No.753625 ALO~妖精郷の黄昏~ 第58話 軍神と番犬、燃え尽きる巨人本郷 刃さん 2015-01-25 15:29:06 投稿 / 全7ページ 総閲覧数:5222 閲覧ユーザー数:4775 |
第58話 軍神と番犬、燃え尽きる巨人
グランド・クエスト[神々の黄昏]
『侵攻側クエスト[戦禍の番犬]:ガルムと共にテュールを討て』
『侵攻側クエスト[黄金林檎の巨人]:スィアチに協力して黄金の林檎を奪え』
『防衛側クエスト[隻腕の軍神]:テュールと共にガルムを討て』
『防衛側クエスト[神門導く詩人]:ブラギと協力してスィアチを討て』
No Side
――アルヴヘイム・アルン高原南部
央都アルンを囲むアルン高原、その南部にてオーディン軍とロキ軍の戦いが開幕した。
オーディン軍を率いるのは〈
テュールには右腕が無いが、左手の勇壮な剣には『↑』のような形をしたルーン文字の『
彼自身も逞しい体つきをしており、その身は鎧を纏い、背中にはマントがたなびいており、
兜から見える眼光はかなり鋭い、軍神の容貌といえる。
ブラギは長い髭を蓄え、詩人のような装いをし、大きなハープを腕に抱えている。
彼は詩歌の神であり、その知恵と流暢な会話と言語の技巧とを知られ、他者より卓越した雄弁を有している。
彼らの背後には北部と同様に1000体を超えるエインフェリアとワルキューレが居り、
オーディン軍のプレイヤー達は4つレイド、そしてレイド外の者達を合わせ200人を超える。
ロキ軍を率いているのは〈
ガルムは全身を黒い体毛で覆い、胸元は死者の血によって汚れ、フェンリルと同等の体躯を誇る。
ヘルの忠実な番犬である彼はラグナロクに伴い冥界を離れ、この戦場に出向いている。
彼の評価は「犬のうち最高のもの」といわれるほどに優秀であるのだ。
また、スィアチの方も山の巨人族らしくその巨体はスリュムやトールと同等である。
山の巨人族は丘の巨人族に連なる存在だが、スィアチは神々の有する『黄金の林檎』を狙う故に敵対している。
彼ら2体の脚元や後方には狼型とアンデッド型、邪神型のMobが計800体を超えて居る。
ロキ軍のプレイヤー達は北部同様に2つのレイドとそれ以外の者達の120人以上だ。
ロキ軍の方が200ほどMobの数が劣るが、それはHPやステータスで勝る邪神型Mobが居るからだろう。
それを考えれば戦力差は差して無いと思われ、この戦場も拮抗すると判断できる。
しかし、ガルムとスィアチはHPゲージを6本から5本に削られている、それを考慮して戦う必要もあるだろう。
「ガルムよ、貴様のその首を叩き斬ってやるぞ!」
「私が奏でる琴の音で永久の眠りにつきなさい!」
「なればテュール、俺がお前の首を食い千切ってやろう!」
「我が散る時、それは貴様も散る時であるぞ、ブラギ!」
テュール、ブラギ、ガルム、スィアチ、それぞれが前に出て因縁のある者同士でぶつかり合い始める。
それに合わせて両軍のNPCとMob、プレイヤーも戦闘を開始した。
ガルムが大地を駆け、テュールに向けて前脚を振り下ろす。
「シャアァッ!」
「オォォォッ!」
雄叫びと共に下ろされた右前脚の一撃を、テュールも声を上げながら左手に持つ剣で受け止める。
続けざまにガルムは口を開いて毒のブレスを吐きだし、テュールは右前脚を受け流してからその場を飛び退いた。
ブレスを回避したテュールはすぐさま跳び上がり、ガルムの頭に斬りかかるが、
ガルムは左前脚で防いでダメージを最小限に抑えた。
「ハッ、右腕が無くとも戦えるようだな!」
「ふん、右腕が無かろうと貴様を討ち取ることなど出来る!」
「ならば、やってみるがいい!」
