新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第039話「動揺」
重昌が長安にて麗羽達元袁家達を傘下に加えている間に、荊州ではとある事件が起きようとしていた。
「一刀、さっき思春が先生から預かった書状を貴方に渡したと聞いたけれど、一体何があったの?」
蓮華が一刀にそう訪ねた。
ちなみに『先生』というのは重昌のことであり、彼女は普段重昌のことをそう呼んでいる。
「………どうやら、官渡で敗れ、行方不明になっていた袁紹が長安に亡命してきたらしい」
「袁紹が!?」
「そうだよ。重昌さんは彼女を配下に加え、旧袁家の武将をかき集めて軍備の強化を図っているらしい」
「確かに、以前の世界ならまだしも、この世界の袁紹の兵なら兵の鮮度もいいわね。軍備の強化って言ったけど、まさか……」
「あぁ、予想では近々華琳が攻めてきそうらしい」
一刀は前回の外史を思い出した。
前の外史では曹操との直接は、于吉らの妨害により生憎無かったが、実際にぶつかっていれば勝てていたかどうかあやしいと一刀は思っている。
だが今度の一刀は違う。
味方には恋歌や虎、さらには前回の外史より格段に強くなった愛紗もいる。
また重昌の隣には驚異になるはずだった劉表や張魯も今や彼らの味方。
一刀達は全力で曹操対策に乗り出せるのだ。
そんな中、一方の凶報が一刀達の前にやってきた。
江陵にて君主である白龍が病に倒れたとの知らせだ。
「華佗さん、どうなの。叔父さんの調子は」
「……ダメだ。毒は抜いたが、年で体の免疫が弱まっているせいか、毒の回りが早い」
「そ、そんな」
白龍は家臣を引き連れ狩りに出向いていた時のことであった。
森の河にて休息を取っていた時のこと。
突然物陰より敵の間者が現れ彼に矢を射かけ、その矢が彼の手の甲に当たったのだ。
間者はその場で彼の家臣にて切り殺されたものの、矢には毒が塗ってあり、漢中との同盟の際に江陵に来ていた凱が矢を抜き毒抜きを行ったものの、現状はこういった感じである。
「だがまだ死んだわけではない。患者の命続く限り手を尽くす。それが俺であり俺の生き方だ。だから劉備さんも祈っていてくれ」
「………」
凱にそう言われると、劉備は頷く。
しかし劉備も劉備で決して白龍に付きっきりで良い身分ではない。
白龍のことは凱に任せて彼女は部屋を出て行くと、外には劉備の臣下を始め、劉表に仕える者たちも心配そうに主の非常時に集まっていた。
「劉備殿!!劉表様の容態はどうですか!?」
「今華佗さんが付きっきりで看病していますが、未だ意識は戻っていません」
その言葉を聞くと劉表の臣下達は慌てふためくが――
「えぇい、見苦しい!!静粛にせぬか!!」
とある者の一喝により場の空気が変わる。
「貴方方は劉表殿の臣下であろう!!その貴方方が主を信じられなくてなんとなさいますか!!」
そこに現れたのは劉備と似たような格好をした少女であった。
彼女の名前は、姓は劉、名は封、字は士啓。
荊州長沙郡羅県の出身で、劉備の母方の祖母の姉の孫娘で、劉備とは又従姉妹の関係であり、彼女が荊州入りした際、噂を聞きつけ劉備と会談した。
劉備とは二つ違いであり、劉備の方が年上である。
だが彼女の大きすぎる女性の象徴と比べ、劉封のはワンサイズ控えめの普通サイズで、身長は劉封の方が高い。
さらに違いを付け加えるのであれば、目がはっきりと開かれ大きめな劉備と違い、劉封の目は少しつり上がっているといえ、武や知が苦手な劉備と違い、劉封はそれなりに武に優れ知にも冴えている。
「な、何を!!一介の客将風情が何を偉そうに!!」
「なれば一介の客将が偉そうに言わせていただきますが。貴方方の主である劉表殿は、たかが毒矢にやられる程弱い人間ですかな?」
