No.758838

Another Cord:Nines = 九番目の熾天使達 = 番外編 ディアリーズ×BB編

Blazさん

と、言う事で久々の第二弾。
二日遅れのバレンタインストーリーです。
ちょっとグダグダですがね。

じゃ。若干一名はお覚悟を。

2015-02-16 10:45:10 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:944   閲覧ユーザー数:779

 

 

ノエルルート(エンドのみ)

 

 

 

 

 

確率。それは起こるであろう未来が起こるであろうという数字。

確率によって示された未来は起こる。だが、その確率は大きいものもあれば小さいものもある。

 

 

これは、その小さな確率によって生まれた、限りなくゼロに近い事象の未来・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次元世界というものは管理局に支配されている世界だけがすべてではない。

地球のように管理されない世界も少なからず存在する。

管理局の存在を知る世界。知らない世界。

人が居る世界。居ない世界。

管理外の世界とは、そんな一種のフロンティア(開拓地)でもあるのだ。

 

 

その管理外の世界の中で管理局内でも知られる世界。

 

広大な砂の大地と僅かなオアシスが存在する通称『サンドガーデン』

 

逆に殆どが大海で、陸地が無く人工島のプラントが建設されている『アクアスカイ』

 

地球と自然がほぼ同じ世界ではあるが、科学が無い『フィオナ』

 

荒廃した世界だけが広がり飽くなき戦いを続ける『ロスト』

 

『人生のカジノ』と呼ばれ、一攫千金による成功、または失敗のあるだろう『ジ・ベガス』

 

 

そして。その管理外の世界を纏め、安定を齎している『管理外の管理局』と呼ばれる『双剣の騎士団』。その騎士団達が自治を行う世界。

人は『アルカディア』と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

アルカディアは他の管理外の世界と比べるとその文化・技術レベルは群を抜いており、一部ではミッドチルダ以上とも言われている。

魔法は魔術と術式の研究と発展が絶えず続き。科学は新エネルギーなるものが発見されている。

地球ではオーバーテクノロジーともいえる科学技術が。ミッドチルダでは禁忌とも言われる魔法技術がココでは発展していたのだ。

 

そのアルカディアにある大都市。首都アテナイは所謂高層ビルという建物が立ち並ぶ街。

すべての集約点とも言える。

その高層地区にある高層マンション。其処に、『彼ら』は隠れ住んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・える・・・」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

「・・・の・・・る・・・」

 

「うんっ・・・あと十分・・・」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

《 バシャッ! 》

 

 

ワンボタン押す。それだけで暗くなっていた部屋の中に眩い朝日が輝き差し込んで来る。

 

しかし、押したのはボタンではなくスイッチとも呼べるもので、そこに手を置くだけで自動的に指紋を認証。登録された人物であればそのシステムが作動する。

 

 

「んっ・・・眩しい・・・」

 

窓にはブラインドがかけられていたが、スイッチを触っただけで窓一面に張られていたブラインドが瞬時に取られ、昇った朝日の光が一杯に入ってくる。

晴天の光がほのかな暖かさと共にさし込み、白い毛布に包まる誰かの白い肌に当たる。

日の当たる肌は目覚めの光を浴びて起き上がるが、その身体の持ち主は朝が苦手なのか眉を歪め苦しそうな表情をする。

暗い部屋の中でゆっくりと眠っていたのだ。突然日の光を浴びさせられていい気分をする者はそうは居ないだろう。

 

「ノエル!もう朝だよ!」

 

「ううんっ・・・あと十分と三ヶ月・・・」

 

「十分って・・・もう八時だよ!?っていうか三ヶ月って冬眠する気だよね!?」

 

「ふにゅ・・・」

 

「・・・・・・。」

 

仕方が無い。

ノエルと呼ばれた少女を起こす為、彼女を起こしに来た青年はため息を吐く。

スイッチの傍から離れ、ノエルが寝ているであろうベッドによって行き、いまだ眠ろうとしている彼女の顔を確認する。

 

「むにゃむにゅっ・・・」

 

「・・・・・・何時まで起きてたんだか・・・」

 

 

