友紀視点
凪紗「タァッ!」
凪紗の上段蹴りが、私の顔面を掠める。
どうやら風圧で少し切れてしまったようで、頬からツーっと血が流れてきた
凪紗、しばらく見ない間に随分強くなったな
秋菜「ッ!」
そして、凪紗の攻撃の隙をしっかりとカバーしている秋菜の弓の存在。
決定打こそはないが、それは私にも言える事で、なかなか決め手となりそうな一撃を打てずにモヤモヤしていた
今まではあまり気に留めなかったが、秋菜も秋菜で、良い感じに邪魔じゃねぇか。
敵として戦うとなると、こうも面倒臭いとは思わなかったぞ
友紀「咲希が来た時用に整えたこの部屋を、まさかお前ら2人の為に使うなんてな!」
この部屋には数多の武器が落ちている。
と言うのも、咲希を相手にするなら、武器の一本や二本じゃ足りないからだ。
数百あってやっと互角、数千あってやっと勝てるかもしれない。
そして勝つ為には、私の技量もそれに追いつかなければいけない。
そんな対化け物用決戦部屋を、この2人の為に使わなければならない
それが少しだけ腹立たしくて、少しだけ嬉しい
私は側にあった二本の槍を引き抜き、同時に迫っていた凪紗の拳、そして秋菜の矢を防いだ
凪紗「烈光波!」
凪紗の拳が光りだし、私の視界を一瞬奪う。
その間に凪紗の蹴りが私の土手っ腹に直撃し、よろめいてしまう
以前の凪紗にはなかった重みがある。
それに、まだまだ不完全だが、咲希の技も覚え始めているのか。
本当に、成長したな
凪紗「紅蓮鉄鋼拳!」
チラッと目を開くと、凪紗の拳が赤く燃えるように輝き出す瞬間を捉えた。
その特徴に、咲希の技の一つ、紅蓮鉄鋼拳だという結論に至る。
咲希が打てば、射線上にいるあらゆる物を焼け野原にする程の威力だが、凪紗にはそれ程の威圧感が感じられない
なら…
私は放たれる凪紗の燃える拳に合わせ、拳をぶつけた
凪紗「な!?」
凪紗は私の燃えるように赤い拳を見て驚いていた
友紀「紅蓮鉄鋼拳。凪紗、お前が使える技は、私も使える」
私は一度でも見た技なら、ある程度模倣する事が出来る。
ただ、模倣するだけでその技を極めなければ本物に至らないので、多くは本物程の威力はない
だが、今回に関して言えば、私は随分前に咲希に技を見せてもらい、ある程度の域までは使いこなす事が出来ている
そしてそれは、凪紗の持つ威力より上なのだ
凪紗「!?ガッ!」
私は握った拳に力を込める。
すると燃えるような氣が先端で爆発し、凪紗を吹き飛ばした
秋菜「チッ!」
秋菜が矢を二本放つ。
牽制に一本と急所狙いに一本。
流石に早撃ちを得意とするだけあって、二本の矢の間隔は短い。
だが、焦ったな。命中精度に欠けている
牽制に放った矢は動く必要すらなく逸れていき、本命は急所でもない、真正面に飛んで来たので容易に弾く事が出来た
さて、これで秋菜はもう一つ失敗している。
弓兵の生命線とも言うべき矢を無駄にし、これで残り3本となった。
決定打に欠ける、補助役の秋菜にとって、矢の喪失は戦闘不能を意味する
さぁ、もうすぐ詰みだ
友紀「いい加減、諦めたらどうだ?」
私は倒れている凪紗に向かって言った。
秋菜は私が動こうものなら撃ってやると言わんばかりに弓を引いている
凪紗「あき…らめる…?」
凪紗が起き上がり、私の目を見てきた。
その目には…
凪紗「馬鹿言わないでください…絶対に、諦めない!」
未だに炎が灯されていた
友紀「馬鹿はお前だ。わかってんだろ?私とお前の実力」
わかってんだろ?凪紗(こいつ)が諦めの悪いやつだって
凪紗「それでも、私はあなたを止めなくちゃいけない!」
わかってんだろ?こいつの正義感が半端ないって
友紀「何故だ?何故お前は私に固執する?関係ないだろ?放っておけばいいじゃねぇか?」
あぁそうだ。もう放っておいてくれ。そしたらみんな楽になる。凪紗も、秋菜も、痛い思いしなくて済む
凪紗「放っておけません…おけるか、馬鹿!」
友紀「!?」
凪紗視点
私はとうとう怒鳴ってしまった。
軍人という立場でありながら、私情で激昂してしまった
だけど、もう止められない
私は、どうしてもこの人に言ってやりたいのだ
