No.76682

華雄の真名 中編

komanariさん

前の話の続きです。

今回は僕の苦手な戦闘シーンがあります。

書いている度に、自信を無くしますね、戦闘シーンは・・・・

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2009-06-01 09:26:25 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7479   閲覧ユーザー数:6003

「いや。真名は普通あるだろう。」

 

華雄はそう言って不思議そうに俺の顔を見ていた。

 

「い、いや。でも今、あったって言ったよね?」

 

俺はそう聞いた。

 

「うん?あぁ、確かに私にも真名はあったが、自分の真名がどうしても気に入らなくてな。自分の真名は捨てたのだ。」

 

そう淡々としゃべる華雄を見ながら、俺は少し考えていた。

 

俺がこちらの世界に来て初めて知った真名というものは、その人の本質を表し、その人が許した人しか呼ぶことが叶わない神聖な名前だ。

 

その真名を「気に入らなかった」という理由だけで捨ててしまうようなことがあるのだろうか。

 

俺はそんな疑問を感じながらも、真名というデリケートな問題について、それ以上聞くことができなかった。

 

「そ、そう。」

 

俺はそう言ってその話を終わらせた。

 

「「・・・・・・」」

 

再び沈黙があたりを包んだ。

 

「・・・・そう言えば、天の御遣いであるお前が、なぜこんな所に一人でいるのだ?」

 

そう華雄が聞いてきた。

 

「あぁ、それは―――。」

 

俺はことの次第を説明した。

 

民たちのことを知るために旅をしているというと、華雄は少し驚いた顔をして、

 

「お前は変わったやつだな。」

 

と言った。

 

「まぁ、よく言われるよ。華雄も修行の旅?はまだ続けるの?」

 

俺がそう聞くと華雄は大きくうなずいた。

 

「あぁ。まだ私の求める武の頂きまでは達していないからな。」

 

そう言う華雄の瞳の中には、どこか危うい光が輝いているように思えた。

 

「・・・・そう。」

 

俺はその危うげな光が何なのか分からず、その時は何も言えずにいた。

 

「・・・・そう言えば、華雄はこれからどこに行くの??」

 

俺は話題を変えてそう聞いた。

 

「うん?あぁ、そこの道をもう少し行った所にある町まで行こうと思っている。金剛爆斧の整備をしなければならないからな。」

 

そう言って、華雄は自分の得物を触った。

 

「そうか。俺も同じ町に行くから、しばらく一緒に行かないか?」

 

さっき感じた危うさが少し気になって、俺はそう言っていた。

 

「まぁ、いいだろう。方向が同じなら断る理由もない。」

 

「はは。ありがと。」

 

そう言いあって、その日は二人でその場所に野宿をした。

 

 

 

ブゥゥンッ!!

 

次の日の朝、俺は何かが風を切る音で目を覚ました。

 

「・・・・うぅん?」

 

連れがいるという安心からか、昨日はいつより深く眠ってしまったようで、俺は寝ぼけた目をこすりながら、音のする方を見た。

 

ビュゥンッ!

 

やっとはっきり見えるようになってきた俺の瞳に映ったのは、朝日を受けて銀色に煌めく戦斧を手に、まるで円舞のように美しく舞う華雄の姿だった。

 

ヒュンッ!!

 

まだ少し弱い太陽の光を受けて、戦斧とそれを振るう度に揺れる華雄の銀髪が輝き、近くの小川に反射する日の光の煌めきと重なって、その円舞をさらに幻想的なものにしていた。

 

「はぁぁあああぁぁ!!!」

 

ドスンッ!!!!

 

華雄が気合いとともに戦斧を振り下ろすと、小川の脇にあった人ひとりが座れるぐらいの岩が真っ二つになった。

 

「・・・ふぅ。」

 

そう息をついた華雄の円舞は確かに美しく、そして力強く、華雄が好敵手と言っていた鈴々のそれと見比べても決して遜色ないものだった。

 

だけど、どうしてか俺には、華雄の円舞が儚いもののように思えた。

 

「うん?やっと起きたか。」

 

そう考えていると、俺が起きたことに気がついた華雄が話しかけてきた。

 

「ちょうど朝の鍛錬も終わったところだ、そろそろ町に向かうぞ。」

 

華雄はそう言って自分の荷物を持って歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと待て!俺もすぐに準備するから!!」

 

スタスタと歩いて行ってしまった華雄に、俺は慌てて支度をして、その後を追った。

 

 

「おぉ。地方の町にしては結構栄えてるなぁ。」

 

