No.759242

IS×SEEDDESTINY~運命の少女と白き騎士の少年

PHASE-04 漆黒の反撃

2015-02-18 16:55:22 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2083   閲覧ユーザー数:2026

「なんだ、これは!?」

 

特務艦“ガーティ・ルー“の艦橋(ブリッジ)に立つ男、ネオ・ロアノークがその異変に気付いたのは、ひそかに先行させていたはずの“ダガーL“がそろそろ宇宙港にたどり着く頃合いだろうと思っていた時のことだった。

そのダガーLに異変が起きた。ガーティ・ルーのモニターにはアーモリーワン全宙域が表示されている。その中でまっすぐ宇宙港へ向かい、盛大な花火を上げてくれるはずだったダガーL全十八機の所在が示されていたのだが、それが次々と消えていくのだ。すでに三機のダガーLが破壊されていたことは信号がロストしたことからも知っていたし、ザフト軍との交戦があったのであろうことから理解することもできた。しかし、残っていたダガーL十五機全てが、ごく短時間━━━数値化してわずか五分足らず━━━の内にことごとく消え失せるとは……。

 

「どうなっている、アーモリーワンで何が起こっている!?」

 

普段の彼からは想像もできない焦りが生まれると、クルーたちからも動揺が浮かび上がる。なんとか気持ちを切り替えなければ━━━ネオはいったん息を吐いてから、おもむろにオペレーターにたずねる。

 

「━━━彼ら(・・)は?」

 

オペレーターは短い問いかけにすぐ理解して首を振る。

 

「まだです」

 

その答えを聞いて、ネオはやや困惑したように再び息を吐いた。ガーティ・ルーの艦長を任されているイアン・リーはあっさり問いかける。

 

「失敗ですかね?」

 

アーモリーワンに潜入した別働隊のことだ。まだ予定の刻限には至ってないが、このままではかなり割れてしまうだろう。件の機体が加われば、最悪奪い返される可能性も捨てきれなくなる。

 

「嫌な予感がするな……」

 

こう言うとき、自分の直感というのはよく当たる。それが悪ければ悪いほど、より最悪な展開として。

 

「━━━出撃()て時間を稼ぐ。艦を頼むぞ」

 

「はっ」

 

リーはそれについては意見することもなく、うなずく。指揮官が自ら戦場にでることは、あまり望ましいことではないが、この状況下があまりよろしくないことは、彼もよく理解していた。

ネオはインターフォンを手に取り、通信先に告げる。

 

「格納庫、“エグゼス“出るぞ!いいか?」

 

ほどなく左舷ハッチが開き、赤紫(マゼンタ)色のモビルアーマーが射出された。ネオの専用機であるTA4F“エグザス“だ。細く尖った機首から後部へ書けての流線型が鮫を思わせる。下部には一対のレールガンを装備し、機体を取り巻くように四基の特殊兵装が付属している。

ネオの機体は流星のろうに、新たに接近しつつある三機の“ゲイツR“を目指す。“ゲイツR“はこちらの“ダガーL“を撃破し、新たに現れたモビルアーマーにもそれぞれの銃口を向ける。エグザスは弾道を見切るかのように、ビームや砲弾を縫って飛び回る。機体を取り巻いていた四基の特殊兵装が、パッと四方に飛散した。それらはまったく独自の軌道を描きながら、敵機に向けて、四方からビームの雨を降らせる。それらはビームガンバレル━━━さきの大戦で“メビウス・ゼロ“というモビルアーマーに装備されていた兵装を、さらに改良したものだ。高速で動く小さなガンバレルをとらえるのは難しく、三機のゲイツRは翻弄されるまま、次々と被弾して炎を噴き出す。全方位(オールレンジ)からの同時攻撃を可能とするこの兵装にとっては、モビルスーツでさえ必ずしも脅威ではない。しかし使いこなすには卓越した空間認識能力が必要とされ、使い手を選ぶ機体だ。

エグザスはそのまま、友軍がいるはずであろうアーモリーワンに向かってブースターを噴かせた。

 

