No.773938

九番目の熾天使・外伝 ~vsショッカー残党編~

竜神丸さん

覚醒、そして突入

2015-04-28 14:18:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2382   閲覧ユーザー数:912

ウツボカズラ怪人の体内に取り込まれたまま、外に出れなくなってしまったokaka。そんな彼は目の前に浮いているプロトディケイドライバー……その内部に埋め込まれた“トリックスター”の言葉を聞いて、眉を顰めずにはいられなかった。

 

「…そうか……トリックスターの意志、ねぇ…」

 

『む、随分とアッサリ受け入れるのだな……この私の力は拒んでいるというのに…』

 

「そうか? 今も結構頑張ってる気はするんだけど……なっ!!」

 

宙に浮いているプロトディケイドライバーと会話しながら、okakaはライドブッカー・ソードモードで壁を何度も斬りつける。しかし何度斬りつけても壁には傷一つ付いておらず、okakaは「やっぱり駄目か」とでも言うかのような表情でライドブッカーを折り畳む。

 

「実際、俺も暴走を抑えるので大変だったしな」

 

『違う、そうじゃない……この力の本質、世界を破壊する力だ』

 

「あぁ、そっちか」

 

okakaは折り畳んだライドブッカーをしまい、壁に背を付けた状態でプロドディケイドライバーと向き合い、会話に集中する。そうしている間にも、溶解液に浸かっているokakaの両足からはほんの僅かにジュウジュウ音が立ちながら黒い煙が出ている。

 

『私が作られた理由は、君も知っている事だろう。全てのライダーを倒し、全ての世界を破壊する力……私はその試作品なのだ』

 

「そうだな」

 

『だが君は破壊するどころか、人間を守る為にこの力を使っている。それは何故だ? 何故私の力を拒む? 何故君は破壊する事を拒む?』

 

「それは…」

 

『それは何だ? 私が試作品だからか? 私が碌に破壊も出来ない出来損ないだからか!? 寄せ集めでしかないこんなチンケな世界すらも破壊出来ないほど弱いからか!?』

 

「ちょ、落ち着けって!?」

 

最初は冷静な口調だった声は少しずつ荒くなっていき、何か言葉を発するたびにプロトディケイドライバーの中央部分がより強く点滅する。okakaがプロトディケイドライバーを掴んで落ち着かせようとするが、荒い口調は一向に収まらない。

 

『君の意志を奪ってでも戦ってみせた!! それにも関わらず、あのネオとかいう新型の仮面ライダーにすら勝つ事は叶わなかった!! 一体何故だ!? 所詮は私が未完成だからか!? ライダーを一人倒す事も出来ない、何の役にも立たないゴミだからか―――』

 

「落ち着けと言うとろうが!!」

 

流石にカチンと来たのか、okakaの振り下ろした拳骨がプロトディケイドライバーに炸裂。殴られたプロトディケイドライバーがバシャンと音を立てて溶解液の中に落ち、okakaは呼吸を荒くしながらもそれを拾い上げる。

 

「よく聞け。俺が破壊を拒むのはな、ただの破壊者なんぞにはなりたくないからだ。そんなもんになったらその時点で全て終わり。破壊者風情として完成しちまったら、それ以上前に進めない」

 

『それの何がいけない……その為に作り出されたのがこの私なのだぞ? まぁ、未完成だがな…』

 

「逆に聞くぞ。未完成の一体何が悪いってんだ」

 

『…何?』

 

okakaは右手に掴んだプロトディケイドライバーを左手で指差す。

 

「未完成なんだから良いんじゃねぇか。さっきも言ったろ? 破壊者風情として完成しちまったら、それ以上前には進めないって。それなら俺は未完成である方がまだ良いね」

 

『どういう意味だ…?』

 

「未完成である分、まだ上がある。まだまだ強くなる事が出来る。破壊者を超えて、更にその先に行ける」

 

『……』

 

