No.758740 0mキョリ(弱ペダ/荒金)2015-02-15 21:43:50 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:908 閲覧ユーザー数:907 |
金城にとって荒北とセックスすることは、最初から違和感も抵抗も無かった。
同性に抱かれる側という、ついぞ生きてきて遭遇していない立場をも、悩んだのはほんのわずか。
当時の荒北が眼を見開いて「マジ?」と聞き返したほど。
ところが最近、荒北との関係について、金城の中で一つの違和感が色を為してきた。
それは、荒北と寝るようになって数回。週末になれば、どちらかのアパートに居座るのも当たり前になった頃の、こと。
今夜は、金城のアパートに荒北が押し掛けている。家主がアルバイトから帰るのを一人で待ち、我が物顔で部屋を使うのは、お互い様。
違和感の色が濃くなったのは、疲労度が残る体で、荒北とユニットバスでセックスをした時だ。
狭い空間での行為は体に負担がかかる。やるならベッドでと、希望を出した金城の声を、荒北は自身の唇で塞いだ。
お湯がかかる体に宿る熱が、あっさりと荒北の手によって上げられていく。せき立てられるのは、今夜に限ったことではない。シャワーの音に、別の水の音が混じっていくのを、金城も受け入れた。
そうして。
荒北はといえば、風呂から先に上がるなり、冷蔵庫にストックしてあるベプシを飲んでいる。
「荒北」
「んあ?ナンだヨ」
金城に名前を呼ばれて口からペットボトルを離すと、容器の中で炭酸の泡がはじけた。テレビの付けていない部屋に主張されたものの、取り立てて気にはとめない。
金城が気にしているのは、一つ。
「荒北は、俺をどうしたいんだ」
「ハア?」
金城の脈略のない質問に、荒北は素直に聞き返す。
「どう、ってナニが?」
片方の眉をひそめ、金城の顔をのぞき込む様は、端から見れば威嚇しているようだ。
だが、荒北という男をそれなりに理解している金城にとって、それは威嚇でも脅しでもない。
金城の真情を探っているだけなのを気づいた上で、質問に対する質問へ返答する。
「セックスをしようとするのは強引なのに、俺の体の負担のことを、ちゃんと考えてヤッているだろ」
「……口に出して言うなッテ」
話の本筋は見えないが、荒北は聞き返した己に脱力する。照れのあまり、その場にかがみこんでしまいそうになるのは、一言も違わずの事実だから。
手に馴染むペットボトルが、突然所在無げに思え、半分ほど残る黒い液体が、持ち主に合わせてゆらゆら揺れる。
言うなと、言われてしまった金城はといえば、また一つの質問に平然と返す。
「どう、と聞き返したから答えているだけだ」
「あー、分かったヨ。で、それが何、当たり前ジャナイの。しかもさっきは、ソッチから言ったんダロ」
目線を反らせたのは、最初だけ。最後は、事実確認を込めて横目に見やる。非難ではないと知っている金城も、頷いた。
抜き合うのではなく挿れたいと告げる荒北へ、金城は頭の片隅でも残していた明日の予定を、相手に思い出させた。
明日は二人共、一日空いている。天気予報も良好だということで、以前から辿ってみたいコースを走る計画を、実行するのだ。
荒北も忘れてなどいない。ただ、コトに及ぶ場では、頭の隅に追いやりすぎていただけ。
ユニットバスにコンドームは置いていないなかの、挿入間際に言われた中、荒北は擬似挿入にとどめた。
果てる体力で終えた行為は、シャワーの音では掻き消せないほどに、ゆるやかな背徳感を空間に反響させる。
有り体にいえば、楽しめた。
それを振り返ろうとする金城の言葉に、まだゴールは見えない。誘っている訳ではないのは、表情を見れば分かる。
彼は、至極真面目に、荒北へ尋ねているのだ。
―荒北は、俺をどうしたいんだ。
軽はずみに返してはイケナイと、本能が教える。
荒北は、金城から離れ、リビングにある金城のベッドに腰を落ち着ける。足下には中身を残したままの、ペットボトルを置いて。
「荒北?」
「ヤった後ダゾ。オレはソウイウ話、まじめな顔でやれないッテェの」
ポンッと、自分の横を叩いて主を招く。素直に近づく金城の腕を取り、ベッドに押し倒す。重力に逆らう事無く沈む男を見下ろし、目線が交差する。
ようやく、聞く気になった。
主軸がどんなモノであれ、情事に関わることなら、この状態が好ましい。
「んで?」
金城の首筋に鼻筋を寄せ、同じ石鹸の匂いのする、けれど違う体臭から、行為の残り香を感じる。
「荒北、これだと俺が落ち着かない」
「バァカ、知るかよ」
顔を上げた荒北が笑うと、水分の含む前髪が少し揺れた。濡れたままで放置してなどいないので、毛先から雫は落ちたりはしない。
視界に埋まる、してやったり顔の男に、心に染みる違和感の色が明確な形を描く。
「荒北は男前だな」
「ア?」
「覚えているだろ、男同士のセックスの仕方を、お前はきちんと調べて準備までしてからヤったの」
不意の賛辞に付随する二度目の事実確認に、荒北は力なく金城に体重を預けた。
ペースはまだ、相手のままだ。とはいえ、やはり話の主軸は情事に関すること。
荒北は、何度だって鮮明に振り返られる。
「ヤリ方知ってんのかて、マジ顔で振られてダ、適当なこと出きるかヨ。やっぱ女とヤんのとは違いソウじゃねぇか。実際、大変ダッタロ」
振った相手が忘れる筈もなく、金城は首筋から感じる鋭い視線を、笑うことで肯定する。
「はは、そうだったな」
