No.756114

武道伝 12話

やはからさん

またまたお待たせを。今回は結構長めです。
初投稿から一年なのにまだ12話って・・・
今回はいろいろ変動しますよ

2015-02-05 00:55:37 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1276   閲覧ユーザー数:1120

 

「さて、賊討伐に当たりいくつか再確認したいことがある」

 

李文、趙雲、関羽、程立、郭嘉、厳綱、楽進,加えて部隊長候補と邑の長。そんな面々が集まるのは長の家の一室であった。なぜ今更集まっているのかと言えば、先日郭嘉が斥候として飛ばしていた者から報告が来たからである。その報告とは

 

『賊の一団、出撃の動きアリ』

 

である。李文達がこの邑についてから約一月程になるのを考えればそろそろ動き出しても不思議ではない。

 

「今更何をと思うかもしれんがな、念のためと言うやつだ。意見は最後に聞く。それまで反論等は無しだいいな?」

 

全員が頷くのを確かめてから本題に移る。

 

「まず命令系統について。曲がりなりにも軍とする以上、絶対的な上下関係を構築しておく必要がある。最上位として俺、次に郭嘉、程立、その次に趙雲、関羽、そして楽進たち各部隊長とする。俺達は少数で、大して意味がないと思うかもしれないが、これは厳守しろ。将であれ兵であれ、これを無視する奴は俺達『義勇軍』という枠から外れてもらう」

 

皆を睥睨するが特に反対的な意思はないようである。ならばと次に移る。

 

「次に、俺達の最優先事項は賊の討伐である。備蓄等は可能な限り奪取したいが、それのために賊を打ち漏らすようなことがあってはならん。そこを認識しておくように」

 

「それは奴らが人を攫っていた場合でも見捨てろということですかっ!」

 

ガタンッ、と椅子を蹴倒して関羽が立ち上がる。言葉こそないが、星や楽進も関羽と同意見なのが見てわかる。

 

「雲長、反対意見は最後に聞くと言ったはずだ。言いたいことがあるなら最後に言え」

 

「納得できません。我等義勇軍は賊に苦しむ民を助けるために戦うのではないのですか?それを・・・」

 

話を進めようにも関羽が食らいついてくる。半ば予想はしていたが、なんとも面倒なものである。

 

「命令系統は俺が最上位である。反対意見は最後に聞く。これを守らぬものは義勇軍を追放する。俺はそういったはずだ。それでも今ここで議論を交わすか雲長?」

 

「しかし、」

 

「まあまあ愛紗ちゃん、おにーさんも反対意見は聞くと言っているのですから、とりあえず最後まで聞いてみようではないですか」

 

関羽の真名を呼びつつ宥める風。関羽も風が言うのならばと再び腰かける。

 

「さて、今関羽が言った攫われた人間についてだが、救命を請う者のみ救出する。それ以外のものは関与しない。賊に味方するのであればもはやそれは守るべき民ではないからな」

 

郭嘉と風の目が細められた。言外の意味に築いたようだ。

 

「次に、賊に対しての措置は邑に任せる。捕虜の処遇なんかだな。これは直接の被害者である邑人に決定権があると思うからな。この辺は長に任せる」

 

わかりました、と頷く長。

 

「最後に、この討伐が終わり次第俺達は公孫讃の元へ戻る。その際、希望する者がいれば共に連れて行きたいのだが、いいだろうか?」

 

邑の生活に支障が出ない程度であれば、と許可をくれる。まあ好き好んでついてくる者も多くはないだろうから、謝礼を要求されるよりよほどいいのだろうな。

 

「では意見を聞こう。何かある者はいるか」

 

「ではまず私が。先ほど申し上げましたが、攫われ、人質となった者がいたとしたらどうするのですか?李文殿は『賊に味方する者は敵である』と言うようなことを申されましたが、その者達とて家族を人質とされておるやもしれません」

