まえがき コメントありがとうございます。皆様、お久し振りでございませう。肩と腰が痛いで候。あいや~~~、ぶっちゃけます。ここまで人外が出てくる恋姫は他にないのではないのでしょうか(笑) あれですね。設定作成中が一番頭にノリがのっていたので、作りこみすぎた(詰め込みすぎとも言う)のが原因ですかねぇ。第九節終盤に差し掛かってくると、東京魔○學園を思い出します。懐かしいなぁ。黄龍覚醒時のたつまちん、もうちっと活躍の場を見せて欲しかったです。ま、思い出話?はこのあたりにして・・・今回はようやく赤壁編です。長かった・・・。ものすごく久々に桃香たちの描写を書きます。月とにゃんにゃんする描写をげふんげふん。それではごゆっくりしていってください。
「・・・婆ちゃん、一体何者?」
「? あなたのお婆ちゃんよ?」
「うん。 それは分かってるよ。 そういうことじゃなくてさ・・・。」
昼寝から覚めたら杏お姉ちゃんがいた。随分と昔に会って以来顔を見てなかったから、感動の念すら覚えたくらいだ。前に婆ちゃんが退治した竜・・・ヴリトラが杏お姉ちゃんで、しかも俺の・・・真域?にいたっていうからさらに驚いたわけで。けどまぁ、それはおいておこう。その前に聞かないといけないことがある。
「そうねぇ・・・なんと言えばいいかしら。 半分人間で、半分神様のようなもの?」
「???」
「一刀は彩鈴ちゃんから心門と神戸の説明を受けていたわよね。」
「うん。 ・・・なんで知ってるのさ?」
「ん? 一刀の真域から見ていたもの。」
「・・・色々とこんがらがってきた。」
「一から説明してあげるから大丈夫よ。」
「お腰掛けください、項羽様。」
「ありがとう。 枝乃は相変わらず気配り屋さんね。」
「ふふっ、恐縮です。 項羽様も昔と遜色なくお美しゅうございます。」
枝乃さんが持ってきた椅子に腰掛ける婆ちゃん。 今のやり取りを見るに旧知の仲みたいだけど・・・。
「さて、どこから話そうかしら・・・。」
婆ちゃんは過去を振り返るように思い出を語りだした。
・・・
・・・・・・
「今考えると、ご主人様がいない戦って初めてだね。」
「そうですね。 黄巾党討伐前の戦が初戦でしたか・・・。」
「あの頃はまだ私たち三人と、白蓮ちゃんと星ちゃんだけだったもんね。」
「あの戦も、結局は北郷が清羅を説得したからすぐに収束したようなものだったしな。」
「ご主人様に刃を向けようとしていたと思うと、身が竦みます。」
「今の姐さんからは考えられねぇなぁ。」
「いつお嫁さんに貰われてもいいように常日頃から準備してるもの。」
「はいはい。 ご馳走様。」
赤壁での戦前とは思えないくらいにいつもどうり。違うところはご主人様がいないとこだけ。だけど・・・ご主人様がいないだけで心持ちが全然違うんだってことを今、肌に感じてる。
「冥琳、魏軍の情報はまだ入らないの?」
「海上を走行し始めたという情報、特に目立ったものは入ってきておりません。」
「そう・・・こういうとき、姉さんや母さんはどうしていたかしら。」
孫権さんのとこは少しぴりぴりしてるみたい。雪蓮さんたちがいないことで士気や雰囲気が変わるのはこっちと同じなんだなって思う。けど、安心感って言うのかな・・・
「寂しい・・・。」
「桃香様? 何か仰られましたか?」
「んっ!? うぅん! 何でもないよ!!」
そうだよね。ご主人様が与えてくれてたような安心感を私が皆に与えないと・・・
「にゃはは!! 桃香お姉ちゃんは隠し事が下手なのだ。」
「鈴々ちゃん・・・。」
「鈴々の言うとおりよ。 桃香は余計なこと考えずに、やりたい事をボクたちに言ってくれればいいの。 変に考えたって桃香の頭じゃ知恵熱が出て倒れるのが関の山だわ。 ・・・まぁ、間違ったこと言い出したら突っぱねてあげるから。」
「詠ちゃん・・・。」
「桃香様よ、主がこの場におらぬことで多少なり気落ちしているのは、何も桃香様だけではありませぬ。」
「星ちゃん・・・もしかして聞こえてた?」
