No.768721

アマカノ if ~上林聖甘え度100%非恋人√~ 『破』

DTKさん

DTKです。
普段は恋姫夢想と戦国恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI(仮)という外史を主に紡いでいます。

今回は、恋姫を製作しているBaseSonと同じネクストンブランド、あざらしそふとの作品『アマカノ』の二次創作を投稿します。

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2015-04-03 23:29:25 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4936   閲覧ユーザー数:4626

 

 

 

 

 

「わたし、何やってるんだろ…」

 

何となく家には居づらくなり、日中は裏から外に出て、日が暮れると部屋に戻るという生活をしている。

と言っても、学校や街では彼とかに鉢合わせてしまうかもしれないから、人気のないところをどこ行くわけでもなく転々としていた。

そして、今日も今日とて一人歩き。

折りしも今日はクリスマス。

温泉街とはいえ、街は浮かれムード。

そんな雰囲気が、わたしを一層惨めにする。

 

もし、彼と恋人同士になれていたら…

いつも通り、おじいちゃんとおばあちゃん、そしてそこに彼が加わった四人でクリスマスを祝って…

それで、もしかしたら夜は二人で……

 

そんな幸せな未来があったのかもしれない。

そう考えるだけで涙が溢れてくる。

涙が零れないようにと、わたしは慌てて顔を上げた。

 

「あ痛っ!」

 

その瞬間、何かにぶつかってしまった。

 

「大丈夫~?」

 

しまった、人だった!

ほとんど人とすれ違わないから油断してた…

 

「す、すいません!その、ボーっとしていた……の、で……」

「………んふ~♪」

 

そんな、どうして……こんなところに、居るはずないのに……

 

「やっほー!元気してた~?」

 

片手を上げながらウィンクをする目の前の人物。

そのイタズラっぽい笑顔……

 

「お、おおお……」

 

まさか、本当に…

 

「お姉ちゃんっ!!?」

「はーい、お姉ちゃんですよー」

「ど、どどっ……どうして」

 

ここに居るの、と言葉を続けようとしたのを、お姉ちゃんは遮りながら、わたしの手を取ると、

 

「それじゃ、行こっか」

「え?」

 

そう言っていきなり駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

『次は~……お降りの方は…』

「えぇっ?」

 

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「はい、到着~♪」

「えぇ~~~~っっ!!?」

 

わたしは確かに、山々連なる雪国にいたはず。

それがあれよあれよという間に、目の前には海が広がっていた。

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!ここどこなの?」

「ん~…残念。ここからじゃ夕陽は見られないのね~」

 

手でひさしを作りながら、少し暗くなり始めた海の方を見ているお姉ちゃん。

 

「お姉ちゃん!?」

「え?熱海よ、あーたーみ!一度来てみたかったのよね~♪」

「来てみたかったって……わたしまで連れてこなくてもいいじゃない。それに、帰らないと……おじいちゃんとおばあちゃんが……」

「うん。心配してたよ」

「え?」

「二人から連絡もらってきたの、私」

「……あ」

 

そうか。おじいちゃんとおばあちゃんが心配して、お姉ちゃんに連絡を……

 

「座らない?」

 

お姉ちゃんが砂浜に腰を下ろしたので、わたしも隣に座る。

冬の砂浜は、ひんやりと冷たかった。

 

「フラれたんだって?」

 

ズバッと一言で核心に触れてくる。

お姉ちゃんはいつだって直球だ。

 

「……うん」

「そっかー……残念だったね」

「…うん」

「せっかく聖の色気づいた話が聞けると思ったんだけどな~」

「うん……ごめんね」

 

心が落ち着いてくるのが分かる。

もしかしたら、わたしは誰かと話したかったのかもしれない。

 

「しっかし、その男も見る目がないわよね~。こんなに可愛い聖をフッちゃうなんてさ」

「そう、だね…」

「どこが気に食わなかったのかしらね?」

「それは……」

「それは?」

 

息が詰まる。

また胸の奥がズシリと重くなる。

でも、話を聞いてくれるのは、お姉ちゃん。

全部吐き出してしまおう。

 

「わたしは…彼より年上だし……あとちょっとで卒業だし…それに、左目のこともあるの、かも……」

 

お願い…否定して……

 

「そっかー、そうだよね」

 

「え?」

 

「男の子って、年上の娘とか嫌がるもんねー。しかもすぐに遠距離恋愛になっちゃう娘とは、やっぱ付き合いたくないわよ」

「そう……だよ、ね…」

 

やっぱり……そうなのかしら?

