悠香視点
ガァァァァァン
悠香「へ?って、ぎゃーーー!?」
なんかものすっごいデッカイ光が押し寄せてきたーー!!?
か、回避回避!ジャンプして屋根に退避!
悠香「あ、あ…危ねぇー!」
収容所の屋根に登った所で、極太の光が掻き消された。
もう少しでこの建物ごと飲み込まれる勢いだったけど…
悠香「なにあれ?月さん?月さん、あんな規格外だっけ?」
うわっ、光に呑まれた人達、みんな気失ってるよ…
怖ぇ…月姉さん、超怖え
悠香「まぁでも、これで収容所の中に入れるね!」
あたしは早速地上へと降りて、収容所の扉を開けた。
扉を開けてすぐに階段があり、そこを降りていくと多数のオリがあった。
通路には兵士が一人もおらず、静まり返っていた
悠香「誰もいない?もしかしてハズレかな?」
まさかの無駄足?なんて考えていると、牢屋の一室で、小さく丸くなって寝ている子を発見した
赤い短髪にトラバッジを着けた、見た目6歳か7歳くらいの女の子…
星彩ちゃんだ!間違いない!久しぶりに見たけど、鈴々さんの面影もある!
悠香「鍵は鍵は…あった!これだね!」
収容所の入り口付近の壁に掛けられていた鍵束を取り、早速星彩ちゃんの牢屋の鍵を開けた
悠香「星彩ちゃん!起きて!迎えに来たよ!」
体を揺すって起こしてみる。
特に外傷とかはなく、ただ単に眠っているだけのようだ。
こんなところに閉じ込められているのに、衰弱している様子もない。
本当に良かった
星彩「うにゃ…はにゃ…?ゆーかおねえちゃやん?」
悠香「そうだよー。悠香お姉ちゃんだよー!星彩ちゃん、大丈夫かな?」
星彩「??大丈夫なのだ?どうして?」
ん?どうして?星彩ちゃんはこの状況を理解していない?
悠香「ねぇ、星彩ちゃんはここに来て何をしていたの?」
星彩「おかあさんがお仕事でいないから、おかあさんのお仕事のおともだちに遊んでもらっていたのだ…」
えっと…どういうこと?閉じ込められていたんじゃ…
悠香「いや、それよりまずは、ここから出ないとだ!ねぇ星彩ちゃん!お母さんに会いたくない?」
星彩「!?おかあさん、帰ってきてるの?」
星彩ちゃんはパァッと表情を明るくし、前のめり気味で聞いてきた
悠香「うん!お母さん、きっと星彩ちゃんに会いたがってるよ!」
星彩「行くのだ!」
星彩ちゃんは元気良く返事し、あたしの手を握ってきた
悠香「あ、握力強っ!?」
握り潰されるかと思いました…
悠香「……何なんですか、あなた達?」
収容所の外へ出て見れば、目の前には多数の兵士達。
そしてそれを束ねているであろう、スラッとした、でも雰囲気が重々しい女性が一人…
楊志「私の名は楊志。あなたに恨みはないけれど、その子を帰すわけにはいかないの。だから、その子を離しなさい」
楊志と名乗った女性は、大きな斧を片手で担ぎ、もう片方の手で手招きするように指を動かした
悠香「断る!と言ったら?」
楊志「残念だけれど、力尽くで頷いてもらうわ。こちらも余裕がないの」
ちぇー、結局そうなんのかぁ…
悠香「では、あたしも本気で行きますよ!星彩ちゃんはそこで待ってて!」
あたしは星彩ちゃんを下がらせて、脚のストレッチをしてから構えた
本気の喧嘩だ!あたしの力、見せつけてやる!
悠香「お食事処【晋】接客担当、そして幼稚園【晋】の見習い保母、張雄!舐めて掛かると痛い目みますよ!」
楊志「梁山泊、楊志。天を揺るがす豪断撃、あなたにお見せしましょう。みなさん、少しお下がりください」
周りにいた兵士達が、あたし達を囲むように下がった。
だけど、彼らは本当に何もしないのだろうか?
彼らの目が、かなりヤバイ風に見えるんだけど…
悠香「やぁぁぁ!」
いや、どっちにしろ関係ない。
あたしがさっさと倒して、周りにいる人も同じように倒しちゃえば済む話だ!
だから速攻!