「はて、何のことやら。」
皆いつもどおりに振舞ってるけど、私気付いてるよ。普段より少しだけ元気がないって・・・やっぱり、いつも皆の中心にいたのがご主人様だったから。 私だってそう、皆がいて、その中心にご主人様がいたから・・・姿が見えてるだけで安心するもん。
「ったくよぉ、ご主人様に向かって私に任せて!って言ってたのは誰だっけなぁ。」
「とか言いつつも桃香様ぁ、翠お姉様もご主人様が出発してからずーっとそわそわしてたんだ~♪」
「た、蒲公英//!!」
「自分の事棚に上げようったって無駄だよ~。」
蒲公英ちゃんの一声で周りの空気が和んだ。周りの子達もくすくす笑ってる。その光景を見ている私も自然と笑みが零れてた。・・・そっか、これで良かったんだ。いつもどおりの私たちで良かったんだね。
「よーし! そわそわしてた翠ちゃんのことは置いとくして!!」
「あーっ! 桃香様ひでぇ!!」
「くすくすっ。 つい、ごめんね。」
こほんとひとつ咳払いすると、皆の視線が・・・蜀だけでなく呉の人たちの視線までもが私に集まった。ちょっと緊張しちゃうけど、愛紗ちゃんたちが頼りない私の背中を押してくれたなら、頑張らないと皆に失礼だよね。
「えっと・・・私たちはこれから曹操さんたちと一戦を交えることになります。 今回は呉の孫堅さんたちも、ご主人様もいません。 皆もいつもより不安があるかと思います。 正直、私もさっきまで不安でいっぱいでした。」
「桃香様?」
愛紗ちゃんが嗜めるように私に視線を送ってきた。うん、分かってるよ。こういう時に兵の士気を下げるようなことは言っちゃいけないって。けど・・・だからこそ、私が今感じてることを素直に言わないと、誰も信じてくれないと思うから。
「けど・・・だけど! 私たちにはこんなにもたくさんの仲間がいる! 隣で励ましてくれて、支えてくれる皆がいる!! こんな何もできない・・・皆を見守ることしかできない私じゃ頼りないかもしれない。 それでもどうか、今回だけでも! 私に勇気をください! 蜀の皆! 私はご主人様の代わりにはなれないけど・・・皆の心の支えになれるようになるから!! そして呉の皆さん! 戦場に赴く皆さんに、私たち蜀と共に戦ってくださいと言える勇気をください!! そして皆さん・・・どうか、誰一人欠けずに笑顔でまたご主人様たちに会えるよう・・・命を大事にしてください!! これが・・・今の私から言える嘘偽りない言葉です。」
言い終えた。私の心からの言葉。これで、良かったんだよね?ご主人様・・・。それは兵の皆の雄叫びが答えを出してくれていた。
「劉備様は頼りなくなんかねぇぞーーー!!」
「俺らの主は御使い様だけじゃねぇ!! 俺はあんたらの徳に惹かれてついてきたんだ!!」
「劉備様たちをまた御使い様に会わせる為なら命だって掛けれんだ!! 命令の一つでも言ってくれや!!」
「劉備様!! 我ら呉兵!! 蜀兵と共に戦いますぞ!! どうかご命令を!!」
「っ・・・!! 皆・・・ありがとう。」
「あ~あ~、桃香泣いてもうたやんかー。 お前らーーー!! うちの普段はぽわんぽわんな大将がここまで気張ってみせたんや!! お前らが気張らんでどないすんねん!! うちらのこれからはお前らの活躍に掛かっとるんやで!! もしぃ、万が一にでも醜態晒して死んでみぃ!! 一刀や桃香が許してもうちが許さへん!! 地獄でも化けて出たるさかい、肝に銘じとけぇ!!」
「おおおおおーーーーー!!!!!」
「よーーし!! 次に桃香の泣き顔見るんはうちらが勝鬨上げるときや!! そんときに目ぇ一杯泣かしたるでぇ!!」
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
霞ちゃんの言葉が嬉しくて・・・皆の雄叫びが頼もしくて・・・涙が止まらないよ。
「あぁもう、かわえぇ顔が台無しやな。 ほら、桃香に涙は似合わへんよ。 桃香は笑ってくれてればえぇねん。 そっちの方がうちらも安心して戦えるさかい、な?」
