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真・恋姫†無双~比翼の契り~ 二章第十一話

九条さん

二章 群雄割拠編

 第十一話「夜語りー隼sideー」

2015-02-10 11:01:10 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1357   閲覧ユーザー数:1250

 夜。

 皆が寝静まっても、仕事はまだまだ残っていた。

 茉莉の分も請け負っているのだから当たり前か。

 瞼が重い。

 このままではいけないと、効率を考えて外に出た。時には休息も必要だからな。

 

 夜風が心地よく通りぬけ、眠気で火照った肌を冷ましていくのが分かる。

 顔を洗うだけの水でもあればよかったが、生憎とそんな贅沢をする余裕などあるはずもなく、数分だけと決めていたというのに、気が付けば首が痛くなるまでただただ空を見上げていた。

 

 見上げることに疲れ、痛くなった首を下げてみれば、熟睡する恋の寝顔があった。

 空をぼうっと眺めている途中でやってきた恋だが、まるで相手にしない俺に構うことなく、勝手に胡座を膝枕にし始め、何度かの位置調整を経て、現在は絶賛熟睡中である。

 色々とまずい位置ではあるが、不思議とそんな気分にはならなかった。

 単に疲れているだけか、彼女の安心しきっている寝顔を見たためか。出来れば後者でありたいと心の中で言い訳をしていたところでふと我に返り、碌な思考をしていないと、少しだけ自分に嫌気が差した。

 小さく丸まった、まるで猫のように可愛らしい寝顔をしたこの少女が、天下無双とは甚だ理解しがたい現実だろう。

 無意識に伸びた手が恋の頭を撫でるが、嫌がる素振りなどは毛頭なかった。……気のせいだろうが、どちらかといえばもっとしてくれと強請(ねだ)っているようにも見える。

 ……全く起きそうにない。どうやら徹夜が確定したようだ。

 残っている仕事を思い浮かべて苦笑するが、そんな些細な動きでは彼女の安眠は妨害できないらしく、多少身動ぎする程度で終わっていた。

 恋を起こすことに躊躇い、結局は諦めることにして、上着を敷いた地面に仰向けで寝っ転がると、満天の星空の端っこで白い何かがちらついた。まるでひらひらと夜空を舞う蝶のように、景色に溶け込んだそれは女性の服。

 

「今宵は良き満月。それを肴に呑もうと思えば、特等席には先客がおりましたか」

 

 寝転んでいる俺を気にもせず、取ってつけたような棒読み発言をしながら彼女は近づいて来た。

 無論その手には何も握られてはいない。

 

「酒はどうしたんだ?」

 

「……おや? 私としたことが。はっはっは、どうやら忘れてきたようですな」

 

 嘘をつけ、などと無粋な事は言うべきじゃない。

 天幕を抜け出た頃から、二つの視線を感じていた。

 一人は趙雲。もう一人は……いや、今はいいか。

 あれから時間はかなり経っているはず。今になってようやく話しかけてきたということは、彼女の中で何か区切りが付いたんだろうか。

 失礼と、隣に座した趙雲はこちらを向かずに空を見上げた。つられるようにして俺もまた空を見上げていた。

 しばしの無言。

 聞こえてくるのはささやかな風の音と、恋の静かな寝息だけだったが、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

「司馬朗殿は……」

 

 やっとのことで口を開き、何かを言いかけたところで躊躇う様子が見なくても分かった。

 催促することはせず、空を見上げたまま待つ。

 また少ししてから、趙雲はその先を口にした。

 

「……妹君(いもうとぎみ)のことが気にはならないのか?」

 

「……気にならないわけがない。だけど、気にしない」

 

 予想外の質問だったが、答えは即答。考えるまでもない。

 

「気に、しない?」

 

 その反応がらしくなさすぎて、満天の星空から目を離し、真っ直ぐに趙雲を見た。

 一瞬の呆け顔がまた可笑しくて、恋を起こさないように小さく笑った。

 

「そんなに平然として見えたか?」

 

「……司馬懿殿が倒れてから、司馬朗殿はより一層精力的に仕事をこなしておりました。それこそ見舞いに行く暇もないほどに」

 

「そりゃあな」

 

 事実、趙雲の言った通り茉莉の容態は聞いていない。見舞いにも行けていない。否、行こうとしなかったと言ったほうがいいか。

 華煉が付いていると愛李から聞いているし、月も詠も出来るだけ側にいるつもりだと言っていた。

 俺が心配するまでもなく、周りの面々が心配してやってくれている。

 それに……。

 

「……俺の妹はさ、俺に似て頑固なんだよ。たぶん、倒れたことを一番気にしてるのはあいつで、それを気にしてる俺を気にする奴だ。だからこそ俺は仕事を優先するんだよ、茉莉がいつ復帰しても問題がないように」

 

 同じ頑固者として、茉莉の心を優先してやりたい気持ちが勝っていた。

 状況が変化すれば華煉から梟に通じ、俺へと連絡が来るようになっている。

 俺にできることは、茉莉の早期回復を願い、残った仕事を終わらせることだけ。

 

「……とても大事にしているのですな」

 

 愚問だな。

 今まで趙雲は何を見てきたのか。

 

「妹を大事にしない兄などいないだろう?」

 

 本当に、今日の趙雲はらしくない。

 最後の一言、本人は気付いていないかもしれないが俺には聞こえているし、それに突っ込むのは藪蛇になるだろうから無視するが、いざというときの貸しにしてもらうからな。

 

