「さっきも言ったけど、これから口にする事は決して伝えちゃ駄目、言いわね」
貂蝉は私達に注意をし、約束事を再度取り決め他言無用と促した。
それを聞いて、この場に居る一同、首を縦に振り了承の意を込める。
「で~は、私とご主人様の関係、それは…そうね。
特別な関係と言えるわね。だって、ご主人様はこの外史に来訪した天の御使いで、
…私は外史の管理者だからん」
「管理者…ですか!?」
「ええ、管理者。言葉通り、この世界を管理する者。
そして、私達は外史により決められた物語通り、歩んでいるかどうか
見定める役割を与えられているわ」
「何だと!?」
管理者と言う言葉に亞莎が反応し、驚きを隠せないのは冥琳。
その感情には私も同調する。だって、今、生きているこの世界の行く末が
決められているだなんて、信じられないし、信じたくない。
でも、貂蝉は嘘を吐いているとは思えない、何より、その雰囲気が微塵も感じられない。
「それなら!!先の戦の勝敗も、これからの行く末、誰が世を治めるのかも、
あまつさえ、北郷が命を賭して救ってくれた、私と雪蓮の死期も全て
決められていると言うのか!!」
「…そうであって、そうじゃないわ。誰が世を治めるか、また、全ての戦の勝敗も
定められている訳ではない。それは、外史がある程度、天の御使いに
自由を与えているから。けど、その与えられた自由の中で決して破ってはいけない
約定が設けられていた。これこそ、外史の意思の下、決められた呉の物語の根源であり、
ご主人様、北郷一刀が命を賭して抗った約定」
「ま、まさか…!!」
「そう。孫呉の外史で触れてはいけない禁忌の約定。それは…」
―――――孫策と周瑜の死―――――
「これこそ、破ってはいけない約定なの」
「そんな…事って…」
「……っつ!!」
「…そして、ご主人様は外史から知らされていない二人の運命を変えてしまった。
その結果、外史の逆鱗に触れ冥府の門を開こうとしている」
「…貂蝉」
「…何かしら。甘寧ちゃん」
「…ちゃん付けは、よせ」
「あらん、可愛くて良いじゃない。甘寧ちゃん♪」
思春は心底、その呼び名で呼ばれるのが嫌そうに、苛立ちを募らせるが、
話が進まない為、仕方なく貂蝉に折れた。けど、表情から納得はしていない様子。
「少し食い違う部分がある。それは北郷がその約定を知っていた節があった。
私と明命に、雪蓮様を御守りする為と、私兵を借りたりして」
「そうです。今思えば一刀様のあの目、悲しみを同居させ、全てを察した様な
あの瞳は、はっきりと知っていたのだと私は思うのです。
ですが、それならば、何故一刀様は事前に私達に協力要請なさらなかったのでしょうか。
御二方を運命から助けると言う大それた事を成すのなら、より確実に成功率を
高める方法を一刀様ならば、選択する筈なのです」
「いえ、待って下さい」
「穏様…?」
「それ以前に、もし、一刀さんが事前に運命を知りえていたのなら、
何も戦が始まる今日と言う日に、兵を借りる事はありません。
それ、相応の準備を事前に致すでしょうから」
「…成る程のう。つまり、今日、何らかの方法で北郷は知った」
「そして、その時期は恐らく一刀様が雪蓮様と遠乗りに出掛けた時ですね」
「確かに、あの時、私が駆けつけた時には北郷の様子は違っていた」
「ですが、疑問に残る点があります。一刀様はどうやって、御二方の運命を
知りえたのでしょうか」
矢継ぎ早に、祭、穏、冥琳、亞莎が答えを導き出していく過程、
一つの大きな疑問が浮上した、それは、どうやって…私達の運命を知ったか。
「そこに辿り着くなんて流石は聡明な子達ね。では、褒美として御見せしましょうかん。
民が望んだ希望の象徴、天の御使い事、北郷一刀が引き起こした、奇跡を」
「奇跡…?」
「ええ、そうよん。孫策ちゃん。貴女と周瑜ちゃんの助ける為、
ご主人様が引き起こした、その奇跡」
そう言うと、貂蝉は慣れた手つきで指を鳴らした。すると、今、私達が居る大広間が
私の足元から様変わりし、神秘的な空間に変貌していった。
私は一歩。また一歩と後ろに退き、靴音を鳴らすが、どうしてか、
徐々に心に安心感が芽生え、どこか居心地の良さを感じる様になった。
例えるなら、丸で母の胎内にいる様な安らかな気分…
「ここは、外史の起源、そして、この空間は今まで歩んできた
ご主人様の外史の記憶と繋がっている」
『……俺は…この先の出来事を…知っている……!?』
不意に聴こえる一刀の声。数刻前に聞いた筈なのに、懐かしさを感じさせ、
悲哀な感情を駆りたたされる。そんな感情の中、突然、神秘的な空間が一新し、
木々が生い茂る森林の風景に変わり、丁度、大広間の中央だった場所に一刀が現れた。
「一刀!!!!」
この場に誰もが愛しき名を叫ぶ。その刹那、澄み切った声が、
またもや、響きわたる。
『北郷一刀』
『声が…!?』
『時間が無い。今、俺の記憶を共鳴させる。
今度こそ、今度こそ雪蓮を救ってくれ。お前にはそれが出来る』
『また、白昼夢!?いや、頭の中に声と何かが入り込んで……そうだ、この後!!』
駄目だ!!もう二度とあんな悲しい事を繰り返すわけにはいかない!