「もう・・・霞ちゃん、私に泣かしたるー言ってたのに、次は笑ってって言うんだもん。 困っちゃうよ。」
「にゃはは。 堪忍な。 けど、ほんまは桃香にずーっと笑っとってほしいねん。 そう考えとるんはうちだけやのうて、皆同じや。 一刀や桃香がうちらを優しく見守ってくれとる。 それが嬉しゅうて・・・心地えぇんや。 心がほっこりするっちゅうか、安心するんよ。」
「霞ちゃん・・・。」
「霞の言うとおりだぜ、桃香様!!」
「翠ちゃんも・・・。」
「あたしらが行き場を失ったとき、救ってくれたのは紛れもなくご主人様と桃香様の仁徳だ。 あたしらと同じ境遇なのは蜀にごまんといんだよ。 だからよ、桃香様を頼りねぇなんて思ってるやつは蜀にはいないって。 もしそんなやつがいたら、あたしが直々にぶっ飛ばしてやる!」
「ぶっ飛ばすなんて、お姉様はいつまで経っても脳筋なんだからぁ。 けどまぁ、桃香様もお姉様みたいにもっと単純に考えていいんだよ。 いつもみたいに、一緒に頑張ろーって一言!! はい終わり。 ね?簡単でしょ♪」
「普段は生意気なちんくしゃと意見が合うとは・・・珍しいこともあるものだ。 それに、私は桃香様が桃香様だからこそお仕えしているのです。 決して、お館様の代わりではありませんよ。」
皆がうんうんと頷いてくれてる・・・そっか。 難しく考えなくても良かったんだ。ご主人様も言ってくれてたっけ、私は私のままでいいよって。皆が私を信じてくれるなら・・・私はもう泣かない!! 私は涙を拭って笑ってみせた。
「それでこそ桃香様ですわ。」
「お前ら! この大戦こそ我等が腕の見せどころ!! 見事、喧嘩の大輪の華、見事咲かせてみせようぞ!!」
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
皆がついてくれてる・・・こんなに頼もしいことはないね。
・・・
「蜀側は何というか・・・一刀がいなくても変わらないのね。」
「あれこそが蜀の二本柱の強みでしょう。 主が二人、そのどちらにも強い信頼があるからこそ、あの形が成り立っている。 それとまぁ、一刀に良いところを見せて褒めてもらいたいという部分もあるでしょうがね。」
一刀たちが初めて建業に来た頃を思い出すな。そう言えば、私の部屋にいた雛里もよく桃香のことを口にしていたな。そう考えると、前々から信頼関係が築かれていたのだろう。
「蜀の強さは一刀と劉備を中心をした主従の絆にして、不変たる信頼関係。 さっき冥琳も言ったけど、一刀が戦場を離れても劉備がいる。 そして離れていても一刀が蜀の皆のことを考えているからこその行動で・・・それを蜀の将や兵が一刀の考えに気付いているから戦場でも平常と変わらない士気でいられる。 けど呉は・・・いえ、時期呉王である私は・・・変わらないといけない。」
・・・蓮華様の雰囲気が変わった。ようやく決意を固められたか。
「孫呉の勇者たちよ!! 劉蜀の戦友たちよ!!」
蓮華様が一歩前へと出た。凛とした声は戦場でもよく通る。
「これから我等が対峙するは大国曹魏! 兵数差で言えば我ら連合軍の倍は想定しておいていいと言えるほどの差だ。 しかし、我らにはこんなにも多くの仲間がいる。 互いの連携を組むことに関しては、これまでの拠点制圧を見るに問題はないと考えている。 しかし・・・」
ん?蓮華様のお言葉に兵たちが動揺している・・・いや、蓮華様自身、次の言葉を探っていると考えたほうが良いだろうか。
「蓮・・・」
「思春ちゃん。 しぃーーー。」
声を声を掛けようとした思春を穏が片手で制した。思春は窘めようとしていたのだろうが、今回は穏が正解だな。微笑んでいるところを見るに、穏も理解し待っているのだろう。蓮華様がご決断され、覚悟を決められる瞬間を。
「・・・なるほど、水蓮様たちと一刀の考えがようやく読めた。」
「ん~? 冥琳様、何かおっしゃられましたか~?」
