新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第037話「鬼戦姫 関羽雲長」
関羽が恋歌の下に弟子入りしてから一ヶ月の月日が流れた。
彼女は毎回城に帰ってくる度に新しい傷をつけて帰ってき、また傷の上からまた新しい傷が出来ることも珍しく無く、たまたま荊州に滞在していた
そんないつ体を壊してもおかしくない状態であるのだが、普通の医師であれば既に投げ出すであろうが、凱は普通の医者ではない。
名(迷)医なのだ。
自分の進言を聞き入れないまでも、せめて傷の化膿と骨の軋みを抑えるために治療薬と鍼の強壮剤にて身体の被害を最小限に抑えていた。
そんな状況を見かねて関羽の主人である劉備は、恋歌に直訴し、訓練の緩和を訴えようとしたが、それを止めたのは馬超・馬岱であった。
主人である劉備の意向なれば、恋歌も聞き届けることは間違いない。
しかし今ここで関羽の意思を無視すれば、それは関羽の為にもならないっと。
なればっと、劉備は次に取った対策として、関羽自身に自重を促そうとしたが、これを引き止めたのは趙雲と張飛であった。
趙雲は言った。
「今、桃香様の言葉は愛紗には届きますまい。愛紗は桃香様の為に自らを変えようと必死なのです。そんな時に水を差すような真似は無粋ではありませんか」
張飛も言った。
「鈴々は難しいことはよくわからないのだ。でも鈴々はお姉ちゃんより愛紗と一緒にいるけど、独りでボロボロになって弱々しくなっている今の自分を、お姉ちゃんだけには見せたくないと思っているはずなのだ」
聞くところによると、いつも恋歌の訓練後に関羽を連れて帰ってくるのは張飛らしい。
劉備陣営で関羽ともっとも寝食を共にしたのは彼女だ。
その彼女がそういうのだから、それ以上触れるのは趙雲の言うように無粋なことなのだろう。
それからというもの、劉備は関羽のことについて触れなくなっていった。
いや、本当のところは触れたかったのだろう。自分に相談して欲しかったのだろう。自分にも弱みを見せて欲しかったのだろう。
だがそれは出来なかった。
関羽の自尊心の為、彼女の武人としての覚悟のため、劉備は必死に見て見ぬ振りを決め込んだのだが、事件は起きた。
それは荊州長沙郡にて黄巾党の残党が隠れ潜んでいると聞き劉備達は劉表の命を受けてその鎮圧に向かった。
「……関羽様こちらです。あの村が黄巾党の残党が占拠している村です」
自ら森を先行して道案内する大きな麦わら帽子が特徴の女兵士が言う。
彼女の名は周倉。
元は黄巾党出身の盗賊であり、張角達の熱烈な追っかけであったが、黄巾党の解散とともに熱が覚め、大陸をブラブラしている時に関羽と出会い、彼女の武勇に惚れて今では関羽のファンと化した。
「くっふふふ、黄巾党の考えていることなんか、蝉達にかかれば一発だよ」
周倉の隣にいる独特の笑いからの小さき青髪の少女は王甫。
彼女も同じく元黄巾党であり張角達の追っかけ。
関羽の下に来たきっかけはただ単に周倉についてきただけである。
また、『蝉』というのは彼女の真名の様だ。
「
雲雀とは周倉の真名であり、その視線の先の周倉は関羽の自身に向ける視線とはとは全く逆の方を向き、何やら鼻を押さえていた。
「くっふふ、大丈夫なの。お姉さまに変わり私が説明するの」
「い、いやしかし、何か問題が起きてからでは………しかも何だか血が地面に落ちてきているじゃないか」
隠れていなければ間違いなく叫んでしまいかねないのを関羽はグッと堪えて話すが、王甫は慌てた表情もなくハンカチを周倉に手渡しながら関羽に言う。
「くっふふ。まぁまぁ、ちょっと持病が出てしまっただけなのね。ほっとけば直ぐに収まるし、身体的影響もないし、戦いの支障にもならないから多めに見て欲しいですのね」
「そ、そうか……っで、村の様子的にどうなのだ。村人が生き残っている可能性は?」
「くっふ、その可能性は無いのね。元々黄巾党は貧しい農民より集まった集団。張角ちゃん達の歌が純粋に好きな人元黄巾党の人たちは、みんな官軍と戦った経験を活かして何処かの軍に入ったか、故郷に帰って畑を耕しているかなの。今巷を騒がしている黄巾党の残党は、ただ暴れたいだけの奴ら。だからそこいらの盗賊と変わらない。むしろ、官軍と戦った経験がある分、そこいらの盗賊より厄介なのね」
王甫の言葉に関羽は判ったように頷いてみせる。
ちなみに当時の黄巾党の首謀者である張角・張宝・張梁の三人は実は女の子であることを彼女たちの口から知った時、関羽は大変驚いた。
手配書の化物の様な似顔絵ではなく、三人とも大変麗しい女の子だとか。
