ある晴れた日の昼下がり、天の御遣い・北郷一刀は蜀の首都・成都の城の中庭に設置されたベンチで暖かな日差しを浴びながら読書を行っていた。三国の王が手に手を取り合って平和を勝ち取ってから数年が過ぎ、日々過酷な政務に追われていた一刀もこんな風に堂々とゆっくりする時間が増えた。その時間を利用して読書をする事を始めた。それはよき君主になるため、そして―――
「おとーさん!」
ベンチにもたれかかる一刀の胸に桃色の髪を長く伸ばした10才くらいの女の子が飛び込んできた。女の子はキラキラとした水色の瞳を一刀に向けてきている。
「禅、おはよう。今日も元気だね」
女の子の名は劉禅。一刀と蜀の王・劉備こと桃香の間に生まれた娘である。一刀にとっては第一子に当たる。
一刀が読書をするもう一つの理由は、蜀の英傑達との間に生まれた子供たちの教育のためでもあった。
「劉禅様!ここにいらっしゃったのですね!」
自分の膝の上に乗って甘える娘を撫でていると、建物の蔭から現れたのは関羽―――愛紗の娘である関平。母譲りの綺麗で長い黒髪をサイドテールにした凛々しい女の子である。一刀にとっては第二子に当たる。姉・劉禅が母同様ぽへっとした娘であるためか、一刀の子供たちの間でもしっかりとした性格である。
「平、どうしたの?」
蜀の文武官や女官たちは、劉禅を叱る際の関平をそろって「御遣い様を叱る関羽将軍のよう」と言う。
「あっ、父上・・」
父の姿を認めた関平は父に軽く一礼。その直後、眼を鋭くして父の膝で甘える姉を睨みつけて一喝。
「劉禅様、なぜ父上のお膝の上に座られているのですか!」
「えー?なんでだめなのー?」
「おれは別にかまわないけど・・・」
異母妹の思わぬ説教に劉禅は頬を可愛らしく膨らませて「ぶーぶー」とブーイング。
「ち、父上は本をお読みになられているでしょう!それなのに姉上は・・・わ、私だって父上に甘えたいのに・・・(ボソボソ)」
関平は顔を真っ赤にして劉禅を説教していたが最後の方はぼそぼそとしたしゃべり方になって意気消沈してしまっていた。ちなみに彼女は感情的にならないと劉禅のことを『姉上』とは呼ばないのだが、それを知っているのは桃香と愛紗、そして―――
「ほぉ、関平姉者は父者に甘えたいのか・・・」
「ひゃぁ!?」
「あ、趙統ちゃん」
関平の背後から現れたのは水色の髪をショートカットにしたどこか猫をイメージさせる女の子だ。
彼女は趙統(ちょうとう)。母に趙雲―――星を持つ一刀の五番目の子供である。そして彼女の母・星が関平の癖を知っているのだ。
「姉者は父者が嫌いなのか?」
「な!そ、そんなわけないだろう!」
「ならば劉禅様の様に父者のお膝なり、どこなりで甘えればよかろう。劉禅様は子供として父者に甘えておるだけだぞ?」
「うう~・・・しかし桃香様の後を継ぐ御方として誰が見ているかわからぬ場所であのように甘えては国の威信が・・・」
必死に抗弁する関平に、趙統は止めの一言を突き刺す。
「そのように意地を張らずともよかろう、姉者。一昨日、夜中に寂しくて『父上、父上』と泣いていたでは―――」
「それ以上言うなぁぁぁぁぁ!」
訓練用に持ち歩いている母の青龍堰月刀を模した木刀を趙統目掛けて振り下ろす―――
しかし趙統は姉が得物を振り下ろす瞬間には、すでに武器の範囲から逃走していた。
「趙統、そこに直れ!その性根を叩きなおしてくれる~!」
「はーっはっはっはっは!」
真っ赤な顔で武器を振り回す関平と、高笑いとともに蝶のようにひらりひらりとかわす趙統。一刀はそれを苦笑しつつも見送る。
「ほんとにあの2人は星と愛紗そっくりだな・・・」
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明智光秀と松平清康の外史が少々詰まってしまったので気分転換に書いてみました。
続くかな?