「・・・いや、私の独り言だ。 気にするな。」
似た境遇の桃香を表舞台に立たせることで桃香自身の心配を払拭し、その決意を目の当たりにすることで蓮華様の王としての覚悟・・・一国を背負う重圧を肌で感じ取らせる。そして、それを乗り越えてこそ真の王としての自覚が芽生える・・・か。
「まったく・・・雪蓮や水蓮様はともかく、心配症の一刀からしてみれば気が気ではないだろうな。」
実際、一刀は建業を離れる最後の最後まで桃香たちの心配をしていたからな。当人たちには伝えていないだろうが・・・私や美紅様、ましてや美々たちにまで相談しに行っては頭を悩ませていた。あの光景を思い出すと、思わず苦笑いが溢れてしまうな。・・・まぁ、それに関しては戦後の話の種にでもするとしよう。今は、蓮華様のご決断待ちだ。
・・・
私はどうしたいのだろう。そう考えると、次の言葉が詰まってしまった。王としての責務・・・そう言い続けてきた私は、何か残せてきたのだろうか。
「私は・・・」
母様や姉様のようになりたいとは思わない・・・いいえ、なれるとは思っていない。ううん、そういう類のものではないわね。この気持ちは・・・
「・・・そっか。」
一刀が言ってたのはこの気持ちなのね。
「私は、皆に・・・母様や姉様たちに認めてもらいたい。」
気付けば意識するより前に、話を始めていた。自分でも案外あっさり納得出来たことに少し驚いてる。けど・・・さっきよりは幾分か、心が軽くなった。
「呉王としてではなく、一人の孫権仲謀として。 まだまだ未熟で、現呉王の母様に遠く及ばないのも重々承知しているつもり。 だから・・・」
姉様からお借りした南海覇王を手に取った。これが私の決断の形、証となるのなら・・・今までの自分に決別を付ける!!
「これで・・・今までの私とはおさらばね。」
腰まで伸ばしていた髪を切り落とした。これは私なりの意思表明であり、覚悟。後戻りは・・・出来ない。
「これからの私が呉王と成り得る器かどうか、皆の目で見定めてくれ。 時間が掛かるかもしれないけれど・・・皆が認めてくれるまで努力するわ。」
こほんと一つ咳払いを挟む。ほんの少しまで不安で一杯だったのに・・・不思議なものね。兵の皆の歓声、雄叫びを聞いただけで不安が何処か飛んでいってしまったわ。劉備が涙したのも頷ける・・・私も少しうるっと来てしまったもの。
「劉備、終わったわ・・・え!?」
うちの子達は唖然としている者や頷いている者がいるけど・・・後ろで待機していた劉備はと言うと、号泣していた。
「ど、どうして泣いているの!?」
「だ、だってー!! 孫権さんの話聞いてたら、共感できるとこが結構あったから・・・自分に置き換えて考えちゃって、思わず涙が・・・ぐすっ。」
本当に素直というか、自分に正直というか・・・
「桃香ったら・・・さっきから泣きっぱなしじゃない。 そんなんだと兵に示しが付かないわよ?」
「うぅ~・・・。」
「あらあら、桃香様。 そんな乱暴に涙を拭いてはいけませんよ。 目が痛んでしまいます。 こちらをお使いになってくださいな。」
「ぐしぐし・・・。 紫苑さん、ありがと~。」
「いえいえ、どういたしまして。」
家臣に窘められて慰められる王というのも珍しいわね・・・。そんな事を考えていると、涙を拭き終えた劉備がこちらに視線を送ってきた。
「それにしても、孫権さん。」
「何かしら?」
「あんなに綺麗な髪だったのに、切っちゃって良かったんですか?」
「確かに少しはもったいないと思わなくはないわ。 けど・・・変わると言ったからには目に見えて分かるところ、見た目からかなって。」
「・・・私も髪切ろうかなぁ。」
「あなたは今のままの方が良いと思うわ。 あなたは私と違って既に一国の王。 そのあなたの魅力に惹かれて将や兵、それこそ民がこの人ならばと一緒についてくれているのだから。 もっと自信を持っていいと思うわよ。」
「けど、それを言うなら孫権さんだって水蓮さんの娘で・・・」