あたしは全力で走り、脚に氣と魔力を纏わせて、助走をつけたまま飛び蹴りを繰り出した
悠香「シューティング・スター!」
楊志「っ!」
ッ!?あたしの蹴りが避けられた!?あたしの速さについて来れたの!?
楊志「速いですね!ですが、我らの大将も同じくらい速いですよ!」
楊志の斧が、飛び蹴りをして空中にいたあたしの背中を強打した
悠香「ウッ!」
背中に直撃すると同時に、肺に溜まった空気が一気に吐き出された。
あたしはあまりの衝撃に受身が取れず、そのまま空中に上げられてしまい…
楊志「真芯で捉えます!」
もうすぐ地上に堕ちるというところで、楊志は斧をバッドのように振った。
あたしは咄嗟に防御体制に入ろうと二丁の銃を取り出すも…
悠香「ッ!?」
銃は軽々と破壊され、体に氣を纏わせて防御力を底上げするも、虚しく吹き飛ばされてしまった
悠香「ガハッ!」
吹き飛ばされた勢いのまま城の壁に激突し、そこをさらに突き破って部屋の中で倒れこんでしまった
な、なんて威力だ…
たった二撃貰っただけでもうボロボロだ。身体中が痛い。
防御した腕なんて、もうほとんど感覚がない…
それだけじゃない。あの人はあたしの速度について来られる。
あの大斧のせいで一見パワーキャラに見えたけど、あの人は強いんじゃなくて巧いんだ。
どう動けば効率的に能力を引き上げるかが得意なんだろう。
参ったな…
あたし、一般人よりは強いけど、こんなプロ、それも上位級の人間に勝てるほどの強さはない
なら、どうするべきだ?星彩ちゃんを連れて全力で逃げる?いやダメだ。
あたし一人なら逃げ切れるかもしれないけど、星彩ちゃんを連れてだと自信がない。
きっと何処かで追いつかれる
悠香「ゲホッ…あぁもう…どうしよう…」
武器は壊れた。今のあたしは丸腰だ。唯一、あたしの本来の武器である脚は生きてる。
だから、あたしの脚に賭けるしかない。
一撃だ。一撃さえ入れれば、なんとかなるかもしれない。
だって、あたしの蹴りはガード不能の、問答無用で敵を吹き飛ばす一撃なのだから。
だから、一撃入れて、その隙に星彩ちゃんを連れて離脱する。
それしかない
勝つ事は考えるな。生き残る事を考えろ
いつだったか、にぃにが言っていた言葉だ。
あの時は、男なら勝てよ、なんて思ったりもしたが、今ならその言葉の意味がわかる
勝つ必要はないんだ。特にあたしなんて、生き残ればそれでいいんだ
悠香「よしっ!」
息を整え、脚に氣と魔力を集中させる。
そしてクラウチングスタートの姿勢を取り、カウントを開始した
見せてやろうじゃない!一撃、絶対に入れてやる!
5…4…3…2…1…
悠香「ゴゥ!」
あたしは一気に駆け抜け、先ほど突き破った壁を飛び出し、大ジャンプした。
そして上空に上がると同時に、地上に向けて脚を向け、一気に降下した
悠香「落隕石!」
あたしは楊志がいるところに向けて蹴りを放った。
楊志はそれに気付き、防御体制を取ろうと動いた
もらった!
悠香「!?」
取った!と思った瞬間、公孫勝は何を思ったか、防御するのではなく躱したのだ。
あたしは楊志の真横に着地した
だけど、それも織り込み済み!
楊志「!?これは!」
着地地点からあたしの周りに風圧が発生した。
その風圧は有無を言わさない勢いで辺りにいた兵士達を吹き飛ばし、さらには楊志も浮き上がらせた
悠香「連翔脚!」
あたしは更に力を集中させ、楊志が落ちてくると同時に蹴りを放った
一撃目、楊志の顔面を狙った蹴りは、楊志が直前で体を捻り、上手いこと躱される
二撃目、一撃目を躱された勢いのまま、あたしはサマーソルトを放った。
今度は直撃。
楊志は斧で防御するも、そこを噴出点にして吹き飛ばした
しまった!角度が甘かった!
楊志「こんな力が!?」
楊志は吹き飛ばされるも、それはほとんどあたしの真上なので、このままだと程なくして落ちてくる
まずい!
楊志は既に空中で斧を構えている。
きっと、あたしに接敵した瞬間に振り下ろしてくる。
あれを防ぐなんて、あたしには出来ない!
