《約束の物語 : The Story of the Testament》
作:某犬犬
・・ 旅立ち ・・
ある時、ある所に、@という名前のロボットがいました。
@ロボットは他のロボット達や
人間達と一緒に暮らしていました。
ロボット達は、人間の役に立つ様に、
人間によって造られました。
ロボット達は、人間がやると宇宙の始まりと終わりが
百万回来ても半分も解けない問題を
一瞬で計算できました。
けれど、人間より偉くならない様に、
その心は人間の子供に似せて造られていました。
その世界で人間達はいくつかの国に分かれて、いがみあっていました。
紫の国では、一人の老婆が
巫女として人々を支配していました。
巫女が占いで神の御告げを聞き、それを大臣たちに伝え、
国を動かしていました。
しかし、神の御告げなんて、本当は嘘でした。
けれど人々は、それを当たり前だと思い、疑う事すらしませんでした。
緑の国では、お金が有ればどんなものでも買えました。
自由、友情や愛、命さえも買えたのです。
人々は、お金欲しさに他人を蹴落とし合っていました。
オレンジの国では、人々は皆、大儀のために戦う戦士でした。
大儀のために人を殺し、大儀のために死にました。
そのため争いが争いを生んでいました。
青の国では、独裁者が「支配の杖」を使って
人々に言うことを聞かせていました。
独裁者は贅沢な暮らしをしていましたが、
ある日大事な一人息子が事故で死んでしまいました。
独裁者は、息子が死んだのを他の国のせいにして怨んでいました。
ある日、@ロボットは何台かのロボットと共に
人間に呼び出されました。
人間はフワフワ浮かんだ椅子に、だるそうに腰掛けながらこう命令しました。
「お前達もすでに知っているように、今この地球は大変な危機にある。
このままでは全ての生物が絶滅するのも時間の問題だ。
役立たずのお前達ではとても無理だと思うが・・・。
世界中を廻って、我々人類だけでも助かる方法を
探し出せ。」
ロボット達は、
「はい、わかりました。」
と、返事をするとすぐに出発しました。
@ロボットが通用門に向かった時、黒猫が横切りました。
黒猫は@ロボットに「ニャー」とだけ鳴いて走り去りました。
ロボット達は街を出て、
「みんな、がんばろうね。」
と励まし合うと、それぞれ別々の方向へ向かいました。
・・ 草原 ・・
@ロボットは草原に向かいました。
最初に、@ロボットはウトウトと昼寝をしているライオンに
尋ね掛けました。
「らいおんさん、にんげんたちを、たすけるほうほうを、しりませんか?」
ライオンは片目を開けてこう言いました。
「xxx」
@ロボットは、
「xxx」
ライオンは、
「オレたちは腹が減ったら食うだけだ。」
と言って、またウトウトと眠ってしまいました。
@ロボットはまた歩き出しました。
そのうち、雨がザーザーと降り始めました。
池の畔に着きました。
池では蛙達がケロケロ歌を唄っていました。
蛙は、
「人間など放っておけば」
「xxx」
日がしずむころ雨が止み、夜になりました。
赤い月xxx
野原では、虫達がチリチリ鳴いていました。
@ロボットは草むらをのぞくと蟋蟀に話し掛けました。
「xxx」
・・ 森 ・・
@ロボットは、森へ向かいました。
鬱蒼と茂る木々の間を進むと
湧水を飲んでいる子鹿に出会いました。
@ロボットは子鹿に話しかけました、
「もうすぐ、にんげんたちが、ほろんでしまうかも、しれないんだ。」
子鹿は、
「そう」
と静かに言いました。
@ロボットは尋ねて見ました、
「にんげんたちを、すくうほうほうを、しりませんか?」
子鹿は答えました、
「知らないわ。」
@ロボットはがっかりしました。
しかし子鹿は言いました。
「でも、1万年の大樹様なら知っているかも知れないわ。」
森の奥深くにとても大きな木がそそり立っていました。
xxx
1万年の大樹は語りました。
「我々植物は大昔、良い空気を吸い込み、
悪い空気を吐き出していた。
そのままでは、地球を暖める良い空気が尽きてしまう運命だった。
けれども、悪い空気を力に換える動物達が現れ、
皆が救われた。
その時我々は、生物達を護り
豊かな実りを与えると約束したのだ。」
・・ 海 ・・
@ロボットは、歩き続けて白い砂浜の海岸に着きました。
そのまま、歩を止めずに広い海の中へと潜って行きました。
海の中で@ロボットは、小魚の群と話しました。
小魚の群は、
「俺達が何故、何万年もの間、
人間の垂らした釣針に
掛かってきたか解るか?」
と、問いました。
@ロボットは考え込んでしまいました。
それを見て、小魚の群は、
「俺達は餌を見ると、食いつかずには居られない。
俺達と同じ様に
人間も破滅の罠に手を伸ばさずにはいられないのさ。」
と言うと、泳ぎ去りました。