 深い思考の渦に落ちていった趙雲を放置し、音々の天幕で一悶着の末に恋を寝かせ、自分の天幕に戻ってきた頃には月の位置が反対側になっていた。そろそろ空が白んできてもおかしくない時間だ。

 最後の音々でどっと疲れたが、仕事は容赦無く残っている。

 溜息もそこそこに早速取り掛かろうとしたところで、なんとなく来るんじゃないかと予想していた来訪があった。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 烈蓮が天幕に入っていくと隼は座して待っていた。

 まるで予期していたかのような行動に烈蓮は舌を巻くが、よくよく考えて見れば別段不思議なことでもないかと思い気持ちを切り替えた。

 お互いに無言のまま、烈蓮は隼の対面に位置する椅子に座った。

 

 烈蓮と隼は同じ褐色の肌の持ち主である。

 呉では褐色の肌自体それほど珍しいものではないが、それが朝廷の中枢、洛陽にいるというのは異例であった。

 宦官他、朝廷の官位ある者の多くは異民族を嫌う。

 肌の色、髪の色、瞳の色。先祖のどこかで異なる血が混じり、何かの拍子に先祖返りで産まれてきた我が子を平然と殺すような者達の集まりである。

 血を重んじるといえば聞こえはいいが、それまでに取ってきた手段を正当化させる言葉ではない。

 ある一点が他の者と違うという、たったそれだけのことで住まう環境が著しく変化する状況で、生き残った隼は流石と言えるだろう。

 司馬という名を聞いて後ろ盾があったのかと烈蓮は一時落胆していたが、彼の元に下り実際に己の目で見て確かめてからは考えを改めさせられた。

 司馬家からは何の援助もされていなかったのだ。むしろ勘当されていると言っても差し支えない。

 たった一人で朝廷での立場を築き上げ、暗部まで作り上げたこの男を、烈蓮は今から試そうとしている。

 命を助けてもらった恩はある。かつての事件の隠蔽もさせたまま。

 だが、返事如何によってはこの場で斬ることも辞さないつもりであった。

 彼女はとうに覚悟を決めていた。

 

「単刀直入に聞く。劉備が逃げ切れる見込みはあるか?」

 

「……ある」

 

 隼は目を逸らさずに言い切った。

 その目に虚栄心はなく、確かな自信を持って発言したことが伺える。

 

「その見込みはどこから出てきた? どう見ても曹操が追いつくのは時間の問題だろう?」

 

「どれだけ遅く見積もっても明日の夜、その頃には曹操は諸葛亮の策に気付くだろう。そして、おそらく先行部隊を編成し俺達を捕捉する。……ここからしばらく先に長坂橋という橋があることを知っているか?」

 

「橋? ……なるほどな」

 

 それだけの情報で先の事を理解した烈蓮も流石と言えるだろうか。

 負傷により腕が鈍っているとはいえ、戦場の嗅覚まで忘れているわけではなかったようだ。

 

「曹操はおそらく風評を嫌う。民に圧政を敷くような奴じゃないからな。だから民達に危害を加えるようなことはないはずだ。選抜された先行部隊のみで本隊とぶつかるような事はしないだろう」

 

「動くのは橋に辿り着いてから、か」

 

 烈蓮の確認に頷く隼。

 

 長坂橋とは、崖に一つだけ作られた橋のことである。

 橋の下は崖になっており、そこには川が流れている。

 川上へ向かえば橋があるがかなりの距離があり、川下にしばらく進んでいくと滝になっている。

 たった一本の橋を守れば追撃を抑えられるとあって、迎撃には適した場所であるといえる。

 そして、曹操軍が追いついたとしても、こちらに民がいる限り橋までは手を出せないだろうと隼は考えていた。

 

「ってことは、しばらくは暇なのか」

 

「暇って……。確かに砂塵が見えない限りは大丈夫だろうが……」

 

 言いながら隼は嫌な予感がした。

 目の前の女性から放たれる雰囲気が変わり、その場から立ち去りたくなった。

 だが話の流れ上、立ち上がるのは不自然だし、かといってまだ自分の仕事も残っている。

 結果、隼は逃げ出すタイミングを見失い、烈蓮の標的にロックオンされた。

 

「……して、隼よ」

 

「な、なんだ?」

 

「趙雲とは、したのか?」

 

「はぁ!?」

 

「なんだまだなのか。つまらん男だな」

 

 いつの間にか烈蓮の手には徳利があり、既に封は切られていた。

 蝋燭の灯りかと思われた頬の赤みは、どうやら酒によるものだったらしい。

 

 夜が完全に明けるまで、烈蓮の色恋攻めは続いた。

 

 

【あとがき】

 

 皆様お久しゅうございます。

 九条です。

 

 えー、2/4はごめんなさいでした。

 投稿しましたが、自分で読んでみて気になる所だらけでしたので公開停止にしていました。

 加筆修正し、色々と削除したり書き直したりとやっていたら前話から2週間経っていた……。

 今もまだ烈蓮はこれでよかったかな?と悩んでますが。

 考え始めると色々と案が出てきて、何も進まなくry

 

 修正前を見たい人がいたりしたら(コメあったら)そっと公開しときます。イナイダロウナー

 

 艦これは無事にE5突破しました。

 我が艦隊のむっちゃんは最高です(どやぁ

 

 次もちょっと時間掛かるかもですが、2週間以内には更新しますのでお待ちを!

 ではまた次回まで(#゚Д゚)ノ[再見!]


 
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