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真・恋姫†無双~比翼の契り~ 二章第十四話

九条さん

二章 群雄割拠編

 第十四話「爆音」

2015-03-18 07:15:36 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2003   閲覧ユーザー数:1696

 しばらくして曹操軍の姿が見えてきた。

 先頭に立っているのは四人。旗から大体の見当は付いていたが、曹操の側近である夏侯姉妹、それに霞の姿もある。もう一人は見たことのない少女だが、おそらくこの少女が許緒だろうか。

 向こうも待ち伏せている俺達に気付いたのか、真っ直ぐにこちらへと向かってきた。

 

「貴様は!」

 

 夏侯惇は俺の姿を見て驚いていた。対照的に冷静なままな夏侯淵を見てある程度予測はしていたことが伺える。曹操が初めに俺を死んだことにしたが、夏侯惇は相変わらず主人の言葉を愚直なまでに信じているのか。

 

「久しぶりだな夏侯惇、夏侯淵。曹操は息災か?」

 

「貴様……いつから口調を変えた」

 

「もはやお前達に従う必要もない。何より今は敵同士だろう?」

 

 洛陽にいた時、官位を見れば曹操のほうが俺よりも上だった。当然、口調も丁寧なものを意識して使わなければいけない。だが朝廷亡き今、朝廷が定めた官位などほとんど意味はなくなり、ましてや敵である者を敬う必要もない。

 

「やっぱり隼なんやな」

 

「霞か……」

 

 霞の表情は嬉しさ半分、苦々しさ半分といったところだった。

 汜水関から行方不明だった霞。最後は曹操軍と戦っていた。馬騰の助けを得て撤退した俺達を曹操が追撃しなかったのは、やはり彼女が何か取引したからなのだろうか。

 

「霞、あの時は助かった」

 

「……お礼なんて言われる筋合いは無い。ウチこそ春蘭、惇ちゃんに負けてもうた。今さらやけど、すまん」

 

 礼を言ったら謝られた。霞らしいと言えばらしい、か。

 

「けどな、ウチはもう曹操軍の張遼や。元仲間やからって手加減はせえへんよ」

 

「もちろんだ。でもな――」

 

「貴殿の相手は私だ」

 

 俺の言葉を引き継いで星が一歩前に出た。

 

「……名ぁ名乗りぃ」

 

「司馬朗軍所属、趙子龍だ」

 

「張文遠や!」

 

「噂の神速。相手にとって不足はないな」

 

「抜かせ! ウチの神速、付いてこれるもんなら付いてきぃ!」

 

 星の挑発を受けた霞は一騎討ちを受けた。夏侯淵がそれを窘めるが霞は聞く耳を持たない。なんだかんだいって彼女も生粋の武人だ、こうなることは予想していた。

 

「星……頼んだぞ」

 

 振り向いた星が俺の目を真っ直ぐに見つめて頷いた。

 星と霞は俺達を巻き込まないよう場所を移動し、戦闘を開始した。

 

「さて、残りはどうする? 三人掛かりで来るか? それとも全軍で掛かるか?」

 

 夏侯惇がいる限り露骨な挑発でも効果はある。夏侯淵が止めたとしても夏侯惇が暴走してしまえば制止など微々たるものになるからな。

 

「何を!」

 

 予想通り。夏侯惇は俺の挑発に憤慨した。やはりお前達には茉莉しか見えていないんだな。

 主に夏侯惇が揉めていたが、三人の中から許緒らしき少女が前に出てきた。

 どうやら一騎討ちにすることにしたらしい。まぁそれ以外に手段はなかっただろうけどな。

 

「ボクが相手だよ!」

 

「いつでも来い」

 

 身長に吊り合わない大きな鉄球を構えた許緒に対して、俺は手に持った剣を鞘に納めた。抜身で受け止めきれるわけもなし、それなら鞘を使ったほうがいいと思ったからだ。

 

「でぇえええええい!」

 