「俺はこんなところで終わるつもりは毛頭ない。だからお前の言う破壊者にはならないし、そもそもなろうとも思わない。知ってるか? 実は壊す事なんかよりも創る事の方が物凄く難しいんだぜ。途方も無いエネルギーや時間がいるし、根気だって必要だ。意外と面倒なんだぞ、何かを一から創る事って」

 

『破壊者を、超える……更に、その上に行ける…』

 

(よし、もうちょっとだな)

 

後もう一歩だと思い、okakaは更に言葉を続ける。

 

「だからよ、もう破壊者を目指すのはやめにしようぜ。今度は俺とお前の二人で(・・・・・・・・)、破壊者を超えてやるんだ。お前を作った設計者が腰を抜かすくらいにな」

 

『…君と私の、二人でか……なるほど……そのような事、考えもしなかったな…』

 

okakaの告げる言葉に、言葉では言い表せない何かを感じ取ったのだろう。プロトディケイドライバーから聞こえて来る言葉には、先程までの怒りや悲しみ、焦りなどと言った感情は一切存在していなかった。

 

『…条件がある』

 

「何だ?」

 

『二度と私を封印しないでくれ。また封印されたら、私は君と共に歩めなくなる。そこでストップしてしまう』

 

それを聞いたokakaは、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「当然だ。こっからは俺とお前で、仮面ライダープロトディケイドだ」

 

『あぁ、行こう…!』

 

okakaはプロトディケイドライバーを腰に装着。ライドブッカーからプロトディケイドのカードを抜き取り、それを前に突き出して構える。

 

『「変身!!」』

 

≪カメンライド・ディケイド!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!? グァ、ガ…パ…!?」

 

現実世界。プロトディケイドを吸収した事で、その場から撤退しようとしていた怪人達。しかしそんな時、突然ウツボカズラ怪人が胸部の口を両手で押さえて苦しみ始めた。

 

「グ……ガァパァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

「「「!?」」」

 

そしてウツボカズラ怪人の胸部の口から、何かが粒子化した状態で飛び出して来た。粒子化していたそれは地上に出て来ると同時に姿を形成し、プロトディケイドとしての姿を現す。これには他の怪人達も驚愕の反応を示す。

 

「うし、出て来れた」

 

『手早く片付けよう。何、今の私達なら問題は無かろう?』

 

「あぁ。そんじゃまぁ…」

 

 

 

 

 

 

『「派手に行くぜ(行こう)!!」』

 

 

 

 

 

 

「キィ…アパパパパァッ!!!」

 

「「「ガァァァァァァァァァァァッ!!」」」

 

堂々と構えるプロトディケイドに、ウツボカズラ怪人、トライアルD、ヒトツミ、アリゲーターイマジンが再び襲い掛かる。しかし、今のプロトディケイドに恐れは無かった。

 

≪アタックライド・イリュージョン!≫

 

「アパパパパ……パァ!?」

 

ウツボカズラ怪人が爪を振り下ろす寸前、カードを装填したプロトディケイドは瞬時に二人に分身。ウツボカズラ怪人の爪を回避した二人の分身はウツボカズラ怪人をライドブッカー・ソードモードで攻撃し、そこから更に複数の分身を出現させてヒトツミやアリゲーターイマジンにも攻撃を仕掛ける。

 

「グゥゥゥゥゥゥゥ…!!」

 

≪アタックライド・バリア!≫

 

トライアルDが右手から放つ電流は、プロトディケイドの目の前に出現した障壁が防ぎ切る。その間にプロトディケイドは一枚のカードを抜き、ライドブッカーをヒトツミの胴体に突き刺してからカードを装填する。

 

≪ファイナルアタックライド……ディ・ディ・ディ・ディケイド!≫

 

プロトディケイドの目の前に、金色のカード状エネルギーが10枚並ぶ形で出現。その出現したカード状エネルギーがトライアルDを弾き倒した後、プロトディケイドはその場から駆け出し、カード状エネルギーを10枚連続で通過していく。

 

「まずは一発……うぉらあ!!」

 

「!? グ、オォォォォォォォォォォォォォォォォォ…!?」

 