「そんなはずあるものか!!劉表様はその様な弱いはずがない!!」
劉表臣下がそうだそうだっと周りより声を挙げると、また一つ劉封は釘を刺す。
「なればこそ今は主を信じて待ちなされ!!陰気は陰気を呼び、本当に自らの主を滅ぼしかねませぬぞ!!」
そう言われると劉表の臣下はグウの音も出なくなり、やがて散り散りと部屋の前を去っていった。
「ありがとう
劉備が劉封の真名を言いながらお礼を述べると、今度は劉封が劉備に語りかける。
「お礼など言うより、桃香様もあれぐらい言えるようにもっと虚勢をお張り下さい!!」
「は、はい。スミマセン」
自分より背の高い劉封に怒られ、劉備の体は縮こまってしまうが――
「……今はこんなことより大事な問題が起こっているというのに……」
劉封は片手を頭に置くと、悩ましげに唸った。
「いいですか、皆さん」
劉封は服の上から背中の裾が長い白衣を来て、眼鏡をかけた姿で、一つの部屋に集まった劉備軍主要メンバーに板書と指し棒を用いて説明をする。
「今の僕たちは、先程劉表殿の臣下が言った様に、国を持たないただの客将。今ここで劉表殿に倒れられれば、一体この国はどうなります?」
皆が一通り悩む中、諸葛亮が恐る恐る手を挙げて答える。
「そ、それは、劉表さんの娘である劉琦さんに相続されると思いますが……」
「その劉琦殿は今何処に居ますか?」
「ふむ。確か劉琦殿は重昌殿に支持して、今は長安にいるのでは?」
「そう!それが問題なのですよ!」
諸葛亮の後趙雲が劉封の質問に答えると、劉封は黒板を指示棒で叩いた。
「確かに劉琦殿は後継者です。このまま本当に劉表殿が亡くなることがあれば、彼女が継ぐことは間違いないでしょう。すると、我々はどうなります?」
「……?それは、劉表のおっちゃんのお世話から、劉琦のお姉ちゃんのお世話に変わるんじゃないのか?」
呆然とした解答を張飛が投げかけると――
「………影村殿の息のかかった人の下に行くことですよ……?」
その一言で場の空気が凍りつくが、張飛だけは何か判っていなさそうだった。
「確かに、それは十分に考えられます。劉琦殿はあまり好戦的な方ではありません。影村さんが全面協力すると言えば、彼女はそれに喜んで甘えるでしょう」
「そうなれば、劉琦殿は形だけの同盟者となり、あたしらは、形式は違えど義叔父の臣下ってことになるのか……」
皆の言いたいことを代弁する様に龐統と馬超が答えると、周りの空気が静まり返る。
「桃香様は影村の下に付きたいのですか?」
「い、嫌だよ!!あんな酷い人の下なんかに!!」
「しかしこのままでは桃香様はまた宿無し放浪者になりますよ。西には張魯。北西には影村。北東から東には曹操。呉には孫策。この荊州には影村の息のかかった劉琦。一体何処に向かうというのですか?」
「そ、それは……」
板書に書かれた大陸の地図に、劉封はそれぞれ地域ごとに名前を書いていき、大陸の殆どに空きがないことを改めて劉備に認識させる。
「朱里さん達と相談し、仮の方法として蜀も考えましたが、力も兵も無い桃香様に蜀の劉璋が相手をしてくれるとも思えませんし、呉に向かえば桃香様は一生呉の臣下で、桃香様の想いが成就出来るはずもありません」
「だ、だったら、一体どうすればいいの!?」
すると劉封はジロリと諸葛亮と龐統を見ると、彼女たちは咄嗟に目を逸らした。
「桃香様自慢の軍師達は、既に答えに行き着いているようですが?」
そう言うと、劉備は咄嗟に諸葛亮の両肩を持って揺すりかける。
「ど、どうすれば。ねぇ、朱里ちゃんどうすればいいの!?」
諸葛亮が答えないとなると、次は龐統の肩を持って揺するが答えない。
それを見かねてか、劉封は劉備の手を龐統より離してやると……
「お二方が答えないのでしたら、私が答えましょう」