白い毛布からは小さな少女の顔が一つと小さな手が出ていた。

金色の髪にまだ少し幼い顔つきで、眠るその顔はまるで小さな女の子だ。

気持ちよく眠るその顔は、安眠の証拠で規則的な呼吸と共に彼女はすやすやと寝息を立てていたのだ。

 

しかし、それを見る青年の表情は浮かない。

それは何時もなら彼女は最低でも七時過ぎには目を覚ますからで、八時になっても彼女が起きないのに困り果てていたのだ。

日常なら、彼女は甘く香る朝食のパンの匂いに釣られて目を覚ますのだが、夜遅くまで何かをしていたのだろうか何時もよりも睡眠時間が長かったのだ。

 

しかし、起きてもらわないと彼も困る。

この後に彼も色々と用事が詰まっているからだ。

加えてその用事は少なからず彼女にも関係のある事。起きてもらわなければ困る。

その彼女を起こす方法。どうにかせねばと思う彼は最終手段に出る。

その手段は自身の恥じらいを捨てる必要があるが。

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

彼女のもとに寄ると、青年は深呼吸をする。

そこまで大袈裟なことなのかと思うが、彼からすればそれほど覚悟の居る行動なのだ。

それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ・・・」

 

青年は自分の顔を彼女に近づける。その距離は数ミリとなく額がふれあい、少し乾いた唇も触れ合ったのだ。

肉と肉が小さくふれあい、水滴が弾くような音を立てる。

彼女の口は温もりによって潤い唇も柔らかい。赤子のようだ。

 

 

 

 

「・・・・・・ふえ?」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・えっ・・・ええっ・・・///」

 

 

そして、その口付けにやっと気づいた彼女は白い毛布の中、顔を赤く染め上げていたのだ。

突然の事。突然の恥ずかしい事。突然の行為に。

それから頬を真っ赤に染めた彼女は直ぐ様白い毛布の中に隠れ、恥ずかしさから必死に逃れようとした。だが、そのすべてはもう起こってしまったことだ。

忘れようにも忘れられない。

 

少女ノエル=ヴァーミリオンは『また』、朝の奇襲を受けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううっ・・・ウル、酷いよぉ・・・」

 

「酷いって・・・ノエルが起きないから悪いんでしょ?」

 

「しゅん・・・」

 

まだ顔が赤いノエルは、口元に手を当て彼女に目覚めの口付けをした人物であるウルことディアーリーズに泣きかけの目で見ており、その目の先に居るウルは自分にも罪はあると分かっているが、それを行う原因となったのはノエルではないかと言い返す。

押しの弱いノエルは素直にそれを認め、しょげた顔でとぼとぼと歩く。

 

そう。二人は今歩いている。

先ほどの部屋から外出し、今は首都アテナイ都市部の歩行者用の道を歩いているのだ。

大都市の道というのでヒートアイランドによってやや暖かいのではないかと思えるが、技術レベルが違うこの世界では朝の肌寒さというのが直接伝わり、ウルが着用する蒼いコートも気休め程度にしか防寒対策にならなかった。

しかし、ノエルはコートと中に着ているシャツなどを重ね着している為、ウルよりも体温は高く足はニーハイだけだというのに寒そうな表情を欠片も見せていなかった。

 

「今日も寒いね、この街・・・」

 

「うん。ウル大丈夫?少し寒そうだけど・・・」

 

「礼装がこれだからね。寒いのは確かだけど、歩いてたらその内暖かくなるよ」

 

「あ、それって確か」

 

「うん。冬木でカレンに作って貰った新しい『魔霊礼装』。向こうが随分アッサリと捨ててくれたから嬉しいといえば嬉しいけど・・・」

 

「ああ・・・そういうば・・・」

 

 

 

 

 

 

 

話は今から数ヶ月前にさかのぼる。

所用で冬木の町に訪れていたウルは、町のはずれにある教会に立ち寄りある人物と会っていた。

 

カレン・オルテンシア。その教会に住む代理司祭にだ。

 

 

 

 

 

 

《 数ヶ月前 》

 

 

= 冬木市 =

 

 

「さて。貴方を見ているだけでイライラするからさっさと片付けを終えてさっさと爆発しなさい、ウル」

 