立ち上がったトライアルDを待っていたのは、プロトディケイドの拳だった。ディメンションパンチが炸裂したトライアルDは腰のバックルが割れ、そのままその肉体が跡形も無く消し飛んでいった。実験体とはいえ、疑似アンデッド体であるトライアルDを消し飛ばしてみせたプロトディケイドに、ウツボカズラ怪人達は警戒して距離を離そうとする。

 

「おっと、逃げるなよ。俺達の力はこんなもんじゃないぜ」

 

「グゥ!?」

 

≪アタックライド・ブラスト!≫

 

「アパパァッ!?」

 

「ガァア…!!」

 

ヒトツミの胴体に刺さったままだったライドブッカーを強引に引き抜き、ライドブッカーから二枚目のカードを取り出し装填。ライドブッカー・ガンモードの銃口から放たれた銃弾が分裂し、複数の銃弾となってウツボカズラ怪人とアリゲーターイマジンに襲い掛かる。

 

≪ファイナルアタックライド……ディ・ディ・ディ・ディケイド!≫

 

「二発目、行けるよな?」

 

『問題ない、いつでも良いぞ!』

 

「よし……なら遠慮なく!!」

 

「!? グゥ…!!」

 

再びカード状エネルギーが10枚出現し、その中を強力なビーム―――ディメンションブラストが通過。それを回避するべく跳躍したアリゲーターイマジンだったが…

 

「!?」

 

直後、10枚だけだった筈のカード状エネルギーが大量に並ぶ形で出現し、まるで狙った獲物は逃がさないかの如くアリゲーターイマジンを追尾。それに気付いたアリゲーターイマジンは何度も避けようとするが、何度も逃げ続けていれば次第に限界はやって来る。

 

「グ…ガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

結局は逃げ切れず、ディメンションブラストに貫かれたアリゲーターイマジン。爆炎が燃え上がる中、プロトディケイドは再びライドブッカー・ソードモードを構え、複数の分身に攻撃されているヒトツミに狙いを定める。

 

≪ファイナルアタックライド……ディ・ディ・ディ・ディケイド!≫

 

「これで……三・体・目!!」

 

「!? ウゴォォォォォォォォォォォォォッ!!?」

 

プロトディケイドがライドブッカーを振るい、10枚のカード状エネルギーを通過していく巨大な斬撃。ヒトツミを攻撃していた分身達が一斉に真横へ移動した瞬間、既に斬撃が目の前まで来ていたヒトツミは当然ながら逃げられず、その身体を真っ二つに斬り裂かれ爆散。残りはウツボカズラ怪人のみ。

 

『では一城、決めようじゃないか!』

 

「あぁ、テメェで最後だ植物野郎!!」

 

≪ファイナルアタックライド……ディ・ディ・ディ・ディケイド!≫

 

「グギ……アパパパパパパパパァッ!!!」

 

跳躍したプロトディケイドと、地上にいるウツボカズラ怪人の間に10枚のカード状エネルギーが出現。ウツボカズラ怪人は意地でも食い止めようと口からエネルギー弾を乱射したり両手から植物を伸ばしたりなどして妨害を図るが、プロトディケイドは飛んで来るエネルギー弾や植物を弾きながら、10枚のカード状エネルギーを一気に通過していき…

 

「アパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

結果として、ウツボカズラ怪人のボディを粉砕してみせた。爆風の中から飛び出したプロトディケイドが地面に着地し、立ち上がって両手の汚れを払う。

 

『流石だな』

 

「お前こそやるじゃねぇか、PD」

 

『…PD…? それはもしかして、私の事か…?』

 

「プロトディケイドライバーって名前じゃ長いだろ? だから略してPDだ。駄目か?」

 

『いや、構わない。好きなように呼んでくれ』

 

「OK、じゃあPDな……っと。また客が来たようだ」

 

「「「「グゥゥゥゥゥゥゥゥ…!!」」」」

 

プロトディケイドの前に、今度はヒルカメレオン、ビートルロード、ボスローチ、ソーンファガイアなどが戦闘員達を連れて出現。プロトディケイドはすぐさまライドブッカーを構え直し、怪人達を迎え撃つ。