ガルムは牙を剥き出しにすると噛み付くようにテュールへ襲い掛かり、それを再び剣で防御する。
剣で防いだテュールだがガルムは左前脚で攻撃を行い、テュールは回避するも僅かに掠り、少しだがダメージを負った。
互いに距離を取り、遠隔攻撃を行う。
「スゥ~……ガァァァァァッ!」
「フゥ~……ハァァァァァッ!」
ガルムは溜めに溜めた巨大な毒の弾丸を吐きだし、テュールは己の剣に溜めた力を解放して振り抜き、
放たれた互いの攻撃はぶつかり合うとそのまま爆発し、相殺し合った。
その爆発と衝撃波が敵味方問わずに巻き込み、各々にダメージを与えた。
「『勝利』のルーンを宿した剣か」
「ヘルの腐食の毒を恩恵としているのだな」
互いに技に宿された力の意味を悟り、警戒しながらも戦い続ける。
ガルムは4本の脚や尾、牙や毒ブレス、毒の技を使い攻撃し、
テュールはとにかく剣を様々に振るい、同時に剣を盾代わりにして攻撃を防ぎながら戦う。
どちらも攻め手を緩めることはないが、勿論この場で戦うのは彼らだけではない。
ガルムに対してオーディン軍のプレイヤーが武器や魔法で攻撃し、テュールにはロキ軍の者達が攻撃を仕掛ける。
ガルムは巨体な為に回避行動が間に合わないものの防御力があるからかダメージを負っても怯むことはない。
テュールは妖精よりも一回り大きい程度であり、連携攻撃を受けたためにダメージをそれなりに負った。
そして、どちらも各軍のプレイヤーと肩を並べて戦う……これは決闘ではない、戦争なのだ。
一方、ブラギとスィアチの戦いも始まっていた。
「旋律に呑まれよ!」
「煩わしい……ふんっ!」
ブラギが竪琴を使い旋律を奏でるとそれは炎の波となってスィアチに襲いかかる。
しかし、スィアチは腕を振るうことで跳ね除けた、僅かだがダメージは負う。
追撃とばかりに旋律が奏でられていき、水の波、風の波、雷の波、氷の波、光の波となってスィアチを襲うが、
彼も巨人族のリーダー格という実力からか全てを力尽くで跳ね除ける。
ダメージを負うことを一切気にせず、ブラギに向けて突き進み、右手を拳にして殴り掛かった。
「ぐぁぁぁっ!?」
殴り飛ばされたブラギは大地に叩きつけられ、HPをかなり減らされる。
追撃にとスィアチは足踏みで潰そうとするが、ブラギは素早く動いて躱すと再び宙に浮かび上がった。
新たに旋律を奏でると今度はブラギや周辺のオーディン軍を包むように音の波が広がった。
一定エリア内の味方全てのステータスを上昇させる旋律、
それを受けたオーディン軍はスィアチにかなりの攻撃を仕掛けていくが、ロキ軍もそれを阻止すべく一斉に反撃に移る。
スィアチも岩を造りだすとそれを投げて相手を吹き飛ばす。
両軍共にNPCやMobを潰すよりもボスを狙いに行く、それは戦争としては当然だ。
その為、プレイヤー同士でボスも狙わずに戦っているのはかなりの実力者同士ということになる。
ボスが、プレイヤー達が、NPCとMobが戦う中、周囲を気にも留めずさらには巻き込みながら戦う者達が居た。
二筋の矢が突如として駆け抜け、HPが削られた2人のプレイヤーをそれぞれ一撃で仕留めた。
その周囲に居たプレイヤー達は友軍がやられたことで矢が飛来した方向を警戒したが、
次の瞬間には自身の背後から矢によって射抜かれる。
その次は別の角度から、次いでまた別の角度から矢が直撃していき瞬く間にやられていくオーディン軍のプレイヤー達。
粗方のプレイヤーがやられて2人が残された時、空間が揺らめいて1人のプレイヤーが現れた。
「コイツ、いきなり…!? 幻惑系の擬態魔法か…!」
「よくも、仲間を!」
2人のプレイヤーは現れた者に対して武器で攻撃しに接近するが、攻撃した瞬間に相手の姿がブレ、消滅した。
