No.760078

IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~幕間


一日にPCに触れる時間が1時間も無い…。
次はいつ更新できるんだろう。

2015-02-22 16:13:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2648   閲覧ユーザー数:2499

 

『ミコト復活!』その吉報は生徒から他の生徒へと渡り瞬き間に学園中に広まった。

生徒達はミコトの回復を心から喜び、その喜び様と言ったら快気祝いにとちょっとしたお祭り騒ぎにまで発展してしまう程で、教員達はその騒動を鎮めようと試みたが、生徒たちの興奮は凄まじく騒ぎは収まらず、学園全体は授業どころでは無くなって、いい意味で混乱を極める騒がしさで包まれた。

 

そして、話題の中心であるミコト本人はと言うと…。

 

「ミコトちゃ~ん!心配したんだからぁ~!」

「ん」

 

今日何人目かもう分からないミコトの見舞いに来た名も知らぬ先輩が、涙声でミコトに飛びつき今日何度目か分からない抱擁がミコトを襲う。

そして、抱きつかれた本人はと言うと、自身を抱き締めて泣いている先輩の頭をぽむぽむと叩いてあやしていた。

 

「これ、お見舞いにクッキー焼いたの!この前ミコトちゃん美味しいって言ってくれたわよね?」

「キタコレ♪」

 

先輩はそう言うと手に持っていたお菓子をミコトに差し出す。包装を見るにあのお菓子は彼女の手作りなのだろう。料理部所属の生徒だろうか?可愛らしいラッピングで包まれたそれは店に並んでいても可笑しくない程のレベルだ。貰った本人も訳分からない言葉を口にしながら両手を万歳を喜んでいる。

何度も目にした似たような光景にラウラは頭を抱えて疲れた溜息を吐く。

 

「やれやれ、またか…」

「あ、あはは…」

 

頭が痛そうにしているラウラにシャルロットは表情をひくつかせながら苦笑を零す。

二人が何でそんな反応をするかというと、原因はミコトのベッドの横で異様な存在感を放つそれにあった。

 

「どうすんのよ。これ…」

 

唖然と見上げながら鈴が呟く。鈴が見上げるのは天井にまで届かんばかりに積み上げられたお菓子の山。

ラウラが頭を痛めている原因は正しくこれだ。しかし、何故こんなものが作り上げられたのか。それは少し前に時間を遡る。

ミコトの回復を聞いた千冬姉はすぐさま医師を呼んでミコトの体調を診てもらった。結果は『異常無し』。今日一日はベッドの上で安静にとの事だったが、明日から普通に学校に通っても良いとのこと。それを聞いて皆は喜んだ。さっきも言ったように皆、そう学園の生徒みんなが喜んだ。それはもうお祭り騒ぎになる程の大喜びだ。

これにて一件落着。大団円。ハッピーエンド。……と、思われたのだが。お笑いの神もミコトの復活を祝福してくれているのかそれだけでは終わらなかった。問題はその後に起こったのだ。体調に問題は無いと診断されて面会謝絶の状態が解除されたのだが、面会の許可が下りた途端にミコトを心配する大勢の生徒達が押し寄せてくるという事態となった。

此処までは誰もが予想できた。教員も楯無先輩達生徒会もミコトの負担も考えてせめて一人ずつ面会させるように手配もした。けれど問題はその先にあった。皆が皆お見舞いの品としてお菓子を持って来るのでその結果ご覧の有様になったと言う訳だ。そのお菓子の種類もさまざまで、どれもミコトの好物で良くもまあこんなにも集まったものだと感心してしまう。

 

「俺こんなに沢山のお菓子が積まれてるの初めて見たよ」

「私はある。実家の本音の部屋に買い置きのお菓子が沢山あるから…」

「ああ、そう…」

 

見慣れたお菓子の山に疲れた顔をする簪を見て俺は同情した。しかし、毎回思うんだが主を困らせる従者ってどうなんだろう…。

 

