洛陽から南西へ下ることしばらく。
俺たちは、ある山裾の集落に来ていた。
「隊長、こちらです」
凪が先導してくれる。
ここへは、凪が都から洛陽へと向かうとき耳にした、化け物の噂を調査するために来たのだ。
だが……
「化け物って、鬼のことだよな?早く殺り合いてぇぜ!」
小夜叉は殺る気満々だ。
どうやら春蘭あたりと気が合いそうな戦闘狂らしい。
剣丞が俺の言うことを良く聞くようにと言い含めてくれていたが…
春蘭と似ていることを考えれば、そのあたり怪しいものだ。
「もう~小夜叉ちゃん!まずは調査なの!悪くない鬼かもしれないの」
鞠ちゃんが、プンプンという効果音が聞こえてきそうな、可愛らしい感じでたしなめる。
今川氏真。
正直ほとんど知識はないけど、剣丞曰く、とても頭が良く腕も立つ娘、らしい。
こんなにちっちゃいのに…
「お~う、鞠はちゃ~んとやること分っとるや~ん!可愛いやっちゃの~、うりうり~♪」
霞は鞠ちゃんを抱き上げると、頭を撫でながら頬ずりをするという、ハードコンタクトをとる。
「や~ん、くすぐったいのー」
「ええがな、ええがな~」
まるで初孫を愛でる祖父のようだ。
「どや、こやちんも混ざるか?」
相変わらず鞠ちゃんに頬ずりしながら、視線を小夜叉の方に向ける。
「はぁっ!?誰が混ざるかバカじゃねぇかぁ!?てか、こやちんってオレのことかよ、ナメてんのかあぁん?やってやんよ!」
一瞬でぶち切れた小夜叉が槍を構える。
一触即発。
「はっはっは!元気があってえぇなぁ!春蘭と鈴々を足して割らんかったみたいや」
そんな空気にも全く臆せずに、笑い飛ばす霞。
このあたり、さすがは豪傑・張文遠といったところか。
「それにな~、小夜叉、ってちと可愛ないやん?せやから
「……けっ!勝手にしろや」
霞の笑顔に毒気を抜かれたのか、槍を引いてそっぽを向く小夜叉。
案外、この手のタイプが苦手なのかもしれない。
「よっしゃ!じゃあ聞き込み行くで~。こやちんも来ぃや~。凪っちもおいで~」
「あ……えっと…」
鞠ちゃんを抱えたまま、ズンズンと集落奥へ進んで行く霞と俺とを見比べる凪。
いいよ、と言うと、失礼します、と霞の後をついていった。
何気に小夜叉もちゃんとついていったようだ。
取り残される風と俺。
「……お兄さ~ん」
「なに?」
「この面子だと、風が喋る隙がないのですけど~…」
「…濃い面子だからね」
「台詞が無いと、風いないと思われてしまうのですよー」
身も蓋もないことを言い出した。
「それはさておき、俺たちも聞き込みに行こうか」
「ですね~」
こうして俺たちは、手分けをして化け物の噂を調査するのだった。
………………
…………
……
「ふむ…」
昼過ぎに合流した俺たちは、食事処で昼食をとりながら、持ち寄った情報を整理することになった。
「凪ちゃんの言ってたとおり、大きく分けて二種類の噂がありましたね~」
風が、ふむふむ、と仰々しく頷いてみせる。
「化け物は物々しい風体をしており、身の丈十尺、返り血のせいで全身は真っ赤に染まっている、と」
これが一つ。
「片や、別の異形のものをやっつけてくれる天女。豊かな胸をもち、紅玉のように赤い羽衣と美しい髪をしていた、ってか」
「私が聞いたときと、さほど変化はありませんね」
「う~ん…多分、この赤い化け物ってのは同じ事を言ってるんだろうけど…なんでこんなに違うんだろ?」
「さっぱり分からんわ」
俺と霞、そして凪は腕組みをしながら首を捻る。
と、
「おい一刀。テメェ馬鹿か?」
「な――」
突然の暴言に凪が絶句する。
「こ、小夜叉殿!いくらなんでも失礼が過ぎるでしょう!隊長にそのような……」
「馬鹿に馬鹿っつって何が悪ぃんだよ。こんなもん簡単だろうが」
「え――?」
小夜叉の予想外の発言に、またしても言葉が詰まる凪。
「簡単って、つまりこの噂が示すことが分かるのか?小夜叉」
「さっきからそう言ってんだろうが」
「いや、言うてへんで」
「なぁ、鞠?」
霞の突っ込みも完全にスルー。
「うん、簡単なの。ねぇ、風ちゃん?」
「はい~、簡単ですね~」
小さい組三人が連携して簡単を連呼する。
「え、なに?そんなに簡単?」
今の俺は、さぞかしアホ面をしていることだろう。
「ですね~。今回のように、対立関係にあるわけではない方々に、同一の事象について尋ねた場合に出てくる誤差は、思い込みや噂の尾ひれであることがほとんどです。それらをふるいにかけ、残った事実を取り出してあげると~?」
「正体は分からねぇが、赤くて強い奴がいる、ってことだろうが」
「なのっ!」
「な、なるほど……」
三人の説明は単純だが、的を射ている。
噂に惑わされていた俺が恥ずかしい。
風はともかく、小夜叉の直感力と鞠ちゃんの聡明さを、まざまざと認識させられた。
「はぁ~、なるほどなぁ…ほなら、目撃された場所はほとんど同じ場所やし、その辺に行ってみよか?」
「そうですね。元より我々はそのために来たのですしね」
「確かその辺りには、古い砦が一つあったはずですから、まずはそこまで行ってみましょうかー」
方針は決まった。
今から出れば、日が暮れる前には帰ってこられるだろう。
俺は食後のお茶を流し込むと、気合を入れて立ち上がった。
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どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、51本目です。
明命の過去は少しお休みしまして、今回から三回(予定)は、凪が持ってきた化け物の噂を調査する組のお話です。
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