No.76830

真・恋姫†無双~江東の花嫁~(九)

minazukiさん

孫呉独立第三弾~。
それはもう蓮華のツンによって勢いで書きました!(合掌)

2009-06-02 01:36:13 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:31266   閲覧ユーザー数:21173

(九)

 

 数日後。

 

 袁術の居城を陥落させて雪蓮達が戻ってきて一番に目にしたものは献身的に身の回りの世話をしている孫権の姿だった。

 

 緒戦の時、一刀が重症を負ったと聞いた時の雪蓮はまさに手のつけられない鬼神と化していた。

 

 刃向かう者には一切の慈悲を見せることなく、袁術の居城ですら単騎で乗り込んでいき瞬く間に袁術を捕虜にした。

 

 そして事後処理を冥琳と祭に押し付けて戻ってきた。

 

「戦勝おめでとう、雪蓮」

 

「ありがとう♪それよりも大丈夫?」

 

 肩の傷が一番ひどかったがあとのはかすり傷だった。

 

 だがそれでも雪蓮からすれば十分過ぎるほど胸が痛んでいた。

 

「そんなことよりも俺との約束は?」

 

「あのことね。危うく忘れそうになったけどきちんと守ったわよ」

 

 一刀と雪蓮の約束。

 

 それは戦が始まる前に一刀が提案した袁術の助命だった。

 

 なぜそんなことが必要なのかと雪蓮は珍しく一刀に冷たい視線をぶつけたが、それで怯んでは一刀の考えていることが実現できなかった。

 

 一刀の返答は至極簡単だものだった。

 

 名門の袁家の血を持つ袁術を降伏させ命を助けることによって雪蓮の名声を高めることが出来る。

 つまりそれは恨みを買うことが少なくなるということだった。

 

 雪蓮は今更、恨みを買われてもたいしたことではないと思っていたが一刀はいつも以上に自己の意見を押し続けた。

 

 それに根負けした雪蓮はとりあえずその約束だけは守った。

 

「まったく。何度、あのチビの頸を刎ねようかと思ったわよ」

 

「ごめん。無理を言って」

 

「いいわよ。まぁその代わりに城に戻ったらたっぷりご褒美をもらうわね♪」

 

 まるでご馳走を楽しみにしているかのような雪蓮の笑み。

 

 一刀も苦笑いを浮かべる。

 

 だが、甘い二人の世界はこの時ばかりは場所を考えるべきだった。

 

「お、お姉様!か、一刀!な、なにを考えているの!」

 

 真っ赤になってなぜか二人を怒る孫権。

 

「あら、いつの間にに一刀って呼んでいるのかしら?」

 

「あっ……」

 

 自分で墓穴を掘ったことに気づいた孫権。

 

「いいのよ。無理しなくても。私がいない間に二人が仲良くなってくれたのなら嬉しいわ♪」

 

 そう言う割には笑顔が怖いと感じる一刀。

 必死に戦っている間に二人は誰の邪魔もなく過ごしていると思うとさすがの雪蓮ですら微妙に許せないものがあったらしい。

 

「じゃあ一刀はこの子の真名も知っているわよね?」

 

「「え?」」

 

 それには雪二人よりも雪蓮の方が驚いた。

 

「なによ。まさかまだなの?」

 

「「……」」

 

 ここまでお膳立てがあって一番肝心なところが抜けている。

 

 これでは誰が聞いても呆れるばかりだった。

 

「蓮華、貴女、いったい何を考えているの?」

 

「お、お姉様?」

 

 何時になく鋭い視線をぶつけられる孫権は戸惑う。

 

 自分が何か悪い事をしたのかと自問する。

 

(確かに私のせいで一刀が傷を負った。それは私のせい……)

 

 だが目の前の姉はそれについて怒っているのではなかった。

 

「お姉さん、悲しいわ。こんな妹を持つとはね」

 

 やれやれといった感じで呆れる雪蓮。

 

「貴女は一刀の名前を呼んで、自分は真名を呼ばせない。それって一刀に失礼じゃあないかしら?」

 

「わ、私は別に……」

 

 呼んで欲しくないわけではない。

 

 そう言おうとしたが声にならなかった。

 

 雪連の突き刺さる視線に背中が凍りつく感覚に襲われたからだった。

 

「ふ~~~~~ん。一刀に傷を負わせておいて、よくもまぁそんな事がいえるわね」

 

「なっ!」

 

「し、雪蓮!」

 

「一刀は黙ってなさい。これは姉妹の問題よ」

 

 睨み付けられる一刀は言葉を失い、傍にいた恋に頭を撫でられる。

 

「お、お姉様が言ったのでしょう?真名を授けるのは自由だと」

 

「ええ、言ったわよ。でもねぇ、貴女みたいなどっちつかずなんてことは言ってないわよ」

 

 姉の言葉に反論できない孫権。

 

 それがまた悔しくなり、せっかくさっきまであった楽しい気持ちが綺麗になくなってしまった。

 

