【千鶴】
一人部屋の中で自分で淹れたコーヒーを啜りながらテレビを見ていた。
今日は姉さんと一緒に帰っては来なかった。普段も生徒会でのことで
別々に帰ってくることがあったから特に問題を感じてはいない。
今日は私たちの誕生日。学校内で姉さんの姿を見て一緒に帰れるか
聞きにいこうとした時に杉浦さんと話をしていたのを見かけて
ひとしきり妄想をした後に一人で帰宅をした。
そういう場面を見たから、もしかしたら今日は一人で過ごすことになるかもしれないと
思えて少し寂しかった。けど、姉さんが杉浦さんと上手くやっていければ
そっちのほうが私にとっては嬉しいことのはずだった。
だけど何でだろうか、私の胸の中で徐々にもやもやが溜まっていくのを感じていた。
最近不慣れな人付き合いが増えてきたこともあって少し疲労を感じた私は
自分の部屋に戻りベッドへ飛び込む様にして倒れ込んだ。
柔らかい布団が私の眠気を誘う。
そのままで寝るわけにはいかないと考えている間にフッと意識がとんだ。
**
「千鶴~、そんなとこで寝てたら風邪ひくで」
「ふぁ・・・」
起こされて変な声を出してしまって、起き上がると目の前に微笑みを浮かべている
姉さんの顔があった。
「どうして・・・杉浦さんと一緒だったんじゃ」
そして愛を育んでいたんじゃ・・・と私の妄想の部分が混じりつつそこは
口から出すことはなかった。
「あー、綾乃ちゃんな~。お祝いしてくれてパーティーもしようかっていう話になったんやけど」
「なんで、この時間じゃいってないんじゃ・・・」
時計を見るとまだ日が落ちたばかりの時間帯だ。
「だって千鶴どこいっても見当たらなかったんやもん」
「え・・・」
「綾乃ちゃん、千鶴のことも誘ってたんやで。だから悪いけど綾乃ちゃんに断りを入れたんや」
「わ、私のせい・・・?」
まさか私も誘われるとは夢にも思わなかった。
そういう気遣いは少し嬉しいと思えた。けど、姉さんの邪魔をしてしまったことは
反省せねばなるまい。
「ごめん、姉さん・・・」
「ふふっ、気にせんでええよ。どっちにしろ今日は千鶴とお祝いしたかったしなぁ」
姉さんと話をしながら姉さんに促されてリビングまで二人で歩いていく。
いつも二人で食事をするテーブルの上には姉さんの手作り料理とケーキの箱が
並んで置いてあった。
「いつもより気合入ったわ。・・・まぁ、煮物とかそういうのばっかやけど」
「十分だよ」
姉さんの作る料理は食べていてホッとするから好き。
「ちょっと早いかもだけど、さっそく食べよか」
「うん」
大皿に入れて置いてあるから自分で使う小皿を用意して話をしながら二人で食べる。
杉浦さんの名前がよく出てきてその度に嬉しそうな顔をする姉さんが愛おしくてたまらなかった。
「あ、そうや。これ試しに作ってみた芋の煮転がしなんやけど。食べてみて」
そう言って姉さんが自分の箸でつまんだのを私の口元に運ぼうとするから
私はカァッと顔が熱くなって手を横に振った。
「いやいや、自分で食べるから」
「そんなこと言わんと。ほら、あーん」
「・・・あーん・・・」
すごく気恥ずかしい気持ちのまま目を瞑って口を開けるとちょうどいい熱さの
じゃがいもが口の中に運ばれて、中に入った途端にホロッと崩れて出汁の効いた
うまみが口いっぱいに広がっていく。
(これが姉さんの味・・・)
初めての味をゆっくりと噛み締めて飲み込んだ。その後の幸せな気持ちが
私の中で広がっていく。
「すごく美味しい」
「そう、ありがとな。千鶴」
「やっぱり、千鶴といるとうちは幸せな気持ちになれるわ」
「私も・・・」
それは気の置ける姉妹としてという意味だと思って私は頷いた。
「うちな、千鶴のこと好きなんや」
「私もだよ・・・」
私の場合、姉妹というよりどこか姉さん個人のことが好きだっていうのがあった。
でも知られるとドン引きされそうだから気づかれないように普通に振舞っていた。
あくまで・・・今日までは。
「ほんと?」
「うん」
「そうか・・・」
「姉さん?」
ちょっとだけ赤らめたように見えた姉さんは顔を伏せて見えないようにして
わずかな時間が経過した後、私の意表を突いたように私の唇に姉さんのが
飛び込んできた。
それはほんの一瞬の出来事で私は反応できずに姉さんとキスをしていた。
私が驚く前に舌を入れてきてびっくりしたのと快感が同時に押し寄せてきて
頭の中が真っ白になって姉さんのいいようにされていた。
確かにこの状況はどこかで私が望んでいたことだけれど
こんなことあるわけがない、姉さんがこんなことするわけがない。
きっとこれは夢なんだと思い、空いた自分の指で太ももの辺りを
抓るがすぐに痛みが伝わってくる。
これは・・・現実なの・・・?