「開口一番それ、って言うか普通に酷いことを平然と言ってるよね?」

 

白いロングヘアーと、よく見るだろうシスター服。

瞳は金色の輝きを見せているが、その実右目はほとんど視力がない。

目だけではない、味覚も殆ど感覚を失っており、過剰とも言える味でなければ味を知ることも出来ない。人として傷ついた身体を持つ幼いシスター。

それがカレンだ。

 

「分かってるでしょ?私。貴方のようなリア充は背筋に虫唾が走りまくってイライラしてそこ等の不良をサメの池に叩き込んで、あの白髪もどきの貧乏野郎とヤクザ顔の改造人間男とどこぞの暗殺者のクラスと妙に声が見ている男を聖杯に投げ込みたいぐらい嫌なの」

 

「ピンポイントな人物選び・・・と言うか、それって唯の八つ当たりじゃ・・・」

 

「五月蝿い。早く片付けなさい」

 

「・・・はい・・・・・・」

 

ウルが教会に来た理由。それは、知り合いであるカレンからある頼み事を頼まれたからだ。

教会の地下室の蔵。そこを一人では整理できないと言う事で整理の手伝いに来て欲しいとの事で、断る理由もない彼はその話を受けて冬木に向かった。

そして。会って直ぐに彼女の毒舌とも八つ当たりとも言える罵声挨拶を受けていたのだ。

 

「と言うか、カレンは一体何処の整理を・・・」

 

「さぁね。貴方はこの蔵を整理して」

 

「・・・。」

 

 

 

 

「あ。後、ココには対侵入者用の魔術が多数と言う言葉では生易しいぐらい『私が』設置したから。気をつけなさい」

 

「・・・それ先に逝って・・・ぐふっ・・・」

 

 

 

 

《 二時間後 》

 

 

 

 

「・・・ふうっ。とりあえずは粗方片付けたけど・・・ん?」

 

「あら。そんな所にぶち込まれていたのね」

 

「・・・言い方少し荒っぽくないかな・・・で。これは?」

 

「ココの前任者の『麻婆愉悦』とかいう神父が、聖堂教会と魔術教会から隠れて蒐集していたという素材らしいわ。詳しくは知らないけど」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

「・・・その麻婆愉悦って、誰なの?」

 

「・・・まぁ思い当たる人物はいるっちゃ居るんだけど・・・」

 

「・・・?」

 

「今頃生きてるのかどうなのか・・・」

 

 

ちなみに、彼の言う麻婆愉悦という人物は『一応は』故人だ。

だが、彼が思うに麻婆の性格と能力、そして過去から早々死にはしないだろうと密かに彼の生存を思っていた。

 

しかし、生きていたら生きていたで、またその名の通り『特製神話級究極麻婆・KOTOMINE』を食べさせられる可能性があり、更には何処から現れたのか昔ながらの移動屋台か何かでぼったくりをさせられた挙句脅し半分に先ほどの麻婆を食べさせられるのではないかと恐怖もしていた。

 

 

「・・・・・・いや、死んでてくれたほうが有難いか・・・」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?」

 

「何してんだよ、オッサン」

 

「いや。誰かが私のことを呼んでいた気がしていたのでな」

 

「年取ったな」

 

「まだボケとらん」

 

「・・・おかわり」

 

「いいぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・本当に生きてそうで困るんですが!?」

 

「ウル。本当に苦労したんだね・・・」

 

「ああ・・・改めてこの生活がどれだけ楽しいか、よく感じるよ」

 

「あはははは・・・・・・」

 

 

 

楽しい生活。楽しい日々。

そんな生活をまた送れるなどと何時思えただろうか。

思えば、彼と出会い共に過ごした日々に嫌な事は何一つ無かった。

 

 

 

自分でさえも知りえなかった多くの事象。

無限ともいえるその確率と可能性を見た刻。ノエルは痛感した。

自分の観測()てきたものは、無限にある確率事象の一欠けらだった。

総てを分けていた隔たりは消え去り、無限の事象が姿を見せた。

その一つを、彼女は今生きている。

 

 

 

「・・・楽しい、かぁ・・・」

 