 

「目のことも大きいかもねー。面倒くさいと思われたのよ、きっと」

 

 

違う…

 

 

「遠距離恋愛なんかになったら、どうせすぐに浮気されてただろうし…」

 

 

違う……っ!

 

 

「聖、良かったわよ。そんな男と付き合わないで」

「もうやめて!これ以上彼を悪く言わないで!!彼は絶対浮気なんかするような人じゃないし、わたしの目の事だってちゃんと受け入れてくれた!

 なんで!?なんでお姉ちゃんにそこまで言われなくちゃいけないの!?彼に会った事もないお姉ちゃんに、彼の何が分かるのっ!!?」

 

「分かるわよ」

 

「えっ――?」

「誰よりも聖のことを知ってる私だもん。例え会わなくったって、聖が好きになる人がどういう人か、分からないわけないじゃない」

「あ……」

 

「そうね…性格はとっても真っ直ぐで誠実。普段はからかうと面白くて可愛いけど、ふとした瞬間に驚くほどドキッとする男らしさや優しさを見せてくれる、って感じかしら?」

「あ、当たってる、けど……」

 

彼のことを、ほとんど余すことなく言われた感じ。

わたしの知らないところで彼と会っていたんじゃないかと思うくらい、当たってる。

 

「そんな素敵な彼は、浮気なんかするような人じゃないし、ましてや目のことを理由に聖を振るなんてことは絶対にありえない。

 もちろん、年齢なんかでも、ね。聖、いま自分で言ったわよね?」

「あ……」

 

そうだ……

わたしの好きな彼は、そんな理由でわたしを選ばなかった、なんてありえない。

そんなこと、分かってたはずなのに…

 

「聖は、何かフラれた理由が欲しかっただけ。辛い思いから逃れる理由が欲しかっただけ。

 どうせ、おじいちゃんたちが彼を家に呼ばなければ!とかも思ったりしたんじゃないの?」

「……うん」

 

お姉ちゃんには、隠し事なんて出来ないな…

 

「はぁ~~……この」

 

お姉ちゃんは溜息をつきながら立ち上がると、

 

「大バカもん!!」

「い…ったーーーい!!!」

 

わたしの脳天に振り下ろされたのは、お姉ちゃんの右の拳。

あまりの痛みに、わたしは思わず飛び上がる。

 

「な、何するの!?」

「これは、おじいちゃんとおばあちゃんを心配させた罰よ。そして、これが…」

「あ…」

「二人の代わりに聖を慰めてあげる、のハグだよ」

 

お姉ちゃんが、わたしを優しく抱きしめてくれる。

 

「好きな人に振られて、辛かったんだよね。

 何かのせいにしないと、耐えられなかったんだよね。

 周りに当たらないと、自分を抑えられなかったんだよね。

 初めての恋で、どうしていいか分からなくなっちゃったんだよね」

 

「うん……うんっ……」

 

「辛かったら泣けばいい。耐えられないなら泣けばいい。

 自分を抑えられないなら、誰かに話を聞いてもらえばいい。

 どうしていいか分からないなら、誰かに話を聞いてもらえばいい。

 聖の周りには、聖を受け止めてくれる人が、必ず居るはずよ」

 

「うん!……うんっ!!」

 

「さぁ、分かったらまずは泣いてしまいなさい。ここなら泣いても、波と風の音が掻き消してくれるわ」

 

「うっ…わああぁぁぁぁぁあぁぁああぁ~~!!!!!!」

 