「ぷはぁっ・・・」
「ごめんな、千鶴・・・。姉妹でこんなの・・・いけないよなぁ」
キスの後だからか赤らめてとろけそうなうるうるした目をしながら
申し訳なさそうな顔をして言うけど止める様子はなさそうだった。
一度乗ってしまった姉さんは妄想のように止められないときが
たまにあるから。
私もここまで来たなら自分の気持ちに素直になろう。
そう思って、一度口を離した姉さんの方に今度は私がテーブルから身を乗り出して
姉さんの唇に触れた。
唇に伝わるぷるぷるした感触と食事の味と姉さんの温もり、匂い。
体が熱くなっていくのを感じて止まらなくなりそう。
私の行為に姉さんは目を潤ませて顔を真っ赤にしていた。
それは嫌がるというよりどこか嬉しそうなそんな表情に私は見えた。
どれくらいキスをしていたかわからないくらいしたあと。
食後のケーキを食べた後も何度かして、
その時は生クリームと酸味のある苺の味を感じた。
だけど本当にいいのだろうか。いや、私はいいのだけど姉さんはどうなんだろう。
杉浦さんが誰かに取られたとかでヤケになって私を代わりにしたとかだったら
この幸せな気持ちは感じなくなるだろうから。
勘違いしたままこの関係に甘んじたくないと姉さんに聞くと
姉さんは嬉しそうに笑いながら。
「綾乃ちゃんは親友で歳納さんと仲良くしてくれるのがうちの幸せなんや」
「悔いはないの?」
「うん。あれみたいなもんや、千鶴がうちと綾乃ちゃんで妄想してるような感じ」
「え!? どうして知って。。。!」
「だって時々妄想漏れとるもん。うちも妄想よくしてるからわかるんや」
「うぅ・・・恥ずかしい」
「千鶴だって妄想と現実の好きな組み合わせって違うやろ」
「うん・・・」
「だから、うちの現実は・・・リアルは・・・千鶴を求めていたことに最近気づいた」
「最近・・・」
「うん、最初はごっちゃだったけど、千鶴と綾乃ちゃんたちと過ごしていると
千鶴といることのほうがうちの中でリアルの満足感が圧倒的に違ってることに
気づいたんよ」
「それは私も思った・・・」
「千鶴がちょっと社交的になったこともあるんかな」
「しゃ・・・!?」
「いろんな人と交流しているのを見て。あ、うちだけの千鶴じゃないんやなって
思ったらすごく焦りが出てな・・・。少し嫉妬していたのかもしれんな~」
「そうなの・・・」
「あ、でもちゃんと人として成長してる千鶴を見てると嬉しいよ。
けど、感情って複雑やし」
ちょっと気まずい雰囲気で照れ笑いをする姉さんが愛おしくて私はつい感情のまま
姉さんを抱きしめた。すると姉さんのほうも優しく包み込むように抱き返してくれた。
気持ちが絡まった二人の糸が触れ合ってしっかりと結びつけるような
そんな感覚があった。もう大丈夫、ちゃんと私たちの気持ちは繋がっている。
辿ればもしかしたらお腹の中にいた胎児の時からあった感情かもしれない。
姉さんと触れ合うと一つになれたようなそんな安心感が得られて
プラス恋愛のような気持ちも味わえてこれ以上にない幸せを感じていた。
「姉さん、大好き」
「うちも。千鶴のことずっと好きや」
そう言って二人は長い時間そうした後、部屋に戻る時には二人手を繋いで
歩いていった。私たちの間に結ばれた糸はもう解けることはないだろう。
そんな暖かい確信が私の中で産まれたのだった。
お終い
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
せっかくの二人誕生日なので姉妹百合してもらいました。これからもなかよく好きな組み合わせで百合妄想してもらいたいですね(*´﹃`*)
あと千歳の台詞回しとかめっちゃ難しかったですわw
慣れてないせいかイメージから違っていないかがちょっと不安。
少しでも楽しんでもらえれば幸いです♪
イラストはこちら→http://www.tinami.com/view/763415