「今度は幻惑系の分身魔法!ぐぁっ!?」
「何処に、がぁっ!?」
2人は背後からまともに何度も斬り裂かれ、HPを0にされて
拠点に戻されるべく1つを残して周囲全ての灯も消えた。
それを確認したかのように残された1つの灯火がゆらめき、人の姿になった。
「順調順調。上手いこと全員倒せたってハナシだ」
大型のククリ剣を持ち、現れた彼は楽しげにそう言った。
彼の名は『ゼウス』、種族はインプ、フルバックの黒髪に鋭い細目の容貌、
フードの付いた全身を覆うほどのロングコートを身に纏っている。
右手には大型ククリ剣を持っており、手の動きで軽快に振り回している。
彼は『
(『キングダムハーツ』シリーズのシグバールの姿(傷と眼帯無し))
やるべきことをやったと判断した彼は別の戦いの場へと赴こうとする。
その時、かなりの速さでそこへ接近する者があり、ゼウスは反射的にククリ剣で防御した。
「危ない危ない。一体どなたって……なるほど、【烈火の戦姫】メラフィさんじゃないか」
「多くの味方がやられた反応がありましたので、不味い状況だとは思いましたがまさか全滅しているとは……驚きましたわ」
ゼウスに攻撃を仕掛けたのはサラマンダーが誇る新星、【烈火の戦姫】の異名を持つメイド剣士である。
自身の得物である刀『霊刀ラングレン』を用いて彼に強襲を仕掛けたのだ。
「驚いたって言ったがそんな表情じゃないねぇ。どちらかって言うと楽しそうな方だ」
「いえいえ、驚いていますよ。ですが、それよりも楽しいお相手を見出せたものでして」
「ふむふむ、噂に違わない“戦闘狂”のようだな~。いやいや、俺も実に楽しみだよ」
「ふふ、そうですか? では、ご満足いただけるように全力を尽くさせていただきますわ」
ゼウスもメラフィもその顔には笑みを張りつけ、しかし互いに一切の油断を見せることなく武器を構える。
そしてどちらともなく、翅を動かして前へ駆け抜けた。
ククリ剣と刀が何度もぶつかり合い、剣戟の音が次々と生まれていく。
どちらも上位のプレイヤーであるために戦闘能力では大差は無いと見えるが、
それは両者のバトルスタイルがものを言うようになる。
「これは、厳しいってハナシだ…!」
「ご謙遜を。しっかりとついてきているじゃないですか」
ククリ剣で応戦するゼウスにメラフィはあっさりと言ってのけるが、実際にゼウスはギリギリである。
ただでさえ掠る程度に斬られ、ほんの僅かずつだがダメージを受けているのに、
少しでも気を抜けば多大なダメージをもらうことになり、そのままやられてしまうかもしれない。
集中を絶やさずに刃を交え、そこでほんの少しの隙を見つけてククリ剣で仕掛ける……が、メラフィは笑みを深くした。
「(しまった、誘われた!?)」
「ふっ、はぁっ!」
ゼウスのククリ剣を受け流し、メラフィはラングレンでそのまま彼を斬り裂いた。
だがゼウスは斬られる直前に体を捻ることでなんとか致命傷を避けることができ、ある程度のダメージで済んだ。
「いやいやぁ、やっぱり油断していたみたいだ。
アンタの得意なバトルスタイルは反撃技、カウンター攻撃型の返し技だったってハナシを忘れていた」
「それを思い出して避けただけでも充分かと。
みなさん、私の決め手がカウンターであることを忘れ、見せた隙を突いてしまいますから」
「そうと分かればこっちも自分らしい戦い方をさせてもらうってハナシだ」
そこでゼウスは一丁の白いボウガンを取り出し、左手に持った。
さらにそこで詠唱を素早く行い発動し、メラフィに突っ込んだ。
そのまま斬りかかったがメラフィは続け様に返し技を行い、ゼウスの体を今度こそ斬り裂いた……かに見えた。