劉備陣営でこの事実を知っているのは関羽・周倉・王甫の三人のみ。
周倉や王甫も先の大戦で討ち死にした張三姉妹の尊厳の為に、関羽に仕えるにあたって彼女にのみこの事実を知らせ、伝えたかったのだ。
あの時、三姉妹の歌のみが貧しい人たちの励みになっていたことを。
関羽はこの事実は仲間には伝えなかった。
周倉と王甫は元黄巾党員。
懸命に自分に仕える彼女たちに余計な疑いをかけられまいと思い、あえて皆には伝えず、この事実は自身の墓まで持っていく決意をしたのだ。
「くっふ。仮に生き残っている人がいても、それは若い村娘だけで、恐らくは嬲られる為だけに生かされている身なのね」
「……そうか……」
彼女は少し目を閉じ考え込み、結論を出した。
「……雲雀、後から来る桃香様に伝令を頼む。援軍は無用。我らはこれより賊達を蹂躙するとな」
先程までハンカチで鼻を押さえていた周倉は一つ返事をすると、一気に劉備に伝令を伝えるべく走り出した。
「それでは蝉、準備はいいか?」
関羽は偃月刀を握り締めて王甫に尋ね、彼女も「いつでもいいのね」と一言答え、何処から取り出したのか身の丈に合わぬ大斧を肩に担いだ。
「火矢を放てぇ!!」
関羽の掛け声と共に、彼に付き従う兵士は、潜んでいた林から村に向けて火を放つ。
村の家々に火が燃え移り、占拠していた賊達は慌てて家より湧き出てくる。
その総数は50といったところであり、関羽が連れてきた兵士は30程である。
彼女は村に向けて突撃命令を出し、自らも戦闘を突っ切り走り出し、それに続かんとして周りの兵士も突撃をしかける。
相手が少数であることに油断した賊はその突撃を迎え撃つが、所詮は烏合の衆。
常に戦いの中に身を置く兵士たちによって蹂躙されたのであった。
やがて周倉が劉備達を連れて関羽に追いつく。
援軍はいらないとの言葉通り、劉備はゆっくりと村にたどり着いた。
蹂躙という言葉の文字通り、賊達は関羽達によって屠られていたが、どうも様子がおかしい。
関羽の体は返り血に塗れ、付き従った兵士は関羽を恐れて、震えながらも直立不動のまま全く動いておらず、しかも顔じゅうが殴られた後の様に膨れてしまっている。
「あ、愛紗ちゃん。一体どうしたの!?」
慌てて劉備が関羽に駆け寄ると、彼女の足下には賊の死体だけではなく、関羽に付き従った兵士の死体もあったのだ。
「桃香様。賊達は蹂躙致しました。我らの勝利です」
「そ、そう……よかった。ね、ねぇ愛紗ちゃん、なんでうちの兵士さん達も死んでいるの?そんなに賊は手ごわかったの?」
「いえ、桃香様の兵が賊などに見劣りするわけありません。賊を蹂躙した後も、我が方の被害は零でした」
「じゃ、じゃあなんで?」
「決まっています。私が斬り殺しましたから」
関羽の言葉に劉備は耳を疑った。
いや劉備だけではない。
劉備と共に来た張飛達将も、自身の耳を疑ったのだ。
何故こんな事態に陥ったのかというと、今回の賊の主犯者は波景という女であった。
彼女は腕に覚えがあるらしく関羽と一騎打ちを繰り広げたが、美髪公とも名高い関羽の槍を止められる訳もなく、彼女は破れ囚われの身となったのだ。
指揮官を失った賊は、落ち武者狩りにあうように関羽の兵に殺されていき、関羽は波景を縛り上げて劉備が到着するのを待った。
その後に惨劇は起きた。
関羽が王甫と数人の部下を連れて地元の調査に出向き、やがて戻ってくると、縛られていたはずの波景が縄を残していなくなっていたのだ。
関羽は怒りの形相で兵に問いただすと、兵は言いにくそうな表情を浮かべながら近くの林の方角を見たのだ。
彼女は最悪の状況を思い浮かべた。
まさか誇り高き自身の兵士がそんなことをするはずがない。
そう思いながらも慌てて林に向けて走り出したのだが、どうやら最悪な状況は現実として起こっていた。
木々の間から聞こえてくる引きつった嗚咽と笑い声。
草を掻き分け見えてきた先には、部下が捕まえた女盗賊・波景を強姦している姿であった。
例え賊であろうとも人間である。
どんな罪を犯した人間であろうとも、自らの強欲の為にその者を人としての尊厳を踏みにじっていいわけない。
それから関羽は我を忘れて叫びながら自らの部下達を肉塊へと変貌させた。
部下への粛清を終えた後、関羽はせめて波景の首を自らの手で介錯を行った。
今ここで波景に同情し彼女を逃がすわけにもいかない。
かといって、男に嬲られた上にさらに荊州に連れて帰れば、刑法に乗っ取られ彼女に待っているのは確実なる死。
同じ女として、せめてここで息の根を止めるのが彼女の為と思い、波景の首を落とした。
彼女は死の直前、関羽に言った。
「ありがとう」っと。