悠香「やってやろうじゃない!」
あたしは楊志が落ちてくるのを構えて待つ
まず、楊志の攻撃を躱すんだ。
そして、攻撃後の硬直時間の隙に腹に一撃入れる。
この人は強いから、隙は本当に一瞬だろう。
だけど、あたしはやらなきゃいけない。じゃないと、生き残れない!
楊志「ハァッ!」
斧が振り下ろされる。
とてつもなく速く、剣圧も大きい威圧感のある一撃。
もし食らっていたら真っ二つだったに違いない
あたしはそれを紙一重で避ける事が出来た。
そして避けた同時にクルッと回り、ソバットを放った
ガキン!
ヒット!放たれたソバットは楊志の持っていた斧に直撃し、そこを噴出点に吹き飛ばし…
悠香「な!?」
あたしは、そのたった一瞬の事に大きく驚いてしまった。
楊志は、あたしのソバットが当たる直前で、斧を手離していたのだ。
結果、吹き飛ばされたのは斧だけ。
楊志は吹き飛ばされた斧を最小限の動きで躱した、あたしに迫ってきていた
楊志「あなたのあの蹴り、随分も不思議でしたが、それももう終わりです」
楊志の魔の手があたしに迫ってきていた。
氣を纏った手だ。この人の技量なら、あたしを貫くだろう
参ったな、目で追えても、体がついて来ない…
やがて、楊志の手が、あたしの心臓を…
ガキン
楊志「!?」
貫かなかった
あたしはいつの間にか閉じていた目を開け、目の前の光景を確かめた。あたしの目の前には、あたしを守るように立ち、大剣で楊志の手を止めていた、緑色の短髪の女性がいた
悠香「あ……え!?猪々子さん!?」
猪々子「へへ!ヒーロー参上!久しぶりだな、悠香!」
猪々子視点
猪々子「よっと!待たせたな、斬山刀」
あたいらは武器庫に進入し、それぞれ武器を回収していた。
翠の槍や高順の戟はもちろんの事、宋江が使っていたらしい直剣も見つかった
宋江「フッ!ハッ!」
宋江が直剣を軽く振ってみせる。
それを見ただけで、こいつが只者じゃねぇ事がわかった。
強さで言えば、あたいより断然上。多分、恋や華雄と同じくらい
へへっ、まだこんな強い奴が居たんだな
猪々子「あんたになら、護衛を任せられそうだ」
宋江「え?あ、が、頑張りますね!」
宋江は少しはにかみ、頬を染めながら答えた
地下牢は暗くて、イマイチ宋江がどんな奴かわからなかったけど、武器庫の明かりではっきり見えるようになったな
普段の雰囲気で言えば桃香みたいなやつ。だけど、武器を持った姿は華雄に近いな。
身長はあたいより高くて、体型は、閉じ込められていたせいか、少し細いな。
釣り目で、綺麗な長い茶髪を下ろしてる。結構美人だな
高順「馬超殿の槍はこちらで預かります。文醜殿は如何なさいますか?」
高順が二本の槍を束ねて聞いてきた。
あたいは翠をおぶってかなきゃなんねぇから、持ってもらわないといけねぇよな。
でも、あたいの剣、割と結構重いからなぁ…
李儒「あの、もしよろしければ、私が馬超さんをおぶって行きましょうか?」
猪々子「へ?いいのか?」
李儒「えぇ。馬超さんくらいなら、多分大丈夫です!」
何てことを、李儒は力こぶを見せつけて言った。
正直、力こぶは全然見当たらなかったけど
猪々子「なら任すわ。あたいも道中の援護に入るよ」
劉協「任せたぞ。次は星彩の救出であるな」
あたいが前、宋江が後ろ、高順が真ん中という陣形を組み、再び秘密の隠し通路の中へと戻って行った
猪々子「お嬢、星彩の場所わかんのか?」
劉協「どうであろうな。あの王異とかいう奴がくれた鍵束の中に、南側の収容所の鍵が含まれていた。あいつを信じるなら、まずは南側に行こうと思う。もし居なかったら、手当たり次第になってしまうがな」
王異…友紀か…あいつ、いったい何考えてんだろな
猪々子「わかったっす!じゃあ、気をつけて行きましょう!」
とにかく、それは後回しにしよう。
今は人質の救出が先だよな。じゃなきゃ、自由に動き回れねぇ
劉協「ここが南の収容所なのだが…」
猪々子「誰もいませんね」
あ 南の収容所へ浸入したはいいものの、そこはもぬけの殻だった
李儒「うーん…ハズレ、なんでしょうか」
宋江「いや、そうでもないみたいですよ」
李儒の言葉を、宋江が直ぐに否定した。
そして檻の一つに入っていき、地面から何かを取って見せてきた
高順「それは…赤い毛?……!?それは!」
高順が答えに辿り着いたように、あたいらも皆一様に答えに辿り着いた
赤毛は鈴々、もしくはその娘の星彩しかいねぇ。なら、ここに星彩が居た可能性は十分にある!