もし別の事象ならどうなっていただろう。

これより良い生活をしているのか。総ての収束ともいえる世界に到達したのか。

はたまた、その逆か。

 

無限の答えを、限りある自分の力では到底総てを観測ることは出来ない。

 

そんな事は自分がよく分かっている筈。なのに、ノエルは時折そう思ってしまう。

もしあの時、ああなっていたら。もしあそこで、ああならなかったら。

だが、それはすべて起こった事。起こってしまったことだ。

今更変える事は出来ない。

そして。

 

 

「・・・ノエル?」

 

「えっ何!?」

 

「いや。ちょっと上の空だったから・・・」

 

「あ、ゴメン。ちょっと考えていたから・・・」

 

「・・・考え事?」

 

「うん。けど・・・大丈夫」

 

 

彼女は起こった事象を変えようとは望まない。

その一つ一つが自分が生きているという確かな証拠なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、用事は済ませたけど・・・ノエルはどうするの?」

 

ウルとノエルは自分達の共通の用事を済ませ、その足を自宅にへと向けて歩いている。

時間は軽く数時間を越し、日もすっかりと東の空に落ちようとしていた。

東の空が紅く輝き始め、一日が終わろうとしていたのだ。

今日の用事を無事に済ませたウルは一息ついたのか、ノエルにこの後の予定を尋ねた。

 

「えっと。先に家に戻るけど・・・」

 

「・・・?」

 

「あ、あのさウル・・・」

 

「何?」

 

「ちょっと遅れて家に帰ってきて・・・くれない?」

 

「・・・え?」

 

両手の指をからませ、もじもじとするノエル。

夕日が当たっているからか、彼女の頬は妙に赤い。目線を下に下げ、足下を見る彼女の姿にウルは疑問符を頭に浮かべる。

彼の方は今日の用事を済ませればしばらくは特に予定も入っていないので、別に遅れて帰宅しても問題はない。

そんな単純な考えだけに、ウルは僅かな間で答えを出す。

 

「・・・いいけど・・・なんで?」

 

「あ・・・実は・・・」

 

「・・・まさか、また散らかしたとかじゃ・・・」

 

「うっ・・・えっと、そ、そう、なん、デス・・・ハイ・・・」

 

「・・・仕方ない。片付いたら連絡してね?」

 

「うん」

 

ぎこちない言い方で、ウルの言葉に肯くノエル。

彼女は生活が基本駄目なので、その殆どを彼に手伝ってもらっている。

炊事洗濯その他多数。最早ノエルは手伝ってもらっているという状態なのだ。

しかし。今回の彼女は違っていた。

 

(よかった・・・何時もの性格が功をそうして・・・嬉しくないけど、これで時間はある!)

 

内心でガッツポーズをするノエルは自分に自虐し、彼の性格に何時も怒りを溜めていたが、こんな時に限っては役に立ったと時間を手に入れたことに喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

ノエルが先に家の片付けに戻り、自宅の部屋を片付けるといって彼に時間を空けて戻ってくるようにと頼んでから十分程度。

ウルはその間、賑わう表街道へと足を踏み入れていた。

そこは首都の街の中では最も賑わいを見せる場所で、その理由とも言える様々な店舗や喫茶店がならび早朝と深夜を除き殆どの時間は人が溢れる場所となっている。

店の種類は実に豊富。服飾店を始め、装飾のみを扱う店や女性か男性に絞った店も少なくは無い。中には宝石店、本屋、家具屋、花屋など正に店という店があるだけ集まった場所。それがこの街道なのだ。

 

「えーっと。確かアレは・・・」

 

その街道にウルが入った理由はある店に立ち寄る為。その店は彼がこの街道に始めて入ったときから気に入っている店で、店の店員とも何度か顔を合わせているうちに仲良くなったほどだ。

 

「あった!」

 

しかし、その店は街道に並ぶ店とは一風違った店で、知っている者は恐らく数える程度なのかもしれないと、店員たちはぼやいていた。

 