 

≪アタックライド・スラッシュ!≫

 

「「ガァッ!?」」

 

『大忙しだな、一城!!』

 

「全くだ……ちったぁ休ませろっつぅの!!」

 

ヒルカメレオンとボスローチを狙い撃ち、ソーンファンガイアの振り下ろす剣をかわしてビートルロードの腹部を蹴りつけるプロトディケイド。そのまま接近して来たダスタードの剣をライドブッカーで受け止めた瞬間、即座にライドブッカーをソードモードに切り替えて一閃。そのまま屑ヤミーや初級インベス達を擦れ違い様に次々と斬り裂いていき、ヒルカメレオン目掛けてライドブッカーを振り下ろしたその直後…

 

 

 

-ガシュッ!!-

 

 

 

「が…!?」

 

プロトディケイドの背中を、何者かが一閃。何かと思い振り向いたプロトディケイドの胸部を、プロトディケイドが持っているのと同じ武器―――ライドブッカーの刃先が容赦なく斬りつける。

 

『一城!!』

 

「ぐ、げほ……まさか…!!」

 

「……」

 

プロトディケイドは膝を突き、ライドブッカーを構える。そんな彼の前に現れたのは、黒いボディに青色の複眼を持ち合わせたプロトディケイド……いや、ディケイドそっくりの戦士だった。

 

「ッ……ダークディケイドか…!!」

 

「…ハァッ!!」

 

現れた戦士“仮面ライダーダークディケイド”はライドブッカーを振り下ろし、プロトディケイドもすかさずライドブッカーで防御。しかしダークディケイドのパワーも相当高いからか、プロトディケイドは防御したままの体勢でいるのが精一杯だった。

 

「この……ぐっ!?」

 

「オォ…!!」

 

ライドブッカーを弾かれ、またもボディに一閃を加えられるプロトディケイド。倒れた彼に向かってダークディケイドが再びライドブッカーを振り下ろそうとした直前、プロトディケイドは迷わず一枚のカードを装填する。

 

≪アタックライド・インビジブル!≫

 

「!?」

 

音声が鳴ると同時に、プロトディケイドの姿が消滅。彼がいた場所にはライドブッカーの振り下ろされ、その刃先が地面に突き刺さるだけで終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、危ねぇ危ねぇ…」

 

インビジブルで工場跡地から姿を消したプロトディケイドは、工場跡地から少し離れた位置にある廃屋の中に到着していた。変身を解除したokakaは床に倒れ込み、腰のPDドライバーを外す。

 

『間一髪だったな』

 

「あぁ。まさかダークディケイドまで現れるとは、流石に想定してなかったぜ…」

 

『倒すべき敵はたくさんいるという事か……すまないが一城、しばらく時間を貰うぞ』

 

「ん、どうした?」

 

『奴等に対抗する為の力を用意したい……君が言っていた創る事を、私も試してみたいと思う』

 

「いきなり前向きになったな……良いぜ。その間、俺は別のライダーシステムを使うだけさ」

 

『すまないな…』

 

その一言を最後に、PDドライバーは一言も喋らなくなった。okakaはPDドライバーをしまい、髪をポリポリ掻きながらゆっくり起き上がる。

 

「さて、プロトディケイドはこれで良し。次は…」

 

≪Prrrr≫

 

「ん?」

 

携帯していた通信機が鳴り出し、okakaはそれを手に取り通信に出る。

 

「こちらokaka、応答せよ」

 

『いきなり姿を消しといて何処に行ってるんですかねぇ、あなたという人は?』

 

「! その声、刃か。いやぁ~すまんすまん、ちょいと野暮用があってな」

 

『すまんじゃないですよ全く。今何処ですか?』

 

「どっかの廃屋。近くに工場跡地、少し遠い場所にショッカーの城が見えるな」

 

『はぁ……分かりました。あなたはそのままショッカーの城に向かって下さい。その先で合流しましょう』

 

「ん? という事は…」

 