 

「はっ、二方向からの攻撃によく耐えてるな!賞賛に値するぜ!!」

 

スティング・オークレー。それがカオスを強奪した人物であり、眼前のガイアと自機を相手に立ち回っているザクに賞賛の声を上げている男の名であった。

彼はガイアに乗り込んだステラ・ルーシュとアビスを奪ったアウル・ニーダと共にザフト軍が新たに開発した三機の新型モビルスーツを強奪することを命じられた兵士であった。現在はアウルのアビスが高火力に物を言わせた砲撃で脱出ルートの確保にコロニーの外壁へ向かい、自分とステラは追っ手の殲滅を目的に行動している。目の前のザクを除いて敵機は全滅している。残り時間が迫っている以上、援軍が来る前に早いところ始末してアウルの手助けに回りたいところだ。

 

「ステラ、畳み掛けるぞ!」

 

『うん……』

 

ガイアとの通信回線から幼さの残る少女の声音が届いた。

同時に四足獣型モビルアーマーと化していたガイアは二足歩行型モビルスーツに直すとビームサーベルで斬り掛かった。対してザクはビームトマホークで受け止めるのが精一杯なのか、こちらに向けていた意識が一瞬消えた。

 

「貰ったぁっ!」

 

右手のビームサーベルを突きの構えで握り締め、背後からコックピット目掛けて突進を仕掛ける。向こうもそれに気付いたようだが、もう遅い。

━━━少々手間取らされたが、こいつでお終いだ!

スローモーションで流れる世界の中、突き出したビームの先端が背中に背負ったバックパックを貫いた。これで爆発が起きるだろうが、その前にコックピットを貫いた際の爆発でお陀仏になるだろう。

ビームサーベルがコックピットに届くまで6、5、4、とほぼ停止した世界でカウントダウンが縮まると同時にコックピットまでの距離も縮まる。

3、2、1━━━バックパックが灼き切れ、本体の装甲に届かんとするその直後のことであった。

 

 

 

ステラのガイアが、真横から鉄球でもぶつけられたかのような衝撃を受けながら遙か彼方へと吹き飛ばされた。

 

 

 

「なっ━━━っ?!」

 

 

なんだ、今のは……!?

動揺が招いた停止により、動き出したザクからの横薙ぎに振るわれたビームトマホークに気づき、ビームサーベルを消し去ると姿勢を下げて後退させると、再び抜き放ったビームサーベルでビームトマホークを持つ右腕を斬り落とす。

ザクの戦闘続行を不可能にさせた後は続いてガイアにモニターと通信を回して声を荒げる。

 

「ステラっ!無事か!?」

 

数十メートル先まで飛ばされたガイアにモニターをズームしながらスティングは同僚からの応答を待つ。

が、こちらに向かってくるナニカが見えた途端、スティングは反射的にカオスを動かしてその場から遠ざかっていた。

刹那、カオスがいた場所をナニカが通過した。目測からしてモビルスーツではありえない速度だったと思われるソレが撒き散らされた土埃の中から飛び出した。

 

 

ソレは、一言で表すのならば“塊“だった。

 

 

血塗られた朱を思わせる上半身の装甲。腕を固定して上から被せているのか、塊には頭はあるのに腕が見えない。これでは遠目からシルエットにして見ると、ごつごつした塊に足が生えたようにしか見えないだろう。

 

「モビルスーツ……なのか?」

 

はっきりと外見を見せつけられたというのに、スティングは未だに目の前の塊を纏った機体を今操っているカオスと同じカテゴリーに属されるのだと理解できていなかった。いっそ鋼鉄を纏った化け物と言ってくれた方がまだマシだ。

そんなことを考えているうちに敵であろうモビルスーツがこちらに向き直る。弾き飛ばしたまま動かないガイアを戦闘不能と見なしてカオス(こっち)を狙ってきたのだろう。

 

「ちぃっ、舐めんなぁっ!」

 