ウルは一人、街道に並ぶ店と店の間にある階段を見つけ上っていく。

コンクリートとレンガだけで出来た見た目の古い階段だ。しかもトンネルの様に周りは囲まれており、足音が不気味に反射する。

見た目からすれば誰も近寄らないだろう階段で、人によるがあまりに不気味な見た目と不自然な場所にある階段なので、怖がりな者はそこを天国に繋がる階段だと根拠もないことを言う。

そこまでてはなくとも、薄暗く不気味な階段を誰が好き好んで上るだろうか。

上る者は馬鹿か。いや違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ウルくん!」

 

「どうも、カエデさん」

 

その先を知っている人物だから。

 

 

雑貨店『スカイガーデン』小さな隠れ家のような場所には一軒の店が建っていたのだ。

 

 

「あれ、今日は一人?」

 

「ええ。ノエルは先に家に戻って部屋の片付けをって」

 

「ふーん・・・」

 

その雑貨店の若き店主カエデは名前の通り楓の葉のような髪の色をする女性でウルとは仲のいい間柄。ノエルとも同じく仲がよく何かと相談に乗ってくれる人物なのだ。

 

「・・・鈍感だね」

 

「え?」

 

「いや。こっちの話」

 

「・・・?・・・?」

 

 

彼女の店は、あの不気味な階段の上にあり、まさに空中庭園のような場所となっている。

また、店自体は両隣の店舗に挟まれ押し出されたかのように上にあり、辺りを一望できる場所でもある。

しかし、流石に不自然すぎるという事で彼女が半永久型の結界を使用し、店の姿だけは見えないようになっていて外からだと店のある場所は青か赤、もしくは黒い空となっている。

 

何故彼女がこんな事をしてまで店を開いたのかは不明だが、品揃えなどがよく、ウルはココを見つけてから子供の様に何度も足を運んでいたのだ。

 

「楓さん、二人は?」

 

「スミレ姉さんは買出し。クルミは中でレジ番。ダルそうだから話だけでもしてやってね」

 

「あはははは・・・」

 

バルコニー風になっているココは『店』という建物は然程大きくはない。

一分を歩けば店の全部を見て回れるほどの小ささだ。

だが、それでも品数は豊富なのは確かで表に出していない商品も扱っており、ウルもよくレジ番の『少女』に頼み店の奥から商品を取りに行ってもらっている。

 

 

 

 

「ん?おっ!ウル兄ぃ!」

 

「クルミ。相変わらず暇そうだね」

 

「だって客がぜんぜんこないんだぜ?来るのはウル兄ぃとノエルとから・・・あと指で数えられるぐらいだしさ」

 

胡桃と似た色の髪をポニーテールで纏めた少女クルミ。男勝りな性格と話し方だがカエデ曰くまだ子供との事でウルとノエルによく懐いており、彼の事を『ウル兄ぃ』と呼んでいるぐらいだ。

 

「で。今日はどうしたのさ?」

 

「ああ。ちょっと時間つぶしのついでに買い物を・・・」

 

「・・・追い出されたのか?」

 

「違うよ。ノエルに帰るのを遅くしてくれって言われただけ」

 

「やっぱ追い出しじゃん」

 

「ノエルが居候的なアレだからね!?」

 

「ま。そんな未来の事はどうでもいいとして。何見てく?」

 

「未来に起こることを前提としているのはさておき・・・実は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

ノエルの方はというと、彼女が言った『片付け』を実行せずに別の事を実行しており、極単純な表情しかしない彼女には珍しく、何かに没頭し苦労している表情だった。

何かに苦労する表情など、彼女は滅多にしないのだ。

何時もほうけた顔で電子の海を彷徨っているか、甘い物を食べ喜ぶか、焦り、泣き、むくれ・・・

行き当たりばったりの選択だけしかしないような彼女が、最近はもう見せなくなった表情。それが今行われていたのだ。

 

 

「えっと。分量はOK。時間も大丈夫。後は袋に詰めれば・・・」

 

 

普段は入らない調理場に立ち、金属音などを鳴らし何かをするノエル。

調理場に入るのはいつもウルの役割で、自分が入るのは冷蔵庫の中を覗き食べ物か飲み物を頂戴する程度。つまり。彼の仕事場とも言える冷蔵庫の先には踏み入れたことが無かったのだ。

 

「あ、時間!・・・ってふえ?!もうあれから二時間経ってたの!?」

 

