憧れの瞳、相思の花
雨泉 洋悠
本当にね、初めて会った時から、とっても可愛くて、とっても大切で、とっても大好きで、ずっと、憧れだった。
いつもと同じ様に、かよちんのお家に向かう。
かよちんのお家の玄関前から、二階のかよちんの部屋の窓の方を見る。
「かーよちーん」
昔っから変わらない呼び方。
しばらくすると、かよちんが窓の鍵を開けて顔を出す。
「凛ちゃんおはよう。えっとね、ちょっと渡したいものがあるから、こっち上がって来てくれる?」
かよちんの、こっちも何時もと変わらない笑顔と、そんなお申し出、凛は嬉しくなるにゃ。
「うん、解ったにゃー」
嬉しくて、両手を目一杯振りながら、かよちんのお家におじゃまする。
かよちんがもっと笑って振り返してくれるから、凛ももっと嬉しいにゃ。
「凛ちゃん、絵里ちゃんへの誕生日プレゼント、何か思いついた?」
隣を歩く凛ちゃん、今日も履いている、可愛いフリルの付いたスカート。
さっきそれを、嬉しそうに披露してくれた凛ちゃんが可愛くて、やっぱり抱きしめたくなっちゃったけれども、何とか我慢しました。
「う~ん、全然思いつかないにゃー、絵里ちゃんセンス良さそうだから何あげようか悩むにゃ」
くるりと廻る凛ちゃん、一緒にひらひら廻るスカートの裾と、さらさらと風に流れる凛ちゃんの髪の毛が可愛いです。
「凛ちゃん、今日の格好も可愛いよ。そうだねえ、でも意外と絵里ちゃんて可愛い物が好きそうな気はするんだよね」
さっき待ち合わせで出会った時と同じ言葉が、また口に出てしまいます。
袖口から見えている、凛ちゃんの小さな手が可愛くて、思わずそのまま手を握っちゃいました。
あの日以来、私の方にはもう、凛ちゃんへの恥ずかしさと、戸惑いが殆ど無くなっちゃいました。
「にゃー、照れるにゃー。かよちん、最近大胆だし凛の事褒めすぎにゃ」
恥ずかしがりながらも、手を振り解いたりしないで、強く握り返してくれます。
今まで、中々凛ちゃんの事を可愛いって言えなかったし、言ってもあんまり喜んで貰えなかったけれども、今は私の言葉に、凛ちゃんは素直に喜んでくれます。
そんな凛ちゃんが、とても好きです。
今まで、自分に勇気がなくて、言えなかった分も、凛ちゃんに可愛いって、沢山伝えたいです。
凛ちゃんと、これからもずっと、一緒に居たいです。
「可愛いものかーどんなのだったら喜んでくれるんだろ」
眉をしかめて考える凛ちゃんも、やっぱり可愛いです。
最近の私はもう、浮かれて凛ちゃんの事ばかり考えるようにになっちゃってるみたいです。
実は今日は凛ちゃんに内緒で、もう一つの目的があります。
絵里ちゃんの誕生日がもう直ぐだけど、後二十日もしないうちに、凛ちゃんも誕生日です。
こっそり、今の凛ちゃんがどんなものを欲しいのか、探っちゃいます。
「真姫ちゃん達はどんなもの選ぶんだろう?にこちゃんが一緒だから絵里ちゃんのことも良く解ってそうだよねー」
真姫ちゃんとも一緒に行くことも考えたけど、どうしたって残り少なくなっていく二人の時間を、もっと大切にして貰いたいなって思って、凛ちゃんと二人で、にこちゃんに押し付けちゃいました。
私達は、まだまだ二年以上、真姫ちゃんと一緒に居られるから。
「凛ちゃん、あそこの雑貨屋さん入ってみようか?」
何だか不思議な外国の雰囲気を醸し出す、良い感じの雑貨屋さんを見つけました。
凛ちゃんの手を引いて行こうとすると、突然凛ちゃんの足が止まります。
これはもしや、私の眼が、鋭く光ります。
思った通り、凛ちゃんは横のお店の、ショーウインドウに見入っています。
凛ちゃんたら、秋物のお洋服を売っているお店の、デニムのシャツと、ワンピースの組み合わせに、見入っているみたいです。
かりん色でヒラヒラの、可愛いワンピースと、凛ちゃんの元気な部分を少し加えるデニム。
合格です、これはきっと凛ちゃんに似合います。
凛ちゃんには、今まで我慢していて着れなかった分、こう言う可愛いお洋服を、積極的に着て欲しい私です。