「ねえねえ~?これ少し貰っちゃだめ~?」

「止めなさい」

「あいたー!?」

 

お見舞いの品であるお菓子の山をだらだらと涎を垂らし、もの欲しそうに指をさして意地汚くおねだりするのほほんさんだったが、虚先輩が頭を叩いて止められて悲鳴を上げる。人のお見舞いの品まで手を出そうなんてどれだけ食いしん坊なんだのほほんさん…。

 

「けれどどうしますのこれ?流石にミコトさん一人では食べきれませんわ」

「大丈夫だ。問題ない」

 

久しぶりにその迷台詞を聞いた気がする。

 

「めっ!ですわ。虫歯になってしまいます」

「むぅ…」

「(……お前は母親かとツッコムべきなのだろうか?)」

 

腕を組み頬に手を当てて困りましたのポーズを見せるセシリアに箒が何か言いたそうな表情をしている。分かる。分かるぞ箒。俺もお前と同じ気持ちだ。

最初の頃は冗談半分でからかっていた俺達だが、今ではもうすっかり板についてしまい、今回の件で更にパワーアップしてしまったセシリアのお母さんっぷりに、からかっていた俺達も流石に苦笑いを浮かべる以外に無かった。虫歯になるって何だ。もう完全にお母さんの思考じゃないか。一体如何してこうなってしまったのか。

ミコトを「めっ」と叱って言い聞かせているセシリアの背中に、もうあの頃の高飛車なセシリアは帰ってこないんだなと涙していると、ぎゃあぎゃあと騒がしい部屋に一際目立つ声が騒然とした他の声達を跳ね除けて響いた。

 

「はいは~い!提案があるんだけど、折角こんなに沢山のお菓子があるんだし、ミコトちゃんの快気祝いにパーティしない?織斑君の誕生日パーティーもあんな事になって台無しになっちゃったし、織斑君の誕生日パーティーも兼ねてさ♪」

「!」

 

そう声を上げたのは我らが学園最強の生徒会長こと更織楯無。その楯無先輩が相変わらずの人を惹きつける笑顔を浮かべて提案したのは、この山の様に積み上げられたお菓子の処分の方法であった。

この山の様なお菓子の処分方法と台無しになってしまった誕生日パーティーのやり直しの二つを両立させたその完璧な提案に俺は「おぉ…」と感嘆の声を洩らす。

あの事件の後、誕生日パーティーどころではなくなってしまったのでやり直しを兼ねるのに丁度良いかもしれない。俺も自分の誕生日があんな終わり方をするのは嫌だったので楯無先輩の提案には大賛成だ。他のメンバーも楯無先輩の話に興味津々の様で、ミコトに至っては余りの嬉しさに期待で目をキラキラと輝かせていた。如何やら主役は乗り気のようである。しかし、楯無先輩の提案に喰い付いたのは俺達だけではなかった。

 

「え?なに?織斑君誕生日だったの!?いつ!?」

 

いつの間にかさっきの名も知らぬ先輩と入れ替わってミコトの見舞いに来ていた黛先輩が手帳とペンを手にギランッ!と目を輝かせてこっちに詰め寄って来る。目を光らせているのはミコトと同じはずなのに、何故こうも違って見えるのだろう?ていうかいつの間に居たんだアンタ…。

 

「一昨日ですよ。今この部屋に居る面子で誕生日パーティーをしたんです」

「初耳すぎる!?何で教えてくれなかったの!?」

「え?いや、だって言い広めるもんじゃないですし…」

 

それに「もう少しで俺の誕生日なんだよね」なんて、お祝いを要求しているみたいじゃないか。見っともなくて言える訳が無い。

 

「ぶぅー…そうかもだけどさぁ。折角の良いネタだったのに勿体ないじゃない。食べ物も情報も旬が過ぎちゃうと美味しくないでしょ?」

「人の誕生日をネタにしないで下さいよ…」

 