俺たちが着いた町は、それまで俺が回ってきた町よりも規模が大きく、成都には程遠いがそれなりに栄えた町だった。

 

「さてと、俺は町の人とかに話を聞きに行くけど華雄はどうする?鍛冶屋に行くんだっけ?」

 

俺がそう聞くと華雄はうなずいた。

 

「あぁ、そうだ。」

 

「・・・そっか。それじゃあ、・・・・・またな。気が向いたら成都の城まで来てみてくれ。きっと月たちも喜ぶ。」

 

俺がそう言うと、華雄は

 

「・・・わかった。」

 

と言って人ごみの中に消えて行った。

 

その背中に、なぜか不安を感じながらも、俺も町の中を歩きはじめた。

 

 

 

 

~華雄視点~

 

天の御遣いと別れた私は、町の民に場所を聞いた、この町一番の鍛冶屋を訪ねた。

 

「私の武器の整備を頼みたいのだが。」

 

私がそう言って金剛爆斧を渡すと、鍛冶屋の店主は整備に1日ほどかかると言った。

 

出来ればもう少し早く仕上げてもらいたかったが、町一番の鍛冶屋がそう言うのだから仕方ないと思い、私は愛斧を預けた。

 

鍛冶屋からは整備ができるまでの代用品として、その鍛冶屋がつくった戦斧を借りた。

 

(さて、飯でも食いに行くか。)

 

私はそう思い、近くの料理屋に入った。

 

「いらっしゃいませぇ!!」

 

威勢のいい店主の声が中から響いてくる。

 

店は繁盛しているようで、店内には多くの客が入っており、空いている席は入口近くの席ぐらいだった。

 

「ラーメンと炒飯を頼む。」

 

「はい喜んでぇ!!!」

 

私が注文すると、また店主の威勢のいい声が返ってきた。

 

昨日はあいつに夕飯を世話になったが、あの保存食だけではあまり腹は膨れなかった。

 

(それにしても、あの北郷という男は不思議なやつだったな。)

 

私は昨日のことを思い出していた。

 

普通、自分に刃を向けた相手に自分から食料を差し出すやつなどいない、しかもその者の前でスヤスヤと寝息を立てて寝ることなど、普通に考えてあり得ない。

 

しかし、あの男は私に食料を差し出し、そして熟睡していた。

 

(あのように変わった男だから、董卓様は真名をお許しになったのかもしれんな・・・・。)

 

「ラーメンと炒飯お待ちぃ!!!」

 

そう考えていると、店主が料理を運んできた。

 

ずずずずっ

 

私は先ほどまで考えていたことを中断して、運ばれて来たラーメンをすすった。

 

「・・・・うん?」

 

私がそうして食事をとっていると、店の向かい側で、ふと北郷の姿を見つけた。

 

(たしか、民のことを知るために旅をしているとか言っていたな。)

 

私はそのまま、食事をとりながら北郷の様子を眺めていた。

 

(なんだ。あいつも食事をとっているのか。)

 

向かいの店にいる北郷は、点心を少し頼み、横に居る老人と何か話している様子だった。

 

その顔は、やさしげであり、どこか真剣であり、その表情がある人に似ていたため、私はふと昔の記憶を呼び覚ました。

 

(父上・・・・)

 

私の真名をつけた張本人。

 

代々武官になることが決まっていながらも、あんな真名を私につけた人。

 

最後に話をしたのは、私が真名を捨てると言って父上と大喧嘩をした時だっただろうか。

 

それからは一度も話していないし、董卓様にお仕えしてからは一度も会いに行っていない。

 

むしろ、まだ生きているのかさえ分からない。

 

(「―き、お前はその武で何をしたいのだ!?」)

 

喧嘩をした時に言われた言葉が私の頭の中に蘇ってきた。

 

「・・・・・・」

 

ふと気付いた時には、チャーハンがすっかり冷めてしまっていた。

 

(・・・・ラーメンだけでも早めに食べておいてよかったな。)

 

私はそんなことを思い、冷めきった炒飯を口に運んだ。

 

 

代金を払いその店を出た後、私は町から少し離れた森に向かった。

 

(鍛錬をするため・・・・)

 

と心に言い聞かせながら私は歩いた。

 

(武の頂きを目指すために・・・)

 

そう心に言い聞かす度に、先ほど思い出してしまった父上の言葉が、心の中を木霊した。

 

(「その武で何をしたいのだ!?」)

 

森についた私は、開けた場所を探して、そこで戦斧を振るった。

 

ビュゥゥンッ!!