「さっきも言ったけど、私は母様たちに認めてもらいたい。 信じてもらえていないとは思っていないけど、自分なりの覚悟を皆に見てもらいたかったから。 私に指標をくれた一刀にも・・・ね。」
「むっ・・・。」
「? どうしたのかしら、そんな難しい顔をして・・・。」
劉備だけでなく、蜀将の数名も険しい表情を浮かべている。私、何か迂闊なことを言ってしまったかしら・・・。
「ご主人様・・・」
「これはまた強敵が現れましたな。」
「流石は私のご主人様ね♪」
「や、姐さん・・・何故この状況で素を出す必要が?」
「蒼! そんなことも分からないの!?」
「・・・ちっとも分からん。」
「ご主人様に惚れたことすなわち! ご主人様の魅力の理解者が増えたということよ!」
「・・・で、それがどうして素を出す要因に?」
「そういうことよ!!」
「・・・。 どっかからか見ているかもしれん兄貴よぉ、せめて俺にも理解できるよう姐さんの言葉を訳してくれ。 俺には難問すぎる。」
「・・・一刀はやはりモテるのね。 私も頑張ろう。」
もうすぐ開戦直前とは言えど、一刀の話を出されてはいつも通りになってしまう蜀将たちであった。
・・・
蜀呉陣営の遥か後方にて、静かに佇む者が一人。
「ん。 いい風。 東南の風は、桃香たちを勝利に導いてくれる。 ・・・朱里、祈祷頑張った。」
我、桃香たちを見守る。一刀にこっそり言われた。一刀の代わりに皆を見守ってって。 ・・・漆には内緒。燼には伝えてある。
「・・・鈴さんにも、内緒。 我と一刀、二人だけ、秘密。」
指切りして・・・約束したから。今は、一刀が我の主。
「一刀の大切なもの、我が守る。」
そして、一刀が戻ってきたら・・・肩車してもらって、頭撫でてもらうのだ。我の密かな秘密。
そう考える零の視線は戦場ではなく、その先・・・海の遥か底。
「一刀たちの邪魔・・・させない。」
その瞳に何を映るもの・・・それは彼女のみぞ知る事。
・・・
「ほう、私に内緒だったとな。」
「・・・迂闊だった。」
「おぉ、零ちゃんだ~! 懐かしいなぁ。」
だってさ、行き先を教えてもらえない状態で建業を離れたんだよ?いつ戻れるか算段も付けれなかったし・・・
「それよりさ、この湖ってどういう仕組みなの? 漠然と下界の様子が見れる。という事は分かったけど。」
「この湖はちと特殊でのぉ。 下界の空気が纏っておる気と同質なのじゃよ。」
「・・・つまり?」
「己の意識次第で下界の好きな場所を覗けるという訳じゃ。 もっとも、自然に満ち溢れておる気を操れるだけの技量が必要になるがの。」
「ここにいる時点で気の扱いが出来ぬ者などおらぬがな。」
・・・婆ちゃんは規格外として、ここに俺がいること自体おかしな話なんだよな。
「私の孫なんだから、おかしな話ってわけでもないわよ?」
「・・・何で婆ちゃんにまで筒抜けなのさ?」
「あら、私も一刀の真域に入ってたのよ。 忘れたの?」
「・・・俺のプライバシーってないも同然なんだね。」
「一刀のものは私のもの。 私のものは一刀のものよ。」
なんたるジャイアニズム・・・。
じゃいあ・・・?
ううん、何でもないよ。こっちの話。
「まぁ、あながち間違ってはいないわね。」
「そうなの? 杏姉ちゃんが言うからには本当のことなんだろうけど。」
「単純な話よ。 一刀が私たち家族から継いでるものの中で、私の”もの”をもっとも多く継いでるの。 というよりも一刀の半分以上は私の質なのね。」
「ふむふむ。」
「で、一刀の真域に入れる私は一刀の考えてることがいつでもどこでも把握できる。 だから一刀のものは私のものよ。」
「考え方が強引な気もするけど・・・」
婆ちゃんだしなぁ・・・今更な気もするし、言っても聞く耳を流されるのが目に見えてるから。
「あら、失礼なことを考えてるわね。」
「・・・。」
ここにいる人で、俺の心の声が届かないのって・・・
え~と~・・・盤古さんと枝乃さんと枢さんだけですね。
そこまで深く考える必要はないのではないか?