それはもう祝ってくれるとかそういうのとかじゃなくて、人をネタにして自分が楽しんでるだけじゃないですかやだー。

 

「それは私に呼吸をするなって言ってるも同然よ!」

「どんだけ記者なんですかアンタは!?」

「ふふん!当然よ!黛の家系は代々そっちの業界を生業としてるもの!姉も『インフィニット・ストライプス』の副編集長してるしね!」

「もう血筋からして記者なんすね…」

 

遺伝子レベルで記者魂が刻み込まれているのか。むん!と自慢げに胸を張る黛先輩には、もう呆れを通り越して尊敬の念すら覚えた。

 

「まあ過ぎてしまったものはしょうがないわ!この情報を皆に知らせなきゃ!『独占!IS学園新聞部!噂の織斑君の誕生日情報を入手!』明日の一面はこれに決まりね!」

「人の個人情報をばら撒かないでもらえますかね!?」

 

「売れる!売れるわ!」と大はしゃぎで喜ぶ黛先輩に俺は慌てて抗議する。

まったく、プライバシーもあったものじゃない。……いや、思えばこの学園に来てからそんなものあった覚えは無いなぁ。俺の人権ってどこに行ってしまったんだろうなぁ…。

 

「えー?折角の収入源なのにぃ…」

「ダメったらダメです」

 

ぶぅ…っと膨れる黛先輩に俺は頑なに拒否する。

たかが誕生日くらいで大げさなと思うかもしれないが、此処の学生はイベントに飢えてるため大事に発展しかねない。と言うか絶対なる。己惚れとかではなく今までの経験からしてその展開が容易に想像できる。

誕生日を祝福してくれるのは嬉しい。けれど学園規模で大騒ぎになってしまうのは勘弁願いたい。自分は根っからの小市民なので、そんな盛大に祝われたらその勢いに圧されて畏縮してしまうじゃないか。

 

「ぶぅーぶぅーはいはい分かりましたよー……でも大騒ぎになるのはどうせ変わらなくない?」

「え?……あっ」

 

黛先輩の言葉に一瞬何を言っているのか俺は理解出来なかったが、すぐにその言葉の意味に気づいて「あっ」と声を零した。

今、学園全体はミコトの回復を喜んでお祭り騒ぎになっているんだった。この部屋の中も結構な騒がしさだが、この部屋の外ではこの比では無い程の大騒ぎが学園全体で巻き起こっている訳だ。ぶっちゃけミコトの人気に俺が敵う筈がない。なら、俺の誕生日を知られたところで何ら影響はないのだ。

 

「……確かに言われてみればそうですね」

「でしょ?だから別の織斑君の誕生日を記事にしても良いよね♪」

「……いやいや!だからって主役のミコトを差し置いて俺が出しゃばろうとするのはいけないでしょう!?」

 

危うく乗せられそうになったが、それとこれとは話が違うだろと慌てていやいやと首を振った。

それに対し「ちっ、引っ掛からないか」と黛先輩は悔しそうに舌打ちをする。本当にこの人は油断ならないと冷や汗を垂らしていると、部屋の入り口から凛とした声が響いてきた。

 

「その通りだ。織斑の個人情報は一応機密情報に分類されるからな」

「千冬ね……織斑先生」

 

お見舞いに来る生徒達の対応も落ち着いたのか、部屋にの入り口に立っていた千冬姉はコツコツとヒールの音を立てながらこちらに近づいてくる。普段は決して見せることのない表情の疲れの色が、どれだけ部屋の外が殺到としていたのかを物語っていた。

一方、黛先輩の方はと言うと、千冬姉の機密情報と言う言葉に「げっ…」と顔を青くさせていた。そりゃ国家権力に警告されれば顔も青くするだろう。

 

「それにこの騒ぎもすぐに鎮圧する」

 

その物言いに皆が顔を顰めた。

 

