虎牢関 深夜 咲夜視点
私は月と共に、深い闇に染まっている虎牢関、その両脇にある崖の上へとやって来た
他の兵士達は、少しだけ後方で待機してもらっている。
私と月が行動を起こし、明朝まではしっかり休む事になっている
咲夜「月、疲れていないか?」
私は後ろに付いて来てくれている月に語りかける。
月は先ほどの戦闘で、月の奥義とも言える「崩天」を撃ってもらっている。
あの技はとてつもない威力だが、連射は出来ないしかなり疲れるらしい。
第二射目が出来るまで、恐らく二日はいるとの事だ
だが、それでも撃って貰わねばならなかった。
あの局面で月を使ったのは、今目の前にある虎牢関の門を開ける為でもある。
汜水関に居た奴らに先程の攻撃を見せ、門なんて意味がないのだと理解させ、閉ざす理由を無くす為だった。
それを踏まえて、汜水関に居た奴らも見逃したのだ。
しっかりあったことを報告してもらう為にな
そしてそれは、上手くいったようだ
深夜であるにも関わらず、虎牢関の門は全開になっていた
月「はい、私は平気ですけど、持ってきたC4、無駄になりましたね」
月は笑顔で答えてくれた。
もしもの為にと、C4を使って門を爆破も考えていたが、それはしなくて済みそうだ
咲夜「いや、そうでもないぜ」
私はリュックの中に入れておいた通信機を取り出す。
そして周波数を合わせて、反対側にいるであろう奴に繋げる
咲夜「零士、こっちは着いた。連中、門を全開にしているが、一応やっとくか?」
零士『そうだね。彼らには悪いけど、とてつもなく煩い目覚ましで起きてもらおう』
そう言って通信が切れる。
私は月に目をやり頷く。月もそれに反応して頷き、共に行動に出た
私達は揃って黒い服を来て、闇に紛れて行動する。
そのお陰か、虎牢関にいる奴らは私達の存在に気が付かない。
全く、無能な兵士だな。まぁ、一番眠たい時間ではあるから、仕方ないのかもしれないが
月「設置、完了しました。一応、被害が最小限になるような場所にしましたが」
咲夜「了解。それで巻き込まれた奴は運がなかっただけだ。私の方も終わったし、そろそろ戻ろう。零士」
私は通信機を再度繋げた
零士『ん、こっちも終わったよ。そろそろ帰って少し寝ようか』
咲夜「あぁ、それじゃあ…」
私は通信機を切り、C4の起爆装置を取り出した。
そして汜水関の方へ戻ろうと、その歩みを進めた
咲夜「ハハハハッ」
カチッカチッ
チュドーン!
虎牢関 正午前
翌朝、しっかり休んだ私達は体力を回復し、軽い足取りで虎牢関へとやって来た。
皆も休めたらしく、気力は十分で士気も高かった
そして虎牢関に辿り着くと、門を守るように立っている春蘭と思春の姿があった。
その表情は疲れ切っており、一睡もしてないと言わんばかりに目の下にクマを作っていた
咲夜「よぉ、久しぶりだなぁ春蘭、思春!」
私はニヤニヤと笑みを浮かべ言った。対する二人は、とても不機嫌な顔で私を睨んでいた
思春「貴様…何をのうのうと…」
春蘭「お前達のお陰で、私達は…」
相当イライラしていた。
それもそのはずだろう。こいつらは常に爆破の恐怖に怯えていただろうから。
私達が深夜に仕掛けたC4を、順番に不規則に爆発させていたのだ。
威力はさる事ながら、その音も大きいので、安心して寝る事も出来なかったのだろう
ちなみに、うちの軍は皆、耳栓を付けてもらっていた。
C4の爆音は、少し離れた所でもしっかり聞こえていたからな
雪蓮「エグいくらい効果が出てるわね」
悠里「ですねー。それに、見てくださいよあの姉さんの顔」
凪「キラッキラしてますね」
秋蘭「愉しくて仕方ないのだろう」
秋蘭の言う通り、愉しくて仕方ないのだ。
自分でもどうかと思うほどイキイキしている。若返った気分だ
霞「ウチ、ここで春蘭に負けとるさかい、借り返そー思てたけど、あの顔見ると悪い気して来たわ」
音々音「ねね的には、ざまぁみろと言いたいですけどな」
恋「ねね、捕まってたもんね」
そうだそうだ、董卓組的には、因縁の場ではあるのだから、こいつらにも花を持たせないといけないな
咲夜「まぁそういうな。霞には春蘭の相手をしてもらう」
霞「わぁっとるよ。ちゃんとした決着は、また別の日にでもするわ」
そう言って霞は偃月刀を振り回しながら前に出た。
僅かだが、足取りが軽い辺り、楽しみではあるようだ
咲夜「おい麗羽!居るのはわかってるんだ!顔くらい見せろ!」
私も前に出て、虎牢関の中にいるであろう麗羽に叫び掛ける。
すると、その声を待っていたと言わんばかりに、直ぐにひょっこり顔を出してきた