凪紗「放っておける訳ないだろ!今までずっと一緒にいて、訓練して、仕事して、ご飯食べて、笑い合って!同じ時を過ごして来ただろ!なのに、なんでそんなにも簡単に切り離そうとするんだ!?友紀さんが今まで楽しいと言ってきた事は嘘なのか!?」
友紀「ハッ!当たり前だろ?私はお前らなんかと連んで楽しいなんて…」
凪紗「それこそ嘘だ!なら友紀さん、なんであなたは、そんなにも辛そうな顔なんだ!?」
友紀「辛そうな…顔…?」
凪紗「あぁそうだ!今の友紀さんは、泣きそうな顔をしている!」
今の友紀さんは、見ていて痛々しい
この人の実力は間違いなく私よりも上だ。
もし友紀さんが本気で私達を倒そうと思ったら、それこそ一瞬で終わってしまう可能性があるくらい。
なのに、友紀さんは私達に気を遣っている。私達を本気で倒そうとしていない。
それが無意識的なのか意識的なのかはわからないが、この人はきっと…
凪紗「友紀さん、あなた本当は、止めて欲しいんじゃないのか!?」
友紀「!?」
そう、きっと友紀さんは、こんな事、本当はしたいと思っていない。
それはもちろん、私の願望でもあるが、それでも私には、友紀さんがそう思っているようにしか見えない
この人は、迷っていると
凪紗「友紀さんの居場所はここじゃない!許昌なんだ!だから、一緒に帰ろう!家族の居る、あの場所…ッ!?!」
な、なんだ?急に友紀さんの雰囲気が…
友紀「家族…だと?お前に、お前らに何がわかる!?」
友紀さんの表情は、怒りに満ちていた。
感情の読み辛い友紀さんにしては、わかりやすいほどに、怒っていた。
その表情に、声に、私は思わず気押されてしまった
さらに友紀さんが叫んだ瞬間、友紀さんは物凄い速さでこちらに向かってきた。
私はそれに反応する事が出来ず、接近を許してしまう
秋菜「凪紗!」
秋菜姉さんの矢が、私と友紀さんの間を通過する。
友紀さんはその矢を横目に見るも、気にせず私に突っ込んで、拳を振りかざした
直後、強烈な衝撃が脳髄に響いた。
その衝撃を受け、数メートル飛ばされて初めて、何が起こったのかを理解した
自分は友紀さんに殴られた。それも、かなり本気で
視界がボヤけ、まともな思考ができない。
そんな状態だからか、次の友紀さんの行動がハッキリと確認出来なかったが、友紀さんが秋菜姉さんの元へ行き、蹴り飛ばしたように見えた
たった一撃貰っただけで、立つ事が辛くなる。これが、友紀さんの実力
友紀「あぁあぁ!いいよな、お前らは!?当たり前のものが当たり前にあって!当たり前のように愛情を注いでもらって!当たり前のように恵まれていて!当たり前のように幸せで!何不自由なく過ごしてきたお前らに、私の気持ちなんてわかるわけねぇよな!?」
友紀さんの叫びは、怒りを含んでいながらも、まるで子どもが泣いているかのように聞こえた
友紀「私はな!お前らが大嫌いだよ!家族がいるお前らが!幸せなお前らが!許昌が居場所だ?笑わせるなよ!私の居場所なんて何処にもねぇんだよ!母親失ったあの場所で、全部無くなったんだよ!」
きっとこれが、今まで見せてこなかった、本当の友紀さんの思い…
友紀「灰色なんだよ!何やっても、楽しい事なんて何もねぇ!唯一、私を拾ってくれた士希も、もうここには居ない!もう何も…何もねぇんだよ!」
そんな事ない…友紀さんには…
友紀「だから!私はあのクソ野郎にすがるしかなかった!あのクソ野郎、徐福なら!私が失ったものを取り戻せる可能性があるんだから!」
咲希視点
咲希「フッ!」
徐福「ハッ!」
拳や蹴りの乱打がぶつかり合う。
その度に、自分の立っている場所に穴が開き、壁がベコンと音を立てて潰れる
スピードもパワーもテクニックも全くの互角。
だからこそ、一瞬でも気を抜くと間違いなくヤられる。
そんなギリギリの競り合いが…
とんでもなく愉しい
徐福「ふぅー!全力で戦うなぞ、どれほど振りであろうな!まこと、素晴らしいぞ、鬼よ!」
徐福が瓦礫をこちらに蹴り飛ばす。
私がそれを手で払い除けると、その次の瞬間には徐福が目の前まで迫って来ていた
ガキン!