だって、私だって我慢して来たんです。
「凛ちゃん、そこのお店も気になるの?」
敢えて凛ちゃんに、気付かないふりで聞いてみます。
お目々をきらきらさせている凛ちゃんが、やっぱり可愛すぎるんです。
凛ちゃんの驚きと、高揚している気分が、繋いでいる手を通して、伝わって来ます。
凛ちゃんの手を、ぎゅーっと握っちゃいます。
凛ちゃんの手は、ちっちゃくて暖かくて、可愛いんです。
凛ちゃん、びっくりした目で、私の方を見ます。
凛ちゃんのそんな目も、可愛いんです。
「ち、違うよ、凛別に何も見てないよ。ほら、かよちん早く行こう」
凛ちゃんたら、顔を赤くしながら、私の手を引っ張りだします。
隠したって駄目なんです。
今の私はもう、凛ちゃんのこと、何でも解っちゃうんです。
もう私は、来週凛ちゃんをびっくりさせることに決めちゃいました。
「かよちん、これとかどうかにゃー」
そのお店は、今まで見たことないような、面白いもので一杯。
「あー可愛いかも、お猿さんなのかな?」
凛が、かよちんに差し出したぬいぐるみ。
凛にはくまにも見えるにゃ。
「凛にはくまにも見えるよー」
隣に置いてあるのはワニのぬいぐるみ。
説明書きを見てみると二人はお友達みたい。
凛とかよちんと一緒。
「そっか、確かに熊さんかも知れないね。隣のワニさんとお友達なんだね」
かよちんがくまとワニを両手に持って、まじまじと眺めてる。
かよちん的には決まりっぽい雰囲気にゃ。
「かよちん、これにしようか?さっきお店に入る時にロシアって書いてあったからきっと絵里ちゃん気に入ってくれる気がするよー」
かよちんが考え込んで、止まっちゃってる雰囲気にゃ。
どうしたのかな。
「かよちん、どうしたの?プレゼントにするんじゃないの?」
かよちんが、ハッとしたようにこっちを向く。
この顔は、かよちんが何か言いたい事があっても、中々言い出せない時の顔にゃ。
「えっとね、凛ちゃん、あのね……」
かよちんが迷っているみたいなので、凛が背中を押してあげるにゃ。
「二人で一つづつ買おうか?かよちんはくま買う?凛がワニ買うよ?」
促すようにそう言うと、かよちんは違うという感じで、首を横に振る。
「違うよ、凛ちゃんはお猿さんの方。私がワニさん買うから、それでね、これはね、絵里ちゃんへのプレゼントじゃなくて、二人でそれぞれ持ってたいなって。二人は親友、って書いてあるから」
かよちんが、ちょっと恥ずかしそうにそんな事を呟くから、凛は嬉しくて、照れちゃうにゃ。
「嬉しいにゃー、じゃあ二人でそれぞれ買って、お揃いだね。それなら、絵里ちゃんへのプレゼントは別なの探さないといけないね」
凛がそう言うと、かよちんは別な置物を指さす。
「それもね、これとかどうかな?何となく、希ちゃんに似てない?」
かよちんが指さした置物は、確かに目のあたりとか、輪郭とか、どことなく希ちゃんに似ている、たぬきっぽい置物。
かよちんも、凛と同じで希ちゃんに狸のイメージ持っていたみたい。
「うん、似てるにゃ、希ちゃんみたいで可愛いにゃ。絵里ちゃんは希ちゃんのこと大好きだからきっと気に入ってくれる気がするよ」
絵里ちゃんと希ちゃんも、凛とかよちんに負けないぐらい仲良しにゃ。
そう言いながら置物を触ってみると、上半分が外れて中からまた希ちゃんが出てくる。
「マトリョーシカって言う、ロシアのお人形だね。多分この中にも同じ人形が」
そう言ってかよちんが上半分を外すと、また希ちゃん。
これはもう、絵里ちゃん絶対に喜んでくれるにゃ。
「面白いねー絵里ちゃん家、希ちゃんだらけになっちゃうにゃ」
そう言いながら、もう一回上半分を外してみると、今度は中に何もなくて、何か入れられるようになってた。
「ここに何かサプライズも入れたいにゃ」
凛はちょっと考えてみる、何を入れたらびっくりしてくれるかな。
「取り敢えず、私達からのメッセージは入れたいね。後は……ちょっとお洒落なアクセサリーとか?」
メッセージカードは、かよちんがにこちゃんに貰ったっていう、淡い紫色の花と、鮮やかな紫色の実が描かれているのがある。