斬り裂いたゼウスはそのまま揺らいでから消滅した、彼が発動したのは幻惑系の分身魔法だったのだ。
「分身、本体は…あぐっ!?」
周囲を警戒しようとしたところで矢が腕に刺さったがそれを刀で破壊する。
すると、また別の方向から続けざまに矢が飛来し、ラングレンで叩き落としていく。
矢は飛来せども本人は見えず、だからメラフィは矢の飛んでくる方向に向けて移動する。
しかし、矢は途絶えて位置は不確かとなり、そこから背中に矢が刺さった。
「そ、こぉっ!」
「わおっ! これは驚きだ!」
空間が揺らいでおり、そこからゼウスが現れた。
左手に持っている白いボウガンに加え、いまはククリ剣を持たずに右手には黒いボウガンを持っている。
「私も油断していたようです。この戦い方、貴方は【幻影の射手】のゼウスさんですね?」
「その通り、そう呼ばれているよ。それにしても気付かれたか、早く仕留めたかったってハナシだ」
ゼウスの通り名の【幻影の射手】、それはメラフィやその前に戦ったプレイヤー達との戦い方から付けられた。
インプは闇魔法の他にスプリガンの有する幻惑系魔法も多少は使える。
彼は幻惑魔法によって別の姿を現す幻覚魔法、もう1つの姿を造り出す分身魔法、姿を隠す擬態魔法を合わせ、
姿を惑わしながら二丁のボウガン、白色の『ガリュウ』と黒色の『ホウスウ』で戦うスタイルだ。
「接近して仕留めたいですが姿を眩ませそうですね……しかし、押し通るしかないです!」
「撃ちぬいてやるってハナシだ!」
そこからはメラフィが接近して斬ろうとし、防ごうとゼウスが矢で行く手を阻む。
このままでは埒が明かないと判断したのか、メラフィは詠唱を行い、魔法を飛ばしていく。
火属性の魔法攻撃で火弾を幾つも飛ばす《ファイアショット》を使用し、3発放つ。
だが、ゼウスは驚きの方法で迎撃した。
ボウガンによる《弓》のスキルを発動し、光を宿した矢が3本連射され、《ファイアショット》を撃ちぬいた。
「魔法が、貫かれた…いまのが、『
「その弓バージョンだ。俺は『
キリトが得意とする『
《弓》の他にも《投擲》スキルなどでも行うことができ、ハジメやシノンも扱える技術となっている。
驚いたのも束の間、メラフィは《バーンセイバー》や《エアカッター》、《ストームダガー》を行使する。
しかし、どれも『魔法撃抜』によって破壊されていく。
「まったく、近づいても離れても倒せないなんて、面倒臭いですね」
「そっちこそ、近づいて戦えばカウンターの餌食とか面倒臭いってハナシだ」
それでも互いに笑みを浮かべながら戦い続ける。
「ならば、もうしばらくお付き合い願います」
「はいよ。よろしく頼むってハナシだ」
両者、まだまだ退く気はないようだ。矢と魔法、ククリ剣と刀が交わり合う。
テュールとガルム、ブラギとスィアチが戦う場から僅かに離れた場所。
そこでもオーディン軍とロキ軍のプレイヤーが戦っていた、一対一で。
「速さと技術っていうのは厄介だな…!」
「貴方の力こそ厄介だよ、さすがは【鮮血の鬼神】だ…!」
1人は両手斧の使い手であるインプのロスト、通り名は【鮮血の鬼神】。
愛用する両手斧の『魔斧コンカラー』と共に力の限りの攻撃を行う。
対するサラマンダーの青年は刀で速度と技術を重視して、斧による圧倒的な破壊をいなして受け流していく。
「アンタ、名前は?」
「シラタキ。覚えても覚えなくても良い、ただ斬るだけだからな」
青年は『シラタキ』という名で種族はサラマンダー、映える黒髪を持ち、朱色の甲冑と陣羽織を身に纏っている。
その手には刀があり、銘を『四神刀・青白朱玄』と言い、柄の部分などは名の通り4色から成る姿をしている。
