No.76717 真・恋姫†無双~江東の花嫁~(八)minazukiさん 2009-06-01 16:49:25 投稿 / 全9ページ 総閲覧数:30402 閲覧ユーザー数:20788 |
(八)
夜が明ける前。
幾千の兵士が静かに雪蓮達の前に並んでいた。
「夢にまで見た日がきたわ」
袁術の下で我慢し続けたことが報われる。
それは雪蓮だけではなく孫権、冥琳、祭達も同じ思いだった。
これから戦に赴こうとする雪蓮を一刀はただ静かに見守る。
地平線の向こうには袁術軍がいる。
数は雪蓮達よりも多いがこの場にいる者誰一人として恐怖を感じてはいなかった。
「聞け、孫呉の兵達よ。これより我らが宿願のために戦う。永きにわたって袁術の下で苦労をかけた。だがそれも今日で終わる。我らが目指す天下の先駆けとして袁術を倒す」
誰もが静かに雪蓮の言葉を聞く。
「我らには玉璽があり天の御遣いがいる。天は我らに味方している。何者にも恐れるものはない。我が命をそなた達に預ける!」
「「「「「おーーーーーーーーっ!」」」」」
大地に響く孫呉の兵達。
「兵達よ。我らは負け戦を知らぬ。なぜだかわかるか」
その答えは簡単だった。
「我らは一度も負けたことがないからだ。よって此度の戦も勝利で終わるだろう!」
「「「「「おーーーーーーーーっ!」」」」」
士気は否応なく上がり、一刀達も笑みを浮かべる。
大地に陽がが上り始めると雪蓮は南海覇王をゆっくりと抜く。
「我に続け!」
雪蓮は馬を飛ばし先頭を駆ける。
「孫策様に続け!」
「「「「「おーーーーーーーーっ!」」」」」
大地を揺るがす孫軍の進撃。
「北郷殿は蓮華様を頼む」
「わかった」
「明命、思春、お前達も蓮華様を守れ」
「ハッ!(はい!)」
冥琳と祭は雪蓮に続き、一刀達は孫権と共に後方の予備軍として待機。
穏と亞莎は本陣で臨機応変に対応できるように作戦を立てている。
袁術軍と雪蓮達がぶつかるまでそう時間はかからなかった。
瞬く間に混戦状態になったが、勢いが違いすぎた。
雪蓮が先頭に立ち次々と袁術軍の兵を蹴散らしていき、その開いた道を孫軍の兵士達がなだれ込んでいく。
「さすがは雪蓮様だ」
甘寧のその言葉は誰もが思うことだった。
そんな中で孫権だけは違うことを思っていた。
(今日のお姉様はいつもとは違う……なぜ?)
見た目は同じでもそこは姉妹だけだって違和感を覚えていた。
それとなく一刀の方を見る。
まだ戦場に慣れない一刀の姿がそこにあるだけでそちらは特に変わったものは感じられなかった。
(そういえば、あの日からお姉様とあの男がいつも一緒にいるようになった)
軍議のときだけではなく、政務をするときも食事をするときも雪蓮のそばにはいつも一刀の存在があった。
気がつけば盟友である冥琳よりも長い時間を過ごしていた。
(なぜお姉様はあんな男といるの?)
二人の間にあった情事など知る由もない孫権。
(わからない……この男のどこにお姉様が気に入るのか……)
そしてなぜこんなにも一刀を気にしているのか。
困惑する孫権を後ろから見守る甘寧。
周泰はそんな二人とは少し違って一刀に話しかけていた。
「こうして戦いを有利に進めることが出来るのも冥琳達の作戦と周泰ちゃんの情報収集のおかげだね」
「そ、そんなことはありません……」
あくまでも任務だからこれまで通りにこなしてきた周泰。
当たり前のことを褒められる嬉しさに表情が緩む。
「わ、私のことは明命とお呼びください」
「じゃあ俺のことも一刀でいいよ」
「は、はい……か、かずとさま……」
まるで恋する乙女のように顔を真っ赤にする明命。
そんな二人と落ち着かない様子で見つめる孫権は無意識に力を込めていき、馬に激をいれてしまった。
「なっ!」
「蓮華様!」
甘寧の声に気づいた一刀と明命は異常を察した。
戦場に向かって駆けていく孫権の姿が映る。
「明命、甘寧さん。兵を動かさないようにしていてくれ」
「「北郷(一刀さま)!」」
止めるより早く一刀は孫権を追いかけていく。
本来なら親衛隊の二人が追いかけるべきだが、ここで追いかけてしまえば予備兵力として残してある軍までもが動いてしまう。
「と、止まらぬか!」
いくら止めようとも止まらない馬。
「孫権!」
後ろから一刀が大声で彼女を呼ぶ。
