「え?じゃあ・・・」
「うん、でもいいんだ。俺の居場所はこっちだってわかったからね。未練がないといえば確かに嘘だ・・・父さん、母さん、爺ちゃん、及川」
「及川?」
「向こうでの俺の友人だよ。で、話を戻すけど・・・向こうに置いてきたものは多いよ。でも、華琳達がいない、そのことの方がよっぽど辛かった。でも、何もしないままでいるのも嫌だったから長期休暇の際は爺ちゃんに徹底的に鍛えてもらって強くなろうと思った。爺ちゃんから免許皆伝の証の〝コレ〟をもらった時は心から驚いた」
腰に差した細見の剣を華琳に見せ苦笑する。
「そういえば、さっきも見せてもらったけど、随分細いのね。これが貴方が言ってた〝刀〟なの?」
興味を持ったのか華琳が尋ねてきた。
「うん、そうだよ。力ではなく、迅さをもって相手を切る武器、コッチにはない発想だろ?」
「確かにそうね。見せてもらってもいかしら?」
「よく切れるからな、気をつけるんだぞ」
鞘から刀身を抜き、月光に晒す。長い刀身がきらりと光を反射して神秘的な美しさを誇っている。
「美しいわね」
「だろ?美術的価値もある逸品だからなー。ほんと、爺ちゃんがこれをくれるとはおもはなかったよ」
「銘はあるのかしら?」
「・・・〝菊一文字〟それがそいつの銘だよ」
「よい名ね・・・あなたが持つにふさわしいわ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
鞘に納めた菊一文字を一刀に返し、話の続きを促した。
「刀を貰った後、妙な奴に会ったんだ」
「妙な奴?」
「ごめん、それに関しては思い出したくないんだ。思い出しただけで寒気が・・・・・・」
余程恐ろしいものを見たのか、一刀の肩が震えだした。
――ここからの一刀の話はこうだ。
その妙な者が一刀を再び私たちに会わせてやると。
ただし、私たちに会うためには今自分がいる世界を捨てねばならない、本当の意味で私達の世界の人間にならねばならないと。
家族や友との永遠の別れ、そのことは少なからず私達の元に帰ることを躊躇わせた。しかし次の日までには答えを出さないと私たちに会うことは叶わないと告げられた。
「でも一度、頭を冷やしたら迷いは消えたよ」
翌日、言われた場所に行くとその妙な奴の他にもう一人いて、そいつの顔を見たとき一刀は大変驚いたそうだ。
「許子将ってあの?」
「ああ、確かに許子将だったよ」
そして、その二人の力でこうしてここに帰ってきたそうだ。
「そう・・・一刀、ありがとう。〝ココ〟にかえってきてくれて」
今度は華琳の方から唇を重ねてきた。
「ああ、もうどこにも行かないよ」
甘い時間だった。
だが、このあと一刀は思い知る、自分の種馬っぷりがもたらす災いを。
「・・・・・・」
華琳と共に戻った一刀は今、絶賛正座中です。
彼の目の前に広がるは鬼も裸足で逃げ出す光景。
華琳以外の魏の面々が武器と殺気を携えて立っていた。
ちなみに理由は簡単。『後で』と言っていた約束をぶっちぎってしまったからだ。
「あの・・・・」
「死にたいのか?黙っていろ」
魏の大剣・春蘭こと夏侯元譲が七星餓狼をを首元にあてて静かに言う。どうやら酔いはさめたらしい。だが、目の前にいるのはもはや虎ではない。
(地獄の番犬とかそういうのの類だよ)
そして、今回に限っては助け船は一切ない。余計な一言は即刻死を招きかねない状況である。
「それで?秋蘭、こ奴、一体どうしてくれようか」
「ふむ・・・凪たちは庇ってやらなくてよいのか?」
「庇う?一体、誰を庇えというのですか?秋蘭様」
「凪の言う通りや、秋蘭様。うち等が庇わないかん奴なんていませんて・・・な、沙和」
「二人の言う通りなの」
もはや、某RPGにでてくる〝死の宣告〟をくらった状態である。
この包囲網を崩すすべなど皆無、腰にある菊一文字もこの状況では無力と言わざるを得ない。
「ふむ、風、稟、桂花はなにか案はあるのか?」
「首を刎ねてしまえばいいのよ。この万年発情男は」
「桂花ちゃんの意見はながすとして、稟ちゃんはなにかありますか~?」
「そうですね、すでにお開きとなってしまい呉と蜀の面々は既に寝静まっていますし、派手なことは控えるべきかと」
「そうですね~。でしたら華琳様に決めていただくというのはどうでしょう?これならばみなさんが納得すると思いますが」
「せやな、風の言う通りや。華琳が決めたんやったらウチも文句ないで。な?季衣、流琉」
「ボクはそれでいいかな、流琉は?」
「私もそれで構いません」
と、静観を決め込んでいた華琳に白羽の矢が立った。
しばし考え込んだ後、いい案が浮かんだのか指をパチンと弾く。
「一刀にはこれから“全員”を相手に頑張ってもらうというのはどうかしら?」
「「「「「!!!!!!!」」」」」
全員の目の色が変わった。
(おいおいおいおい・・・・・・・)
「流石は華琳様!懐が広い」
「うむ、北郷だけでなく、華琳様とも閨を共に出来るとは」
「ええなあ・・・ソレ、ウチは大賛成や」
「隊長と・・・」
「凪、顔真っ赤やで?」
「そういう真桜ちゃんも赤いのー」
「みんなと一緒かー、賑やかそうだね」
「き、季衣!」
「一刀殿だけではなく華琳様とも・・・・・・・ぷはぁっ」
「は~い、稟ちゃんトントンしましょうね~」
「華琳様と一緒に華琳様と一緒に・・・」
「みんなで一緒にっていうのもいいかもね~」
「ちぃは二人っきりがいいけど、特別に許すわ!!」
「ちぃ姉さんが妥協するなんて珍しい。けど、アイデア自体は賛成だわ」
狼狽する一刀をよそに、魏の面々はこれから始まるであろう甘い時間に思いを馳せている。
一方の一刀といえば、戦々恐々、死地に向かう兵士の顔である。どうやら覚悟を決めたようだ。
「さ、行くわよ一刀。かえってきて早々だけど、魏の種馬としての力を存分に発揮してちょうだい」
「はいはい・・・わが愛する覇王様の仰せのままに」
「ふふっ」
「!」
一刀は帰ってきて一番の華琳の笑顔を見た気がした。そうして彼は皆と共に宴会場を後にする。
――こうして天の御遣いが帰還した夜は更けていった。
余談ではあるが翌日、天の御遣いは宴に顔を出すことはなかったそうだ。
ではどこで何をしていたかというと、自身の寝床として当てられた部屋で真っ白になって眠っていた。一方の魏の面々はというと、全員の肌に張りと艶があって活き活きとしていたという。
――恐るべし、天の御遣い。
呉と蜀の面々はそう思ったとか何とか。
――ちゃんちゃん♪
さて如何だったでしょう?
おまけ編で一刀らしく再会編をしめることができたのではないかと思いますが、読んでくださった皆様にはどうかまでは分かりません。
良かったと言っていただけたら幸いです。
補足ですが、一刀の持つ刀、菊一文字についてですが、個人的好みで使ってみました。
では次回作で会いましょう。
感想、コメントお待ちしてます。
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再会編の〆おまけです
次回作については現在、アイデアまとめてる最中です。
ですが、とりあえずこの作品を読んで楽しんでいただけたら嬉しいです。