『先程、支配人さんが数人ほど引き連れて戻って来ました……よって、このままショッカーの城に潜入します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方…

 

 

 

 

 

「本当に良いのか? おやっさん達だけで」

 

「問題ない。そっちも無茶はしてくれるなよ」

 

「OK、任せてくれよ」

 

一通りの作戦を立てていたディアーリーズ達。そこにオーライナーが合流した事で、いよいよ一同はショッカーキャッスルに突入する為の準備に取り掛かっていた。事務所から離れた位置ではスカルギャリーとオーライナーの大型マシンが二台が停車しており、スカルギャリーの方には荘吉、幸太郎、テディ、ハルト、刃の五人が、オーライナーの方には支配人、ヴァニシュ、ユイ、ジンバ、真由、ジーク、ハルカ、ディアーリーズの八人が乗り込んでいる。ちなみに寝ていた筈のジークだが、気付いたらオーライナーの車両に乗り込んでいたようだ。

 

「この列車、不思議」

 

「…これがあのカテゴリーKとは驚きですね」

 

「正直、私も想定してなかったわ。確かにそれぞれの世界で姿は違うでしょうけれど…」

 

「そこの料理番、デザートはまだか?」

 

「誰がお前の料理番だ、誰が」

 

オーライナーに乗り込んだ枯葉は興味深そうに目を輝かせており、そんな彼女をディアーリーズとハルカは苦笑いしながら眺め、ジークは調理場に立っていたジンバを勝手に料理番呼ばわりしてデザートを要求する始末。

 

本当にこんなんで大丈夫なのか?

 

傍から見たらそう思われても仕方ない……いや、思われても当然だと言えるくらい、今の彼等には緊張感という物が微塵も存在していなかった。

 

ただ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約二名…………相川始と、剣崎一真を除いては。

 

「……」

 

スカルギャリーにもオーライナーにも乗らず、それぞれのバイクで移動する事にした二人。バイクの整備をしていた始は手を止め、同じくブルースペイダーの整備をしている剣崎の後ろ姿を眺める。剣崎が抑制剤でジョーカーの本能を抑えられている事を支配人から伝えられた後だったが、それでもこんな形で再び共に戦う日が来ようとは思っていなかった始は、剣崎に対して上手く言葉をかけられずにいた。

 

(…どう声をかければ良いんだ…?)

 

元気そうだな……いや、今それを言って良いような空気ではないな。

 

今日は良い天気だな……これも違う。今は空が紫色だ、天気が良い悪いの話じゃない。

 

髪でも切ったか……明らかに変だな。というか剣崎の髪型なんてどうでも良い、まず興味が無い。

 

「!」

 

「どうした?」

 

「あ、いや……何か悪口を言われた気がして」

 

何故そういう事には無駄に鋭いのか。勘が良いのか、それともただの馬鹿なのか、剣崎の性格はイマイチよく分からない……だが、そんな剣崎もまた、自身に大きな変化を与えた人物の一人だ。

 

『相川始……変われて、嬉しい?』

 

枯葉に聞かれた事を思い出す。嬉しくないと言えば、嘘になるかも知れない。しかし、自分がこうして人間として生きていられるのは、剣崎が自らの身を犠牲にした事が大きく絡んでいる。素直に喜んで良い事なのだろうか。始はそんな事ばかりを繰り返し考える。

 

「…なぁ始」

 

「!」

 

そんな時、剣崎が始に語りかける。

 

「今、調子はどうだ? 橘さんや睦月、広瀬さんや虎太郎、天音ちゃんや遥香さんそれに烏丸所長も……皆、元気にしてたか?」

 

「!」

 

剣崎から問われたのは、元いた世界での仲間達の事だった。一度にそんなたくさん聞くのかと始は思いつつ、同時に取り敢えず話題を振ってくれた事については素直に心の中で感謝する彼だったりする。

 

「…あぁ、皆元気だ。天音ちゃんと遥香さんは、今もハカランダで働いている。天音ちゃんはもう中学生になるな」

 