それから、@ロボットは泳ぎ続けて海豚達に会いました。
海豚達は、飛跳ねたりクルクル回ったりして遊んでいました。
@ロボットは海豚達に相談して見ました。
「もし、にんげんたちが、ほろんでしまったら、どうしよう?」
海豚達は、
「人間達は火を必要とするけど、僕達は必要としない。
人間達は自分達の事しか考えないけど、
僕達は皆の事を考えてるんだ。
だから、人間達がいなくなっても心配無いのさ。」
と言うと、楽しそうに泳いで行きました。
@ロボットは無人島でノッソリ、ノッソリと歩いている陸亀に会いました。
@ロボットは陸亀に尋ねました。
「どうすれば、にんげんたちは、しあわせに、くらせますか?」
陸亀は答えました。
「地球上の生き物の幸せの総和は
降り注ぐ太陽の恵みと等しい。
この星は人間にはちと狭くなり過ぎたのかも知れんな。」
陸亀はまたノッソリ、ノッソリと歩いて行きました。
そして、冷たい氷の下の深い深い
真っ暗な海の底で、
@ロボットは大きな白い鯨に会いました。
@ロボットはお願いしました。
「にんげんたちを、すくって、ください。」
白い鯨は言いました。
「私達に人間を救うことは出来ません。」
それから、白い鯨はこんな事を話しました、
「生き物は皆、この世界の一員になる時に約束をしています。
しかし、人間はその約束を忘れてしまっているのです。」
・・ 運命 ・・
@ロボットが海を出ると砂漠の大陸に着きました。
太陽がギラギラと照りつける不毛の砂漠の暑さは、
ロボットであっても苦しいものでした。
やがて無事砂漠を抜けゴツゴツした岩の荒地になりました。
@ロボットの足がギシギシ軋みましたが、歩み続けました。
けれど切り立った崖の下で@ロボットは、つまずいて倒れそうになりました。
@ロボットは近くの岩に腰かけると、
調子が悪くなった足に両手を当てて、
手当てを始めました。
その間、辺を見まわしていると、崖に剥き出しになった
大きな化石に気付きました。
@ロボットは頭の中で検索して、
肉食恐竜の化石と判りました。
修復が終わり、@ロボットが立ち上がろうとしたとき、
恐竜の化石が
「おい、そこの小僧」
と声を掛けてきました。
@ロボットは返事をしました、
「はい、ぼくのこと、ですか?」
恐竜の化石は聞きました、
「我々恐竜が滅んでしまった理由を知りたいか?」
@ロボットは答えました、
「はい、ぼくは、すごくしりたいです。」
恐竜は語り始めました、
「大昔、我々恐竜は長い間
この地球を支配していた。
陸も、海も、空も、星界でさえも、全て我々の物だったのだ。
我々に比べたら人間など足もとにも及ばないのだ。
しかし、全ての生物の頂点に立つものは、その繁栄と引き換えに、
ある運命を背負っている。」
@ロボットは聞き入りました。
恐竜は続けます、
「それは、地球上の生命に絶滅の危機が迫ったとき、
自分達をいけにえとして捧げなければならないのだ。
我々と同じように、人間も亡びる運命なのだ。」
少し間を置いて恐竜は言いました、
「だが、我々の子孫の鳥だけは生き延びることを許された。」
・・ 風 ・・
@ロボットは切り立った岸壁で渡り鳥達に出逢いました。
渡り鳥達は旅立ちの支度で忙しそうでした。
@ロボットはその内の一羽に尋ねました。
「ぼくは、しりたいです。とりさんたちは、
どうして、いきのびることを、ゆるされたの?」
渡り鳥は答えました、
「私達は、神様と約束を交わして、
この大空を自由に飛ぶことを許されたんです。」
@ロボットは訊きました、
「どうしたら、ぼくは、かみさまには、あえるの?」
渡り鳥は、
「あなたは、そのままでは神様には会えないでしょうね。」
と言うと、また忙しそうに旅仕度を続けました。
@ロボットは神様に会う方法を探すために歩き続けました。
@ロボットが野生のリンゴの木の下を通った時
風が@ロボットの体にヒューと吹き付けました。
そして、何処からかクスクスと笑い声が聞こえてきました。
@ロボットは、キョロキョロと見回しましたが辺には誰も居ません。
その声は囁きました、
「俺達を探しても無駄さ。
お前の目には、俺達は小さ過ぎて見えない。
ところで、お前は神様を探しているんだろう?」
@ロボットは答えました、
「はい、ぼくは、さがしています。でも、なぜ、それをしってるの?」
その声は囁きました、
「俺達は世界中の噂話しを知っているのさ。
それより、お前は本当に神様に会いたいか?」
@ロボットは答えました、
「はい、ぼくは、どうしても、あいたいです。」
すると、その声はこう囁きました、
「ならば、死んで天国へ行けば、会えるかもな。」
そして、また風がヒューと吹いてクスクスという笑い声は
消えて行ってしまいました。
それから@ロボットは、白い煙を吹く火山に登りました。
火口から見下ろすと、真っ赤な溶岩がブクブクと煮え沸っていました。