 

心の中を木霊する父上の言葉をかき消すために、私はただ一心不乱に戦斧を振るった。

 

ブゥゥンッ!!

 

私はひたすらに振りつづけた。

 

 

 

 

ガスンッ!

 

「はぁー、はぁー、はぁー・・・・・・」

 

滝のように流れる汗と、我武者羅に戦斧を振るい続けたことによってもう上げることもつらくなった腕に、私はその場に膝をついた。

 

どれくらいそれを続けていたのかはわからないが、もうあたりは夕日の赤に染まっていた。

 

地面に突き刺した借り物の戦斧が、その光を鈍く反射していた。

 

「はぁー、はぁー・・・・・何をしているのだ、私は・・・・。」

 

自分の行動がばからしく思えて、そう言ってふと笑ったときだった。

 

・・・カサッ

 

わずかに人が動く気配がした。

 

「!?」

 

私が慌てて周りの気配を探ると、私の周りに数人の人の気配を感じた。

 

(気配を隠そうとしている・・・・。暗殺者か、あるいは間諜か・・・・、どちらにせよ囲まれてしまったな)

 

この私が、集中しないと気配を感じ取れないような相手が数人。

 

いつもの私なら問題ないだろうが、今の疲れきった状況の私では、勝てるかどうか危うい気がした。

 

(・・・・だんだんと近づいて来ているな。さて、どうするか・・・)

 

私は立ち上がり、地面に突き刺してあった戦斧を手に取った。

 

(4人・・・いや、5人か・・・。)

 

戦斧を下段に構えて、私はあたりの気配を探った。

 

(どちらにせよ、短時間で決めなければ、こちらが危ないな。)

 

戦斧を持っただけで、腕の筋肉が少し震えていた。

 

カサッ

 

(止まった・・・・、後はいつ来るか・・・・か。)

 

私は目を閉じて息を細め、自分の周りに居る5つの気配に集中した。

 

(・・・・・・・)

 

静寂が森を包んでいるかの様だった。

 

・・・・・カサ

 

(来る!!!)

 

ガシュンッ!!

 

私が後方に飛びのいたのと同時に、私のいた場所に剣が3本突き刺さった。その剣を持っていたのは見慣れない鎧を着けた男たちだった。

 

(くっ!五胡か!!)

 

後ろに飛びのいて着地したのと同時に、今度は横へ跳んだ。

 

ガシュンッ!!

 

すると、私が着地した場所に2本の剣が突き刺さった。

 

(これで、5人!)

 

地面に足が付くのと同時に、私は三角形を描くように、はじめに私がいた場所へと跳んだ。

 

「はぁぁぁあぁあ!!」

 

ザシュンッ!!

 

跳躍の勢いとともに真横へと振るった斬撃で、その場にいた3人のうち2人を切り伏せた。

 

もう一人は少し後方に飛びのいていたが、私は真横へと振るった戦斧の勢いに合わせてクルっと体をひねり、無手を使う者が繰り出す裏拳を斜め上から振り下ろす要領で、相手に背中を向けた状態から戦斧を振り下ろした。

 

ザシュンッ!!

 

その斬撃で、飛びのいていた男は倒れた。

 

(あと2人!)

 

最初の3人を切り伏せてから、私は後から出てきた2人の方を見た。

 

その2人は、互いに顔を見合わせると、同時にこちらに切りかかって来た。

 

その2つの剣撃は両方とも払い斬りだったが同じ高さではなく、上下に分かれていた。

 

(避けられんな・・・。ならばっ!!)

 

ガキィィンッ!!!

 

私は戦斧を上段に構えて、その剣撃が私の前に来た瞬間に振り下ろし、上にあった剣をへし折ってそこを起点として、頭が地面に向くように飛び上り、並んでこちらに向かって来ていた2人の顔面に蹴りを食らわせた。

 

スタッ・・・

 

ドサンッ!!

 

私が着地すると、先ほどの2人がこちらに向かって来た時の勢いをなくして地面に崩れ落ちた。

 

振り返って確認したが、どちらも動く気配がなく、死んでいるようだった。

 

「っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

 

私は細めていた息を元に戻し、戦斧を杖のようにして立った。

 

ふと戦斧の刃の部分を見ると、先ほどの剣への一撃のせいか、すこし刃こぼれしていた。

 

(・・・・これは、鍛冶屋の店主に謝らなくてはならんな・・・)

 

そんなことを思っていた時だった。

 

ガサッ!!!