その新しく感じる世界に足を踏み入れたからか、ノエルは黙々と作業を行っていたようで時間が経つのを忘れていたようだ。

既に紅い夕焼けの日がゆっくりと東の空に姿を消しつつあり、西の空はもう暗い寄るの世界が顔を見せ始めている。夕方から夜への変わり目の時刻になっていたのだ。

 

「不味い、ウルのことだからなんか色々と買ってきて戻って来るはず!今のウチに袋詰めしないと・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「えっ・・・えええ!?」

 

しかし時既に遅し。ウルはたった今帰宅し、戻ってきたのだ。

何時もなら彼の声に反応はするが、ようやく食事にありつけると喜ぶところだが今回はもう少し遅くでもいいのにと思い、先ほどまでの焦りが余計に大きくなってしまい、ノエルの頭は完全に混乱状態となっていたのだ。

 

「え、あ、ど、どうしよ・・・まだ出来てないのに・・・!!」

 

「ノエルー片付け終わったー?」

 

「ひあっ、ええっと・・・そのウル待って!?」

 

「・・・アレ?部屋じゃない・・・まさか!」

 

「あ、ちょっ待って!!」

 

ノエルの制止は空しく、ウルはノエルがつまみ食いでもしているのではないかと思いむくれた表情で調理場のある方の部屋に入る。

しかし、そこにはウルの考えとは全く別の光景がその場にあったのだ。

 

 

 

 

「ノエ・・・あれ?」

 

「う、ウルゥ・・・」

 

「ノエル・・・その格好・・・」

 

水色のエプロンをかけ、白い三角巾を被るノエル。

その彼女の手や頬などには白い粉や茶色い何かがついており、彼女が何かを作っていたというのが見てわかる。

しかし、一体何を。考えるウルは自分も持っている知識だけでは分からないと諦め、ノエルに訊く。

 

「ううっ・・・」

 

「一体なにをしていたの?っていうかその格好はまさか・・・」

 

「・・・ウル。今日は何月何日か覚えてる?」

 

「えっ?二月十四日だけ・・・まさか・・・!?」

 

 

「・・・・・・うん」

 

 

「・・・・・・の、ノエル・・・」

 

直後。ウルの顔色が真っ青の深海色に染まっていく。

二月十四日。その日になにがあるのか。その日に何をするのか。

それを思い出したウルだが、同時に別の事も思い出し直結された。

彼が顔を真っ青にする理由は唯一つ。

 

彼の目の前に立つ人物。ノエルは壊滅的に、いや絶対的に料理が出来ないのだ。

彼女曰く「料理で味見をせず、作っただけで満足する」。

料理の中でそんな事が許されるはずが無い。絶対にだ。

しかし、本人がそれを直そうという気が欠片もないので、それによる被害が年々増大しているのだ。(特に友人関係が)

 

「早まっちゃ駄目だ!!!?」

 

「なんで自殺願望している相手に言う台詞を言うの!?」

 

「いや、だってノエルがその・・・」

 

「違うモン!!今回はちゃんと本を読んでその通りに作ったんだもん!!!」

 

「・・・え?」

 

 

「うう~・・・」

 

「そ、そうなの?」

 

「・・・・・・。」

 

すると、ノエルはウルの言葉に答えずに後ろを向く。

彼女が後ろを向いて歩こうとした時、ウルは思わず彼女に声をかけそうになるが心の奥底で抑止が働いたのか口を開けても言葉を出す事はできなかった。

そして彼女に悪いことをしてしまったかという罪悪感が彼の肩に伸し掛かったのだ。

 

「・・・・・・。」

 

が。それは彼の考え過ぎな事。実際、彼女はある物を取りに行ったのだ。

 

 

「・・・ウル」

 

「えっ・・・」

 

「こ、これ・・・」

 

ノエルはそう言って両手に包み込んだ何かを彼の前に差し出す。

そこには彼女が今までの時間を費やしてまでやりたかった事、その答えがあったのだ。

 

「・・・これ・・・もしかして・・・」

 

 

 

 

 

 

「は・・・ハッピーバレンタイン・・・///」

 

 

 

 

