No.770358

真恋姫無双幻夢伝 小ネタ16『曹魏の未来計画』

次の章でラストです。これらの小ネタが最後の息抜きです。

2015-04-11 17:10:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1969   閲覧ユーザー数:1853

   真恋姫無双 幻夢伝 小ネタ16 『曹魏の未来計画』

 

 

 魏は盤石の体制となった。夷陵の戦いで蜀を屈服させた。荊州は江陵と武陵以北を魏が保有し、長沙など南部三郡を呉に渡すことで、呉も従属することになった。漢の皇帝もその配下も華琳に逆らう力を持たず、天下は華琳を中心に回る。

 しかしながらこの地位に安住する危険性を、華琳はよく知っていた。ある日、彼女は重臣たちを集めて、一風変わった会議を開いた。

 

「今日は魏の未来を考えたいと思うわ」

 

 冒頭で華琳はこう言った。秋蘭が手を上げて尋ねる。いつも司会役を務める桂花は、仕事の関係で遅刻していた。

 

「華琳様、確認したいのですが、“未来”とは、どの分野を示しますか?」

「全てよ、秋蘭。今まで私たちは、政治や軍事の分野に限って政策を行ってきたわ。それは十数年の効果を生み出すかもしれない。でも、それでは不十分。50年後、100年後を見据えた指針を定める時期に来たと、私は思うの」

 

 華琳は机に座った臣下を見渡す。そして立ち上がると、大きく両手を広げて微笑んだ。

 

「さあ!文化、芸術、何でもいいわ。一世紀後を見通したあなたたちの意見を聞かせてちょうだい!」

「ではー、風からいきましょうー」

 

 風が手を上げる。華琳が発言を許した。

 

「いいわ。どんどん意見をちょうだい」

 

 風が話を始めた。

 

「私たちの子供を、どうしようかとー」

「はあ?」

 

 立ち上がったまま、華琳は固まった。彼女自身でこの会議の流れを予想していたが、全く違う方向に脱線した。

 

「確かにその通りです。それは重要な問題ですね」

「稟、なにを言っているの?」

 

 稟は、極めて真面目な顔で、華琳に向かって意見した。

 

「これは人材育成という面で、非常に有益な意見です。現在は多くの有能な後身が入ってきています。例えば、季衣や流琉たち」

 

 全員の視線が2人に集中する。彼女たちは恥ずかしそうに肩をすぼめた。

 

「ですが、100年後は分かりません。水鏡女学院など私塾による教育は有名ですが、教育者の質に依存するところが大きく、永続的な効果は期待し過ぎでしょう」

「学校を国有化するとしても、まだ文字を読める人自体が少ないですからねー。かなりの費用がかかるかとー」

「国家の教育では教育内容の固定化も懸念されます。よほど上手く制度を定める必要があります」

 

 稟、風、秋蘭の隙のない答弁が続く。まるで打合せしてきたような。

 

「そこでー、一番確実なのは、やっぱり自分自身で教育することかと思いますー」

 

と風が言って、華琳はやっと飲みこめた。彼女は腰を下ろして風を見た。

 

「つまり、自分で子供を作って、自分で教育した方がいいということ?」

「そうですよー」

 

 ガタッと音を立てて、春蘭が立ち上がった。傍目から見ても、ガチガチに緊張している。

 

「そ、その前にだな、えーと、ま、まずは、夫を!見つけないとな!」

 

 秋蘭がぼそぼそと助言する。

 

「…姉者、立ち上がらなくてもいい。それに、そんなに力を入れずともいいのだ……」

「おお!そうか!」

 

と、春蘭は会議中に響くほどの相づちをして座った。秋蘭が声をひそめた意味はまるでなくなってしまった。

 秋蘭が、ゴホンと咳払いをして話を再開する。

 

「姉者の言う通り、私たちはまず結婚相手を見つけないとな」

「確かに……そういえば、華琳様もお子を作らないといけませんね。その前に、結婚相手を見つけないと」

「そうですねー。秋蘭さん、華琳さまにふさわしいお相手はご存知ですかー?」

「一人だけ心当たりがあるが…」

 

 ここまで言われて、華琳が気付かないはずがない。華琳は苦笑いを浮かべて、このクサい芝居に参加した。

 

「アキラしかいないかもね」

「あー、そうですねー。お兄さんがいいですねー」

「実力も実績も兼ね備えています。ご身分も対等となれば、彼しかいないでしょう」

「朝廷はもはや口出しできまい。障害もないでしょう」

 

 風、稟、秋蘭がまた口々に賛同する。華琳が乗ってくることも織り込み済みだったようだ。

 この中で季衣が、机に身を乗り出して賛成した。

 

「兄ちゃんがいい!兄ちゃんがいいよ、華琳さま!」

「季衣!言い過ぎだよ。でもわたしも、兄様が結婚してくれるならいいかな、って」

「ま、まあ、私と互角に戦える男なんて他にいないからな。しかたないな!」

 

と、春蘭まで賛成してくる。打ち合わせたように棒読みではあったが。

 華琳は、目の前の部下たちが愛らしく感じた。以前、破綻した結婚話をもう一度やり直そうとして、このような演技をしたのだろう。アキラへの感情を見透かされている恥ずかしさはあったが、華琳を向いて微笑んでいる部下たちは、真剣に華琳の幸せを考えているのだろう。彼女はそれを感じることが出来た。

 その思いに応えよう。華琳は宣言した。

 

「わかったわ。アキラにまた結婚の話を打診しま…」

「ちょっと、待ったー!」

 

 突然、声を上げて会議室に飛び込んできたのは、遅刻してきた桂花だった。

 

「華琳さまが男と結婚するなんてありえないわ!ありえない!ましてや、あんな男に!」

「いやいや、あれほどの人物はなかなかいないだろう。桂花だって、認めるところはあるだろう」

「確かに強いし、頭もそこそこ良いし、顔も整っている方かもしれない。でもね!あんな万年発情男なんて、私はゼッタイ!認めないわ!この間だって―」

 

と、秋蘭が反論しても聞く耳を持たず、桂花はアキラにされた“変態行為”について語り始めた。ただ、「廊下でぶつかって抱きしめられた」や「書類を取ろうとしたら手を重ねてきた」など、半分のろけではないかと思える話ばかりで、皆はだんだんとうんざりしてきた。

 華琳が疲れた表情をして声をかける。

 

「桂花、あなたね…」

「とにかく!私はあの男が華琳さまと結婚するなんて、認めないんだから!華琳さまはいつも清潔であらせられて、ずっと私のお慕いするお姿なのよ。あんな男に汚されてたまるものですか!」

「………」

 

 華琳は無言で立ち上がった。

 

「華琳さま?どちらに?」

「ちょっと、頭が痛くなっちゃって」

「ああ!それは大変です!すぐに看病の用意を…」

「大丈夫心配しなくていいあなたに迷惑かけたくないの………もし、私のことを思ってくれているのなら今日は家に籠って、私のために、必死に祈っていなさい」

 

と、早口で言った華琳の“お願い”に、桂花は「はい!」と大きな声で返事をした。そして彼女は、部屋を出ていく華琳の後ろにぴったりとついていった。

 残されたのは、呆然と2人を見送った重臣たち。秋蘭が彼女たちに言った。

 

「……まずは、桂花にどうやって対処するか、決めようか」

 

 会議場にいた全員が、力強く頷いた。

 

 

 

 

 


 
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