 

私の真横の茂みから、五胡の男が剣を振り上げて出てきた。

 

「くっっ!!!」

 

完全に力を抜いていた状態から、その剣撃を防ぐために戦斧を構えるには時間が足らず、私は死を覚悟した。

 

ザシュンッ!

 

「・・・ぐはっ!!」

 

バタンッ・・・・

 

 

 

 

~一刀視点~

 

華雄と別れた後、俺は町の人たちに話を聞いて回っていた。

 

昼は点心を食べながら、その店にいたおじいちゃんから話を聞いたりして、一応それなりにこの町の人たちの声を聞いた。

 

「もうちょっと居てもいいけど、まだまだ回らなきゃいけないところがいっぱいあるし、次に向かおうかな。」

 

そう思って、俺はその町を出た。

 

日は傾きはじめていた。

 

町を出て少し行ったところに森があった。暗くなる前に森を抜けて出来る限り進もうと思っていると、森の奥の方から誰かの叫び声が聞こえてきた。

 

「はぁぁぁあぁあ!!」

 

その声のすぐ後に、何かを切り裂いた音が聞こえてきた。

 

ザシュンッ!!

 

そうかと思うと、すぐにもう一度音がした。

 

ザシュンッ!!

 

俺はさっきの声と、この音が何だか知っていた。

 

戦場でいやというほど聞いた声と音。

 

武人が気合いとともに放つ声と、肉を切り裂いた時の音。

 

「華雄・・・・。」

 

俺はいやな予感がして、声のした方へと走った。

 

その場所は案外近かったらしく、少し奥の方へ入ると、すぐに華雄の姿が見えた。

 

その華雄の前には二人の五胡の兵士がいた。

 

おそらく、華雄を蜀の武将と勘違いして襲っているのだろう。

 

その兵士たちが華雄に向って駆け出し、剣を上下に分けて振っていた。

 

だがその剣撃が華雄に届くことはなかった。

 

華雄は上の剣に向かって戦斧を振り下ろすと、振り下ろした勢いのまま飛び上り、そのまま五胡の兵士たちの顔面を蹴った。

 

(スピニングバードキックかよ!)

 

もう見ることがないだろうと思っていた格闘ゲームの名作の技を、まさか実際に見られるとは思ってもいなかった。

 

(まったく、この世界の武将たちは・・・)

 

そんなことを考えながら、走る速度を緩めようと思ったとき、俺と華雄の間にある茂みが動いた。

 

(あれは!!)

 

俺は速度を落とさず、逆に速度を上げた。

 

 

 

 

~華雄視点~

 

私は死を覚悟していた。

 

(あぁ、これも私の真名故か・・・・。)

 

その者の本質を表すと言われている神聖な名前。

 

今目の前にある白刃が私の首を刈り取ったのなら、まさにそれは、私の真名の通りになる。

 

(やはり私は、あの真名が好きではありません・・・父上・・・・・。)

 

そう思ったときだった。

 

ザシュンッ!

 

「・・・ぐはっ!!」

 

肉を切り裂く音がしたかと思うと、目の前の男が倒れた。

 

バタンッ・・・

 

その男が倒れた後ろに、血に染まった剣を握りしめた北郷が立っていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。大丈夫か・・・・華雄・・・・。」

 

息を仕切らせながら北郷はそう言った。

 

「・・・まったく、・・・声がしたから・・・、心配して・・・、来てみたら・・・、」

 

北郷は肩で息をしながらしゃべった。

 

「でもまぁ・・・、何とか・・・、間にあって・・・・、よかったぁ・・・・。ふぅ~・・・・。」

 

そうやって大きく息を吐き出すと、北郷は自分の剣を地面に突き刺し、自分が切った男を見つめて、すごく複雑そうな顔をした。

 

「・・・・・」

 

そして、その場にしゃがみこむと、その男に向かって手を合わせた。

 

「・・・・お前は何をやっているのだ?」

 

私は北郷に声をかけた。

 

すると北郷は立ち上がって、私の方に手を差し出した。

 

「理由はどうあれ俺が殺したんだ。偽善かもしれないけど、この人が成仏してくれるように祈ってたんだよ。」

 

北郷を先ほどと同じような複雑な顔をしながら、「つかまれ」というかのように手を差し出していた。

 

「・・・・」

 

私が無言のままその手に掴まると、北郷は私の手をひっぱり、私の腕を自分の首にかけて、肩を貸すような体勢になった。

 

「お、おい。」

 