「く、来るな!これぐらいなんとでもなる!」
言葉では強気でもそのとおりにならなかった。
不慣れな馬を懸命に飛ばして一刀が孫権の隣まで来たときにはすでに戦場が目の前だった。
「こっちに!」
止まらないのならば乗り移るしかないと考えた一刀だが孫権はそれを拒絶する。
「煩い。私に命令するな」
助けなど要らない。
そう突き放す。
「でもこのままだと」
「煩いというのに。これ以上、くだらぬことを言えば頸を刎ねるぞ!」
あくまでも自分の力でどうにかしようとする孫権だが、やはり何度、馬を諌めようとしてもまったく無駄だった。
「この分からず屋!」
何を思ったのか一刀は手を伸ばして孫権の腕を掴み、馬上での激しい揺れの中で強引に引き寄せた。
「なっ」
しかし激しい揺れの中ではそれがどれだけ無謀というものか、二人は重なるようにして馬から滑り落ち、大地に叩きつけられた。
「くはっ……」
舞い上がる砂塵の中で一刀は孫権を抱きしめ、辛うじて自分を下敷きにすることが出来た。
主を失った馬はそのまま戦場の中に消えていった。
「……くっ」
「いてててっ……」
孫権を抱きしめるようにして大地に背中を叩きつけたために激しい痛みが一刀を襲った。
彼女のほうは一刀が下になったこともあって痛いみはほんの一瞬でそれほどでもないようにみえた。
それよりも一刀に抱きしめられている事に気づいて顔を真っ赤にする孫権。
「き、貴様、無礼にもほどがあるぞ!」
起き上がるとすぐに罵声を浴びせる。
「し、仕方ないだろう……イテッ。ああでもしないと突っ込んでしまうところだったし」
何よりも雪蓮との約束があるがそれを口に出さない一刀。
「私とて孫家の血が流れている。戦場に臆することなどない!」
立ち上がろうとするが左足に痛みが走った。
「くっ」
「そ、孫権?」
「な、なんでもない」
一刀の言葉に声を荒げる孫権は膝をついてしまった。
「け、怪我しているのか?」
「しておらぬ。さ、触るな」
左足を触られ慌てる孫権だが、一刀はそんなことを言っている場合ではないといった感じで黙って様子を見る。
すると落ちたときに擦りむいたようで褐色の肌が紅く染まっていた。
「ちょっと待ってて」
一刀は制服のポケットからハンカチを取り出してその出血しているところに当てて止血をする。
「陣に戻って手当てしよう」
「……だ」
「え?」
「なぜだ……」
「なぜって怪我しているじゃないか」
「そんなことを言っているのではない」
孫権の表情には怒りと困惑が入り混じっており、それを見た一刀は少しばかり驚いていた。
「なぜ私を助ける!」
あれほど嫌悪感を表して拒絶の態度をとったに関わらず、一刀が自分を心配してくれているのか理解できなかった。
「怪我をしている女の子を放ったらかしになんかしたら雪蓮に怒られるからね」
苦笑いを浮かべながら答える一刀。
男としては当然でしょうっといった感じで呆然とする孫権を見る。
「わからぬ……」
「なに?」
「お前という男がわからぬ。お前は……」
そう言いかけた時、周りから袁術の兵士がやってきた。
「ちっ」
剣を抜いて構えようとするが足に力が入らないために、体勢が不十分だった。
「下がれ下郎ども。私は孫伯符が妹、孫仲謀。これ以上くれば容赦なくその頸を刎ねる」
さすがは孫家の娘。
覇気を伴うその言葉に袁術軍の兵士は怯んだ。
だが、周りを見渡しても彼女と見慣れぬ服を着た男だけ。
勝てると思った兵士達は槍を構える。
「北郷、下がっていろ」
「で、でも、怪我「煩い」……」
槍が突き出され、それを剣で弾く。
そして柄に沿って身体を前かがみにしながら槍を突き出した兵士を斬り伏せた。
「や、やっちまえ!」
他の兵士は恐怖に身を委ねながらも孫権に槍を突き出す。
同じようなことを何度も繰り返して兵士を倒していく孫権だが、袁術軍の兵士は次から次へと現れてくる。
そして激しく動き回っていくうちに孫権の足は限界を超え、一撃を受け止め損ねて大地に倒れた。
「孫権!」
一刀はすぐに近寄り、孫権の手から離れた剣を構えながら彼女を自分の後ろに下がらせる。
「ば、ばか……何をしている」
「見て分からないのかよ。守るんだよ」
どう見ても一刀が目の前の敵兵より強いとは思えない。
一人の敵兵士が一刀にめがけて槍を突き出す。
(やられる!)
