がちゆり~結衣誕生日SS 2015~
【結衣】
人が忙しくしていても遠慮なくアイツはやってくる。
朝早く起きてしまい、起き続けるにはちょっと眠いから再び布団の中に入ろうと
したときインターホンの音が鳴り出した。
ピンポーン。
「なんだ、京子か」
『なんだとはなんだー!』
「・・・眠いから寝るわ」
「あっ、ごめん。せめて中に入れて」
仕方なく京子を中に入れて少し話をしていたらすっかり眠気が飛んでいて
結局二人でゲームをすることになった。
少しばかり頭がボーッとしているけれど良い感じに勝ててなかなか楽しかった。
「結衣強すぎだろー」
「京子が弱すぎなんだって」
「ぶー・・・。そうだ、アイス買ってきたから休憩しよう」
「珍しいな、京子から用意してくるなんて」
「失礼な!でも、買ってきてそのままだからちょうど良いくらいに溶けてそうだな」
そう言って嬉しそうに袋からアイスを取り出して、蓋を開けてから程よく溶けた
アイスをスプーンで掬って頬張って幸せそうな顔をする。
この表情を見るのがけっこう好きだったりする。
本当に小さい頃から変わらない可愛い京子が見られる気がするから。
「あ、結衣。そっちのもちょっと味見させて~」
「何でだよ、自分ので満足しろよ」
「えー、買ってきたのは私だぞー」
「普段買ってるのは私だけどな」
「ぶーっ」
拗ねたように頬を膨らませる京子にしばらくは正論で対応していたが
いつしかどうでもよくなって自分のを京子に渡した。
「や、そういうのじゃなくて。あーんってやつやろうよ」
「あーんって・・・」
「ほらっこうやってさ」
そう言って空いた手で零さないように添えてスプーンに乗ったアイスを私の手前まで
持ってくる京子。そして見せびらかすようにしてからすぐに京子の口の中にそれは
消えていった。
「って感じでさ」
「やだよ、恥ずかしい。自分で食べなよ」
「えー、楽しそうじゃん」
「ぐぬぬ・・・わかったよ。仕方ないな~」
「おお、さすが結衣。そうでなくちゃ」
私が折れて満足そうに微笑むと私からするようにと、京子が強請るから
こうなっては仕方ないと私はアイスを掬って京子の口の中に運ぶと
普段より更に幸せそうに表情を緩ませていた。
それを見ていたらもう一度見たくなって、少し無意識にアイスを掬おうとしたら
京子が言葉で制止して今度は私に「はい、あーん」ってしてきた。
いざ自分が食べる側になると一気に気恥ずかしさが増してきたではないか。
「やっ、私はいいよ」
「だめだめ~、ちゃんと公平にやらないとね~」
私が京子から差し出されたのを何回か避けると今度は空いた手でがっしり私の顔を
掴んで抑えるようにして半分無理やり食べさせられた。
「!」
「どう、美味しい?」
美味しいかどうかなんて・・・京子の食べた後のスプーンで食べさせられて
間接キスを意識しないでいるなんて・・・できるわけないじゃないか・・・。
「あれ、結衣。顔赤いぞ?」
「うるさい・・・」
一瞬頭の中がまっしろになった私は正気に戻った後、慌てるようにして
京子との距離を広げて手で遮るようにしてから空いた手を自分の顔に当てた。
真っ赤になっている顔を隠すように。
それが京子もわかっていたのか嬉しそうに私のことをからかってきた。
「こんなことで真っ赤になっちゃって、結衣も可愛いとこあるんだね~」
「おい・・・!」
「あはは、ごめんごめん。私だって人のこと言えないや。だって結衣のその反応
見ちゃったら・・・私だって・・・」
「京子・・・」
自分でちょっと視界を塞いでいたから気付かなかったけれど、京子の様子から
手を外して京子を見ると私と同じように顔を赤くして目を潤ませていた。
「やっぱり慣れないことすると照れちゃうもんだね」
「そうだな・・・」
その表情が妙に色っぽく感じた私は京子の元に近寄るとそっと顔を近づけた。
京子も私が来たことに気付いて目を少し閉じて私と同じように近づいてきた。
やがて二人の唇は重なり水っぽい音が聞こえてきた。
チュッ
軽く口付けをしてるだけ、それでもさっきまで食べたアイスが唇に纏っていて
キスをするたびにお互いに食べていたアイスの味が混ざって口の中に入ってくる。
狂おしいほど愛しくて甘い味のキス。
どれだけしていたのかもわからないほど、長く感じたキスが終わった。
どちらが止めさせたのか覚えていないほど夢中になっていたのだろうか。
それから私たちはちょっと気まずくなった空気に笑ってごまかした。
「けっこうよかったよな」
「何がだよ」
「何がってもう全部がだよ」
「まぁ・・・な・・・」
誤魔化すように言っててもさっきまであった事だ。
すぐに忘れるなんて出来るわけもない。暫く二人は甘い雰囲気に浸りながら
普段通りみたいに振舞おうとしていた。
あんなアイスのようにとろけた表情の京子をそうそう見れることがないせいか
単に私があの京子が好きだったのかわからないけれど、今の出来事は私の中で
しばらく忘れられそうになかった。
「今日、泊まるんだろ?」
「うん・・・」
「京子の好きなもの作るよ。何か言って」
「それはちょっとなぁ、今日は結衣の誕生日だし」
「忘れてたよ・・・」
強い刺激を受ける経験をしたおかげでそのことはすっかり記憶から吹っ飛んでいた。
だからわかりやすい京子の好きな食べ物を作ろうとしてたのだけど、
そんな私の考えを知らずか知ってか、その後京子の口から出た言葉は
いつも作っていたウインナー入りカレーだった。
「そのカレー。すごく美味しいからさ」
振り絞るような笑顔でそう言い切った京子が愛おしくなって私はカレーを作る準備を
はじめた。今日は珍しく京子も最初から最後まで手伝ってくれて楽しくもちょっと
冷や冷やしながらの晩御飯の準備を進められた。
その時にちょっとだけ未来の光景が見れた気がした。これからもずっとこうやって
バカしながら二人で暮らしていくのかもって。
大変そうだけどそれはそれで幸せそうな時間が過ごせそうだ。
私は心の中で微笑んで、その未来が訪れることを望みながら今この時を
無駄にしないように楽しむことにした。
京子との大事な時間を。
カレーが出来て美味しそうに頬張る京子を見て、京子も食べながらも上目遣いで
私を見てお互いに笑顔を浮かべて笑い合って。
いつもと同じようでいつもとは違うこの時間を私は大事にしようと思ったのだった。
お終い
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イラストと同じような感じになったお話じゃないでしょうか。ちょっと言葉の使い方がおかしい部分もあるかもしれませんが少しでも楽しんでもらえれば幸いです。イラストはこちら→http://www.tinami.com/view/772704