「そっか。天音ちゃん、もう中学生なんだ。早いもんだなぁ…」

 

「睦月は大学に合格したらしい。望美ちゃんと一緒に、同じ大学に通っている頃だろう」

 

「はは、やるじゃん睦月の奴。羨ましいよ」

 

「広瀬栞は最近、プロポーズされたようだ。近い内に結婚式も上げると言っていた」

 

「え、そうなのか!? 驚いた、広瀬さんが結婚するなんて…」

 

「虎太郎は、俺達の戦いを小説にして書いたようだ。今ではかなり売れているらしい」

 

「へぇ、凄いな虎太郎! 俺も向こうに戻ったら買って読んでみようかな」

 

「烏丸と橘は、今もアンデッドの研究を続けている……ジョーカーとなった人間を、元に戻す為の研究をな」

 

「! …そっか」

 

剣崎はブルースペイダーの整備を続ける。油臭い匂いがする中、剣崎はスパナを握っている手を止めない。

 

「皆、元気そうで良かったよ。お前だって、今も天音ちゃん達と一緒に過ごしてるんだろう? 始」

 

「…あぁ」

 

「今の日常を大事にしなよ。時間って、あっという間に過ぎていくものだからさ」

 

「ッ…」

 

 

 

 

 

 

今の日常を大事にしなよ、だと?

 

 

 

 

 

 

お前がそれを俺に言うのか?

 

 

 

 

 

 

俺の為に、自分の身を顧みなかったお前が?

 

 

 

 

 

 

何故……お前はそこまでの事を言える。

 

 

 

 

 

 

何故……お前はそうまでして俺の事を助けようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故……お前は今、そんなにも嬉しそうな顔をしているんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…言っておくとさ」

 

「?」

 

「俺、後悔はしてないよ……いや、むしろ後悔しちゃいけないんだ。だって全部、俺が選んだ道だから」

 

「…!」

 

「前にも言ったろ? 俺は運命と戦うって……そして、勝ってみせるって」

 

振り向いた剣崎の目に、濁りは無かった。始はそれを見て、小さく笑みを浮かべてみせる。

 

「…そうだったな」

 

 

 

 

 

 

お前は元々、そういう馬鹿な男だったな。

 

 

 

 

 

 

そう……そんな、馬鹿な男だったんだ。

 

 

 

 

 

 

だからこそ、お前は俺を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの…」

 

「「!」」

 

そんな時、二人の下にサツキと真由が駆け寄って来た。二人の手にはそれぞれ、彼女が頑張って作ったお握りがいくつも乗っている皿があった。

 

「あれ、君達は確か…」

 

「稲森真由です。剣崎さん、あの時は助けて頂いて、ありがとうございました」

 

「わ、私も、助けてくれてありがとうございました…………えっと、これ……助けて貰った…お礼、です…」

 

「あぁ、そんな事か。良いよ、そんな礼を言うような事じゃな―――」

 

 

 

-グゥゥゥゥゥ…-

 

 

 

「―――あ」

 

絶妙なタイミングで、剣崎の腹の音が鳴り響いた。それを聞いたサツキと真由は思わずプスッと笑みを零し、剣崎は照れ臭そうな表情で自身の髪を掻き、始も陰で面白そうに笑っている。

 

「腹が減っては戦は出来ぬと言います。せっかくだからどうですか?」

 

「あ、あははははは……じゃあ、頂こうかな」

 

剣崎は皿の上のお握りを一つ手に取り、それを思いきり口に頬張る。頬張ったお握りを口の中で味わい、そしてゴクリと飲み込む。

 

「…うん、美味しい!」

 

「! そ、そうですか…口に合って良かったです……………………よし、よくやった私…」

 

剣崎が美味しそうに食べているのを見て、嬉しそうな笑顔を浮かべるサツキ。最も、剣崎に聞こえないよう小さい声である事を呟いていたが。

 

「? 何か言った?」

 

「え、あ、いえ、何でもないです! は、始さんもどうぞ!」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「え、えっと……ほ、他の皆さんにも配って来ます!」