すると劉封は、板書の大陸の地図を剥ぎ取り机に置くと、地図の荊州の劉琦に罰を付けると、上から劉備の名前を書き込む。
「こういうことですよ。いくら察しの鈍い桃香様でもこれならわかるでしょう」
間違ってはいけないが、ここは荊州であり、その主は劉表である。
いくら劉備たちの為に割り振られた部屋だからといっても、何処で誰が目を光らせているか判ったものではない、
彼女は広げた地図を劉備が確認したことを確認すると、直ぐに丸めて燃やす。
「……ちょっと待ってよ、氷華ちゃん」
「桃香様、気持ちは判りますが、絶対今思っていることは”口には出さないで下さいよ。口に出せば僕たちの首は……こう、ですからね”」
劉封はジェスチャーで手刀を作り、自身の首を叩きながら言うと、劉備も咄嗟に口を抑えて黙り、落ち着いた後に話しだした。
「で、でも氷華ちゃん。私にそんなこt「桃香様。僕はこの中で貴女様との付き合いは一番短いですが、貴女の理想とはそんなものなのですか?理想を叶えるには、他者を蹴散らし、自らが掴み取るものではありませんか?そんな心意気もないまま、貴女様は天下を平定するとでもいうのですか?」………」
「……残された時間は僅かです。できる限り性急に決心を固めて下さいますようお願いいたします」
劉封は白衣と眼鏡を、苛立ちを籠めてそこいらに投げ捨てるように部屋を出て行く。
【ヌルイ微温い!!桃香様は微温過ぎる!!】
彼女は劉備の方針に対して、何処か苛立ちめいた物を感じていた。
同族を攻めるのはしのびない。
仮に自身が主の立場となりえたら、間違いなく迷うことであろう。
だが大望を抱くものには常に何かしらの犠牲を負わなければならないのだ。
主が嫌悪を抱いている影村なる者も、何かしらの犠牲を払って、あそこまで過激とも言える非情に徹することができるのであろう。
ただの暴君では北郷や関、上杉の様な人材が集まるわけもなし、また西涼を馬騰から任されるわけもないのだ。
影村にあって劉備にないもの。
そんな苛立ちを抱えながら、劉封は歩いていると、いつの間にやら城の入口の前に来ており、視線を入口に向けると、そこには多くの民の人だかりが出来ている。
「劉表様に会わせてくれーー!!」
「領主様に是非ウチで採れた野菜をーー!!」
「領主様が亡くなれば、一体オラたちはどうすればいいのだーー!!」
劉表危篤の知らせを聞きつけて、領民が押し寄せて来ているのだ。
これを見る限り劉表の人柄を伺え、自身が先の劉備に申した言に心を痛める感じを劉封は噛み締めるが、そんな劉封を一人の人物が横切った。
「おぉ、関羽将軍!!」
「将軍!!領主様は無事なのでしょうか!?」
「おねげえですだぁ。ひと目でもいいから領主様にお目通りを!!」
領民の必死の懇願に対し、関羽は手を高く挙げるとゆっくりと下ろし、領民の声を鎮めた。
「皆の劉表様を思う気持ち、大変痛み入る。はっきり言おう。劉表様は今大変危ない状態だ」
その一言で領民は一層騒ぎ立てるが、そこに関羽の一喝が入る。
「静まれぇい!!!」
ただその一喝により、領民の視線は関羽の方に集中した。
「貴方達は誇り高き劉表様の民。つまりは劉表様の子供だ。子が親の心配をするなとは言わない。だが、子が親を信じずにどうするか!!」
関羽の演説に周りは静まり返り、何人かは圧倒された影響で劉表心配の悲し涙も止まっていた。
「劉表様はそんな弱い人物ではない!!劉表様を信じろ!!私は信じる。天が劉表様を生かすと!!仮にもし天が劉表様を奪うことがあれば――」
彼女は腕を高らかに挙げて……
「私が共にキサマら達と天を相手に戦ってやる!!!」
その一言で領民のボルテージは最高潮に達し、ところかしこで関羽が飛び交うのであった。
それから関羽が領民たちを宥めた後に、劉封が関羽に寄る。