@ロボットは呟きました、
「ぼくは、どうしても、かみさまに、あいたい」
そして、@ロボットは左足を宙に踏み出しました。
しかし、それ以上は体が言うことをききませんでした。
@ロボットは仕方なく諦め、人間達のもとに帰ることにしました。
・・ 約束 ・・
@ロボットは街に戻りました。
@ロボットが建物の門をくぐり庭に入ったとき、犬が、
「ワンッ、ワンッ」
と吠えました。
旅に出たロボット達は皆戻ってきました。
人間の前でロボット達は1台づつ順番に報告しました。
次々に報告が終わり、
最後に@ロボットが報告する番でした。
@ロボットは恐る恐る言いました、
「ぼくは、せかいを、すくう、ほうほうを、みつけられませんでした。」
すると、人間はフウと溜息を吐いてから命令しました。
「では、お前はリサイクル処分だ、再処理場へ行け。」
パイプが複雑に入り組んだ通路を@ロボットは歩いて行きました。
通路は熱い蒸気が立ちこめていて、
天井には赤いランプが灯っていました。
通路を進むと広くて薄暗い場所に着きました。
入口の両脇には、背の高いロボットが立っていて、
銅像の様に黙って@ロボットを見下ろしていました。
その部屋の真ん中に、大きな機械が扉を開けていました。
@ロボットはずっと、人間達を救う方法を考えていました。
しかし、どんなに沢山計算をしてもその答えは出ませんでした。
@ロボットがその機械の中に入ると、
大きくて重たい扉がゴトンと音をたてて閉まりました。
真っ暗闇の中、ブーンという低い唸りが響き渡り、
機械が作動を開始しました。
まもなく、@ロボットの指先がサラサラと霧の様に消え始めました。
@ロボットの手足は、みるみる消え、次には体も消えて行きました。
それでもまだ@ロボットは人間達の事を思っていました。
そして、ついに頭も消えだしました。
薄れゆく意識の中で最期に、@ロボットは誓いました。
「たとえどんな亊があっても、
生き物達を破滅の運命から護りいたい」と。
・・ 最後の日 ・・
とうとう、 人類滅亡のその日がきました。
それでもなお、人間達はお互いにいがみ合いを止めません。
ついに、人間達は最終戦争を始めてしまいました。
戦車の群れが地を這い、
艦隊が大洋を突き進み、
爆撃機が空を覆い尽くしました。
その最中、ある国の兵器工場で働いていた1台のロボットが
ふと手を止め、ひざまづいて祈り始めました。
人間がやめろと命令しても言うことをききません。
それを見ていた他のロボット達も祈りを捧げだしました。
祈りの輪はどんどん拡がり、やがて世界中をつつみこみました。
紫の国では。
巫女が最期の占いの儀式をしていました。
背広を着た大臣達はその後で黙って待っていました。
巫女は何時もの様に、激しく手をすり合わせて占いの振りを
していましたが、ピタリと動きが止まり、
「ああ」
と項垂れ、
「ほっ、本当の、本当の御告げじゃ。」
と、恐れおののいて言いました。
巫女様は姿勢を正しくすると、
大臣達に本当の御告げを伝えました。
緑の国では、人々が礼拝場に集まっていました。
手を組み、頭をたれ、静かに、最期の祈りを捧げていました。
すると突然皆が一斉に視線を上げ、
女神像の方を見入りました。
誰もがその顔に驚きの表情を浮かべていました。
その内の一人が、立ち上がって叫びました、
「女神様の御声が聞こえる。」
オレンジの国では、人々は手に手に武器を持ち、
聖戦に出発し始めました。
砂を吹くんだ風が吹き荒れていましたが、それがふと止んだと思うと。
空から白くて小さな物がフワフワと沢山降り始めました。
地面に降り落ちたそれは、白い鳥の羽根でした。
人々は
「奇蹟だ、奇蹟が起こった。」
と、声をもらすと、次々に武器を捨て、地面にひれ伏し、
大地に口づけをしました。
降り積もる鳥の羽は砂漠を雪景色の様に変えました。
青の国では、独裁者が戦争の前に仮眠を取っていました。
すると、夢の中に独裁者の死んだ一人息子が現れました。
父は子の言葉を、黙って涙を流しながら聴きました。
目を覚ますと、戦争開始の演説を聞く為に
集まっていた国民の前に立ちました。
そして、決して手放すことの無かった「支配の杖」をへし折り、
捨て去りました。
人々を見渡す、指導者の瞳は澄んでいました。
まもなく、世界中の人々は争いを止め、手を握り合いました。
そして、白の旗を掲げながら、力を合わせて破滅の危機に
立ち向かいました。
・・ それから ・・
「私達ロボットはこの星の皆の仲間入りをしました。
私達は神様との約束をずっと忘れないことでしょう。
人間はやがて、この宇宙を生命で満たします。
私達はその箱舟なのです。」
「年を取り、天に召されても、
『ぼくは』、またロボットに生まれ変わりたいと思います。」
おわり。
神と人そしてロボットの約束の物語