受け入れる側の負担を、誰よりも自身の体が知っている。今でこそ挿入までのセックスも楽しめるが、最初は荒北の言葉通り、『大変ダッタ』。
恋に恋する間も与えず、本能に追いつくまでももどかしく、ただただ欲しいと求めた。
それが狂い無く、互いにピタリを重なることを幸福と知るのは、まだ少し先。
今は狂うほどの欲望に、僅かな理性を織り交ぜる関係を、楽しむだけ。
そして金城だけが抱く違和感ではないと、金城は、先ほどの行為で気付いた。
「お前は、男前だよ。ロードと同じ、努力する姿は真っ直ぐで、人間として尊敬できる。だから、俺はお前に抱かれることに不安など無かった。こうなった関係にも問題はない」
荒北の頭に手を添えれば、見たままの水分が指に付く。乾ききった己の髪とは違う感触を楽しむように触れ、ほんの少しだけ顔を傾ける。
これまでと同様、ユニットバスでの際、荒北は無意識だろうと金城はふんでいる。
相手の体を労わり、負担の少ない行為へと理性を飼い慣らす奥で、欲に食い殺されんばかりに興奮する獣が喉を鳴らしているのを。
実際のところ、我慢する姿に無意識さはない。鎖という手綱を握れていることに感心すらする。
しかし、衝動と本能という、俗物的な濁りのない濁りを金城に見せているかといえば、そうではない。
荒北がロードで見せている、純粋であけすけのない姿だけでは満足できない部分が、きちんと金城の中にもある。
「だから、その男前の部分を剥いでみたところを、見てみたくなったのかもな」
獣のように光る一瞬の眼差しに興奮した欲に煽られたか、己の中にもある欲を飼い慣らすだけではつまらなくなった。
金城の投げたボールの強さに、驚きから顔を上げた荒北の目には、挑発して笑む金城の姿が映っている。
そうだ、彼もまた、紛れも無く男なのだ。
彼は問うた。
―荒北は、俺をどうしたいんだ。
「荒北、ただの男になったお前は、俺をどうしたい?」
彼は知っている。
喰らい尽くすには、鎖を握る手を緩めてやればイイと。
喰らい尽くされるのがドチラカまでは、教えないままに。
荒北の喉仏が、ゴクリと上下する。
「マジか、テメェ」
「マジだな」
茶化す言い返しだが、金城の不適な笑みに冗談は混じっていない。だからこそ、タチが悪いのだが。
ハーッと、ため息をつき、舌打ちまで付けた。乾ききっていない髪をガシガシとかき乱すのを、金城は既視感で見上げる。
衝動と折り合いをつけ様と足掻く、理性の姿だ。
一寸してから、荒北が吐き出すつもりだった再度のため息は、音にも出ずに飲み下された。
その代わりとばかりに金城の頬に手を添え、触れるだけのキスに収める。
「んな事を、サラリと言うなって。ホント、金城ォって変な奴ダネ」
苦笑いの真意を探るより、キスにはキスで返す。
「惚れた欲目だ」
「ア、ソウ」
啄ばむような優しいキスの最後に金城の唇を舐めたのは、彼の中の獣に違いない。現に、苦笑いを浮かべた同じ口元の端が、別の弧を描いたから。
「オレも惚れた欲目ってヤツで勃ちそう」
「既に固いぞ、元気だな。あいにくと、俺は少し疲れているんだが」
きっと金城はこう返すだろうと、荒北には分かっていた。
「良イ、このまま寝て鎮める」
至極あっさりと金城から離れるや、すぐ横にゴロンと転がる。
一方で起き上がった金城からだと、右肩をシーツに沈める荒北の顔は、背中と左肩によってうまく見えない。
「このままでか」
「ソウ」
「ティッシュいるか」
「イラネェよ」
空気読メと非難の後、「だから」と続ける。
トゲのある声はなりを潜め、ソレは喧嘩を売る眼差しでもって、金城を肩越しに睨みあげる。
「今度ヤる時、覚悟しとけヨな。同じ男を煽ったんダゾ、マジで分かってんのかヨ?」
自分の違和感を、自分だけの物にするのを止めた金城の答えを、最初から分かっていての、事実確認。
「ああ、覚えておく」
そうして確認を繰り返し、積み重ねるのを、告白の代弁に使う。
けれど、好きだと言う幸せも、彼らは知っている。
金城の同意を見てから、フイ、と視線を外した。
「一つ」
「ん?」
「オレも言っとくぜ」
背中越しに聞こえる声を金城が見下ろすも、振り返る気配はない。
「オメーに褒められるのは、むず痒いだけで悪い気シネェ。しよーとしまいと、全部オメーに惚れてるからだシ。好きでなきゃ、面倒くさくてやってられっかヨ」
屈折する割りにストレートな表現を受け、金城の目が丸くなる。
だから彼は、男前だと言う。
「それは、嬉しいな」
金城が破顔するのを見られない荒北と、どんな顔で何度目かの告白をしたか見られない金城の、どちらが惜しむかなど言うに及ばす。
彼らは昨日と変わらぬキョリで、やり取りを交わすだけ。
「ソウカョ」
「ああ」
明日もまた、今日の続きをするために。
「オヤスミ」
明日の天気は良好と知っているから。
「おやすみ、荒北」
狭いベッドで二人、小さな空間で独り知らずの夜に眠る。
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3月大阪全ケイ参加予定。
「暮れの~」漫画制作してますデス。
「ケモ」本の通販は同時に行いますので、しばしお待ちいただければ幸いです。
これは、今更ながら「うちの荒金てどんなヨ」という世界観の確認を込めて、漫画でする時間もないので小説で書いてみました。推敲、誤字脱字等チェックなしアップ。
すでに色んなことアル事設定で書いてます。
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