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【真・恋姫†無双if】~死を与えることなかれ~19話

南無さんさん

こちらは真・恋姫†無双の二次創作でございます
いよいよ最終章、突入です。色々と長かった。
春先には終わらせたいと思っておりますが、どうなる事やら。
さて、今回のお話は引き伸ばしてた雪蓮回想。
予兆はあったが……

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2015-02-11 15:58:47 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7428   閲覧ユーザー数:6002

「…一刀!一刀!!」

 

 

その名を何度口にしただろう。希望なく心を支配した絶望。

 

一筋の光すら通さない黒一色が心に蔓延している。

 

 

「お願い、もっと急いで!!」

 

 

手綱を握る手に力が入る。馬は私の激に応え、駆ける速度が更に増す。

 

思えばあの時、感じた嫌な勘は当たっていたんだ。

 

私の所為だ。私が油断したばかりに、母さんの墓碑の前だから、

 

自然と危険を察知する嗅覚を解いてしまった。

 

何て、愚昧なのよ私は…!!

 

 

「~~~~~~~っつ!!」

 

 

声にならない、悔しさ、情けなさ、そして大部分を占めてる悲しみ、

 

様々な負の感情が私の中で入り乱れる。

 

変わらず心は黒一色の闇。

 

 

「一刀~~っ!!」

 

「ヒヒーン!!」

 

「きゃあ!!」

 

 

無意識に顔を下に背け手綱を強く引いた為、馬が驚き暴れ、

 

その反動から、落馬してしまった。

 

身体が宙に投げ出され地面に強く打ち付けられる。

 

痛い。けど、それ以上に…

 

 

「………もし、の話が現実になっちゃったね。一刀――――」

 

 

倒れたまま一筋の涙を流し、誰も居ないのに語りかける。

 

現実離れした出来事が迫っているのに対して、思わずあの時の事を思い出した。

 

もしかして、あの時から私達の運命は決められていたのかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。久しぶりの外は良いわね。ここん所、政務漬けだったから、

 夜風が気持ち良いわ」

 

「…俺が言えた義理はないけどよく言うな、雪蓮。

 冥琳の目を盗んで、部屋から抜け出し、それで帰って来る頃を見計らって

 戻って来てさ。まぁ、最終的には冥琳にバレて折檻を喰らってたけど」

 

「ぶーぶー。折角の二人きり何だから野暮な事は言わないの。

 ほら、私がお酌するから杯を出しなさい」

 

「…そうだね。今はこの時を楽しもうか」

 

「そうそう、ささ。どうぞ」

 

 

満天の星空の下、私と一刀は城壁で二人きりの時間を楽しもうとしていた。

 

事の発端はこんなにも綺麗で、星降る夜は飲まずに何て居られない、と言う思いから

 

一刀を誘い、こうして二人だけのささやかな酒宴を開いたのだ。

 

我ながら中々に良い発想である。一刀と同じ時間を共有出来るんだから。

 

 

「…ふぅ。美味い。それじゃあ、お返し」

 

「あら、ありがとう」

 

 

一刀は酒瓢箪を持って私の杯にお酒を注いだ。何だか、良いわね。

 

星と月明かりの下で酌み交わすのは、癖になりそう。

 

私は一気に杯を傾け、気持ち良く息を吐く。

 

 

「美味そうに飲むな。雪蓮は」

 

「そりゃそうよ。私とお酒は水魚の交わりなの。

 だから、誰もが飲みたくなる様になっちゃうのよ」

 

 

私は用意していた酒の友に手を伸ばす。お互い会話に花を咲かせ楽しみつつある最中、

 

一刀は、そうでした、と肯定し笑みを溢す。私もまた、一刀の笑顔に釣られて、

 

自然と笑みを溢した。この後、一頻りに談笑し、私は、とある事を一刀に切り出す。

 

実は一刀を誘ったのは、これから問う事の答えを聞きたかったからと言う理由があった。

 

勿論、一緒に飲みたいと言う理由があったんだけどね。

 

むしろ。こっちの気持ちの方が強いかな。

 

 

「ねぇ、一刀」

 

「ん?」

 

「祭と穏から聞いたわよ。最近、武芸により一層励んでるってね」

 

「ああ、うん。と言うか、もう雪蓮の耳に入ったのか」

 

「それだけじゃないわ。蓮華を正しい名君の道に導いてくれたり、

 思春は一刀に対して角が丸くなった印象を受けるし、

 とはいえ、本人が聞いたら頑なに否定するでしょうけど、

 後、明命も亞莎もそう、皆一皮剥けて成長著しいわ」

 

「そこまで、知ってるんだ」

 

「ええ、でね。冥琳も一刀の事褒め称えていたわよ。

 この頃の一刀は教授しがいがあるって。もう孫呉にとって掛け替えのない存在だわ」

 

「…そっか。ありがとう」

 

 

一刀は情緒ある雰囲気を醸し出し杯を傾けた。

 

 

「…雪蓮はさ。俺が文武に励んでいる理由は聞いた?」

 

「勿論。約束と恩義ある人々を守りたいからでしょ」

 

「…俺、この世界で雪蓮に出会えて本当に良かったって思ってるんだ。

 もし、雪蓮に出会えなかったら見知らぬ荒野で彷徨い、命を落としていたかも知れない。

 仮に、運良く生き残ったとしても、希望など無く絶望に身を委ねながら

 堕落した生活を送っていた可能性だってある。でも、運命の巡り会わせで、

 雪蓮に沢山のものを貰って、築いた。環境、人脈、絆。どれも俺にとって宝物だ。

 だからこそ、守りたいんだ。自らの手で自分の居場所を大切な人を…」

 