絶対…絶対に君を死なせはしない!!
『―――――危ない!雪蓮!!!!』
…一刀の危険を叫ぶ声を最後に、神秘的な空間に戻ってしまった。
私は後悔の念に囚われる。今日一日で一番の失態、
私も運命を変えられたらと、願い、苦痛で顔が歪む。
「…聞こえたわねん。ご主人様に交信した、あの声を」
「あの澄み切った声、落ち着きと貫禄が滲み出ていて、
どこか、聞き覚えがある」
「蓮華様もですか。実は私も何と言いますか、魂があの声に反応して、
初めて聞いた様には思えないのです」
亞莎も蓮華に同意し、聞いた事がある様な気がすると口にした
「…皆、あの声主を知っている筈よ」
「…あの声が奇跡、なのですか?」
明命の質問。
「そう、あの声こそ北郷一刀が引き起こした奇跡。
そして、声の主は並行世界の外史の北郷一刀なのよん!!!」
「他の外史の…一刀」
思わず口から零れる。並行世界、この言葉を聞いて霧が心に広がる。
いえ、それ以前に…
―――――外史―――――
そう、この言葉、何故だか分からないが、やけに引っ掛かる。
さっきから奇妙な違和感を拭えない。
「並行世界の外史とは、私達が居る、この世界の
似て非なる世界と言う事か?」
冥琳が貂蝉に尋ねる。顔を良く見ると、薄っすらと汗が滲み出ているのが分かる。
私と同じく、この違和感を抱いている?けど、他の子達は、その様子が見られない。
もしかして、私と冥琳だけ感じているのかしら。
「その通りだわ。只、向こうの外史では大きく違う点があるの。
それは、決められた物語通り事が進み、孫策ちゃんが毒矢による凶刃を受けながらも、
凜として将配を奮い。曹操軍を撃退した直後、遺志を託して死んでいく。
そんな外史よ…」
「…この世界では、一刀がその役目を担った」
「ええ。そうねん」
「…物語通りという事は私も…だな」
「周瑜ちゃんは、孫策ちゃんがなくなった影響で休む事を忘れ、昼も夜も働き詰め、
頭を使わなければ平静を保つ術を持ち合わせていなかった。
その所為で、病魔の侵攻を速めてしまい、世を定める大戦の終焉と共に命の輝きが雲散したわ」
「…そうか、自分ながら、そう言った行動を取ってしまうと
納得してしまうな」
「…それで孫呉は二人の英雄の死の下、結束をより深め劉備共々泰平の世を築き上げていった。
けど、その日々の中でご主人様は納得していなかった。貴女達二人を助けられた筈、
子に恵まれながらも、思うは自らの非ばかり。表向きは悟られぬ様、
明るく振舞っていたのだけれど、一人になると空を見上げていたそうよ。
昼は太陽、夜はお月様、それはもう食い入るようにね」
「太陽と月…」
『…俺の、物語はここまでだけど。最期に雪蓮という名の太陽、
冥琳と言う名の月を沈ませずにすんだ。これで、もう俺は…』
「…一刀」
「そして、私は向こうの外史のご主人様と奇跡的に巡り合うのだけれど、
その時のご主人様は、世界の真理に気付き、外史の影を捉え始めていた。
ここからは、先程と同じく映像でお見せするわ」
またもや貂蝉は指を鳴らす。この場に音が波紋の様に広がり木霊する中、辺り一面が再度、
様変わりしていき、月夜の平原の風景に変化していった。
すると、地に浮かび上がった影二つ。
一人は、貂蝉。そしてもう一人は…見るからに重厚そうで、歳は恐らく壮齢、
でも、少年の様に髪を弄る仕草に、若さを感じさせられる。
間違いない面影がある。その変わらない仕草から、彼は、まごう事なき一刀であると。
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こちらは真・恋姫†無双の二次創作でございます
春先には終るかと思っておりましたが、目算が全く合わず、
早くも断念です。どうして春先と書いたのだろうと、
頭を抱える始末、夏までには多分、恐らく終ると思います。
稚拙な文章、展開、口調がおかしい所があるかもしれません。
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