一刀は難しい年頃なんだ。察してやれ。
なんだ、随分と一刀のことを理解しているような物言いではないか。
一刀のお姉ちゃんなのだから当然だ。
「も~~!! 皆お兄さんの真域で声通さなくてもいいじゃない! めんどくさーい!」
「そうよ。 話がこれっぽっちも伝わってこないもの。 内輪話は別でやって頂戴。」
ようやく収まった・・・。一斉に皆喋りだしたから頭の中が凄いことになってたよ。白琥ちゃん、ありがとうね。
このくらいなら朝飯前だよ~。えへん。
「お礼に撫でてあげよう。」
白琥ちゃんの顎の先っぽを軽く撫でてあげてみた。飼い猫気分だね。
「うぅぅ~~~擽ったいよぉ。 けど、気持ち良いねぇ。 はにゃぁぁ。」
うっとりしてるなぁ。こうしてると白虎だってこと、忘れそうだな。
「ほらそこ、あんまりイチャイチャしない。 まったく、もうすぐ開戦だと言うのに、この緊張感のなさは何なのかしら?」
「すみません。」
うぅ、枢さんのジト目が痛い。
「と、とにかく、戦況は蜀呉側が優位だからこのままいけば・・・」
優位に傾くと確信しかけたその時、隣にいた鈴たちが不意に顔をしかめた。
「・・・邪魔者が紛れているな。」
「今の気の発現は一体・・・。」
俺も正確にではないが、空気の気の乱れには気付けた。戦況は・・・突如もたらされた北西の強風によって、魏軍側へと傾き始めていた。
・・・
・・・・・・
「秋蘭! この好機を逃すな!!」
「はっ! 弓隊、構えーー!!」
秋蘭の号令と共に無数の矢が怒涛の嵐と化して蜀呉陣営を襲い始めた。
「むむぅ、これは変ですねぇ。」
「どうしたのですか、風。」
「稟ちゃんは気付かないのですか~。 この風のことですよ~。」
「風?」
「はい~。 本来、ここまでの強風であれば何かしらの兆候があるのが自然の摂理・・・ですが、前触れなく風向きが真逆になるのは不自然なのですよ~。」
「・・・確かに。 ですが、何はどうあれ、私たちの千載一遇の好機です。 攻め時を見誤ってはいけませんよ。」
「分かっていますよ~。」
・・・
「はわわ!! 皆さん、一時撤退です! 岩陰に隠れて矢が当たらないようにしてください!」
朱里ちゃんの号令で風が落ち着くまでは岩陰へ隠れることになった。
「とりあえずはこれで一時しのぎになりますが、状況はよくないですね。」
「そうだな。 このままこの状況が続けば、魏軍の上陸を許してしまうのも時間の問題だろう。」
まだ強い風が吹き荒れてる。こういう時、ご主人様ならどう言うかな・・・。
「ご主人様がいたら自分で何とかしちゃうだろうなぁ。」
「桃香様? どうかされました?」
「うぅん。 こういうとき、ご主人様がいたら私たちじゃ思いつかないような事をして解決しちゃいそうだなぁって。」
「・・・そうですね。 ご主人様は意地でもどうにかするでしょう。」
苦笑いを浮かべる愛紗ちゃん。・・・そっか、窮地に立たされたとき、いつもご主人様が私たちを導いてくれてたんだ。
「ですが、ご主人様はここにいません。 ご決断を下すのは桃香様ですよ。」
「・・・そうだね。」
どうにか・・・風を止められればいいんだよね?