麗羽「司馬懿さん…」
麗羽は疲れ切った表情をしており、また瞳には罪悪感で溢れていた。
彼女の隣にいた斗詩もまた同様だ
咲夜「よぉ、こうして来てやったんだ。お前らなら、その理由もわかってるよな?」
先程まで苛立っていた筈なのに、あいつらの顔を見てその勢いが消えていく。
そして出た私の声も、ずいぶんと落ち着いていた
全く、なんて顔してやがる…
麗羽「えぇ。まずは謝罪を。あなた方の大切な家族を傷付けてしまい、本当に申し訳ありません。この失態は言い訳のしようもありませんわ」
麗羽と斗詩は深々と頭を下げた。
こうして素直に非を認め、謝って来るやつ程、扱いに困るものもない。
本当に、全くもってやり辛い
だからこそ、私は私なりに、こいつらを攻める理由を突くしかない
咲夜「当たり前だ。私はお前達に猪々子を、私達の家族を任せたんだぞ?お前も任せろと言ったよな?なら、なんでこんな事になった?なんでお前は、猪々子を助けずにここにいる?お前達は猪々子の命より、徐福の命令の方が重いのか?あぁ?」
麗羽「そんな事ありませんわ!しかし、我々にも事情があり、仕方がないのです!」
咲夜「知ってるよ。私達を倒さなきゃ、命がないんだろ?ハッ!なら来いよ!倒してみせろよ!それで本当に、猪々子が救えるんならなぁ!?というか、お前らが何もしなくても、私達は容赦無く攻め込むがなぁ!?」
私は最後に中指を突き立ててやった。挑発としてはこんなものでいいだろう
麗羽「クッ…司馬懿さん、もう少しだけ私達に時間をください!そしたら必ず…」
咲夜「時間は十分にやったはずだ。それでなくとも遅い。あぁ、遅過ぎるんだよ、お前らは…」
事件が発生し、私達がここまで来るまで、十分に時間はあったはずだ。それでも目の前の奴らは、何の抵抗もできなかった。恐らく、どれだけ待っても、結果は変わらないだろう
麗羽「クッ…全軍に通達!これより先、目の前の敵を迎え撃ちます!この虎牢関を死守なさい!」
覚悟を決めたのか、苦々しい表情ながらも、麗羽は虎牢関にいる連中に指示を飛ばし始めた
さぁ、始めようじゃないか
咲夜「戦闘配備だ!汜水関よりかは苦戦するかもしれねぇが怖れる事はなにもない!全軍!目にもの見せてやれ!」
敵も味方も雄叫びを挙げると同時に、地面を揺らすほどの突撃を開始した。
虎牢関戦の幕開けだ
霞視点
霞「思い出深いなぁ、春蘭。ウチとあんたは、ここで出会ったんや」
春蘭「あぁ。本当に懐かしい。まさかお前と、再びここで戦う事になるとはな」
ウチは武器を担ぎながら、目の前にいる春蘭と思い出に浸っていた。
ウチらの周りには少し空間が出来ており、その周囲では、ウチの兵と春蘭の兵がええ具合の乱戦を描いていた
春蘭「出来れば、お前には退いて欲しいが、そういう訳にもいかないのだろう?」
霞「当たり前や春蘭。あんたにはあんたの目的があるように、ウチらにもウチらの目的がある。悪いけど、通させてもらうで」
ウチが偃月刀を構えると、春蘭は片目でそれを悲しそうに確認し、同じように大剣を構える
霞「そう言えばその目、ここが原因やったな」
春蘭「あぁ…あの時は邪魔が入ったが、今回は大丈夫だろう」
霞「フッ…せやな。あの時に比べたら、ウチらも成長したんやし、誰にも邪魔させへんで」
春蘭「無論だ。欲を言えば、こんな形ではない方がよかったが…」
霞「ま、それは別の機会にしよ。今は、目の前の筋通す事だけ考えな!行くでぇ!夏侯惇!」
春蘭「来い!張遼!」
ウチと春蘭は揃って踏み込み、お互いの武器を振り下ろす。
ウチの偃月刀と春蘭の大剣が交わり、火花を散らつかせた。
激しくも一瞬の出来事の内に起こる剣戟は幾度にも及び、さらに大振りの一撃から、つば競り合う形になった
霞「なんやなんや!辛気臭い顔しとる割には、しっかりついて来るやないか!」
春蘭「当たり前だ!何年経とうが、魏武最強の座は渡さん!」
霞「んなら、その肩書きは今日で終いやな!」
ウチはグッと押し返し、開いたところで春蘭の腹に蹴りをお見舞いする。
春蘭は堪えるも少しよろめいた
霞「行くでぇ夏侯惇!ガッカリさせんなや!」
偃月刀をクルクルと回し、構え直す。その瞬間、ウチの体から氣が溢れてきた
春蘭「ッ!?私は…負けん!負けられないんだ!」
春蘭の悲鳴にも聞こえる叫びと共に、ウチらは再び激突した
思春視点
正直、まずいと思っている
思春「クッ…分散するな!なるべく固まって確実に倒していくんだ!」
虎牢関での戦闘は始まったばかりだと言うのに、もう既に押され始めている。早く態勢を立て直さないと、総崩れになってしまう!