斬り合っている中で一度互いに距離を取り、シラタキは手早く詠唱を行ってから魔法を発動させる。
土系魔法の防御魔法によって自身の防御力を増したのだ。
「能力強化か、しかも防御」
「貴方はパワーファイターだからな、防御力を上げておくに越したことはない」
次の瞬間には接近して武器を交えた両者。
片や両手斧、片や刀、耐久値や攻撃力は斧に軍配が上がるが、刀の方が軽量であるため速度などで勝る。
ロストがコンカラーを用いて両手斧を豪快に振り回せば、凄まじい勢いで風が起こり、シラタキに刃が迫る。
シラタキもそれに応じ、青白朱玄を用いてかなりの速度の刃を振るい、両手斧の側面を思いきり弾く。
さらに追撃としてロストに向けて斬りかかる…が、ロストは弾かれた斧を力の限り戻すことで防いだ。
「刀の初速で弾かれるとは思わなかったぜ」
「弾いた斧を無理矢理戻すとも思わなかった」
これがVRMMOというゲーム世界ではなく、現実世界であればまず無理である。
出来るとすれば、和人達のような武術を嗜む者や鍛え抜かれた軍人くらいだろう。
そんな難度のある技術をVR世界とはいえ行えるのは彼らの実力が高いからなのだ。
「埒が明かないっていうのは嫌だな……ぶっ飛ばす!」
「くっ…!」
ロストが先制とばかりに先程よりも力を大きく加えてコンカラーを振り下ろした。
受け止めたものの、同じく先程よりも強力な風が巻き起こり風圧によってシラタキは体勢を崩される。
さらに斧を斬る為にではなく、叩きつけることで鈍器のように扱ってきた。
斬る攻撃も叩きつける攻撃も、どちらもかなりの力が篭り、
威力が桁違いなために巻き起こる風圧も厄介であり、シラタキは予想以上の苦戦を強いられる。
実際に苦戦することは予想していたが、通り名のように鬼神の如く振るわれる斧の様に後手になる。
だが、彼とてただ防御や回避に努めていたわけじゃない。
斧によって刀が弾かれた瞬間、その勢いを利用して回転斬りを行った。
「しばし、反撃させてもらう!」
「う、おっ…!」
いままで防戦一方だったシラタキだが、ここにきて鋭い斬撃を繰り出してきた。
しかも速く、強く、的確に攻撃を行い、ロストのコンカラーによる防御を掻い潜ってダメージを与えていく。
反撃の隙は与えないとばかりに連撃を行い、攻撃の手を決して緩めない。
先程までは攻勢に出ていたロストも突然の桁違いの反撃に驚き、またその鋭さを相手に防御に徹するしかない。
こちらも能力に大きな差が無いことは承知しており、同じく苦戦は免れないと判断していた。
だからこそ先手を得る為に猛攻に出たが、それを見切られていまは防戦となった。
しかし、彼もまたただ防戦しているわけではない。
「ここ、だぁっ!」
「っ、はぁっ!」
シラタキが刀を僅かに退かせた瞬間を見定め、そこで反撃にと斧で斬り上げて連撃を止めた。
両者共に弾かれるわけにはいかないと判断し、力を加えていく。
火花が見え始めた時、一気に力が篭ったことで2人は同時に弾かれてから距離を置いた。
「やるじゃねぇか」
「そちらこそ」
息を吐くように一言だけ交わしたロストとシラタキ、そして…。
「「……行くぞ!」」
互いに見極めあってから2人は再び刃を交わす。
ボス同士、NPCとMob、プレイヤー同士、そして入り乱れての戦い。
乱戦によって時間の経過はあっという間に感じ、一部では戦いの幕が下りようとしていた。
NPCとMobは既に大半が敗北して消滅し、プレイヤー達も一部はHPが無くなって拠点に戻されている。
その中でも一番の着眼点はやはりボスだろう、特にガルムとテュールはHPが残り1本と少ない。
