No.754025

真・恋姫†無双~比翼の契り~ 二章第十話

九条さん

二章 群雄割拠編

 第十話「覇王の進軍」

2015-01-27 10:57:28 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1635   閲覧ユーザー数:1494

 ついに曹操が動き出した。

 当然の如く朝議は中断され、将や文官の全てを集めた緊急会議が開かれた。

 敵の総兵力はおよそ五十万。全てが親衛隊ほどの練度を誇っているわけではないだろうが、その兵数は圧巻の一言だろう。

 袁紹を倒してから多少時間が経ったとはいえ、この短時間に五十万も集まるわけがない。劉備達は知らないようだが、おそらくあの三姉妹が動き出していると見た。事前事後のどちらかは分からないが、曹操は着々と先を見据えていたのは明らかだ。

 

 対して、劉備軍の兵力はおよそ三万。無理に無理を重ねて徴兵を掛けたとしても五万に届くか届かないか。

 たった一人で黄巾党三万を蹴散らした呂布殿ならば、と文官の誰かが発言したが、あれは黄巾党が烏合の衆、いわば雑兵だったからこそできた所業だ。

 此度は練度も指揮官の質も明らかに上。たとえ恋が三万を倒したとしても、残る敵は四十七万。恋に匹敵するほどの武を持つ者として、関羽、張飛、趙雲、烈蓮などを挙げられるが、それぞれが三万ずつ倒したとしても三十万以上は残る計算になる。

 十倍という兵力差は、これほどまでに大きい。

 もはや勝負にすらなっていないのだから。

 

 この厳しい現実に劉備が出した結論は、ここよりも南西の地、益州への逃亡だった。

 勝てないと分かっている戦いに無益な犠牲は出したくない、とは劉備の言だ。

 確かに、劉備が戦うと決めれば命を賭してでも戦うと言う者は多いだろう。それを良しとしない劉備は、見ようによっては『弱い』と思うかもしれない。

 

 劉備の考えはある少女ととても似ている。

 少女と違うのは、劉備にはまだ未来があり、繋げるだけの仲間がいることだ。

 会議中ずっと沈黙を保ってきた俺は、ふと会議には参加せず皆にお茶を配るために動きまわるその少女と目が合った。

 少女とは月のこと。

 月は真っ直ぐに見つめ返すだけで何も言わなかった。

 たったそれだけの事だったが、俺が、俺達が進む道は決まった。

 

 この撤退戦。如何なることがあろうと成し遂げよう、と。

 

 方針が決まってからの動きは迅速だった。

 各地に散っていた警備兵を本城へ召集。その際、詰め所や関所に備蓄されている食糧や資金などは持ってこさせず、民達への施しとして分け与えることに。

 曹操に接収させず、かといって自分達の荷を大きくしない、良い手腕だと思う。

 袁紹達のお守りは公孫賛が適任ということで満場一致。言いたいことはあるだろうが納得の姿勢を見せていた。

 張飛が兵を関羽が兵站を担当し軍の準備も着々と進む中、長老達に事情を説明しに行った劉備と北郷が、予期せぬ問題を抱えて戻ってきたのだった。

 

 

 

 曹操はかねてより予定していた通りに迅速かつ慎重に進軍をしていた。

 すでに国境の関所は突破し、後は道々に点在する関所を落とし、劉備達の本城へと向かうだけだ。

 

「……劉備軍の動きがあまりにも鈍重ね」

 

 曹操軍の本隊に一人だけ、見る者が思わず跪くような明らかな覇気を放つ者がいた。

 身長は低め、金髪の髪は二つに分かれ、肩口でカールを描いている。その佇まいは威風堂々としており、自身に満ち溢れていた。

 彼女こそが曹操。覇道を突き進む者である。

 そんな曹操だったが、劉備軍の動きに些か疑問を浮かべていた。

 

「我らの行動が迅速なのでは?」

 

 曹操の疑問に答えたのは夏侯淵。魏に二侯有りと云われる姉妹の妹のほうだ。

 

「それは無いでしょう。今回の行軍速度は普段とほとんど変わりません」

 

 夏侯淵に反論を示したのは郭嘉。こちらは曹操軍の軍師を担当している。

 

「それなのに反応が鈍い。何かあったのかもしれませんね」

 

 郭嘉に同調した荀彧もまた、曹操軍の軍師である。

 

「劉備軍の内部で? ……あの子からは考えにくいわね」

 

 曹操はかつて黄巾党討伐の際、彼女達の下で働いていた劉備を思い浮かべ、それは無いと荀彧の言葉を否定した。

 その事に荀彧は不満を浮かべるでもなく、新たに何か情報が無いか斥候に指示を出していた。

 

