受けきることにする。

 シルのリーチがもうすぐボクに届くというところまで来た瞬間のことだった。

「あっ」

 シルは何もないところで躓いて頭から転んでしまった。

 そう言えばこの子は相当なドジっ子だった。

「後、後ほんのすこしでベルさんのお嫁さんになれたのに……」

 シルはその言葉を最後に気絶した。

 

 

 この戦争の勝者は、唯一の生存者はボクだった。

 敗者を慰める言葉はない。そして奢ることもしない。

 ボクはゆっくりとベルくんに近付いていった。

「かっ、神様っ! みんなが大変なんです。早く助けないとっ!!」

 まだネンネなことをほざいているベルくんを小脇に抱えて窪みになっている部分へと移動させる。地面に放り投げて馬乗りになる。

「いただきます」

 手を合わせてからボクは負けていった者たちの分まで精一杯勝利の美酒を味わうことにした。

「えっ? かっ、かっ、神様の……ケダモノぉおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!」

 ダンジョンの中だけあってベルくんの泣き叫ぶ声はよく響いた。けれど、リリルカの薬は強力だったのか誰も目覚めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「あなたぁ~行ってらっしゃい~♡ ほぉ~ら、パパのお出掛けでちゅよぉ~♡」

 農作業に出向く夫を、そろそろ1歳になる赤ん坊を抱き上げながらお見送りする。ボクのお腹には2人目の赤ちゃんがいることもあって、今は家事に専念している。

 ダンジョン内で固い絆で結ばれたボクとベルくんはすぐに結婚。迷宮都市オラリオを離れた。ここにはハーレム王の魔力に惹かれてしまう若い女の子が多過ぎるから。

 ボクたちはお年寄りの多い片田舎で農業を営む生活を始めた。元々気立ての優しいベルくんには殺伐とした冒険者暮らしより農家の方が合っていたのかもしれない。

 豊かではないけれど、優しさと愛情に満ち足りた生活を送っている。子どもにも恵まれてボクは今とても幸せに恵まれている。

「君はベルくんみたいなハーレム王になっちゃうのかな? ママは君の未来が楽しみだよ」

 腕の中でスヤスヤと幸せそうに眠っている男の子の頭を撫でながらボクは懐かしい日々に想いを寄せていた。

 

 

 ダンまち ハーレム王になると出会いはあったエンド

 

 

 

 


 
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