 追い討ちをかけるように雪蓮は厳しい一言をぶつけた。

「一刀の名前を呼びつつ真名を授けない。そんな者が孫家の娘だと思うと虫唾が走るわね」

 

「くっ……」

 

 孫権の顔が酷く歪んでいく。

 

「ここはもういいわ。自分の天幕に戻りなさい。あとは私と恋が一刀の世話をするわ」

 

「雪蓮、言いすぎだよ」

 

「……わかりました」

 

 止めに入る一刀だが孫権はその一言だけを残して天幕を出て行った。

 

 何とも空気が重い中、恋もどこか困惑気味だった。

 

「言いすぎだぞ、雪蓮」

 

「あら、私は事実を言ったまでよ」

 

 自分は何一つ間違った事をいっていない。

 

 たとえそうだとしても言いすぎだと一刀は思った。

 

「この傷だって俺が自分でつけたようなものだし、それにずっと傍でいてくれたんだぞ」

 

 感謝こそすれ、それ以上のことを一刀が望むことはなかった。

 

 それに何度か話をしていくうちに孫権と打ち解けていた。

 

「孫権が俺に真名を授けられないのならそれでもいいと思ってる。だってそれだけに真名の持つ意味が重いって事だし」

 

「一刀は優しいわね」

 

 その優しさが孫権を変えている。

 

 いまのやりとりで雪連はそう確信していた。

 

 確信したからこそどうしても許せなかった。

 

 そしてそれに対して怒りを覚えた自分がどこかで二人を嫉妬しているのではないかと思った。

 

 雪蓮は一刀をゆっくりと抱きしめる。

 

「し、雪蓮?」

 

 さすがに恋がいるので恥ずかしく離れてもらおうとしたが抱きしめられる手には力がこもっていた。

 

「恋、ごめんね。少しだけでいいから貴女のご主人様と二人っきりにさせてくれる?」

 

「……コクッ」

 

 何か言いたそう表情の恋だが素直に受け入れて天幕を出て行った。

 

 二人っきりになった天幕内。

「雪蓮?」

 

「怖かった」

 

 あの小覇王が絶対に口にすることはないと思っていた言葉が雪蓮から零れ落ちていく。

 

 身体が震えているのが伝わってくる。

 

「一刀が重症だって聞いて自分が自分でいられなくなった」

 

「雪蓮……」

 

 英傑といえども雪蓮も一人の女と実感した。

 

 言葉では言い表せない喪失感に理性が打ち壊されただけに一刀の生きている姿を見るまでは安心できなかった。

 

「だから思わず袁術の頸を刎ねかけたわ」

 

 だが冥琳や祭が一刀との約束を思い出させたためそれは寸前のところで回避できた。

 

「本当はね、凄く頭にきていたのよ」

 

 だからあんなにきつい言葉をぶつけたのかと一刀は納得する。

 

 普段の雪蓮であれば冗談で言うことはあっても冷たい言い方はほとんどしない。

 

「それなのに真名を授けてないだなんて……。一刀」

 

「な、な……」

 

 言葉の続きは雪蓮の唇によって強制的に止められた。

 

 天幕の外は忙しそうに音を立てている。

 

 そんな中で二人は唇を重ね、そしてゆっくりと離していく。

 

「天の血を孫呉に混ぜるって私は言ったわよね?」

 

「う、うん……」

 

「それ、やめちゃおうかしら」

 

 身体を密着させたまま雪蓮は一刀の身体を労わるように少しだけ力を抜いた。

 

「なんだかあの子を見ていたらもったいなくなったわ」

 

「も、もったいないって?」

 

「一刀の子供を授かるのは私だけにしてほしいってこと」

 

 それは愛の告白に思えた。

 

「冥琳や祭もきっと一刀の子供を宿したいって思っているわ。でもなんだか独占したくなっちゃったの♪」

 

「え、えっと……」

 

 男としては告白してくれる女の子がいるということは非常に嬉しい事なのだが、この時ばかりは素直に受け入れられなかった。

「雪蓮、悪いけど今の状態だと俺は嫌だよ」

 

「どうして?」

 

「妹さんと仲直りしてくれないと俺も困る」

 

 自分の傷の手当てを献身的にしている姿を見ただけに放ってはおけなかった。

 

 何よりも血を分けた姉妹なら仲良くして欲しかった。

 

「もう、一刀は欲張りね♪」

 

「ち、ちがうって」

 

 その辺は否定しても本能までは否定できない男の悲しい性。

 

 雪蓮は一刀から離れて笑いをかみ締める。

 

「いいわ。仲直りしてあげる。でも、その前に約束を守ったご褒美をもらおうかしら♪」

 

 そう言って一刀を押し倒し、その上に覆いかぶさる雪蓮。

 

「し、城までま、待たないの?」

 

「う~~~~~ん。なんだか我慢できなくなっちゃった♪」

 