伸ばされた徐福の手を、私は咄嗟にナイフを抜いて防いだ。
するとどうだ?おおよそ人の肉体が奏でるとは思わない金属音が響いた
咲希「大した奴だ。私にナイフを抜かせるなんてな」
徐福「それはこちらの台詞じゃ。余とまともに渡り合う奴なぞ、今までおらんだぞ」
ナイフを握る手に力を入れ、徐福を一旦押し返した。徐福はその圧力に抗う事なく後ろに引いた
徐福「そんな小さい得物を使わずとも、背負っている大きい方を使っても良いのだぞ?」
咲希「ハッ!こいつを抜かせたきゃ、もっと頑張るんだな!」
私にとって刀とは、全力を意味すると同時に、あまり使いたいものでもないのだ。
下手すりゃ、この街一帯を斬り刻む事になるからな
咲希「ところで、一つ聞いていいか?」
徐福「む、なんじゃ?気分が良いから、何でも答えるぞ?」
咲希「どうやって友紀を、王異を丸め込んだ?」
それは、この事件が起きてからずっと引っかかっていた事。
私はあいつが昔から何かを抱え込んでいた事を知っていたし、時々、私達に対して良くない感情を持つ事だってあった。だがそれも、士希や霰と軍に入る頃には払拭されていた。それどころか、士希に並以上の想いを抱いている節も見受けられた。
だから今回、その士希をある意味裏切るようなマネをした理由が、イマイチわからないのだ。
あの友紀を丸め込む理由が、こいつの手の中にある
徐福「王異の事か?簡単じゃよ。あいつの欲しているものを取り戻してやると言ったのじゃ」
咲希「あいつの欲しいもの?」
徐福はニタッと気持ち悪い笑みを浮かべて口を開いた
徐福「あぁ。家族、じゃよ。あいつの父親に母親、それに姉もじゃったかな?そいつらを蘇らせてやると言ったのじゃ」
一瞬、思考が停止する。こいつが言ったことが、あまりにも荒唐無稽だからだ。
友紀の家族だと?あいつの家族は全員死んだ。死んだ人間が蘇るなんて有り得ない
徐福「ほぅ?鬼でも人並みの表情にはなるのだな。蘇るなんて有り得ないと、そう顔に書いておるぞ」
徐福に指摘され、私は内心舌打ちをした。この程度でいちいち心を読まれると、後々問題になってしまう
咲希「あぁそうだな。有り得ない。だが、もっと有り得ない存在であるお前が言うんだ。少しは現実味もあるわな」
きっと、友紀もそう思ったに違いない。
400年もの年月を生きているこいつになら、それくらいやってのける可能性があると
徐福「フハハハ!お主のそういう、物分かりの良い所も、余は好きじゃぞ!さて、蘇りに関してじゃが、結論から言えば可能じゃ」
おいおい、こいつはさっきから、サラッとトンデモナイ事を言うな
徐福「余の力を持ってすれば、それくらいは容易いからな。しかし、それには条件がある。一つは、死んだ者の最期。殺されたや病死なら蘇らせる事が可能じゃが、老衰じゃと無理じゃ。その者の体に、生きるという力がもう無いのじゃからな。そして二つ目、死んだ者の体の一部があるかどうか。その者の体の一部を触媒に再生させるのじゃからな。これもどうしても外せん条件の一つじゃ」
もしこいつが言っている事が本当だとしたら、家族を失った友紀にとって、それは夢みたいな話だと思うと同時に、最初で最後のチャンスだと思ったに違いない
家族にもう一度会えるチャンスだと…
徐福「じゃが…」
だが、そんな上手い話が、この世に存在する訳がない
徐福「王異の家族に関しては無理じゃった。余も割と頑張ったのじゃが、どうしても王異の家族の体の一部が見つからなかったのじゃ。恐らく、既に風化してしまったのじゃろう。それに、王異の家族は死してかなりの時間が経過しておる。肉体は蘇っても、魂まで蘇る保証はない」
咲希「……それを、友紀は知っているのか?」
徐福「まさか。あの者はかなり優秀じゃ。あの能力を手放すには惜しい。じゃから、王異にその事実を伝えてはおらん」
あぁ、だろうな。じゃなきゃ、あの友紀がいつまでもあっち側にいるわけがない
咲希「ふぅ…安心した。これで心置きなく、お前を殺せる」
友紀に何かあるとは思っていたから、こいつをすぐ殺す事が出来なかったが、もうこいつを生かす価値が無くなった以上、この戦いを終わらせる為に本気でやる他ないな
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お久しぶりでございます
Second Generations 複数視点
洛陽救出戦其四
まだ環境が整わないので、今後も更新は不定期ですが、再開しようと思います。