「…何だか照れくさいわね」

 

 

自然と顔が紅潮しているのが自分でもわかる。只、何故赤くなっているかと問われたら

 

間違いなくお酒によるものだと否定し、一点張りに貫くだろう。

 

だって、面と向かってこんな事言われたら、流石の私だって、恥ずかしいもん。

 

ああ、どうしよう、こんな姿、まじまじと見られたくない。

 

私から何か話題を振らなきゃ。

 

 

「…じ、自分で聞くのもアレだけど。一刀はさ、私を守ってくれるの?」

 

 

って、何を聞いてるのよ私は!!これじゃあこれじゃあ自分で自分の首を絞めてるじゃない。

 

うー、お酒に酔ったかしら。

 

気恥ずかしさから頭を抱え、一刀に顔を見られないようにするが、

 

心とは裏腹に、問いの答えが気になり、気付かれないように

 

腕の隙間から、一刀を見た。

 

すると、一刀は何故か眉を八の字にして辛そうな表情を浮かべていた。

 

そして…

 

 

「…え」

 

 

目から一筋の涙が頬を伝っていた。

 

 

「ど、どうしたの一刀!?もしかして、私、変な事言った!?」

 

「えっ。…あれ、何で俺、泣いてるんだ」

 

 

一刀は濡れた頬に触れ、初めて涙を流している事に気が付いた。

 

口振りから察するに、無意識な涙なのだろう、けど、どうして涙を…

 

 

「…は、はは。本当、どうして、泣いてるんだろう。

 でも、何故か雪蓮の口から『守って』ってずっと聞きたかった様な気がする。

 それが、とても嬉しくて、同時に……」

 

 

私と一刀の間に静寂が現れ、場に沈黙が支配した。

 

二人供何も話さない、話そうとしない。

 

この場を主張するのは、時折吹く微かに優しい風の音だけ。

 

 

「守るよ」

 

「え?」

 

「絶対に雪蓮を守る」

 

 

重い雰囲気の中で開口した一刀の決意、先程の悲しみに満ち溢れていた

 

顔つきから一転して、覚悟と覇気が顕著に現れていた。

 

 

「………」

 

「ごめん。ごめん。俺の所為で変な空気にしちゃって。

 まだまだお酒もある事だし飲み直そうか」

 

「え、ええ。そうね」

 

 

私と一刀は再度、お酒を煽った。一刀に覚えた違和感。

 

そして、些細の事だけど、一刀が決意を語った時、

 

その瞬間だけ、私達を優しく照らしていた月が雲間に隠れてしまった。

 

普段なら気にも留めない些細な事だけど、

 

それが、どうしても気になり、まるで、これから起こる出来事に陰りがあると、

 

天から暗示されている様な。

 

…ううん、そんな事ないわよね。私には一刀が居るし、

 

孫呉の未来は明るいままだわ。

 

 

「ねぇ、一刀。乾杯しよ」

 

「ん?いいけど、何に乾杯?」

 

「一刀の優しい決意と孫呉の未来に…かな」

 

「……ああ、うん。わかった」

 

「…もしかして、一刀照れてる?」

 

 

私は下から覗き込む様にまじまじと一刀を見詰めた。

 

 

「そ、そんな事ない…ぞ!!」

 

 

一刀は私から顔を背けそっぽを向いた。

 

ふふ、隠したって丸わかりなんだから、明らかに顔が赤くなってるわよ。

 

でも、追求しないわ。一刀の気高い決意に免じて、ね。

 

 

「はいはい。そっぽを向いてないで乾杯しましょ」

 

「…わかった」

 

「一刀の優しい決意と」

 

「…孫呉の未来に」

 

 

―――――乾杯―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

大地に凄愴なる涙を流し、乾いた地帯に悲しみの潤いを与える。

 

嬉々とした追憶、しかし、今、それが逆転し哀傷へと変貌していく。

 

私の日々には常に一刀が居た。

 

私が心から笑えたのは一刀が傍に居てくれたから、そう思うと、

 

また、自然と涙が溢れてくる。

 

 

「…ヒヒーン」

 

 

慰めてくれるの?でも、私は…

 

 

「雪蓮!!」

 

「姉様!!」

 

 

冥琳と蓮華の声…直ぐに起たなくちゃ。こんなのでも一応、孫呉の長だから…。

 

私は、徐に立ち上がり、気付かれない様に涙を拭き、

 

身体に纏わりついた土埃をはたいた。

 

すると、二人は心配の面持ちで私に近付いてくる。

 

 

「…柄にもなく落馬しちゃったわ、でも、大丈夫よ」

 

 

鳴り止まない心音、そして、恐れに、

 

自分の弱さを痛感する。私はこんなにも弱かったかな。

 

 

「………」

 

「…行くぞ、雪蓮、北郷が…待っている」

 

 

否定も肯定もせず、前髪で顔を隠しながら騎乗し行動で答えを示す。

 

蓮華と冥琳は今の私を様子をみて、どう思っているのだろう。

 

自分では上手く取り繕ったつもりだが、

 

聡い冥琳、王なる才気を身に着けた蓮華には私の異常を看破している筈。

 

…蓮華がこの領域に到達できたのは本当、一刀のお蔭ね。

 

…ねぇ、一刀。あの時誓ってくれた決意は…私を守るって意味は、

 

自らを命と引き換えの等価交換だったの。

 

私はそんなのヤだよ。一刀が居ないなら助けられた意味なんて無いんだよ。

 

 

絶望した気持ちを抱きつつ希望など無い道を駆けていく。

 

今の私には、一刀の下へ馬を飛ばすしか、そうする事しか出来なかった。

 

 

……………

 

………

 

 

 

 

 

 


 
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