 

 

チョコの綺麗な色に染まったクッキーが数個。

ノエルの手の中に包まれ、甘い香りを漂わせてその小さな姿を彼の前に見せた。

まだできたてなのか熱を帯びている感じもあり、香ばしい匂いが鼻を刺激する。

 

「上手く・・・出来たか保障はないけど・・・頑張って、作った・・・」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・ウル?」

 

「・・・食べても・・・いいかな?」

 

「え、ああ・・・いいよ。これウルの分だから」

 

腹に刺激が行き渡ったのか、ウルはノエルに尋ね許可を貰うとその手に包まれた小さなクッキーの一つを摘み上げる。

コイン程度の大きさだが、まだ少し暖かい。

その暖かさがなくなる前にとウルはクッキーを口に運んだ。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・ど・・・どう・・・かな・・・」

 

「・・・・・・・・・。」

 

失敗してしまったのか。だんまりを決めるウルにノエルは不安な表情となっていく。

元々料理をして成功した事がないのは自分も知っている。だから、今回はあえて料理本通りにしか作らなかったのだが、それでも自分の料理下手は無限ともいえる確率事象があったとしても直らない確率しかないのだろうか。

次第にノエルの目の裏は熱くなり、熱い水分が漏れ始める。

 

だが。

 

 

「・・・・・・ノエル」

 

「・・・・・・え・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・美味しいよ」

 

「・・・・・・ッ!!」

 

「正直、ここまで成功したってことに驚いて、しばらく声が出なくってさ・・・って・・・ノエル?」

 

「・・・ほ・・・ホント?」

 

「う、うん」

 

「本当に本当?」

 

「勿論」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後。ノエルは両手にクッキーを握り締め、ウルへと飛び掛る。

突然ノエルが飛びついてきたのに驚いたウルはノエルを抱きかかえ、後ろに飛ばされていく。二人はその後重力に従い地面に足と尻をつかせ、ウルはノエルを抱きかかえたまま壁に激突する。

 

「いっ・・・つつつ・・・」

 

「・・・・・・たぁ・・・」

 

「ノエル?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よか・・・たぁ・・・よかったよぉ!!」

 

 

 

 

 

「・・・・・・。」

 

ノエルはあまりの嬉しさに泣き出してしまい、彼の胸の中で大粒の涙を流し泣き声をあげていた。

本当に心から旨いと言ってくれる人が過去に居なかったから。

過去一度も成功しなかった事が成功したから。

そんな嬉しさと報われたという思いが一気に湧き出て、彼女は『あの時』以来の大泣きをしていたのだ。

 

「・・・うん。よかった。本当にね」

 

 

 

 

 

 

 

バレンタインデー。その日、ノエルは小さな奇跡を起こした。

それが確率の話なのか、それとも本当に奇跡の話なのか。

少なくとも、今はこの出来事が事実であるのは間違いない。

喜ぶべき小さな奇跡に今はそれに酔いしれよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ。

 

 

 

「・・・ところでノエル」

 

「ふえ?」

 

「見たところ、入れる袋がいくつか見えるけど・・・他に誰に上げるの?」

 

「ええっと・・・まず会えたらだけどラグナさんと・・・Blazさんと鈴羽ちゃん。で、ニューちゃんと・・・後は、こなたちゃんと咲良ちゃん。で、後は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ZEROさん?」

 

「ぶっ?!」

 

「え、どうかしたの?」

 

「い、いやどうしてZERO!?」

 

「え、だってZEROさんが・・・」

 

 

 

 

 

 

「お前の作ったヤツ。食ったら腹の調子が良くなったからよ。また作れ。で直ぐに持って来い」

 

 

 

 

 

 

「て言ったから、私風に『アレンジ』したヤツを・・・」

 

 

「・・・・・・の、ノエル。他のみんなのは・・・」

 

「・・・?」

 

「・・・まぁ・・・大丈夫だよな・・・」

 

「・・・・・・♪」

 

 

 

そんな会話を二人は抱いて抱かれての体勢でしばらく続けていたという。

 

ちなみに。ウルが一体雑貨店で何を購入したか。それは二人ともう一人の秘密である。

 

 


 
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