これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
内容はオリジナルとなるため、アプリを知らない方でも十分楽しんでいたけるかと思います。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。
現在スマホで『妖怪百姫たん』という、上記アプリの妖怪達も出てくるアプリがあります。
しかし、こちらはやっておりませんので、2つのアプリの差異(主に妖怪の容姿)についてはご勘弁ください。
拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
ちょっと紹介
・常磐 陽介(ときわ ようすけ)
主人公で大学2年正
妖怪について調べるのが好きな青年
中学・高校で剣道を習い、空手の経験もある
廃坑での肝試しの際、突如光に包まれ『妖世』へと飛ばされる
武器はかまいたちの人妖・サクヤからもらった刀「風斬」
・アトリ
オボの人妖
持ち前の明るさから周りから好かれやすい
よく迷子になるドジっこ
妖世に迷い込んだ陽介と共に両親を探すために旅に出る
武器は柄が身長ほど、刀身が30~40センチの薙刀
そしてこの紹介が、投稿者が設定を忘れないようにするためのものであることは内緒である
4章 ~巡り戦う者~
1話「用心棒兄弟」
「~~♪~~♪」
「ご機嫌だね、アトリ」
旅が始まった時に昇っていた太陽も、今はだいぶ落ちている。
穏やかな陽気で、林の間を涼しい風が抜けていく。
陽介とアトリの2人は、最初の村へ向けてけもの道を歩いていた。
「だってワクワクするんです!遠くへ行くのは初めてですから」
いつ妖怪に襲われるのかと内心ドキドキしていた陽介にとって、アトリの明るさはとても助かる。
アトリにとってもそれは同様だった。
1人だと不安になることは、何度も実感してる。今こうして元気でいられるのも、陽介と一緒だからである。
冒険に胸を躍らせるアトリとそれを後ろで見守り微笑む陽介。
2人はまるで、仲の良い兄妹のようでもあった。
しかし、そこへ予期せぬ出会いが訪れる。
「見つけたぞ!」
最初に見えたのは大きな黒い翼だった。
茂みから飛び出したその影は、陽介の前を行くアトリへと襲い掛かろうとしていた。
「えっ?」「あれっ?」
突然襲い掛かられたアトリはともかく、なぜか影の主も戸惑っている。
それでもアトリと影の接触は避けられない。
陽介は咄嗟にアトリと影の間に割り込み、影が振るう棒状の何かを風斬の鞘で受けた。
――― キィィィン! 「いたっ」
響く音は、武器がぶつかる音。
聞こえた声は、しりもちをついたアトリの声だ。
影の攻撃を完全には抑えられず、アトリが押されてしまったのだろう。
陽介が武器を交えていたのは、人妖と思われる女性だった。
茶色の服に赤いマフラーと、帽子― キャスケットだろうか ―をかぶっている。
陽介が人妖だと思ったのは、背中の黒い羽を見たからだ。
棒状のなにか、錫杖を握るその女性は、まずい、という顔で陽介に問いかけた。
「あぁ、えぇーっと。一応確認なんだけどさ…、君達、鬼…じゃ、ないよね?」
「鬼、ですか…。少なくとも、角は生えてないですね」
とても武器をぶつけ合っている者同士の会話ではない。
女性は一層気まずそうな顔になり、錫杖を引いた。
「だよねぇ。あはは、人、いや、鬼違いだったかなぁ」
こちらは鬼じゃないのだから、鬼違いもおかしいでしょう、と陽介は思ったが、それは口に出さなかった。
少しの間、なんともいえない空気が漂ったが、
「ごめんなさい!」
流石に気まずさに耐えかねたのか、女性は陽介達に謝罪した。
「こっちに逃げる鬼を見失っちゃって。探している途中で声がしたもんだから、つい」
「声の主であるアトリを鬼と間違った、と」
(アトリが鬼とは。ずいぶんと可愛い鬼もいたものですね)
そう思った陽介だが、人妖が存在するこの妖世ならそれも十分あり得ることだと気がついた。
「本当にごめんね、お嬢ちゃん」
陽介の手に掴まり立ち上がるアトリに、女性は深く頭を下げた。
「いえいえっ、陽介さんのおかげで怪我もありませんでしたし、気にしないでください」
その姿を見て慌てるアトリ。陽介はこのままでは話が進みそうにないと思い、女性に話しかけた。
「私は陽介といいます。あなたの名前を伺ってもよろしいですか?」
「え?あ、私?私はクロエ。見ての通り、"烏天狗"の人妖さ」
黒い翼は特徴的だが、"見ての通り"かは分からないかな、と陽介は思った。
「私はオボの人妖で、アトリっていいますっ!」
「お嬢ちゃん、元気がいいねぇ」
女性、クロエもアトリを気に入ったようだ。相手に好かれやすいのは、アトリの長所である。
「おいっ、クロエ!どこまで行ってんだ」
空から聞こえてきた声。陽介が目を向けると、今度は"見ての通り"な烏天狗が飛んできた。
「あっ、兄貴。鬼は?」
「仕留めたよ。お前が逃がした分も、な」