正面に立って攻撃なんてしても止められるはずもない。カオスの機動力でもこの距離なら全力で待避すれば十分に安全圏へ逃れるはずだ。

そう踏んだスティングはペダルを踏み込み、敵機の正面から待避を始める。当然足を止めたと同時に向こうも軌道修正をしてから突撃を仕掛ける。

二機の間にはかなりの距離があり、助走にも待避にも十分すぎるものだった。

 

「喰らいやがれ!」

 

敵機から見て右斜めの位置に走り出したカオスのビームライフルがまっすぐに敵機へと飛ぶ。

すでに走り出している敵機には反応できても回避する手段はなく、上半身を覆う装甲に命中する━━━が、ビームは四散して装甲には傷どころか焦げ一つ、無い。

 

「なんっ、だと……!?」

 

旧式のライフルならばともかく、これはさきほど強奪したばかりの最新鋭の機体のはずだ。それが子供にこづかれた程度……どころか何かされたとすら認識されていない(・・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

「まさかあれも新型とでも言うのか……?」

 

もしもそうだとしたら、自身の上官はとんでもないことをしでかしてくれたものだ。こんな恐ろしい機体の情報を掴めていなかったのだ。おかげでスケジュールは台無しになってしまった。

再び足を止めようとふんばっている敵機に警戒レベルを上げながらカオスは未だに立ち上がらないガイアの側にまで来た。VPS装甲を持つガイアならあんな突進でも死ぬことはないだろうが、気絶はしてしまったのだろうと考えながらゆっくりとモニター越しにガイアのパイロットに通信を開こうとして━━━異常に気付いたのはそのときだった。

 

「なっ━━━」

 

先ほどまでガイアはザクから被弾を受けたことなど無かった。

攻撃はほとんどこちらで受け止めていたし、そもそも地上戦に秀でているガイアがこのフィールドで大したダメージを受けることはないと高を括っていたが、目の前に搭乗者スティングの予期せぬ出来事が待ち受けていた。

 

人間でいう胴体の腹部━━━ようするにコクピット付近が、まるでそこだけプレスで押しつぶされたかのように歪んでいたのだ。

 

カオス、ガイア、アビス。この三機の全体を覆っている装甲はVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲は、電流を流すことで相転移する特殊な金属を用いた装甲で実弾や実体剣などの攻撃による物理的な衝撃を緩和ないし無効化するPS(フェイズシフト)装甲をかける電圧を変化させることで防御性能と消費電力を調整できるように発展させたものだ。

ガイアは近接格闘に特化した地上戦闘モビルスーツだ。当然、装甲の堅さは三機の中で突出している。

 

そのガイアが数メートル吹き飛ばされた上に直撃した装甲部が大きく歪んだともなれば、今対峙しているあの化け物の異常性を再認識せざるを得なくなる。

 

『おい!なにがあどうなってんだよ!?』

 

通信スピーカーから声━━━仲間のアウル・ニーダが遠方から戦況を発見したのだろう、普段ではお目にかかれない、緊迫した早口口調で問い詰めてくる。

 

「アウルか……邪魔が入った。それもとんでもない化け物級の、な

 

モニターの先で敵が足を止めた。

あれだけの加速が加わるとやはりというべきか踏ん張るのも一苦労するようだ。Gも相当のはずだが、なぜかそちらは苦しんでいる様子が見えない。案外、パイロットは耐性が強いのかもしれない。

 

『ぅっ……くぅ………』

 

「目が覚めたのかステラ?」

 

ガイア通信スピーカーから、パイロットとして強奪したステラ・ルーシュの呻き声がかすかに届いた。

まだ完全にとはいないだろうが、少しでも機体を動かせるのなら問題はない。

スティングは持参したタイマーに視線を見やる。上官から送られていた予定の時刻が、刻々と迫っている。

 

(くそったれ。迎え(・・)の時間か……)

 

完全にこちらをマークしている敵機は、こちらが避けることに精一杯なのをいいことにあえて突進を繰り出さずに構えることでプレッシャーをかけてきた。

━━━少しでも動き出せばその瞬間にぶち当たる。そう言いたいのだろう。

こっちは早いところ撤退しなくてはいけないというのに、とんだ迷惑だとスティングは内心敵を罵倒する。

そして手持ちのビームライフルに視線を落として段数を確認。左手に持ったままだったビームサーベルにエネルギーを送る。

 