「……先行部隊を派遣して威力偵察に向かいましょうか?」

 

「そうね。春蘭。秋蘭と季衣を連れて、先行して劉備の本城に向かいなさい。道中の詰め所は我らが落とす」

 

「はっ!」

 

 春蘭と呼ばれた女性は、先の夏侯淵と瓜二つだった。

 この者こそ夏侯淵の姉であり、魏武の大剣と称される夏侯惇である。

 夏侯惇は曹操に呼ばれてから生き生きとした表情で、ようやく戦いに出られると喜んでいるように見えた。

 秋蘭と呼ばれた夏侯淵は、同じく季衣と呼ばれた許緒に先行部隊の纏め任せた。

 

「劉備軍を発見した場合はどうしましょうか? 一当して様子を見ますか?」

 

「遭遇したのが本隊であれば、距離を置き追尾しなさい。支隊であるならば一人残らず粉砕すれば良い」

 

「御意! ……ふふふっ、劉備軍には関羽、張飛という猛者がいる。是非とも戦ってみたかったのです」

 

 夏侯惇の鼻息荒く、とまではいかないにせよ、劉備軍を見つけ次第戦闘をおっ始める可能性に満ち満ちていた。

 

「姉者。華琳様は本隊とは戦うな、と仰ったのだぞ? 分かっているか?」

 

 すかさず夏侯淵が釘を指す。

 

「わ、分かっているぞ、それぐらい」

 

「なら良い。……あまり暴走はしないでくれよ?」

 

 どう見ても分かっていなかった回答をする姉の姿に不安を覚えつつも、一応もう一度だけ釘を指しておく。

 

「暴走など今まで一度もしたことないだろう。全く……秋蘭はいつもそうやって人をバカにする。悪い癖だぞ」

 

 おそらく、どの口が、と曹操軍の面々は思っただろう。それを口にしない優しさ程度は皆持っていた。……一人を除いて。

 

「……バカにされるようなことばかり、やってきたからでしょ……」

 

「なにぃ!」

 

 荀彧が呟いた言葉に簡単に反応する夏侯惇。既に己の行動により否定していることに気付いているのかいないのか。

 

「はい、どうどう。……落ち着きなさい春蘭。この戦いで最も重要なことは、如何に早く劉備軍の動向を掴み、大軍をもって当たれるか、よ。そこを履き違えず、秋蘭と共に行動しなさい」

 

「分かっております。お任せを!」

 

「姉者の手綱はお任せ下さい」

 

 常に一歩前に進む姉と、常に一歩下がる妹。姉妹だからこそだろうか、二人は丁度いいバランスを保っているように見えた。

 

 

「では各自行動を開始しなさい。私が望むのは勝利。ただそれだけよ」

 

 曹操は東、西、南、さらには偵察と四つの部隊に分かれ進軍を再開した。

 

 

 

 張飛と愛李から報告を受けた諸葛亮が前線へと走っていった。

 それぞれの報告を纏め、劉備と北郷に伝える為だろう。

 

 曹操軍は隊を四つに分け進軍しているというのに、破竹の勢いは留まることを知らず。

 さすがは曹操、と言うべきだろうか。

 まだ俺達の思惑に気付いた気配は無いが、威力偵察のため先行している部隊がいることからそれも時間の問題だろう。

 だからといって部隊を後退させ、偵察部隊を叩くのは悪手だ。大人しく逃げることに徹するしか、今は方法がなかった。

 

「……隼は、これをどう見る?」

 

 逃亡が決まってから今の今まで、ほぼ無言で従軍してきた烈蓮が、唐突に話しかけてきた。

 それまでは何かを深く考えているような、普段酒癖が悪いくせに酒を欲しがる酒乱の彼女からは想像が出来ない姿だったから放置をしていた。

 烈蓮が何を考え、何を聞きたいのか知るには良い機会か。

 

 彼女がこれと言い、指し示しているのは俺達の前方を歩く人々のことだろう。

 皆が皆、曹操ではなく劉備を選び、共に逃げ延びることを選んだ人達だった。

 劉備が慕われている証明でもあるが、撤退が遅々として進まない要因の一つでもあった。

 問いはひどく曖昧だが、率直に思ったことを述べるべきだろうな。おそらく烈蓮もそれを望んでいるに違いない。

 

「一言で表せば、遅い。俺達が益州に入蜀する前に必ず曹操に捉えられるだろうな」

 

「……対抗策はあるか?」

 

 ……烈蓮は何を考えている。

 一向にこちらを向かない彼女の表情は伺えない。問いの真意も掴めない。

 

「……あるには、ある。が、劉備や北郷がそれを承諾するとは思えない。今は逃げることしか出来ないだろうな」

 