 どこにそんな力があるのか、許緒は鉄球を振りかざすと投げつけてきた。余裕をもって避けると、鉄球には鎖が付いているらしく引っ張れば手元に戻るらしい。地面に大穴を開けた鉄球は既に許緒の手元に戻っていた。

 

「……当たったらひとたまりもないな」

 

「これでぇえええええ!」

 

 速度はそれほどでもない。今度は敢えてギリギリで避け、鉄球に繋がれている鎖を鞘に納めたままの剣で思いっきり叩きつける。

 

「え、うわわ?」

 

 鉄球は地面に埋まり、手元の鎖を離さなかった許緒は鎖に引っ張られる形で俺の方に引き寄せられてきた。俺と交差する寸前、許緒の腹目掛けて蹴りを放つ。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に鎖で腹をガードしたか。衝撃までは殺せなかったようだが、育つと恐ろしい才能を開花させそうだな。

 

「季衣!」

 

 蹴られた方向に飛んでいった許緒は夏侯惇がキャッチした。だが鎖を手放した許緒に戦闘の継続は不可能だろう。悔しそうに俺を睨む許緒を後ろに庇い、夏侯惇が前に出てきた。本番はここからだ。

 

「次は私が相手になろう!」

 

「夏侯淵の援護はいらないのか?」

 

「お前など、私一人で十分だ!」

 

 そうだ、それでいい。

 抜刀して鞘は腰に戻す。もう少し保てばいい。

 

「参る!」

 

 手に持った大剣を眼前に突き出す夏侯惇特有の構えから上段の振り下ろし。

 彼女の剛撃は何度も見ている。愚直に鍔迫り合いなどすれば数合でこちらの剣が耐え切れなくなるだろう。受けるは下策なら逸らすしか無い。

 振り下ろしに対して大剣の腹に剣を添える。

 

「ぐ……」

 

「その程度では止められん!」

 

 攻撃を逸らしただけだというのに衝撃で腕を下げそうになった。思わず冷や汗が滲む。軽く見ていたわけじゃない。それでも夏侯惇の一撃一撃は強大過ぎた。

 避けようとも切り返しが速い。体勢を崩せば逸らすことさえできないだろう。

 まずいまずいまずい! 黄巾以前の彼女からは格段に強くなっている……。

 辛うじて攻撃を逸らしきり後方へと距離を取る。追撃は、なかった。

 

 一瞬で荒くなった息を整える。

 たった一合で戦力差を実感してしまった。だからこそ、星を霞とぶつけて良かったとも思った。

 傷つくのは俺だけでいい。

 

 その後も二合三合と夏侯惇とぶつかり合う。剣は今にも折れそうに悲鳴を上げ、刃先の数カ所は欠けていた。地面を転び、命からがら斬撃を避けたりもした。生傷は増えていく一方だったが致命傷だけは受けずに済んでいた。

 まさに満身創痍。茉莉が見たら卒倒しそうだな。

 

「無様だな」

 

 夏侯惇の言葉に返す言葉もない。

 だが、プライドを捨てれば助かる命があるのならいくらでも捨ててやる。

 おかげでどうにか間に合ったようだしな。

 

 耳に届いたのは一筋の空を切り裂く音。

 それは遥か後方で、少女の号令によって放たれた矢の音。

 見なくても分かる。

 パチパチと先端から音を発した矢は橋よりいくらか離れた場所にある縄に命中する。否、それは縄ではなく導火線。辿った先はおそらく橋のたもと。漂う風は穏やかで縄に着火した火をかき消すほどではない。つまり、結末を遮る要素は何も無い。

 

「何を笑っている」

 

 何度も仕留めきるチャンスを逃した夏侯惇が、警戒心を露わに問いかけてきた。

 どうやら俺は笑っていたらしい。

 

「時間だよ、夏侯惇」

 

「何?」

 

 夏侯惇の疑問に応えるかのように、俺達の反対側の橋のたもとで大きな爆発音が鳴り響いた。

 

「なんだ!?」

 