「愛紗殿、お疲れ様です」
「……氷華か。覚えておけ。城内に混乱が起これば、まずは人民を落ち着かせ、不安を取り除いてやることが先決だ。それより、皆の会議はどうなった?」
劉表が倒れた際、関羽は領内の混乱を鎮める為に、周倉と王甫を引き連れ、各地を走り回っていたのだ。
「【愛紗殿。影村夫人に弟子入りしたと聞いていた。いくら強くとも、いずれ敵としてまみえる者の下に何故付いたのかと思ったが、確かに成果は出ている様だ。以前の何処か生真面目な尖った態度とは違い、静かながらもよく物事を冷静に見定めている】はい。一度皆とこれからの事を話し合ってから、一度解散をしました」
「そうか」
関羽はそのまま立ち去ろうとすると、劉封は関羽を呼び止める。
「愛紗殿、何があったのか聞かなくてもいいのですか?」
「だいたい想像は付く。だが今その話題をこの場で口に出してもいいわけはないだろう」
その一言で、劉封の考えが関羽に判り切っていることなど、彼女には容易に判断できた。
確かに先ほどまで劉封たちはこの国の者達に”聞かれてはならない話”をしていた。
関羽の反応からしても、彼女にとっては自分たちの話題など既にお見通しなのだろう。
劉封は影村夫人の下より戻ってきた関羽を見て、味方ながら油断ならないという認識を持ったのである。
「一刀さん、お久しぶりです」
「おぉ
一刀とそれぞれ手を握り合いながら挨拶を交わす者の正体は劉琦。
体は大きくなく、身長も140弱と小柄な少女であり、白龍の娘。
幼少の頃から体が弱く、いつもは屋敷に引きこもりがちであったが、一刀の(無自覚の麻薬)得意技により外に出るようになった。
元々はこれが白龍と一刀の仲を取り巻く結果にも繋がったのだ。
いつも緑のストールを首にかけ、彼女曰く、緑を見ると落ち着くらしい。
「平気です。思春さんが優しく連れて来てくれたので、むしろ今は穏やかな感じです」
「そうか。思春、ありがとう」
「……別に礼を言われる筋合いはない。私はただ自らの仕事を全うしただけだ」
「……いや、それでも言うよ。ありがとう……」
一刀は思春の目を見てハッキリそういうと、思春も彼女は彼女で恥ずかしくなったのか、顔を赤らめてソッポを向いた。
「一刀さん………お父様の様子は一体どうですか?」
「……何とも言えないな。今凱が付いているから大事はないと思いたいけれども――」
一刀の語尾が弱くなっていき、はっきりとした言葉が言えなくなってきても、小龍は改めて一刀の手を握り返し、「大丈夫」っとはっきり言った。
「先生は言っていました。お父様は『龍』だと。龍は千年生きると言われています。お父様の年齢はせいぜい60ぐらい。お父様は龍なのですから、まだ940年も残っています。なんの問題もありません」
極端な例を挙げながらそういう小龍の手は、握られた一刀にしか判らない程に、僅かばかりに震えていた。
彼女も自分の父親が明日をも知れない命であるという事実を突き付けられ、恐怖で泣き叫ぶのを堪えながら不安を必死に押し殺し気丈に振る舞っているのだ。
改めて一刀も小龍の握られた手をより一層強く握り笑顔で答える。
「……そうだな。白龍さんは強い。あの人がそう簡単にくたばる筈がないもんな」
「そうですそうです。お父様は強いんですよ」
小さな体を張って踏ん反り返る小龍と、それを穏やかに笑う一刀。
傍で見ていた蓮華と思春は傍で場の和みに笑うものの、内心では二人の気丈な振る舞いに心痛めており、今の二人はかつて母親を殺された恨みを向ける孫権でもなしに、また当時劉表の配下にて孫堅軍を苦しめた甘寧ではなく、ただ同盟者としての白龍の身を案じる一刀の配下の孫権と甘寧であった。
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