「……そうか」

 

 それだけ言うと、烈蓮は自分の持ち場に戻っていった。

 彼女が何をしようとしているのか、この時点ではまだはっきりと分からなかった。

 

 

 劉備達は部隊を二つに分けた。

 先導、先行して益州の城を落とす部隊に二万。

 後方にて曹操軍の攻撃を防ぐ部隊に三万。

 間に民達を置き、残りがそれの護衛に当たる。

 先鋒は関羽が指揮を執りつつ鳳統が補佐に付き、劉備、北郷が皆を導く。

 殿は張飛を筆頭に諸葛亮が指揮を執り、俺達旧董卓軍も殿に置かれた。

 最悪、囮に徹してしまえば逃げ延びられる奴が多いからな。

 趙雲もまた自身たっての希望ということで殿についた。

 ここまでするか、という気持ちと、それだけ注目されているというむず痒さはある。それ以上に俺達と共に歩んでもらいたいとも思う。その気持は虎牢関の時から変わることはなかった。

 今はまだ劉備との間で揺れ動いているように見える。

 だからといって俺から何か言うことはない。

 彼女なら自分から結論を導き出すだろうし、人から言われることを簡単に良しとはしないだろうと思うからだ。

 勘でしかない当てずっぽうの考えだが、なぜだか外れている気はしなかった。

 

 

 逃亡を始めて何日が経ったか。

 日を追う毎に民達の疲労は、目に見えて溜まっていた。

 その度に、劉備や北郷、関羽などの将達、果ては護衛に従事している兵達が寄り添い、話しかけ、民の為に出来ることをひたすらに尽力していた。

 足が止まり歩けなくなれば、自身が乗っていた馬に乗せ、泣きじゃくる子供を母と共にあやし……。

 休憩時に笑顔が絶えなかったことはない。

 また、月や詠、手が空いていれば烈蓮も民達を助けていた。もちろん月が出る時は恋を付け、万全の警備体制が敷かれていたが。

 

 だが、それが全ての人に行き渡っていたかというと、そうではない。

 事実、今劉備が民達の最後方で女性に肩を貸し誘導しているが、女性がそれよりも前に行った事を劉備は知らないだろう。

 女性がどうしてそこまで劉備の温情を受け取らないのか、聞こうとすらしない彼女には分からないだろう。

 茉莉が保護し、烈蓮と華煉によって、たった今寝付いた赤ん坊の存在を。

 女性が、己が生き残るために小さな命を捨てたことを。

 劉備を悪いとは思わない。女性が悪いとは思わない。赤ん坊が可哀想だとは思わない。

 これが現実で、この世界は弱者には厳しい世界だから。

 だが、例え劉備が気付いたとしても、この子は梟の中で家族同様に育てていく。

 願わくば気付いて欲しくはないが。

 

 今の劉備は弱い。

 力そのものもさることながら、確固たる現実を見据えた思想というものが薄い。

 彼女は理想を語るが、やっていることはあべこべだ。

 だが、彼女の理想はとても尊いものだ。

 この、戦が跋扈(ばっこ)する時代において、大切な考え方でもある。

 彼女がこのまま突き進み、確固たる信念を得たならば、真名を教えてもいいかもしれない。

 

 

 劉備への見方に変化が訪れ、新たな思いを胸に秘めた翌日。

 茉莉が倒れた。

 

 

【あとがき】

 

 皆様ご機嫌麗しゅう。

 九条です。

 

 サブタイ「覇王の進軍」と称しまして、ついに華琳さんが侵攻してきました。

 そろそろ前作から書きたいと思っていた話に近づいてきたので、俄然やる気が出てきています。

 かなーり先々の予想がついているとは思いますが、感想欄での予想コメは控えてください。

 (すっとぼけ)とか書いてあれば全然おkです(オイ

 あと戦闘を期待した方、いらっしゃいましたらごめんなさい。

 たぶん次回あたりに戦闘描写を書くかも、です。確定ではなかったり……(汗

 

 完全に「なろう」の方の話ですが、「月道中(略称)」でおなじみのあずさんが復活されました。

 今月末には5巻も発売するようで、楽しみかつテンション右肩上がりです。

 ……よく見受けられますが、書籍化すると更新速度が下がるのは仕様なんですかね……。嬉しい反面辛い。

 

 真・恋姫†英雄譚も馬家の面々の情報が追加され、ますます楽しみになってきました。

 恋ちゃんはよはよ!(バンバン

 

 

 熱く語ると時間が無くなるので、今日のあとがきもここまで!

 

 それではまた次回も(#゚Д゚)ノ[再見!]


 
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