 

サツキは顔を赤くしたまま、慌てて他のメンバー達にもお握りを配りに行ってしまった。剣崎はどうしたんだろうと言った表情のままお握りを食べ続ける。

 

「ふぉおしたんふぁろうね?(どうしたんだろうね?)」

 

「物を食いながら喋るな。それと……剣崎、本気で言っているのかそれは」

 

「ゴクン…………え、何? どういう事?」

 

(あぁ、気付いてないんだこの人…)

 

何故サツキが顔を赤くしているのか、剣崎は全く理由を察知出来ていなかった。そもそもジョーカーとなった今では聴覚も優れている筈なのに、それでも気付かないとはどういう事なのか。これには流石の始も呆れており、真由は苦笑いしか出来なかった。

 

「なぁ始、どういう事なんだ?」

 

「…少なくとも、お前の鈍さが今でも変わってない事は分かった」

 

「ウェ!? 何言ってんだ、俺はそんなに鈍くないぞ!」

 

「今のに気付けていない時点で、それは鈍いのと変わりない」

 

「だからどういう事なんだよそれ! 教えてくれよ始って、お~い!」

 

真由が微笑ましく見ている中、鈍いと言われた事が気に食わなかった剣崎はつい喧嘩口調になって始と言い合いを始めてしまった。

 

こんな時に何やってんだという人もいるだろう。

 

しかし今の二人にとっては、そんな口喧嘩すらもかなり懐かしく感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、準備は良いな?」

 

「こっちはOKだ。剣崎と始は?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「…問題ない」

 

その後、突入準備が完了した一同。スカルギャリー、オーライナー、そして剣崎が乗るブルースペイダーと始が乗るバイクの合計四台が並ぶ。

 

「…始」

 

「…何だ?」

 

先程まで口喧嘩をしていたとは思えないような雰囲気で、ヘルメットを被った剣崎は始に告げる。

 

「捕まってる人達を助けたい。力を貸してくれ」

 

「…あぁ」

 

始はヘルメットを被ると同時に、自身の腰にカリスラウザーを出現させる。剣崎もブレイバックルを自身の腰に装着し、二人は同時にアクセルを握りバイクを走らせる。

 

「よし、行くぞ」

 

「お前等、しっかり掴まってろよ!」

 

スカルギャリーとオーライナーも走り出し、オーライナーは宙に浮いた線路の上を走っていく。そして地上ではスカルギャリーが轟音を上げて走り、その前方では剣崎と始がバイクに乗って駆け抜ける。

 

「「変身!!」」

 

≪TURN UP≫

 

≪CHANGE≫

 

剣崎はブレイドに、始はカリスに変身。同時にカリスが乗っていたバイクも専用マシン―――シャドーチェイサーに変化し、ブルースペイダーとシャドーチェイサーの二台が先頭を猛スピードで走っていく。

 

「…皆さん、どうかご無事で…」

 

そんな彼等を、サツキはただ見つめている事しか出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ショッカーキャッスルでは…

 

 

 

 

 

 

「大首領様!! ライダー共が、この城まで向かって来ております!!」

 

ケプリの報告から、オーマとネオもライダー達の動きを察知していた。

 

「ほぉ、とうとう来たか」

 

「面白いじゃないか。通してやれ」

 

「し、しかし!!」

 

「奴等がどう来ようと、俺達ショッカーは勝利するだけだ。俺達は勝利者でなくてはならないのだからな」

 

「そういう事だ。クックックックック……さぁ、覚悟したまえ仮面ライダー共……我等ショッカー、このショッカーキャッスルで貴様等を存分に歓迎してやろう……クッハッハッハッハッハッハッハ…!!」

 

オーマが不敵な笑い声を上げる中、ネオは右手首の機械音を鳴らしながらある事を考えていた。

 

(そうだ、ショッカーは常に勝利者でなくてはならない。敗者は切り捨てられるだけだ……それが例え、ショッカーを束ねる首領(・・・・・・・・・・・)であってもな…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦の時は、近い。

 


 
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