李儒「でも、だとすると、先に助け出されたのか、あるいは…」
劉協「連れて行かれたか、であるな。とにかく…!?」
突然、収容所の中に突風が吹いた。
お嬢曰く、この南の収容所は、陽の光こそは入ってくるが、実質は地下牢に近い構造らしい。なのに、結構強めの風がここまで入ってくるなんて、あり得るのだろうか?
猪々子「地上の様子を確かめて来ます」
多分、何かある。そして、その何かに関して、あたいは心当たりがある
風、と言えば、あの子だよなぁ
あたいは収容所の階段を上り、入り口付近の扉へと走る。するとそこには…
猪々子「星彩!?」
星彩「え?あ、猪々子お姉ちゃん」
鈴々の娘、星彩が外の様子を伺っていた
劉協「む、星彩がいたのか?」
お嬢が背後から声を掛けてきた。あたいは星彩の手を取り、階段を降りるよう促した
猪々子「でも、星彩はなんでここにいたんだ?」
星彩「悠香お姉ちゃんが来て、何か怖そうな人が来たから、ここに隠れていなさいって言ってたのだ」
やっぱり悠香だったか。てか、怖そうな人?あいつ、戦ってんのか!?
猪々子「チッ!」
あたいは再び走り出し、勢い良く扉を開けた。
陽の光で一瞬目を奪われるが、すぐ様取り戻し、目の前の光景を確かめる。
悠香「連翔脚!」
そこには、ボロボロになりつつも、大斧を持った女とやり合ってる悠香の姿があった。
悠香は蹴りを二発放ち、一発目は外されるが、二発目をしっかり入れて女を打ち上げた
だが、女はその打ち上げられた衝撃を使って、斧を振り下ろしながら落ちてきた
ありゃ、やべぇな
あの女かなり強いぞ。それこそ、悠香じゃ勝てねぇくらいだ。
威圧感、力、それに技量も、何もかもが上だ
あたいはそう判断して直ぐに動いた。
その間にも、あの女は悠香に攻撃を仕掛け、斧を振り下ろす。
悠香はそれを紙一重で躱し、空中に横回転して蹴りを放った。
その蹴りは斧に直撃するも、女は斧を既に手離し、斧だけが吹き飛ばされた。
そして女は、自分の手で悠香を貫こうと、その手を伸ばしていた
ガキン
だけど、その手はあたいが止めてやった
悠香「あ……え!?猪々子さん!?」
猪々子「へへ!ヒーロー参上!久しぶりだな、悠香!」
あたいは大剣を握る手に力を入れて、女の手を押し返した
楊志「あなたは?」
猪々子「お食事処【晋】接客担当、文醜だ。悪いがこの喧嘩、あたいが預かるぜ」
あたいは痛む体を氣で無理矢理動かし、大剣を女に突きつけた
宋江「いや、この喧嘩、私が預かります。久しぶりだね、楊志。少しやつれた?」
すると背後から、宋江がさらに待ったを掛けた
楊志「た、大将!?ご無事でしたか!」
楊志と呼ばれた女は慌てて宋江の前で膝を着いた。その目は涙がいっぱいに溜まっている
宋江「心配させちゃったね。でも、もう大丈夫だよ」
楊志「は、はい!」
宋江は優しく楊志を抱き締め、赤ちゃんをあやす様に背中を撫でていた
悠香「は、はぁ~…死ぬかと思った…」
悠香は悠香で目の前の光景を見て脱力仕切っていた。緊張の糸が切れたみたいだ
猪々子「悪かったな、無理させて」
悠香「えへ、いえいえー!猪々子さんが無事でなによりですよ!」
そう言った悠香の笑顔は、とても疲れ切っていたが、明るいものだった
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