いつもあなたをみつめてた。
虫の音が聞こえてきて私は目を開ける。蒸し暑い中、私とダイキチは涼しい場所を
見つけてそこで布団を敷いて一緒に寝ていたんだ。
隣で大口開けていびきをかいているダイキチの顔を覗き込みながら垂れる髪を指で掬う。
月明かりに照らされるダイキチの顔に少しキュンときた。
明らかに合わない光景なのにも関わらず私には可愛いと思えてしまうから不思議。
「ダイキチ~・・・」
夜の雰囲気のせいか甘えるように私はダイキチの体に頭を擦り付けるようにする。
大人のような子供のような色々混ざった不思議な感覚。
そんな私の頭に軽く撫でるようにしてくる感覚があった。
やだ、もしかしてダイキチ起きてたのかな・・・。
ドキドキと鼓動が強くなっていくのを感じるがその後、寝言のようにダイキチが
呟くのを聞くとホッと胸を撫で下ろした。
「むにゃ・・・。りん~、またトイレか~? しょうがねぇな・・・ついていってやるから・・・」
「もう・・・いつの私の夢を見てるのよ・・・」
あぁ、思えばそんな小さな頃から子供のように育ててくれてたんだなと改めて感じる。
血の繋がりが一切なくて苦労させてばかりで、そんなダイキチの背中をずっと見ていて
私思ってたんだよ・・・。
こういう人と一生一緒にいられたらいいのになって。
今まさに「こういう人」どころか本人をいただく形になってしまったけれど。
いや、この場合は私がもらわれてる方になるのだろうか…そんなことはどうでもいいか。
暑そうに体を小さい大の字に広げて放り出されている手を私は愛しげに両手で握る。
硬くて熱くてごつくて、すごく安心する手。
目を瞑ると子供の頃を思い出すようなそんな手。
当時はここまで深く考えることなく無邪気にダイキチと手を繋いでいたのが懐かしい。
自然に笑顔になってしまうほど幸せな記憶。
幸せな記憶だけじゃなくて、おじいちゃんが亡くなった時の大人に不信感抱いた時の
苦い記憶もちゃんと残ってる、それからコウキのことも含めて。
だけど私が自分で何とかできなくなった時にはいつもダイキチが私を包み込むように
守ってくれていた。
いつからか私はそんな彼に家族としての好意の中に恋心を抱いていたのだろう。
他の誰にも抱かなかったこの愛しい気持ちがその感情をなお濃く感じさせてくれる。
今度は私がダイキチを守れるくらいには強くならないと、そんな思いを抱く日々の中
たまに伝える甘い言葉を胸に秘めつつ過ごしてると少しばかりモヤモヤしてしまう。
もっと沢山あなたに言いたいけど、それをするとあなたは困ってしまうでしょう?
だからいつも寝こけてる時とかに呟いたりしているんだ。
深く眠りについているダイキチの顔を覗いて…静かな空気の中。私の耳には虫の音すら
聞こえない状態で目を細めてそっとダイキチの唇に私の唇を重ねた。
「ダイキチ、大好きだよ」
***
キスをした後、ダイキチが起きそうになるのに気付いて私は慌てて寝る振りをして
目を瞑った。振りのつもりだったけど瞑っているうちに徐々に眠気が強くなってきた。
私はちゃんとした奥さんになれるかな。
その前にダイキチは私をお嫁さんにしてくれるのだろうか。
私は答えを出さなくても今の生活も十分幸せだけれど、
いつかダイキチからか私からかわからないけどちゃんと向き合って付き合っていけたら。
私はその日が来るまでずっと待っている。
それこそおばさんになるまで待っていてもいい。
ダイキチが堂々と言えるくらいにまでの気持ちになってくれたなら。
私にはもうそれ以上の幸せは見当たらないのだから。
そんなことを考えていくうちに私の意識は眠りの中に溶け込んでいった。
何の夢を見るのかな。
子供の時の楽しい夢か、二人で恋人として過ごす甘い夢か。
どっちにしろ私にはものすごいご褒美に違いないのだった。
お終い
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うさぎドロップ りん視点です。 時期ハズレの暑い季節の話ですね。色々考えながら思い返すお話。