『はん!首でも土産にしようっての!?』

 

隣に降り立ったアビスからアウルの馬鹿にしたような返事がやってくる。

その手にはビームランスが携えられていた。

 

『━━━カッコ悪いってンじゃねー?そーゆーの!』

 

 

━━━さて、どうしたものか。

 

さっきからやかましいほどにけたたましい警告音に耳を痛めている一夏は、やる気満々の二機に対してこちらは少し面倒なことになっていた。

第七区画付近の宇宙から宇宙港にたむろっていた敵モビルスーツを全滅させた後、隠していた多重装甲モードで用意をすませて三機のセカンドステージシリーズの元へ駆け出した。そのおかげでガイアの戦闘続行不可能に追いやり、カオスとアビスにもプレッシャーを与えられた。

だが、それほどにまだ激化する戦いの中、ただ一つの補給もなしに戦い抜けるのだろうか?━━━答えは否、断じて否。

そもそもこのストライク。かつての愛機である白式ほどではないものの、燃費の悪さでは上位に食い込められるほどの代物だ。ビーム兵器も無いわけではないが、射撃系統は完全に実弾に頼る形となる。

そうなると必然的にPS装甲持ちの機体を相手取るには接近戦でない限り厳しい戦いを強いられる羽目になる。

 

━━━そこで用意されたのがこの多重装甲だ。

 

最初こそは中破以上のモビルスーツから装甲をかき集めてはそれを被せたものだったが、ある一人の天才によって劇的に変化した。その結果こそがさきほどのガイアの異常な歪みの秘密なのである。

PSJ(フェイズシフトジャマー)

まだまだ完成には至っていない試作段階のこれは、PS装甲系に触れた部分にのみ溜め込んだ運動エネルギーと電気エネルギーをぶつけることで流れる電圧以上の破壊力を叩き込むというもので、このストライク以外にはまだ使用機が存在しない。

━━━もっともそれは、従来のモビルスーツを遙かに凌駕する靭帯馬力・加速力・跳躍力を得たストライクだからこそ可能になったわけなので、最悪試作で終わる可能性も無きにあらずなのだが……

 

(どうする……?)

 

残りのエネルギー残量からして行動時間はざっと五分程度。

奥の手(・・・)を使えば、稼働時間が伸びてやりやすくはなるだろう。しかしあれは戦闘中にやると機関部やら何やらに影響がでる可能性があるのであまりお勧めされていない。向こうの様子からして撤退を急いでいる以上、一旦退却してから━━━なんて考えは、捕獲を目的にしているこちらからすれば論外な話だ。

と、そうこうしてるうちに腹をくくったのか、それとも何か散弾があるのか、二機はガイアを残してこちらへの接近を始めた。なるほど、距離を縮めて助走させないつもりか。

 

「仕方ない、やるか」

 

そうと決まればまずは敵への接近をするためにストライクの足を地面に深く沈める。短い助走で実行するためには、それを補えるだけのスタートダッシュを要求するのだ。

━━━しかしここで一夏はとてつもなく最悪なアクシデントに見舞われた。

踏み込みのために地面へ沈めた右足が、突如として大きくストライクの体勢を崩したのだ。

 

「ぐっ……!げっ……」

 

一瞬の間に襲い掛かった衝撃に表情を歪めると、すぐさま原因を確認。

どうやら過度の負担で右足がイカレてしまったようだ。

 

「こんな時に……勘弁してくれよ」

 

所謂絶体絶命のピンチに陥っている事態だというのに、どういうことか一夏は特に焦ることもなく比較的冷静だった。いや、そう見えているだけで実際は暗雲が広がりつつある現状に困りだしてはいるのだが━━━とにかくこれでは当初の予定通りにはいかないだろう。

徐々に距離を潰していく二機を捉えながら、一夏のストライクはどうにか体勢を立て直した。が、やはり走ることは出来そうにない。

 