「ははは、ごめんごめん」
烏天狗の兄妹との出会い。
これが、陽介とアトリの初めての"戦い"のきっかけだった。
陽介達"4人"は、目的の村へと到着した。
辿り着いたその村は、今は珍しい人間ばかりの村だった。
荒れた場所が目立っており、半壊した家もある。
村人にも怪我人が多いが、クロエが言うには死者はまだいないらしい。
話では、これは"鬼"の仕業だという。
――― 鬼。
それを聞いて、2本の角を持ったトラ柄パンツの赤と青の怪物を思い浮かべる人もいるだろう。
しかし妖怪の鬼はそんなに鮮やかなものではない。
角を持った怪物、と言うことはできるが、鬼にもたくさんの鬼がいる。
天邪鬼、百々目鬼、夜叉と呼び名も様々だ。
中には赤や青のもの、角がないものもいるかもしれない。
ただ、陽介の中では凶暴な妖怪というイメージが、とても強かった。
―――
「俺達は最近鬼に襲われ始めたっていう村に、用心棒として雇われたんだ」
出会って間もなくコクジョウと名乗った烏天狗は、妖怪ではあるがクロエの兄であるという。
人と妖怪の間に生まれれば人妖になると思っていた陽介だが、そうでもないらしい。
人と人妖、人妖と妖怪、時を重ねるごとに交わる血は、異種の兄妹を生み出すことも珍しくはないのである。
「この村に来る前も、用心棒を?」
「あぁ、俺達兄妹は各地を巡って、今回の村みたいなとこの用心棒をやってんだ」
各地を巡って、という言葉に陽介は反応した。
「では、北の大陸にも行ったことが?」
「だいぶ前に行ったな。だが、あそこはダメだった。戦いが激し過ぎる」
激しい戦いが起こっているという話に、陽介は動揺を隠せなかった。
自分達はその戦いの中へ、飛び込もうとしているかもしれないのだから。
「それは人間と、妖怪の戦いですよね」
「大きく分ければな。ただ、どちらにも人妖がついてる。元は妖怪の襲撃から始まったことだから、人間側につく奴も多い」
人間と妖怪だけの戦いであれば、激しさを増すことなく人間が負けていただろう。
人妖という存在が、妖世の人間を守っているという事だ。
歪みによって生まれた人妖もいるだろうが、人と妖怪の間に生まれた人妖もいるはずである。親の種が戦うのを黙って見ていられない人妖もきっといる。
間に立たされた人妖は、今この妖世で大きな存在となっている。
「俺は人間が嫌いじゃない。"妖怪"としてあの戦いに加わるなんざ、絶対に御免だね」
陽介にとって、コクジョウのその言葉はとても嬉しかった。
アトリ達の住む村にも妖怪はいたが、妖世の現実を知ったことで、陽介はどこか距離を置いてしまっていた。
それでも優しく接してくれる妖怪達は、陽介に人間と妖怪は共存できるんだと改めて教えてくれた。
そしてコクジョウは、「人間が嫌いじゃない」「人間との戦いは御免だ」と、その気持ちをしっかりとした言葉で陽介に示した。
「私も嫌だねぇ。人間と妖怪、どちらかが敵なんてやってられないよ」
アトリと話をしていたクロエも、陽介達の話に加わってきた。
人妖というどちらにも立つことができる立場でありながら、どちらにも立たないという意志。
"人間"側に立ってほしいという気持ちがないと言えば嘘になるだろう。
しかし陽介にはクロエのその気持ちも、やはり嬉しかった。
だが、どちらにも立たないという意志は、うまく実現できないだろう。
なぜなら彼らは、"用心棒"なのだから。
「コクジョウさんとクロエさんが相手にするのは、妖怪、なんですよね」
「……あぁ」「………」
コクジョウは肯定、クロエは沈黙を返す。
用心棒が強い者につく必要はないのだ。弱い者を強い者から守る、つまり、人間を妖怪から守るのが彼らの仕事なのだ。
妖怪達から見れば、2人は明らかに"人間側"となる。
「…違うんだよ」
クロエは静かにつぶやいた。
「戦いじゃないんだ…。私達が割り込むのは、一方的な襲撃。屁理屈かもしんないけど、無抵抗な人間が襲われるのは、見たくないんだ」
――― 戦いたくない
―――― でも、見捨てられない
――――― 自分達には、力があるから
陽介は、力がないから"妖怪と戦う"ための力を欲した。
妖怪を倒せるようになるために、鍛錬を積んだ。
ここに、戦いたくないのに力を持つ者がいる。
それを陽介は、もったいないとは思わない。むしろその気持ちに、目が覚めたように感じた。
どうなれば良いのか。人間を襲う妖怪をすべて倒せば良いのか。
きっと違う。人間と妖怪、そして人妖が共存できていた頃へと戻ること。
それが今、この妖世に望まれているのかもしれない。
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未熟な初心者なので、待ってる方もいないでしょうが、
本当に申し訳ありません。
今後もペースは不定期となりますが、最後まで頑張って物語を書いていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。