「にこちゃんに貰ったカード、折り畳めば入りそうだね。絵里ちゃんの誕生花だって言ってたし、入れないとね。アクセサリーは……ネックレスとかどうかな?」
絵里ちゃんはピアスとかも似合いそうだけど……高校生の凛たちにはまだ早いかにゃ。
ネックレスだと、絵里ちゃんになら、さっきから幾つか目についてる十字架っぽいやつが似合いそうにゃ。
「かよちん、これとかどうかな?」
銀色で、ちょっと豪華な感じのする、十字架っぽいトップのネックレスを指差す。
かよちん、ちょっと嬉しそうな顔をして、凛の方を見る。
「うん、私もそれが良いと思う。絵里ちゃんに凄い似合いそう。絵里ちゃんの胸元にこんな綺麗な十字架があったら、きっと皆もっと見とれちゃうと思う」
そう言ってかよちんは、ほっぺた赤くしてるにゃ。
かよちんは、前から言ってた、にこちゃんも希ちゃんも、尊敬しているし、憧れなんだけれども、絵里ちゃんはどうしても、見惚れちゃうって。
それを聞いた時、絵里ちゃんが羨ましかったけど、その後に一番好きなのは凛だって言ってくれたから、嬉しかったにゃ。
「じゃあ、これで絵里ちゃんへのプレゼントは決まりだね」
かよちんと二人で、プレゼントとぬいぐるみ二つをお会計。
「かよちん、や、やっぱり少し恥ずかしいにゃ」
凛ちゃんたら、凄く可愛いのに。
「凛ちゃん、似合ってるよ、可愛いよ」
戸惑ってる凛ちゃんの、私は前から手を引っ張ります。
「かよちんがそう入ってくれるのは嬉しいけど……こんな可愛いの皆の前ではまだ着た事ないにゃ」
そんなこと無いのに、いつも練習に着ているのだってすっごく可愛いのに。
「大丈夫だよ、皆可愛いって言ってくれるって」
警備員さんに入れて貰って、お休みの学校の中を部室に向かいます。
「うーかよちん、最近強引になって来たにゃ」
確かに、あの日以来私は凛ちゃんに積極的になっているので、間違ってない。
「だってね、私が一番凛ちゃんが可愛いことを知っているんだよ?だからね、私がより一層可愛くしてあげた凛ちゃんを、皆に見せたいって思うんだもん」
廊下まで聞こえて来る、皆の楽しそうな声。
「かよちんにそんなこと言われちゃうと照れるにゃ。ねえ、かよちん?大丈夫かな、本当に似合ってるかな」
凛ちゃんは本当に、全然解ってないんです。
私にとっては、そんな凛ちゃんの自然な可愛さが、ずっと憧れで、ずっと大切だったこと。
凛ちゃんに、あの日背中を押して貰ったおかげで、あの日に、凛ちゃんの背中を押させて貰ったおかげで、私はその気持をやっと素直に表に出せるようになって、凄く嬉しいんです。
だから私は、素直に正直に答えるんです。
「大丈夫、凛ちゃん、すっごく可愛いよ」
かよちんに買って貰って、かよちんに着せて貰った可愛いお洋服。
皆可愛いって言ってくれて、ことりちゃんにも可愛いって言って貰えて、嬉しかった。
「絵里ちゃんと希ちゃん、まだ来ないね」
かよちんが隣で呟いたので、凛は答えるにゃ。
「かよちん、足音聞こえて来たよ。そろそろ来るよ」
凛の耳には、二人の足音が聞こえる。
そして、扉が開く。
「皆お待たせ、遅くなっちゃった」
「皆待たせてごめんなあ」
そう言って入ってきた二人、絵里ちゃんの胸元に、光る銀色の十字架一つ。
その胸元を見て、凛の隣で嬉しそうに、憧れの瞳を向ける、かよちん。
「良かったね、かよちん」
凛はね、それを見たくて、いつもかよちんの傍に居るの。
「うん」
そう言って、凛の方を見るかよちん。
そんなかよちんの笑顔。
ずっと大好きで、初めて会った時から大切で、今も変わらずに、凛の一番の、憧れなんだ。
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完成が二ヶ月ぶりな上に三ヶ月ちょっとと遅れに遅れた凛ちゃん誕生日記念(=゚ω゚)
やっと暗いトンネルを抜けたのと、
光溢れる世界に目処がついたので進めてまいります(=゚ω゚)ノ