黄巾党は元貧しい農民の集団。
波景もこの時代の犠牲者なのだと関羽は理解し、関羽は波景の首をそっと布で包み込み村へ戻った。
村に戻った関羽が取った行動は、まず部下に肉塊となった同僚を運ばせ固めさせる。
その後、部下を全員集めて、元同僚の行動を傍観していた者に対して拳で殴り始めた。
村に残っていた者達は泣き叫びなが許しを乞い続け、関羽と共に偵察に行った者達は、関羽の怒りに触れぬよう彼らにできる限り触れぬように直立不動で震えながら立ち続けたのだ。
それが今までの経緯であり、劉備と共に来た兵士たちは震えだし、劉備も血に塗れた関羽の拳を見るだけで「ひっ」っと畏怖の声をあげる。
「……桃香様、次の朝礼では兵士の練度について話し合う必要がありますな」
関羽は波景の首を持ち、劉備に頭を下げると、そのまま馬に乗って帰還していき、周倉と王甫は慌てて彼女を追いかけた。
数日後、関羽は恋歌に呼び出され彼女の部屋を訪ねた。
「師よ、壮健で何よりです」
「小さな世間話はいりませんよ
恋歌の自分に対する声がいつもより穏やかである。
何か余程機嫌がいいことが起こったのかと関羽は思ったのか、次に聞く言葉に関羽はさらに度肝を抜かれる事になる。
「関羽、貴女は卒業です。この数ヶ月の間によく私の訓練についてきてくれました。私が教えることはもうありません」
「………は?」
突然の卒業宣言に関羽は間の抜けな返事しかできず、直ぐに正気に戻ると関羽は改めて恋歌に問いただした。
「……え、いや、あの……ちょ、ちょっと待って下さい。な、何故ですか。私はまだ師の足下にも及んでいません。何故いきない卒業なのですか!?納得いく説明を願います」
彼女は思った。
まだ自らの技量は恋歌の三分の一、いやもっとそれ以下かもしれない。
彼女の技術を盗むために弟子入りしたにも関わらず、それでは意味がないと思った。
「いいですか関羽……武術とは盗み取るものではありません。確かに貴女が私の技術を盗めば上手く使いこなせてくれることでしょう。しかし所詮、それは盗んだ技術。自らの技術ではありません。貴女が
「で、では……私は一体貴女より何を教わったっというのですか!?」
恋歌は小さく首を振り「何も」っと言った。
関羽は訳が判らないと言わんばかりに呆然と恋歌を見つめ、そんな彼女に恋歌は言葉を続けた。
「兵にとって本当に大事なことは、忠を尽くすこと。国家に、組織に、上の者に。貴女は先の黄巾残党討伐において、規律違反をした部下に対して粛清を行ったらしいわね。女性捕虜を辱めた兵士を斬り殺し、黙秘した者には折檻を行ったと。それは当たり前のことだけれども、その当たり前のことを出来るものは少ない。誰だって自分の部下は可愛いし、出来ることであれば手を出したくない。しかしそれをしなければ周りの者から舐められやがてその空気は一隊から一軍へと広がる。貴女はその最も簡単で難しいことをやり遂げたの。誇っていいわ。少なくとも貴女がいる限り、劉備軍はもっと強くなるわね」
「………我が師よ」
その言葉を聞き関羽の胸の中は感動で溢れるが、恋歌は関羽の前に座り顔が付くか付かないかまで近づける。
関羽は思わず彼女の瞳に吸い寄せられるが、恋歌の表情は至って真剣だ。
「いいですか関羽。決して私の様にはならないでください」
「な、何故ですか?私は貴女を目指し貴女の下に来たのです。それなのに何故貴女を目指してはいけないのですか?」
恋歌はおもむろに立ち上がると、関羽に背中を向けた。
「……貴女はまだ若い。武を極めるも良いでしょう。だけど決して非情になり過ぎてはいきません。その先にあるものは――」
「あ、あるものは?」
彼女は一息間を置きつつ、やがて口を開いた。
「修羅の道よ」
その言葉に、関羽は唾を飲み込む。
「かつて身を犠牲にして修羅道に落ちた人物がいたわ。だがその人物の先に待っていたのは、破滅しか無かった……この私もその道に足を踏み入れかけたことがあったのだけれども、重昌のおかげで今でもなんとか踏み留まれてれているの。貴女はそんな橋を渡ってはダメ」
恋歌の言葉を関羽はしかと自身の胸に刻み付けると、恋歌は自分の机に置いてある紙に、筆で一筆したため始め、その紙を関羽に渡した。
「おにせんひめ?」
「それは
Tweet |
|
|
5
|
0
|
追加するフォルダを選択
一刀「なぁ、うp主よ」
私「どうしました一刀さん」
一刀「今回の話、短くない?」
私「仕方ないんですよ。キリがいい感じで終わったらこうなってしまったんですから」
一刀「それもそうなんだが、劉備陣営の関羽の話、やたら長くないか?」
続きを表示