「チッ、仕方ないな」

 

使い物にならない右足と上半身を覆う多重装甲に回していたエネルギーをすべて左足に転送。完了と同時に三十メートル付近にまで接近した敵機を確認してから右足をだらんと下ろし、重心を左足すべてにかける。

カオスとアビスがそれぞれビームライフルを構えるところで二十メートル。

同時に引き金が引かれようとしたその時、一夏は獣の如く吼えた。

 

 

 

「跳べっ!!ストライクッッ!!!」

 

 

 

カオスが目の前にまで迫り、ビームサーベルを振りかぶらんとした次の瞬間、主の言葉を聞き入れた漆黒のモビルスーツは文字通り鋼鉄の大地を蹴り、跳躍して見せた。

しかしその跳躍はとてもモビルスーツが━━━ましてや片足のみで出せるものではなく、一瞬で三十メートルにまで到達するした。が、ストライクの跳躍はまだ終わらない。

突然の出来事に戸惑っている二機の隙をついた一夏はすぐさまレバーを引き絞って握力を最大トルクにまで引き上げる。

 

異変が起きたのは、ストライクが勢いを落とすことなく四十メートルに到達した時だった。

まず上半身を覆う多重装甲と機体本体とを繋いでいた金具が強引に取っ手ごと引き抜かれる。

次に四十五メートル辺りで今度は外側から固定していた留め具が崩壊。外と内の両側からがっちりと固定していた多重装甲が機体本体から離れ始めていく。

 

 

そして五十メートル。

そこまで到達するとストライクの勢いは完全に消えていた。エールストライクのような飛行能力を有する装備もなく、むしろ重しでしかないはずの多重装甲を抱えたまま五十メートルも跳躍するなど、並のモビルスーツでも到底不可能な話で、常識外の靭帯馬力・加速力・跳躍力を持つストライクだからこそ成し得たことだと言えよう。

そのストライク本体の姿も、多重装甲がパージされたことにより第七区画にて見せていた漆黒の装甲を惜しみなくさらけ出していた。

先ほどまでけたたましく鳴り響いていた警告音も、多重装甲に回していた分を取り戻したおかげで幾分かは回復できた。あとは詰みに転じるのみだ。

途端にビームの雨から下から降り出してきたのを見た限り、二機ともよほど驚いて唖然としていたのだろう。意図せずこちらの接近に弾かれたような状態でビームライフルを構えようとしたが、その前にこちらが動き出す。

腰に装着してあったホルダーから三本の投擲爪(ネイルダーツ)を取り出すと落ちてきたところを狙おうとする二機に向けて投げつける。

投擲されたうち、二つはVPS装甲に弾かれたものの、最後の一本はアビスのビームライフルを破壊することに成功する。

 

「ネイルダーツは━━━やっぱり駄目だな。装甲に弾かれて刺さりもしない」

 

冷静に分析をしながら、今度は背中のシュベルトゲベールを抜き放つ。ビームを展開できるこいつなら二機にも十分に対応できるはずだ。

問題は着地を狙った射撃なのだが……もちろん何の考えもなく跳躍するほど馬鹿ではない。

 

「来たか……」

 

モニターに映し出された一つの機影。

正体は先程まで倒れていたガイアだ。そろそろ立ち直してくる頃合いだろうと踏んでいていたが、なんともベストなタイミングだ。

 

「安定翼展開。スタビライザー稼動」

 

使い物にならなくなった右足も、安定翼自体には何ら問題がなくそのままスタビライザー共々稼動し、着地に有利な状況を生み出す。

敵が待ち構えているこの状況だが、だからこそ慌てずに冷静に対処しなくてはならないのだ。

 

「フィールドマップ形成完了。敵機情報、インストール終了」

 

左目(・・)が忙しく動き回った結果無事に情報をかき集めきれたこれらを用いてこのまま一気に押し通すつもりでシュベルトゲベールを構える。

 

「目標のデータ補正良し……発射(ファイア)

 