私が思わずそう声をかけると、北郷は少し怒ったような声で言った。

 

「・・・疲れてるんだろ?とりあえず、町まで戻るぞ。」

 

その声になぜか逆らえず、私たちはその体勢のまま町まで歩いた。

 

 

町につくと、北郷はその町の兵士に五胡の兵たちのことを話し、そのあと適当に宿を探して、そこに入った。

 

「・・・悪いけど、お金ないから1部屋しか借りないから。」

 

そう言って宿で部屋を借りると、北郷は私に寝台を使えと言って、自分は椅子に座り、その上から布団をかぶり、目を閉じた。

 

私は、そんな北郷に声をかけることができず、その日はそのまま寝台で寝た。

 

その日の夜、私は幼い頃の夢を見たのだが、いったいどんな内容だったかは、夜中に目覚めた時には忘れてしまっていた。

 

 

朝になっても、北郷は椅子に座って目を閉じたままだった。

 

(まだ、寝ているのだろうか。)

 

そんなことを考えながら北郷を眺めていると、部屋の中に差し込んで来た朝日に目を覚ましたのか、北郷がゆっくり瞼を上げた。

 

「・・・・・おはよう。」

 

少し小さい声で、北郷がそう言った。

 

「あ、あぁ。」

 

私がそう答えると、北郷は布団をどかしてゆっくり立ち上がった。

 

「・・・俺は朝飯を食べてからこの町を出るけど、華雄はどうするんだ?」

 

そう静かに言った北郷に、私は金剛爆斧を取りに行ってから、北郷について行くと答えた。

 

昨日の恩のこともあるが、北郷の雰囲気が昨日と違うことが気になって、私はついて行こうと思った。

 

「また五胡が出て来た時に俺一人だとやられそうだから、そうしてもらえると助かるよ。」

 

と北郷はどこか悲しげに笑った。

 

 

そうして私は、北郷とともに村や町を回ることになった。

 

北郷の雰囲気は少しずつ出会ったときのものに戻って行ったが、それでも時々、自分の手を見つめて悲しそうな顔をしていた。

 

そんなある日の夜、いつものように野宿をしていると、北郷が話しかけてきた。

 

「なぁ華雄。君は武を極めて、それでどうしたいんだ?」

 

「!!・・・・」

 

北郷の質問に驚いた私は、少し間をおいてから口を開いた。

 

「・・・・昔、私の父上も同じことを私に聞いた。」

 

少しの間だが北郷とともに旅をしてきて中で、この男になら私の真名の話をしてもいいように思えていた。

 

「その時は、私が自分の真名を捨てると言って、父上と大喧嘩をした時だった。」

 

北郷は私が話しているのを静かに聞いていた。

 

「前に、私が真名を捨てたのは、自分の真名が気に入らなかったからだと話したな?」

 

「・・・うん。」

 

北郷は静かにうなずいた。

 

「私が自分の真名を気に入らなくなった理由はな。その真名が、武人に相応しくない真名だったからだ。」

 

私はそこで話を切り、一度ゆっくりと呼吸をした。

 

「・・・・・私の真名はな、・・・・・・・・椿(つばき)、というのだ。雪の溶けきらない春の初めに花をつけ、まるで首を落とすように、自らの花を落とす花の名前だ。」

 

北郷は私を見つめていた。

 

「将来武官となることが決まっていた私は、首を落とすことを予期させるような自分の真名が大嫌いだった。・・・・いや。大嫌いになったのだ。幼いころは大きくてきれいな花を咲かす椿の花が好きだった。」

 

私はそうして、北郷に昔の話を始めた。

 

 

 

あとがき

 

 

どうもkomanariです。

 

本当は前・後編にしようと思っていたのですが、中編です。

 

前書きにも書きましたが、今回は苦手な苦手な戦闘描写が入って来たので、少し難しかったです。

 

さて、問題の華雄の真名はいかがだったでしょうか?

 

僕としては、真名がない理由=真名を捨てたから→華雄が自分の真名を気に入らなかった→「武」ってものにこだわりを持ってる華雄が嫌いそうな名前→首を落とすことを連想される「椿」

 

って感じで考えました。

 

まぁ、真名に関してのお話は後編で詳しく書きますが、こんな考えで僕はつけました。

 

 

前作に多くの閲覧・支援・コメントをくださった皆様。本当にありがとうございました。

 

そして、今回の話も読んでくださいまして、ありがとうございました!

 

後編を投稿できるのは少し遅くなるかもしれませんが、後編も頑張って書きたいと思います。


 
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