形態変化としてガルムは全身を毒の装甲を纏い猛毒の番犬となり、
テュールの方は鎧の数ヶ所に刻まれているルーン文字の『
「ガアァァァァァッ!」
「うおぉぉぉぉぉっ!」
猛毒装甲の前脚と絶対勝利の剣がぶつかり合い、互いにダメージを負う。
プレイヤー達も援護攻撃でさらにHPを削る為、最早両者の命は風前の灯火だ。
そして、戦いに決着をつけるべく、ガルムが駆け出した。
「
そこでテュールが2度
HPが一気に削られ、徐々に0に近づく。そんな中でもガルムの動きは止まらない。
「グオォォォォォッ!?……ぐっ、死なば、諸共だぁっ!」
「がっ…」
ガルムはテュールの元まで到達し、開いた口でそのままテュールの首を食い千切った。
その一撃でテュールのHPは0になり、ポリゴン片となって消滅した。
ガルムも倒れ伏し、ポリゴン片となっていく。
「くくっ……斬り落とされたが…食い千切って、やったぞ…」
その言葉を遺してガルムの首は地に落ち、消滅して逝った。
テュールとガルム、北欧神話においても因縁ある1柱と1体がその命に幕を下ろした。
そこからかなり離れた世界樹に近い場所、そこでブラギとスィアチも戦闘を繰り広げていた。
何故そのような場所で戦闘しているのか、それはスィアチが世界樹に近づいていくからであり、
ブラギはそれを阻止しようとしている。徐々に世界樹とスィアチの距離は縮んでいく。
その時、スィアチの体が光に包まれ、光が弾けるとそこには1羽の大鷲が姿を現した、スィアチが変身したのだ。
そして大鷲に変身したスィアチは世界樹へと羽ばたき、枝へ向けて突き進んだ。
世界樹に居たプレイヤー達が攻撃を仕掛けるも当たらず、スィアチは黄金の林檎を足でもぎ取り、アースガルズへ向けて飛翔した。
「待て、スィアチ!」
そこでブラギはスィアチの後を追う。
突然の状況の変化に動揺を隠せないオーディン軍のプレイヤー達だが、ロキ軍は冷静にことを運び出した。
「ガルムが敗れ、スィアチが姿を消した。これ以上ここに居る意味は無い、撤退だ!」
「結晶を持つ者は使用して構いません! 各自、思うべき拠点へ退きなさい!」
レイドリーダーの言葉を皮切りにロキ軍の者達は翅を使うか、結晶を使用してアルン高原から姿を消していく。
その様に当然ながら唖然とするオーディン軍の者達。
「時間切れってハナシだ。また戦おうぜ、【烈火の戦姫】」
「斬ることが出来なかったのが残念だ。決着は後ほど」
ゼウスは『
「見逃されたのか…?」
「分かりません。ですが、何か別の目的があるような気がします」
「確かに、不自然な撤退だな…」
ロストとメラフィは言葉を交わしながらも、再び世界樹の防衛につくべく央都アルンへと引き返した。
大鷲となったスィアチは足で黄金の林檎を掴みながらアースガルズへと向かっており、
その後をブラギが竪琴による攻撃を行いながら追いかける。
スィアチは攻撃によってダメージを負いながらも逃げ、ブラギは形態変化として音波を纏いながらの追撃だ。
そのままアースガルズの入り口に到達し、神門の先へと逃げていくスィアチ。
だが、神門の中へ入った瞬間に門の上から火の粉が降り注ぎ、スィアチの体は炎に包まれた。
「グォォォォォッ!?」
何故、スィアチが火の粉に襲われたのか。
それは北欧神話において、スィアチを仕留めるために神々が鉋屑と火を振りまく罠を仕掛け、彼を仕留めたからだ。
ここでも神話の通りにことが進み、火に包まれたのである。
そこへ追いついたブラギが竪琴を奏で、炎の波がスィアチへさらに襲いかかった。HPが削られていき、彼のHPは0になった。
「これも、宿命か……すまぬ、ロキ…」
既に亡きロキへ謝罪の言葉を遺しながらスィアチはポリゴン片となって逝った。