 悪びれることもなく笑みを浮かべて言う。

 

「それにほら、血を見て少しいつもの病気が治まらないのよ♪」

 

「それ、嘘だろう?」

 

 一度経験しているだけに嘘だとわかる一刀。

 

「その時によって変わるのよ♪」

 

「う、嘘だ!」

 

 身の危険を感じる一刀に妖しい笑みを見せる雪蓮はゆっくりと足を絡ませていく。

 

「だから一刀が諌めて♪」

 

「なっ」

 

 抵抗を示した一刀だが傷だらけの今、雪蓮に抵抗する余力などなかった。

 一方、一刀の天幕を出て行った孫権は自分の天幕に用意されている寝台に蹲っていた。

 

(私は……)

 

 真名を授けることは孫権にとって今はどうでもよかった。

 

 逆を言えば授けられるほど一刀は信頼できる。

 

 それなのに好戦的な雪蓮に反論すら出来なかった自分の不甲斐なさを後悔していた。

 

 傷を負った原因である孫権を何一つ責めることなく、また左足の怪我を心配して自分よりも孫権を心配していたこと。

 

 姉や妹のようにもっと素直になればあの場を追い出されなかったかもしれない。

 

 考えれば考えるほど、自分の性格がこれほどまでダメだとは孫権は思わなかった。

 

「一刀……」

 

 とっさに口にしてからというもの、もはや「お前」とは言えなくなってしまった。

 

 そして自然な形で「一刀」と呼んでいる自分。

 

(蓮華って呼んで欲しい……)

 

 孫権ではなく蓮華と呼ばれたい。

 

 そうすればこの胸の苦しみも消えるかもしれない。

 

「よし」

 

 寝台から勢いよく身体を起こして天幕を出る。

 

 そして一刀のいる天幕に向かった。

 

「か、一刀……。お、お姉様、入ります」

 

 反応がある前に天幕の中に入ると、そこで見たものは一刀を押し倒している雪蓮の姿だった。

 

 プツン……。

 

 その瞬間、孫権の中で何かが切れた。

 

「お~ね~え~さ~ま~。か~ず~と~。な~に~を~し~て~い~る~の~か~し~ら~?」

 

「そ、孫権!?」

 

「あら意外と早かったわね♪」

 

 状況を楽しんでいる雪蓮。

 

 焦る一刀。

 

 そして赤黒いオーラを発する孫権。

 

「ま、待て、孫権……さん!」

 

「孫権ではない!蓮華と呼べ!」

 

「れ、蓮華、お、落ち着け!」

 

 どさくさにまぎれて真名を授けた蓮華。

 

 それを冷静に聞いていた雪蓮は笑みを浮かべて一刀を起こして抱きしめる。

 

「お姉様!一刀が困っているんです。離れてください!」

 

「え~~~~~!そんなことないわよね、一刀♪」

 

「え、い、いや、その……」

 

 豊かな雪蓮の膨らみに理性が揺らぐが入り口に立っている蓮華を見るとそれに流されるわけにはいかなかった。

 

「お姉様。一刀は私のせいで傷を負ったのです。だから私が身の回りの世話をするのが筋です」

 

「真名も授けない子が世話をしても迷惑よね♪」

 

「たったいま授けましたのでご安心ください」

 

 怒りに満ちた表情が怖いぐらいに笑みを浮かべる。

 

「一刀も情けない顔をしない!」

 

 蓮華の大声と雪蓮の笑い声、それに一刀の悲鳴が天幕外にいた恋と音々音と事後処理を終わらせた冥琳達にしっかりと聞かれたことはいうまでもなかった。

(座談)

水無月:なんだか姉妹喧嘩ですか?

 

雪蓮 :そんなことないわよ♪

 

蓮華 :でも一歩間違えばそうなるところだったのは気のせいですか?

 

雪蓮 :気にしない♪気にしない♪

 

水無月:確かにどさくさにまぎれて真名も授けちゃいましたしね。

 

蓮華 :あ、あれは別に・・・・・・(真っ赤)

 

水無月:実のところ私もそろそろ蓮華って書きたかったのでちょうどよかったです♪

 

蓮華 :・・・・・・。

 

水無月:まぁなんとか孫呉独立できたということで次回はちょっとその後の平和な日々(?)を書いていこうと思います。

 

冥琳 :日常というやつかしら?

 

水無月:そうです。月や詠、それに華雄も出ますよ~。

 

祭  :儂も出るのじゃろうな?

 

穏  :私も出たいですね~。

 

亞莎 :・・・・・・私も。

 

明命 :コクコク。

 

思春 :・・・・・・シャキン!

 

小蓮 :シャオも出る~~~~~!

 

水無月:が、頑張ります!(滝汗)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美羽 :七乃~~~~~、妾の出番はあるのかの?

 

七乃 :次回はきっとお嬢様が主役ですよ~~~~~~♪

 

全員 :それはない! 


 
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