 

早速関羽が食いついてくる。言っていることは正論。だがこの世は正論だけでは生きてはいけぬ。

 

「では雲長、お前は人質を取られているならば仕方がないと殺されてやるのかね?よく考えろ。人質に取られた時点でもはや無事に帰ってくるなど不可能に近い。そしてそれほどの確率にほとんど無関係のこいつらを巻き込むわけにはいかない」

 

ビッ、と楽進たちを指さす。すると楽進は恐る恐るという風に手を上げる。

 

「あの、我々としては無関係と言えなくもないと思います。我々の邑が襲われていたらそうなっていたかもしれませんし、近隣の住人を助けられるのならば助けたいとも思いますので・・・」 

 

「凪ちゃん、それは凪ちゃんの意見ですか?それとも邑の人みんなの考えでしょうか?」

 

「おうおう風よ、今あいつは『我々』っていったばかりじゃねえか。つまりあいつは『邑のみんなはたとえ討伐に加わった住人たちが皆殺しにあって、報復にきた賊に畜生以下の扱いをされることがあっても、100に1も成功しない全員無事に助かる道を選ぶ』って言ってるのさ。人質を見切ればほぼ死人が出ない場合でもな」

 

風の質問に頭の上の宝慧が辛辣に返す。それも分かりやすく、かつ可能な限り残酷な表現で。

 

「そしてそれの責は無関係なのに助力し、可能な限り被害を抑える案を出した李文殿に向くと。実際は己の感情を優先させた何人かのものであるのに」

 

「稟ちゃん、それは言いすぎですよ。邑の総意を聞くと言ったおにーさんにも責任はあるのですから。本来なら情報提示せず、現場で助けられないと判断したと言えばいいだけなのですから」

 

「しかしそうしなければ雲長殿や邑の者たちがその場で独断に走るかもしれません。そうなれば結局多大な被害と共に、部下の暴走も止められず、たかだか賊相手に被害を被る無能の烙印を押されてしまったことでしょう」

 

「まあそうかもしれませんね~」

 

「もういい、そこまでだ。で、雲長、邑人共に人質最優先の方針でいいのだな?」

 

「・・・あるのですか、そんな策が」

 

「さっき風が言っただろう、100に1とは言わないが、1000に1くらいなら成功する」

 

「・・・李文殿、先ほどは申し訳ありませんでした。自分の浅慮故に場を乱してしまいました。私としては人質を救いたいことには変わりありませんが、それにより被害が増えてしまっては本末転倒。李文殿の言うようにひとまずは討伐を優先するべきです。」

 

「わ、私も我々と言いながら自分の考えが先行していましたっ。邑を助けに来てくださった方たちを死なせた上に貶める可能性があるとはつゆ知らず、申し訳ありませんでしたっ」

 

関羽、続いて楽進も頭を下げてくる。楽進に至ってはもはや泣きそうである。これではまるで自分が悪者ではないか。そう思うと思わずため息が漏れる。そして気を抜いたのがまずかった。

 

「ところで子文よ、なぜこの者らに限りなく成功の確率が高く、かつ被害が出ない策があるのを教えてやらぬ?」

 

それまで黙っていた星が唐突に入ってきた。見れば意地の悪い笑みが浮かんでいる。

 

「大方愛紗や凪に自考の大切さや、軽挙の愚を教えるためにこんな場を設けたのだろう?親心と言うか、いやはや優しいな子文は」

 

「さて、ではこれからの策について伝える。内容は単純だ。俺が趙雲、程立、楽進、雲長を連れ賊の本拠に潜り込む。人質がいれば解放、いなければ即座に騒ぎを起こす。それを確認できたら郭嘉の指示の下、厳綱ら部隊長が率いた部隊が突入、制圧する。質問は?」

 

星の言葉を断ち切るように説明に入る。が、時すでに遅し。皆の視線が痛い。楽進などはまたも涙目になっている。

 