 大きな衝撃だ。爆風により細かな石などが体にぶつかる。橋を支えていた地面は抉れ、長坂橋は一瞬でガラガラと音を立てて崩れていった。

 皆はその光景をただ呆然と見ていた。俺を除いて。

 

 

「……星!」

 

 それは一瞬のことだった。

 皆が爆発音に気を取られ、周囲への警戒が甘くなっていた瞬間。

 

「っ!? ……くっ!」

 

 普段とは違う俺の慌てた声に振り向いたおかげで、星の背後から心臓に真っ直ぐ向かっていたソレは、右腕に深々と突き刺さっていた。

 誰も反応できない絶妙なタイミングだった。 

 星に駆け寄った俺に夏侯惇は追撃をしなかった。夏侯淵は経過を見守り、霞は既に犯人探しに乗り出していた。

 

「誰や! 邪魔した奴は出てこんかい!!」

 

 犯人は気になるが曹操軍の者ではないことは確かなようだ。なにせ矢の飛んできた方角には森しかないのだから。

 それよりも星だ。

 矢は深々と刺さっていて、既に彼女の右腕は真っ赤に染まっている。だが、下手に抜けば出血が止まらなくなりそうでもあった。

 矢傷よりも上の部分を布で縛って止血をし、矢は刺さったままにした。本当に簡易な応急処置だ。この場より詳しい知識のある茉莉か華煉がいないことが悔やまれる。それ以上に知識が無い自分に腹が立つ。

 

「……あまりご自分を責めないで下され」

 

「星……」

 

 激痛に呻いていた星が痛みを堪えながら俺を見ていた。痛々しい傷を物ともせず、確固たる意志を以って話しかけていた。

 

「……これは私の不覚故。(あるじ)が心配することではありますまい」

 

「あ、主?」

 

 いつの間にか呼び名が主になっていた。場違いにも突っ込んでしまった。

 冗談を言う程度には余裕があるのか、ただの見栄っ張りか。本音を隠すのが上手い星から察することができない。

 

「ふふっ。……劉備殿らを参考にしてみたのですが、不服でしたかな。……であれば、隼様とで」

 

「主でお願いします」

 

 様呼びは勘弁してくれ……。

 

「では主で。……なに、死ぬことはありませぬ。……そういう、命令でしたでしょう」

 

 最後の言葉に茶化した様子はなかった。

 それっきり、星は意識を失った。おそらく痛みのショックからだと思う。

 止血が効いていたのか流れる血は少なくなっているが、危険な状態であることには変わりない。

 それに、敵はまだそこにいる。

 

「夏侯惇。見逃してはくれないだろうか?」

 

「……ならん。貴様の処遇は華琳様が決定なさることだ」

 

「そうか……そりゃそうだよな」

 

 そう答えるのは分かっていた。

 俺は矢を受けた時に手放していた龍牙を星の左手に持たせ立ち上がった。

 

「……少しだけ待ってろ」

 

 気を失った彼女は答えない。だが、覚悟は決まった。

 再び夏侯惇へと向き直る。律儀に待っていたことに感謝はするが、それだけだ。

 

「貴様、その目は……」

 

 目? 目がどうした。多少見やすくなった気がするが、そんなことはどうでもいい。

 

「さぁ、再戦といこうか」

 

 

【あとがき】

 

 またまた遅くなりました

 九条です

 

 えー、ようやく花火の伏線を回収できました

 ですがもう少しだけ続きます

 

 原作をやっていれば分かると思いますが、長坂橋(ちょうはんきょう)と読みます

 史実だと張飛が橋に陣取り、迫る曹操軍を諸葛亮の策とともに抑えたとか

 趙雲の単騎駆が有名みたいです(あんまり詳しくないです、はい

 

 約一年前に考えた没ネタもありますが、それは話が一段落したら載せようかと思ってます

 もちろん、その時まで覚えていたらですが……

 

 次回は戦闘の続きか残された者達の話を書く予定

 ではまた(#゚Д゚)ノ[再見!]


 
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