「鎮圧ですか。穏やかではありませんわね…」

「キャノンボール・ファストの開催日が迫っている。そんな大切な時期に一日たりとて無駄にする訳にはいかんからな。強引にでも授業を受けさせるさ」

 

この後の生徒の『鎮圧』とやらの事を考えたのか、千冬姉は頭を痛そうに抱えて疲れた溜息を吐く。

 

「唯でさえキャノンボール・ファストの延期で各所に多大な迷惑をかけているんだ。この上情けない醜態を晒してみろ。IS学園の威信にも関わる」

 

今回のキャノンボール・ファストは今までの行事とは大きく異なる特徴がある。IS学園は非常に閉鎖的であり、学園の行事は国や企業と言った限られた人間しか見学することは出来なかった。しかし、今回は違う。キャノンボール・ファストは学園外にある市のアリーナで行われ。そこには各国や企業のお偉いさん方は勿論、一般人も入場することが出来るのだ。つまり、多くの人達が生徒たちのこの一年間の成果を見に来るわけだ。そんな大勢の人達の前で見っともない姿を見せてしまえばIS学園の名はガタ落ちである。千冬姉の言っているのはそういうことだ。『鎮圧』と言う物騒な言葉を出すのもそれだけ切羽詰っていると言うことなのだろう。唯でさえ今までの行事は全てトラブル続きで殆どが中止されているんだ。IS学園の信用も下がりつつあるのかもしれない。

 

「えぇー?だったらパーティーはしちゃいけないのー?」

「…千冬?」

 

パーティーの中止と聞いて、先程まで楽しそうにしていたミコトがしゅんっ…と落ち込んだ表情へと変えて千冬姉を見上げる。

うるうると揺れる悲しそうな瞳に見つめられて、千冬姉は「ぐっ…」と言葉を詰まらせると、いたたまれなくなり視線を逸らしてゴホンと咳払いをする。そして…。

 

「……授業が終わった放課後なら学園の関与するところではない。節度を守ると言うのならお前達の好きにしろ」

 

折れた。無敵のブリュンヒルデも泣く子には敵わなかった。

 

「やった~!」

「お~♪」

 

パーティーの許しを得てぴょんぴょんと跳んで喜ぶミコトとのほほんさん。

 

「よーし!織斑先生の許しも得た事だし!今日の放課後は誕生日パーティーの分も楽しんじゃおう!」

「「お~♪」」

 

楯無先輩のテンションの高い号令に、ミコトとのほほんさんも乗っかって天高く腕を突き上げて楽しそうに声を張り上げた。

その日の放課後は、何処から聞きつけたのか上級生や下級生の生徒達が大勢集まって、ミコトの回復を祝い盛大にパーティーが執り行われた。

そのパーティには山の様に積み上げられていたお見舞い品のお菓子の他に、パーティーに参加した生徒達が持参してきたお菓子もテーブルに並べられ、パーティー会場である一年生寮の食堂のテーブルはお菓子に埋め尽くされると言う壮絶な光景が生み出されてしまう。

そんな二人が歓喜するお菓子尽くしなパーティの最中、一心不乱でお菓子をリスの様に頬張るミコトは先輩達に揉みくちゃにされながら楽しそうに笑っていた。幸せそうにこの場にある温もりを包まれながら笑っていた。

そんなミコトの笑顔に俺達もつられて笑顔になって、ミコトが騒げば俺達も騒いで、そんな馬鹿をやって騒ぐ俺達を見て、様子を見に来ていた千冬姉がやれやれと溜息を吐く。

 

それはいつも通りの日常。

 

 

変わり映えの無い当たり前の毎日。

 

 

騒がしくも楽しい日常が戻ってきた。

 

 

誰もがそう思い笑い合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていたんだ。その時は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

罅割れた器は決して元には戻らない。

 

 

 

 

 

 

その時は刻一刻と迫っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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