「人質の救出が困難な場合は・・・?」

 

雲長があくまで確認のため、とばかりに聞いてくる。答えも分かっているのだろう。

 

「切り捨てろ。あくまで救えるなら救うだけだ。今回の目的を忘れるな。他には?なければ解散」

 

雲長の質問に冷たく返し、解散を告げる。皆に伝えるため厳綱ら部隊長は散っていく。場には星、風、郭嘉、楽進、雲長のみが残った。

 

「お前らもさっさと行け。最終確認とかあるだろう」

 

「冷たいですねおにーさんは。わざわざ嫌われ役を買って出た風に一言もないんですか?」

 

「頼んでないだろう。が、まあ助かった。風、それに郭嘉も悪かったな」

 

「俺には一言もなしかい?」

 

鋭く帰ってくる風、もとい宝慧の声にもありがとうよと答える。満足したのか郭嘉と共に風は宿に戻っていく。

 

「星、お前もさっさと行け。余計なこと言いやがって」

 

「なに、この前の餞別の礼だ。気にしなくともよいよい」

 

はっはっはっと笑いながら歩き去っていく星。餞別とはきっとこの間の夜のことだろう。余計なお世話だが、まあ感謝しておこう。問題はこいつらだ。ちらりと楽進たちの方を見ればこちらが振り向くのを背筋を伸ばして待っている。仕方ないと、がりがり頭を振り向けば、関羽と楽進が腰を90度倒して頭を下げてきた。

 

「李文殿、申し訳ありませんでした。李文殿の考えをいざ知らず、場を乱してしまいました」

 

「自分も李文殿を信じきれておりませんでした。申し訳ありません」

 

「わかったわかった、もういいから頭を上げろ」

 

そう言っても二人は頭を上げようとしない。なんとなくわかっていたが、この二人は真面目すぎて少し面倒くさいところがあるのだ。

 

「お前たちが俺を疑ったのは当然だ。そうなるようにしたわけだからな」

 

その言葉でようやく二人は顔を上げる。どういうことだと疑問符を表情に張り付けて。

 

「そもそも、いきなり現れた俺や星達を少し腕が立つからと信用するのはおかしいだろう。お前らはいいかもしれんが、昨日まで農民やってた人間がそんなよくわからない連中に命を預けられるものかよ」

 

考えてみれば李文達は口で言っているだけで、公孫讃の客将という証拠もない。邑で一番の実力者である楽進が敗北したから反発のしようもないと従っているものもいるのだ。そしてそうした状況下で精神的に負荷がかかれば・・・例えば命の奪い合いのような場に出れば、必ず感情は爆発する。そしてそれはいらぬ不安を煽り伝播する。それを未然に防ぐためにもどこかで爆発させる必要があった。そこでちょうどよかったのが関羽だったというわけだ。

 

「しかしそれでもあなたを信じきれなかったことには変わりありません。今一度、信頼の証として我が真名をお受け取りください」

 

「軽挙を慎めと言ったばかりだろう。お前たちにとって真名とは命より重いと聞く。それを信頼の証などと言って簡単に教えるな」

 

「ですが・・・」

 

「星は武人として拳を交え、俺自身の尊敬の念からも真名を預かり、幼名を許した。風も俺の持つ技を伝える代価として、真名と命を受け取った。ならばお前たちは?策の全容も聞かず、ただうまくいくという言葉に踊らされてその魂を渡すと言うのか。それは俺や彼女らに対する侮辱だろう。現に郭嘉は真名を許してないし、俺も預けていない。それこそが本来あるべきだろう」

 

見れば楽進も真名を預けるつもりだったのか、俺の言葉に俯き拳を握りしめている。関羽に至っては握りしめた拳がぷるぷると震えて落ち着かない。やれやれと頭をかく。

 