だと言うのに…
雪蓮「フフフッ」
私の目の前には、壮麗であり、苛烈という言葉がピタリと当てはまる、私の元君主が立ちはだかってしまったのだ。
正直、この方を相手にして部下の面倒を見る余裕、私にはない
雪蓮「こうして敵としてあなたと戦うのは、あなたが江賊をしていた頃以来かしら」
思春「…そうなりますね」
もう20年も前の話になるのか。
偶々襲った悪党の船に、今は亡き孫堅様、雪蓮様、祭様、そして東零士と咲夜が居た事が、私の運命を大きく変える事になったのだ。
当時、それなりに腕に覚えがあったとは言え、雪蓮様と咲夜の二人掛かりでは、流石に分が悪かったのだったな
雪蓮「期待してるわよ、思春。私を愉しませてちょうだい!」
だが、今ならどうだろう?
あれから時が経ち、私はさらに力を付け、雪蓮様は第一線から退き、今は武人でもなんでもない、ただの料理店で働いているだけだ。
継続して訓練し、実戦にも出ている私なら、あるいは勝てるのかもしれない
思春「わかりました。私も手は抜きません」
私は愛刀である鈴音を構え、雪蓮様の行動に注視する。
すると、私が構えるのと同時に、雪蓮様の視線がほんの一瞬だけ、私から逸れたのだ。
心なしか、少し微笑んだ気もした
その瞬間、全身が謎の警告を発した
背後から、妙な威圧感を感じるのだ
殺気はない
闘気も感じられない
なのに、威圧感を感じる…
この感じの正体は…
ガキンッ!
私はサッと振り返り、それと同時に剣を振るった。
するとそこには、今まさに私に斬りかかろうとしていた咲夜の姿があった。
咲夜の振るう短刀と私の剣がぶつかり、ちょっとした衝撃波を生んだ
思春「クッ!毎度毎度お前は…!」
咲夜「あぁ?なんでわかったんだ?気配は全部消した筈なんだが」
何てことない様子で話し始める咲夜。声音は普通なのに、短刀から感じる力がどんどん重くなる
思春「フッ!助かりましたよ雪蓮様!あなたの目が彼女の存在を教えて…ッ!?」
ガキンッ!
私は咄嗟に腰に差していた短刀を引き抜き、防御体制を取った。
何故なら背後には、雪蓮様が獰猛な目をして襲ってくる姿が映っていたからだ。
そして、防御体制を取ると同時に、重たい剣がのし掛かって来た
雪蓮「わぉ!よく止めたわね、思春!」
咲夜「おい雪蓮。お前、私見てないで思春を見続けてろよ。おかげで奇襲が失敗しちまったじゃねぇか」
雪蓮「ごめんごめん!まだちょっと、昔の感覚を取り戻せてないみたい」
二人はギリギリと力を込めながらも、世間話でもしているかの様な調子で話し始めた
思春「こ、これが、武人のする事か!?」
私はそう叫ばずにはいられなかった。
二人掛かりでこんな不意打ちのような戦い方、武人としての誇りが全く感じられないのだ
咲夜「おいおい、お前、誰に口聞いてんだ?」
雪蓮「そうね。私は、私達はもう武人じゃない。ここに居るのはただの…」
雪蓮・咲夜「「料理人よ(だ)」」
二人は声を揃え、そして笑い始めた。
その笑い声が、とんでもなく愉しそうで、そしてどうしようもないほど歪んで聞こえた。
故に私は、こう叫ばずにはいられなかった
思春「お前らのような料理人がいてたまるか!?」
先程、勝てるかもしれないと言ったな。あれは嘘だ
こんなもん勝てるか!!?
Tweet |
|
|
5
|
0
|
追加するフォルダを選択
こんにちは!
Second Generations複数視点
虎牢関戦