次の瞬間、こちらに向かって勢いをつけていたガイアと着地を待ち構えていたアビス、カオスにビームの矢が降ってきた。シュベルトゲベールの柄部分に搭載されているレーザービーム砲だ。

もっとも、あちらかさすれば射撃されることなど予想できたのだろう。特に怯んだ様子もなくビームライフルから引き金を引き始めた。当然素直に喰らうはずもなく、下から打ち上げられるビームの花火は安定翼を駆使して次々に通り過ぎていく。

それでも被弾を完全に免れることは難しく、ところどころに焦げ後を作ってしまう。

が、気にしている暇も無い。着地まで残り十秒をきったところで安定翼を閉じると両腕の甲をガイアに向けると、バシュッ!という音を立てて極太のワイヤーアンカーがそれぞれの腕から一本ずつ射出され、ガイアに巻き付いた。そしてそのまま地面に足が着くよりも早くにワイヤーを戻す要領で一気に距離を潰した。

 

「一発、喰らっとけ!」

 

言って、ストライクの無事な方の左足がガイアを蹴り飛ばした。

一瞬思わず左足もひしゃげたんじゃ……なんて一瞬考えてしまったがよく考えなくともこの機体自身もPS装甲を搭載していたことをすっかり失念していた。

しかし、今度は空中だった上に片足のみだったのが良くなかったのか。ガイアは二、三度首を横に振ってから再びビームサーベルを抜き放った。

端から見れば三台の敵機に囲まれた上に片足をやられているストライクでは勝ち目は無いと見て間違いないだろう。実際、ここで足を着けでもしたらその時点でバランスを崩して二度と立ち上がれずに不良の現場の如くミンチにされて殺されるのがオチだ。

━━━なら、どうすればいい?

 

答えは、至ってシンプル。

 

(着地する前に━━━)

 

握られていたシュベルトゲベールを横薙ぎに振り払う。それがガイアの腰辺りに食い込んだところを、さらに力を込めて振り抜いた。

その結果、ガイアは上半身をコクピットの丁度真下から切り離されて地面に墜ちた。

 

「まずは、一台……」

 

続けざまに二本目のシュベルトゲベールを突き刺すと今度はそれを軸にぐるりと一回転。勢いをつけてアビスがこちらに向けていたビームライフルを蹴り飛ばすとそこから地面に突き刺したシュベルトゲベールを握った手を離すと代わりに腰のスカート部からビームサーベルを抜き放ち、アビスの股関節から左肩に掛けてビームサーベルで袈裟切りに斬りおとした。地上で片足だけになったアビスは、バランスを崩して地面へと倒れる。

 

「二台目……!」

 

そして最後━━━完全に死角を取られる形となったカオスにビームライフルを向けられるが、一夏は動じることなく折り畳んだ安定翼を再度展開。空中制御をした後に残されたアビスの下半身を踏み台に最後の跳躍。ビームサーベルとシュベルトゲベールをクロスしてX字に切り裂いた。

 

「━━━三台目」

 

そう呟いた次の瞬間には、ストライクとカオス。他にもガイア、アビスも大地に組する形となっていた。

カオス。アビス。ガイアの三機はコクピットと下半身を分断したはずなのでこれ以上の抵抗は無理だろう。とはいえこちらのストライクも今の衝撃で間接がいかれてしまい、完全に立ち上がれなくなってしまっているので援軍でも来たらおしまいだ。

 

「はぁ……今度会ったら文句と依頼押し付けてやる」

 

ここにはいない、どこか遠く駆けめぐっているであろう知人に対して愚痴をこぼしながら強奪機のパイロットを捕縛しようと拳銃を取り出してコクピットから這い出る。

 

こうして、正史でセカンドステージシリーズモビルスーツ強奪事件と仮称され、物語の幕開けとなるはずであった事象は、未遂という形で幕を閉じた。

 

 

ガンダムの描写って難しい。はっきりわかんだね(今回のgdgd感を直に感じながら)。

次回も来月辺りになるかもですけど応援よろしくお願いいたします!


 
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