「伝令さん、いますか?」
「はっ!」
「後軍の後ろの方に零ちゃんがいるから、呼んできてもらえる?」
「承知!」
伝令さんは失礼しますと頭を下げると、隊の後方へと向かった。
「桃香様? 零は建業に残っていたはずですが・・・。」
「あれ? 愛紗ちゃん気付かなかったの? 後軍さんたちの後ろからこっそりついて来てたよ?」
「・・・全く気付きませんでした。」
私が気付いてるから皆気付いてるものと思ってたけど、そうでもないんだ。
「桃香、気付いてた・・・びっくり。」
「零ちゃん、いきなり呼んじゃってごめんね。」
「気付かれてると思わなかったから・・・別に、いい。」
いつの間にか隣に来てた零ちゃんも自然と会話に入ってた。驚いてる零ちゃんって珍しいなぁ。
「それで、要件は?」
「この風なんだけど、なんとか風向きをもとに戻せない?」
「鈴に手助け、駄目って言われた。」
「そっか・・・。」
「けど。」
「ん?」
「けど、今回だけ。 私、一刀の代わり。 だから・・・手助けしても、問題ない。 帰ったら、一刀に褒めてもらう。」
「じゃあ!!」
「(こくっ) 私に、任せて。 朱里、幣貸して。」
「は、はい!」
零ちゃんは幣を受け取ると、目を閉じて幣を振り始めた。
「むんむん。 えい。」
最後の一回を振り終えると、北西の風は止んで、東南の風がまた吹き始めちゃった!
「零ちゃんすごーい!!」
「私、出来る子。」
「うんうん!!」
「っしゃあ!! これで敵さんの矢もこっちに届かへんで!! 弓兵隊! さっさと戦況持ち直すでーー!!」
「おおおおおおおおお!!」
兵隊さんたちが雄叫びを上げる中、零ちゃんは一人、どこか遠い目をしていた。
「・・・邪魔させない。」
「零ちゃん、どうかした?」
「何でもない。 こっちの話。 桃香たち、戦に集中。」
「そ、そうだね!」
・・・
・・・・・・
再度戦況が移り変わったとき、物珍しいものを見つけ驚いたような表情を浮かべている者が一人、赤壁より二里ほど離れた海の上に佇んでいた。
「ほう・・・私の術すらも覆してしまいましたか。 此度の戦に竜は力添えしないと踏んでいましたが、誤算でした。 まさか独自に動いているものがいるとは・・・。」
誤算だという割には随分と落ち着いている。
「それにしても、今回の北郷一刀は特殊ですねぇ・・・。 何百、何千といた彼の中でも、あまりにも”力”を持ちすぎているように見受けられます。 しかしまぁ、面倒な芽は早めに摘んでおかなくてはいけません。 私としてはあまり気乗りしないのですが・・・。」
彼の手中には一本の矢。傍から見れば何の変哲も無い矢である。
「左慈も負けず嫌いと言いますか、同じ手段とは芸のない・・・。 まぁ、彼の気を私の術で包み作った矢・・・うふふ、楽しみですねぇ。 もし万が一これが失敗したら、我らに残された手段はあれのみ。 失敗したら左慈に何と言われることやら。」
やれやれと肩を竦めながら、彼は手中の矢をそっと投げ飛ばした。まるで紙飛行機を飛ばすかのように。
「将を射んとせば先ず馬から・・・ではないですが、外史を渡る者がいるのなら、外史の起点を潰せば良い・・・荒っぽい考えですねぇ。 まぁ、嫌いではありませんが・・・ね。」
彼はそう言うと・・・ふっと姿を消した。彼の放った一本の矢は、空へと上り・・・闇夜に紛れ、満天の星空へ向かって飛んでいった。
・・・
・・・・・・
「ふむ・・・そろそろ頃合だな。 後は徐々に弓兵たちの動きを緩め、相手が撤退しやすい状況を作るのみだろう。 祭様の火計のお陰で相手の船も半数程度には減った。 明命、蓮華様たちにそろそろ頃合だと伝えてきてくれ。」
「御意です!」
「私たちも紫苑さんたちに勢いを緩めるよう伝えましょう。 伝令さん、おねがいして良いですか?」
「御意!」
「朱里ちゃん、中軍の桃香様にも状況を説明しておいたほうがいいかな?」
「さっき周泰さんが中軍に向かってたから大丈夫だよ。 孫権様と同じところにいるって報告来てたから。」
「じゃあ、とりあえず山は乗り越えたって感じね。」
おかしい。あの変な奴、風だけ・・・今回だけ、手を抜いた?
「零ちゃん、何か考え事ですか?」
「・・・朱里、ちょっと黙る。 大事なこと。」
「しゅ、しゅみましぇん。」
戦、終わる。杞憂・・・?