奇しくもこの場所はロキが死した場所でもあった、同じ場所で逝けたのは僥倖なのかもしれない。
「さらばです、スィアチ…」
死んだスィアチに対し、ブラギが言葉を投げ掛けた。その次の瞬間、上空から声が響いた。
「お別れの挨拶は済んだか? ならお前もお別れしないとな」
「ぐぅっ…!?」
攻撃をまともに受け、大ダメージを受けたブラギ。
上空から聞こえた声の主がそのまま攻撃を仕掛けたのである。
HPゲージが残り1本となっていたところでの大ダメージだ。
「神門に入ったスィアチが火の粉によって焼き殺される、
声の主の正体はロキとヘイムダルの戦いに参戦していたベリルだった。
さらにそこへ矢が無数に飛来して直撃、次いで刀がブラギの体を斬り裂いた。
「回廊結晶の転移先を神門に設定していたってハナシだ」
「お陰で先回りし、待ち伏せできた」
矢を放ったのはゼウス、刀で斬りかかったのはシラタキ。
言葉の通り、彼らはキリトからの指示により、ここへ転移したわけである。
3人は間を置くことなく攻撃していく。波状攻撃によってブラギのHPは一気に削られていき、時が来る。
「じゃ、止めは譲ってやるよ。行きな、《ブラスト》!」
「任されたってハナシだ」
「感謝する」
OSSの《ブラスト》によって発生した衝撃波でブラギの音波を吹き飛ばし、
生まれた隙を突いてゼウスがボウガンで《弓》スキルによる攻撃を放ち、シラタキは刀のソードスキルを使用した。
矢の到達と刀の到達は同時であり、ブラギのHPを0にした。
「これまで、ですか…」
その言葉と共にブラギは消滅して逝った。
「やることはやったな、俺達も次の場所へ行くか」
「出来るだけ急ぐべきかねぇ?」
「飛べばすぐだろう、行くぞ」
ベリル、ゼウス、シラタキは飛翔し、アースガルズの内部へ向けて移動を開始した。
ブラギとスィアチの死、ここにまた1つの黄昏が訪れた。
『侵攻側クエスト[戦禍の番犬]:ガルムと共にテュールを討て』クエスト・クリア
『侵攻側クエスト[黄金林檎の巨人]:スィアチに協力して黄金の林檎を奪え』クエスト・フェイリュア
『防衛側クエスト[隻腕の軍神]:テュールと共にガルムを討て』クエスト・クリア
『防衛側クエスト[神門導く詩人]:ブラギと協力してスィアチを討て』クエスト・クリア
No Side Out
To be continued……
オリジナル・システム外スキル
『魔法撃抜(スペルショット)』
本文でもある通り、《弓》スキルの矢や《投擲》スキルの道具で魔法を破壊する技術。
キリトの編み出した『魔法破壊(スペルブラスト)』から派生している。
あとがき
というわけで、今回はアルン高原南部と神門での戦いになりました。
ガルムとテュールは相討ち、スィアチは神門にて炎に焼かれるという神話通りの展開にしました。
これもまた2つの存在のシナリオ通りということです(黒笑)
一方でブラギは特に神話関係無しなのでサブタイにも名を遺せず、憐れw
スィアチの突然の行動はシステム的なものなのでシナリオ通りに動いたとお思いください。
ガルムとテュール、それぞれの討伐クエストがクリアされたのはHPが同時に0になったからです、消滅は別ですが。
ブラギは当然クリアですが、スィアチのが失敗しているのは奪った後にブラギを倒していないからということで。
次回は西部、その次は東部の予定になっておりますのでまたお楽しみに。
ではまた~・・・。
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第58話です。
今回はアルン高原南部+ある場所での戦いになります。
どうぞ・・・。