「何もお前らの真名を預かるのが嫌と言うわけじゃない。だが一方的に押し付けるものでもないだろう?だからお前たちが無事に今回策をこなせたら・・・そうしたら改めて真名を預かろう。それでよいかな?関羽、楽進?」

 

その言葉に関羽がパッと顔を上げる。

 

「李文殿、今我が名を・・・」

 

そう、今まで俺は関羽のことを雲長と字で読んでいた。と言うのも俺が生きていた時代の三国志、そこにおける関羽雲長をあまり好んでいなかったからである。そしてこの世界の関羽も清廉を是とし、甘いことを言うところがあり、それが俺に名を呼ばせるのをためらっていた。

 

「今は真名を受け取る気はない。だからこれで許せ」

 

「わかりました。聞きたいこと等まだありますが。それはまた後程」

 

後ろの楽進に気を使ったのか、それだけ言うと関羽もまた宿へと帰っていく。心なしか機嫌が良さそうに。

 

「さて、大方お前も関羽と同じことをと思っていたんだろうが、答えは同じだ。それは無事に策を成してからだ」

 

「いえ、私の願いはそうではありません。確かにそれもありますが、李文殿・・・いえ、先生に弟子にしていただきたいのです」

 

そういうが早く、両膝を地に着け頭を下げる楽進。それは武における先達へ向ける最上の礼であった。

 

「なぜ俺に?学ぶなら星や関羽でも十分ためになるだろう?」

 

正直この申し出は嬉しい。先日の星との手合せでもわかるように、楽進は徒手での戦いを基本とし、さらにその才能にも恵まれている。そんな人間を弟子として取れれば、後世に技を伝えやすくなる。だがそれに対する懸念もあった。

 

(俺の持つ武術はこの時代からすれば1000年は後のもの。それを残してよいのか。楽進と言う名に覚えはないが、俺が知らぬだけで星のように武人として名を残すものかもしれぬ。その者達が使う武を、後世の人間が曲げてしまっていいのか)

 

星を弟子として取らず、技は見せても教えはしなかったのはこうした考えがあってのことだった。風は名を残すにしても文官としてだろうし、護身程度にしか教えるつもりはない。だが、趙雲や関羽といった、武人として名を残す人間に己の技を伝えてしまえばどうなるのかわかったものではない。おもわずむむむと唸ってしまう。

 

「・・・申し訳ありません、ご無理を言いました」

 

その声を聴いたのか、楽進は立ち上がり今度は普通に頭を下げて謝罪する。目じりに涙をためながら。

 

「楽進、武において必要なことはなんだと思う?」

 

「は?」

 

「お前が思う武において必要なものだ。何でもいい、言ってみろ」

 

「はぁ、それは相手ではないですかね」

 

仁、義、勇そういったものを全部すっ飛ばした楽進の答え。思わず笑ってしまった。

 

「相手か、あっはっはっは。そうだな、そうだとも。相手がなければ武を磨く意味もなく、振るう意味もない。伝えることもできず、教わることもできない。違いない。お前の言うとおりだ。あっはっはっは」

 

あまりに笑いすぎて涙が出てきた。自分の悩みとはなんだったのか。実にしょうもないことではないか。星達の武が歪む?その星達が死んでしまえば歪むも糞もありはしない。そうなってはいけないから教えるのだ。それで彼女達の武が変わろうが、それは些細なことに過ぎないだろう。そう、『死ぬよりまし』というやつだ。

 

「うう、そんなに笑われるとは。酷いではありませんか・・・」

 

俺に笑われ落ち込む楽進の肩をバンバン叩いてなお笑う。そのたびに楽進の肩が落ちていくが気にしない。俺の心は晴れ渡っていた。

 

「楽文兼、お前を弟子として認めよう。ただし俺が許さぬものに決して技を教えるな。そして潔い死など求めるな。醜く、汚く生に執着しろ。それが守れるならお前は俺の三人目の弟子だ」

 


 
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