そう思った孫権だが目の前の出来事は違っていた。
一刀は剣を両手で持ち槍を上に弾き飛ばすとそのまま敵兵のがら空きになった身体を斬った。
「お、お前……」
「一応、少しは鍛えられてたからね」
この時ほど一刀が祖父から剣を教えてもらったことに感謝したことはなかった。
だがいかに剣の修練を得てようがこの三国時代では無意味に近かった。
現に斬った敵兵士も傷が浅かった。
「くそ……」
「北郷……」
突き出される槍を何度も弾く中で受けきれないものも出始め、白い制服の至るところが紅く染まっている。
「もういい。逃げろ北郷!」
「出来ない」
「逃げろと言っているだろう!」
「出来るわけないだろうが、この分からず屋!」
敵兵士に囲まれながら一刀は決して諦めようとしなかった。
そんな彼を見て孫権は言葉を失う。
(なぜだ……)
ボロボロになるまで自分を助けようとする一刀が分からない。
必死になって嫌悪感をぶつけていた自分を助けようとしている。
「……かず……と」
無意識に彼の名前を呼んだ。
「大丈夫。俺がどんなことがあっても守るから」
わずかに孫権を見る一刀。
だがその隙を敵兵士が見逃すはずなく槍を勢いよく彼に向かって突き出した。
「かずと!」
異変に気づいたときにはすでに遅く、槍が一刀の肩を貫いた。
「かずと!?」
引き抜かれ、どっと大地に倒れこむ一刀に孫権は抱き起こす。
「に、にげ……「馬鹿を言うな!」」
痛みで意識が朦朧とする中、一刀の視界に写ったのは涙を流している孫権だった。
「こんなに……傷ついてまで私を守る馬鹿が他にいるか……」
「そん……け……ん」
二人はお互いを見るが周りはそれを許さない。
迫り来る敵兵士。
もはやどうすることも出来ない状況。
(お姉様……。小蓮……)
槍を一斉に突き出してし自分達はここで殺される。
そう思った瞬間、一陣の風がその場に駆け抜けていった。
同時に静けさが訪れる。
それはまるで時間が止まったかのような錯覚。
「……」
目を閉じていた孫権は槍が突き刺さる感覚が未だにこないことを不審に思い、ゆっくりと開けると、そこにはさっきまで殺気が漂っていた敵兵士が一人もいなかった。
その代わり一人の赤髪の少女が何事もなくそこに立っていた。
手に持っている武器に付いている鮮血を振り払う。
(な、何が起こった?)
何が起こっているのか混乱する孫権。
二本の触覚のような髪が揺れながら振り向く。
(だれだ?)
思い出せないでいる孫権の代わりに一刀がその少女が誰なのか答えた。
「れ……ん……」
その声に少女は鋭い視線を緩め二人の前にやってきた。
「……ご主人さま」
「本当に……れん……なのか?」
「コクッ」
少女はまるで悲しみに沈んだような瞳をしている。
「そ、そんけん……、恋は味方だから……」
「そうなのか?」
「コクッ」
恋は立ち上がり敵兵士を見渡す。
「ご主人さまを傷つけた……お前達……死ね」
天下の飛将軍。
その異名が虚名ではないことを敵兵士は命をもって知ることになった。
手に持つ方天画戟が音を立てるたびに敵兵士は倒れていく。
「……邪魔」
濁音交じりの悲鳴が一刀と蓮華にも聞こえてきた。
「あれが呂布奉先の力なのか?」
虎牢関で見た時よりも遥かに強い。
周辺から敵がいなくなるまでに時間はかからなかった。
一刀達のもとに帰ってきた恋。
「助かったよ……イッ」
「ご主人さま」
まるで子犬のように今にでも泣きそうな表情を浮かべる恋に孫権はまた別の意味で驚いた。
(あの呂布にこんな顔をさせるなんて……)
だが一刀の苦痛の中でも恋に向ける笑顔を見ると、不思議と安心していた。
「大丈夫……。かすり傷だから」
そう言いつつも肩は紅く染まり痛々しい限りだった。
「とにかく陣に戻るぞ。呂布手伝ってくれ」
「コクッ」
一刀を二人で抱え上げると、遠くから味方がやって来るのが見えた。
「恋殿~~~~~!」
「蓮華様~~~~~!」
陳宮に甘寧、それに明命まできている。
「何とか助かったな」
「そうだな」
孫権は安心する一刀の横顔を見て胸の鼓動がいつもよりも高まっていた。
その一方で一刀達が無事に救出されてしばらくして、雪蓮達は敵将を討ち取り勝利を確定させた。
(座談)
音々音:恋殿~~~~~!素敵すぎです~~~~~♪
恋 :?
水無月:美味しいところを持っていかれましたね、蓮華~。
蓮華 :わ、私は別に……。
水無月:とりあえずは今回、蓮華と一刀の関係の変化(?)をお届けしました。
蓮華 :し、しかし、少しやりすぎだろう!危うく一刀が殺されるところだったのだぞ!
水無月:まぁそういう絶体絶命のピンチがなければ進展しそうになかったもので。
一刀 :怖い奴だな……。
雪蓮 :ところで私の大暴れは?
水無月:あ~~~~~……。忘れていました!
雪蓮 :後でお仕置き決定ね♪
水無月:ヒィィィィィ!
冥琳 :とりあえず次回は孫呉独立後編ね。
音々音:恋殿~~~~~♪
恋 :もぐもぐもぐもぐもぐもぐ
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いよいよ始まった孫呉の独立。
その戦の間に起こった一刀に対する蓮華の変化を描いています~。