「明里ちゃん、東南の空で何か光ったよ。 流星かな?」
「そんな訳ないでしょ。 星が光って見えただけじゃない?」
「・・・違う。 気の塊、飛んできてる。」
線状の小さな気。飛んでくる・・・不自然。けど、ここの誰か・・・狙われてる。
「零ちゃん、突然走り出してどこに行くのですか!?」
朱里の言葉、気にしてられない。
・・・
・・・・・・
「明命、報告ありがとう。」
「いえいえ。 では、冥琳様のところへ戻ります。」
孫権さんへの報告を私も一緒に聞いて、一安心。なんだか力が抜けちゃった。
「劉備、まだ気を抜くのは早いわよ。 最後までしっかりしてなさい。」
「は、はい!」
危ない危ない。油断大敵だよね。
「ねぇ、劉備・・・あれ、何かしら?」
「え、どれですか・・・」
孫権さんの指差す一点の光・・・っっ!!??
「劉備! どうしたの!? しっかりしなさい!!」
あの光を見た途端、誰かが私の頭にずっと語りかけてきてる。呪詛みたいな・・・頭の中を黒い物に埋め尽くされていく感覚・・・。
「嫌・・・嫌・・・嫌・・・もう止めてよ・・・」
怖くて逃げ出したいのに、足が言うことを聞いてくれなくて・・・光から目が離せないの。
「報告! あの謎の光ですが、どうやらこちらにとてつもない勢いで近づいているようです! 弓兵の方で勢いを殺せるか試しているのですが、止まる気配はありません!!」
「もうすぐ戦が終わるって時に・・・」
光が迫ってくる。狙いは・・・多分、私。どうなっちゃうのかな・・・死んじゃうのかな・・・。それは・・・嫌だなぁ。
「ご主人様・・・。」
危ない状況なのに、浮かんでくるのはご主人様のこと。最後に、ご主人様の笑顔、見たいなぁ。ご主人様・・・
・・・・・・・・・桃香!!
ご主人様の声・・・これが走馬灯って言うのかな。そんな寂しい声・・・しないで。
彼女自身が諦めかけたとき、戦場に一陣の風が凪いだ。
「戦と一刀ちゃんの邪魔をする悪い奴は! この玄女ちゃんこと芳乃ちゃんが成敗するぞーー!! てりゃーーー!!」
突如現れた彼女によって光は消滅。隙を見た魏軍は帆を翻し撤退。
「芳乃・・・何で・・・。」
「零ちゃん、やっほー♪」
「・・・! それより、桃香っ・・・」
「桃香様!! しっかりしてください!! 桃香様!!」
桃香は糸の切れた人形のように・・・その場に崩れ落ちた。
赤壁の戦いは蜀呉同盟の勝利で終結した。しかし、その場に喜びの勝鬨が上がることはなく・・・残ったものは混乱そのものだった。
・・・
・・・・・・
「誰だよ、あんなこと・・・桃香にあんな酷いことしたのは・・・。」
「お兄さん・・・怖いよ?」
「恐怖に飲み込まれて・・・泣いてた。 いつも笑顔の桃香が・・・。」
芳乃、一刀の神戸開けて出ていったわね。あの子、後先考えないから・・・ストッパーがなくなった一刀の心。まずいわ・・・。
「絶対に・・・絶対に許さねぇ。」
心から溢れ出す闇に染まる一刀。真域に一人鎮座する美桜。倒れた桃香。
順調に回ると思われた外史の歯車は、加速と共に悲鳴をあげ始めた。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。春眠暁を覚えずとはよく言ったもので・・・毎日超爆睡してます。半分体調崩してる影響もあるかも? ともかく!第九節は今回で終わりとなります。長かったなぁ。というよりも・・・シリアス展開は苦手です。助けてードラ(自重)。
私は女の子たちといちゃいちゃニャンニャンを書いてたほうが気楽なのですよ。
(・8・) これチュンチュンや!ニャンニャンやないで。まぁまぁ。はてさて、最後に出てきたお姉さん・・・玄女様でございますね。中国神話の女仙様です。主なベースは美桜様です。性格は・・・うーちゃんを微量に大人っぽくした感じです。
戦女神でマイペースなお姉様!・・・またうちの一刀さんの気苦労が増えそうです。書いてる分にはとっても楽しいから気にしません!←おいっ
それでは次回から新章スタートですね。
次回、第十節:建業への帰還、眠れる桃香。 でお会いしましょう。
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何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。