泣いた、泣いた、泣いた。

全てを吐き出すように、外に向かって、泣いた。

その間感じられたのは、お姉ちゃんの温もりだけだった。

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

ひとしきり泣いたあと、ゆっくりとお姉ちゃんから離れる。

 

「…落ち着いた?」

「うん。お姉ちゃんの言うとおり、思いっきり泣いたらスッキリしたね」

「そう…」

 

わたしの顔を見ると、お姉ちゃんは軽く微笑んだ。

 

「それじゃ、宿まで歩きがてら話してくれる?聖の初恋のこと」

「うんっ」

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

「ふ~ん。そっかそっか」

 

わたしの話に時折相槌を打ちながら聞いてくれるお姉ちゃん。

 

彼と出会ってから今まで。

 

長いと感じていたけど、改めて話してみると、まだ一ヶ月くらいしか経っていないという事実に、わたし自身驚いた。

わたしが告白した日のことを話し終えたときには、宿の部屋に腰を落ち着けた頃だった。

全てを聞き終えたお姉ちゃんは、一言。

 

「素敵な人なんだね、その彼」

「うん」

「…残念だったね」

「…うん」

 

今の残念だったね、は最初の残念だったねより、気持ちが籠もっている気がした。

 

「その彼と付き合うことになった娘のことは、知ってるの?」

「うん。良い娘よ。すっごく良い娘。わたしなんかより、ずっと……」

「コラッ!」

「あいたっ!」

 

デ、デコピン…

 

「そういう考えがダメなの。その娘はとってもいい娘で、聖も彼を取られたって恨んでなんかいないんでしょ?」

「そんな、恨んでなんか……だってわたしが…」

「ていっ!」

「痛いっ!」

 

チョ…チョップ……

 

「まったくアナタって子は…いい!別に聖がその娘より劣ってたわけじゃないの。きっと、その娘の方が、聖よりほんの少しの努力したの」

「少しの、努力?」

「そう。好きな人に自分のことを見てもらいたい。自分のことをもっと知ってもらいたい…

 そんな努力が、聖には少し足りなかったんじゃないかしら?」

「そんなことは……」

 

ない…と思う。

でも、卒業が近いとかで二の足を踏んでいた時期があることも確かだ。

何だかんだで決断は彼に委ねっぱなしの所もあったし、家では一緒だからっていう油断も少しあったかもしれない。

 

「それは聖が悪いわけじゃない。初めての恋だもの。何をどうしていいかなんて分からないのは、仕方がないのよ」

「それは…」

 

理屈としては分かる。

でも、仕方がないという言葉で片付けたくはない。

 

「気持ちは分かるわよ。でも初恋が実って、そのまま結婚までする人なんて、この世界にほとんどいない。

 酷い女に取られることもあれば、例え恋が実っても、手酷く別れてしまうことだってある。これが現実よ」

「そんな…」

「だからね、聖はこの恋に感謝すべきだと思うのよ」

「感…謝?」

「そう、感謝。初恋の相手が素敵な男性だったこと。フラれはしちゃったけど、その相手もとても素敵な女の子だったこと。

 実りはしなかったかもしれないけど、こんなに素敵な初恋、お姉ちゃん聞いたことないわよ」

「そう…なのかな?」

 

自問自答してみる。

確かにフラれた悲しみを取り除けば、あの二人は私から見てもお似合いだし、祝福してあげたいカップルだ。

その二人に、恋の甘さは教えてもらえなかったけど、切なさと辛さを教えてもらえた。

結果以外は良かったのかも…

うん、きっとそうよ。

 

「でもさ、やっぱり悔しいじゃない?」

「えぇっ!?」

 

折角わたしの中でまとまりかけてたのにっ!

 

「その彼に、たった一つだけ、一矢報いてやる方法があるのよ♪」

 

イタズラっぽくウィンクをしながら、そう言うお姉ちゃん。

その瞳に強く引き寄せられる。

 

「そ、それは?」

「それはねぇ……」

 

 

 

 

 


 
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